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あこがれのミハスは雨にけむって・・・
アルヘシラスから今晩の宿泊地グラナダへはスペイン一といわれるリゾート地のコスタ・デ・ソルを通る。
輝く太陽とぬけるような青空で、太陽の海岸と呼ばれている所だ。
深みのある美しい地中海の色も見たかったし、豪華な別荘が立ち並ぶこのあたりで、スペインらしい
雰囲気の建物を見るのも楽しみにしていた。
雨がたたきつける窓ガラスに顔を押し付けて外を見ていると、ナツメヤシの並木やオレンジ色の屋根、
白い壁などが走馬灯のように現われては消えていく。
悲しいなあ、たとえ歩くことが出来なかったにせよ、写真の1枚ぐらいは撮りたかったのに。
そしてそれは私の水彩画の傑作を生む手がかりになったかもしれないのに・・・??
1時間走り続けてこれも楽しみにしていたミハスが近づいてきたけれど、雨は依然として降り止まず、
見通しはきかない。
私がくやしがっているのに、Kさんは云う。
「ミハスミハスって、なんで日本の人たちが騒ぐのかわからない。なーんにもないところですよ。
洞窟のマリアがありますけどね、たいしたことないですよ」
それってなんのつもり?慰めてるつもり?
一瞬,ムカッとしたけど、ミハスっていう街、白状すればほんとはなんにも知らない。
Kさんに笑われてもなにも返す言葉がない。
画集などでミハスの街を描いたものを見かけたことがあり、南スペインの白い街並み、
窓にゆれる真っ赤なゼラニューム、石畳の坂をとことこ行くロバ、そんな風景いいなあ・・
行ってみたいなあ・・・と思っただけのこと。
それでもツアーを選ぶ時もミハスに寄るかどうかはチェックポイントのひとつだった。
本当はここで一日ぶらぶらスケッチして歩くのが夢、でもツアーではそれはできそうもなく、
せめては写真の2,3枚、いいのが撮れたらなあ・・・と願っていたのだ。
Kさんの話によると、ミハスは以前、とても小さな貧しい村だった。
あまり貧しかったので村人が集う教会さえも建てることが出来なかった。
そこで、洞窟を教会にしてマリアをまつったのだそうである。
ミハスで珍しいのはそのマリアの教会だけだったのに、コスタ・デ・ソルでバカンスを過ごす
ヨーロッパの人々の間で、いつとなく人気がでてきて、別荘が沢山建つようになった。
そうしたらまた、その建物が美しいということで観光客が訪れるようになり、今特に日本
人には人気があるらしい。
バスがとまったのは街の中心にある広場の
ようである。
kさん同様、外に出たくない人が多いみたい。
夫と私は外に出る.旅に出てはじめて
傘をひろげて外へ出る。
濡れそぼる街には人影も見えない。
広場の端に立って,雲の海を眺める。
ここからは,眼下にひろがるスペインの
山村の風景が望めるはずであった。
うしろを振り返ればミハス山脈の山の
連なりがあるのかもしれなかった。
広場のはずれの小高く突き出たところが
例の洞窟らしい。
そこまで上ってあたりを見渡すと,多分ここが最高の眺望の場所に思えた。
「がっかりねえ・・・」
「残念だねえ・・・」
絶景であろう右手は流れる雲の中だが,左手の山側にはミハスの街がヴェールの
なかに浮かんで見える。赤茶色の屋根と白い壁で統一された家々,ホテルか
アパートか中層の建物がひな壇のように斜面にならんでいた。
広場には観光客用におしゃれをしたロバの引く車がずぶぬれ、ナツメヤシの下で
うつむいているロバの長いまつげが雨に濡れて涙のようにみえる。
洞窟教会の扉が半分開いていて,誘われ
るように私たちは入っていった。
中は意外と広い。
「まあー!きれいねえ、今日はなんか
特別の日なのかしら・・・」
正面の赤茶色の洞窟の壁にマリア像は
かかっていて、その前がおびただしい花で
埋まっていた。
祭壇の両側には赤いローソクが何十本も灯されていて,暖かく華やいだ感じがする。
まわりの壁にはたくさんのちいさな手作りの人形が止めつけられている。
私はクリスチャンではないけれどかたわらの献金箱にお金を入れ,マリアさまに手をあわせた。
教会を出て広場を横切ると,みやげ物店がならんでいる。
ここの絵葉書があれば買おうかと入ったがミハスのはなかった。
それでしようがないので絵タイルを2枚と黒のマントを買った。
マントはスカートが隠れる長さで襟と袖口にファーがついていて襟元の止め金は
ゴールドになっている。なにより二千円が気に入った。
「え?これ二千円?まあ、いいですねえ、私も買ってこよう!」
何人かがそう云って店に戻ったけれど、わたしと同じ黒がなくて申し訳ないみたいでした。
あこがれの美しい街に心を残してバスは出発した。
夫がひどく寒そうなので、さっきのマントでひざをくるんだ。
ズボンと靴下はきかえられたいいのだけど手荷物には入っていない。
Kさんが言っている。
「今日の雨ね、この地で70日ぶりだそうですよ。みんな,大喜びですって」
そう言えば,モロッコでも今まで2ヶ月以上雨が降らなくて,タンジールでは
給水制限をはじめようかと云っている、と聞いた。
タンジールでも喜んでいるでしょう。
「あ,そういえば、さっき雨宿りしてた時ね、そこの人たち雨の中跳んで歩いてたよ。
大声でなんか云いながら,大騒ぎしてた・・・」
夫が思い出してつぶやいている。
あらそう、それはようございましたこと、でもね,なにも私たちのスペイン上陸と同時に
降りださなくてもいいじゃないの。
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