更新日 : 2002年 2月 7日
尺八雑話(7)   「着物(3)」


何年か前のこと、

ある舞台で羽織を着る必要があり、師匠のを借りて急場を凌いだが、どうも小さくて、尺八を構えると、腕が必要以上に出たりする。

そこで、女房の機嫌を測りながら、自分に合った羽織を買おうか買うまいか迷っていた。
その時、竹友が 「何も君、銭が無いのに新品を買う必要はないさ」 と浅草の古着屋を紹介してくれた。

木枯らしが吹く中、久しぶりに女房と浅草の観音さんをお参りして、目指す店に寄った。
中年の夫婦が活動している。かみさんが、しつこいお客の相手をしている。
旦那が自分の相手をしてくれた。

驚くほどたくさんある着物のうちから、手際よく、家紋が「丸に九枚笹」のものを選んでいく。しかし、色合いとか、値段とか、大きさとか今ひとつピンと来ない。また出直すかとあきらめかけたとき、「そうそう」と旦那がつぶやいて、押し入れの中から、おもむろに羽織と着物とセットになったのを出してきた。
今から思うと絶妙のタイミングではあった。

「ちょっとお客さんには大きいけど、殆ど新品だ。大して袖を通していない。値段もお得だ。もちろん、九枚笹だ。揃って出るなんて珍しい。」とささやきかけてくる。

こちらはひたすら女房の様子を窺う。
「まあ、着物もいたんでいるから・・」という女房の一言で、きわどい一件落着となり、帰りに、清水の舞台ついでに大黒屋に寄り、名代の天丼を一緒に食べた。

二人共黙ったままだった。
その女房も、去年の秋に、胃の手術を受け、暫くは大黒屋へ行けない身体になってしまった。

         こがらしや あさくさのこと なつかしく

                                               
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