私のレパートリー(ヴァイオリンソナタ編)

このページでは、私が大切にしているヴァイオリンソナタ(ヴィオラソナタも含む)のレパートリーの中から17曲をご紹介し、演奏者の立場から簡単な解説を試みています。譜例を作成するソフトもあるようなので、譜例を導入しながら演奏上のポイントなどを詳しく解説するバージョンに進化させることは近い将来の課題とさせていただきます。

目次

1. ヴァイオリンソナタ ホ短調 KV304 (モーツァルト作曲)

2. ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 KV378 (モーツァルト作曲)

3. ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 KV454 (モーツァルト作曲)

4. ヴァイオリンソナタ イ長調 KV526 (モーツァルト作曲)

5. ヴァイオリンソナタ 第1番 ニ長調 (ベートーヴェン作曲) 

6. ヴァイオリンソナタ 第3番 変ホ長調 (ベートーヴェン作曲) 

7. ヴァイオリンソナタ 第4番 イ短調 (ベートーヴェン作曲) 

8. ヴァイオリンソナタ 第5番 ヘ長調 『春』 (ベートーヴェン作曲)

9. ヴァイオリンソナタ 第6番 イ長調 (ベートーヴェン作曲)

10. ヴァイオリンソナタ 第7番 ハ短調 (ベートーヴェン作曲)

11. ヴァイオリンソナタ 第8番 ト長調 (ベートーヴェン作曲)

12. ヴァイオリンソナタ 第9番 イ長調 『クロイツェル』 (ベートーヴェン作曲)

13. ヴァイオリンソナタ 第10番 ト長調 (ベートーヴェン作曲)

14. ヴァイオリンソナタ 第2番 イ長調 (ブラームス作曲)

15. ヴィオラソナタ 第1番 ヘ短調 (ブラームス作曲)

16. ヴィオラソナタ 第2番 変ホ長調 (ブラームス作曲)

17. ヴァイオリンソナタ イ長調 (フランク作曲)


1. ヴァイオリンソナタ ホ短調 KV304 (モーツァルト作曲)

 この作品はモーツァルトの30曲あまりあるヴァイオリンソナタの作品群のなかで、唯一短調の作品です。構成は2楽章編成で、通して弾いても12分あまりしかかかりません。その意味では小粒の作品です。しかし「モーツァルトの短調」ということであればはずすわけにはいきません。美しいメロディと短調ならではの緊迫感が胸を打ちます。

2. ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 KV378 (モーツァルト作曲)

 この作品はモーツァルトのヴァイオリンソナタの作品群の中で、聴いていて(「弾いていて」ではなく)最も耳触りの良い作品の一つかもしれません。流麗で優美で聴く者を楽しくうきうきした気分にさせます。しかし演奏はなかなか難しい。例えば16分音符が細かく動くところなどは、ゆっくり丁寧に何度もさらうということが必要になると思います。また、この作品は、ヴァイオリンパートとピアノパートとのバランスがとても良く、ヴァイオリン奏者もピアノ奏者も共に合奏を楽しめると思います。ところで、この作品と楽想がそっくりなピアノソナタがあるのです。それは『ピアノソナタ第13番 変ロ長調 KV333』です。調性も同じ変ロ長調ですし、各楽章の雰囲気もそっくりです。このヴァイオリンソナタのピアノパートを弾く方は、一度聴いておくと参考になると思います。

3. ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 KV454 (モーツァルト作曲)

 この作品は全体の構成がしっかりしており、規模も大きく、ヴァイオリンパートとピアノパートとのバランスが非常に良いという印象です。第1楽章のヴァイオリンの出だし(Largo)はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』を連想します。このあたりから早くも「堂々とした構成」を聴くものに印象付けます。第2楽章は緩叙楽章ですが、ヴァイオリンとピアノとの歌い方のバランスが非常に良いと思います。第3楽章については、「名曲解説全集」(音楽之友社)の中で竹内ふみ子氏が「旋律や主題そのものに、きりっとひきしまった魅力が欠けている」と批評しています。しかし私には変化に富んでいて、聴くものを飽きさせない魅力に溢れていると思います。

4. ヴァイオリンソナタ イ長調 KV526 (モーツァルト作曲)


 この作品はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』を連想させるような緻密さをもっているのではないでしょうか。そういえば調性も同じイ長調です。特にこのヴァイオリンソナタの第3楽章の緻密さには大変高い芸術性を感じます。
 モーツァルトのヴァイオリンソナタ作品には他にも例えばKV378(変ロ長調)やKV454(変ロ長調)など優れた作品がありますが、このヴァイオリンソナタKV526は、これらの諸作品と肩を並べるものであるといえましょう。

5. ヴァイオリンソナタ 第1番 ニ長調 (ベートーヴェン作曲) 

 この作品はベートーヴェンが28歳のときの作品で、モーツァルトやハイドンの雰囲気を引きずっているかと思いきや、すでにベートーヴェンらしさがみなぎっているといっても過言ではありません。
 第1楽章は、確信に満ちた力強い出だしで始まります。音階を素材としたシンプルなメロディの中に深みのある展開を込めているあたり、後の「傑作の森」で誕生するピアノ協奏曲第5番『皇帝』を彷彿とさせます。楽想は「アレグロ・コン・ブリオ」なので、エネルギーに満ちたいきいきとした感じを出す必要があります。このため、テンポはアレグロの中ではいくぶん速めが良いように思います。第2楽章は変奏曲形式で、なかなか充実しています。緩徐楽章だからといって油断は禁物。私はこれの第2変奏がとても好きです。同じベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』の第2楽章の第2変奏を連想させる軽妙さと優美さが漂っています。第3変奏は短調で、ピアノパートとの掛け合いの中に短調の曲ならではの緊迫感を出すことに成功しています。第4変奏は一転して静寂と枯淡の境地で、第3変奏の緊迫感を癒しながら穏やかに第2楽章をしめくくります。第3楽章は軽快なロンド形式。躍動感にあふれた展開の中に青年ベートーヴェンのみずみずしい感受性が感じとれます。
 ところで、この作品は、ヴァイオリニストの竹中勇人(たけなかはやと)さんが、「自分の音楽の様式感を見直すのに非常に良い」としてこの作品を勉強することを薦めています。シンプルな構造をもち、まじりっけが無い点が好適なのでしょう。 

6. ヴァイオリンソナタ 第3番 変ホ長調 (ベートーヴェン作曲) 

 この作品は、ヴァイオリンソナタの1番、2番とともに1798年に作曲されたもので、この年はベートーヴェンが有名なピアノソナタ第8番『悲愴』を作曲した年でもあります。同じベートーヴェンの1番のヴァイオリンソナタと比較すると、この3番のほうがかなり密度が高いということがわかります。まず第1楽章は、作曲上「ヴァイオリン奏者にとって弾きやすい運指」というものは全くと言ってよいほど考慮されておらず、ベートーヴェンがひたすら自己の音楽理念に基づいて作曲しているという印象を受けます。このため、最も合理性のある運指は何かを考えながら、例えば1段階だけのシフトチェンジ(1stポジションから2ndポジション、2ndポジションから3rdポジション等)などを多用して対処すべきところが多々あり、根気よく練習しなければ整頓高い演奏にならないようです。

 また、この3番のヴァイオリンソナタでは、第2楽章にはじめてベートーヴェンらしい緩叙楽章が採用されています。ちなみに第1番の第2楽章はテンポはそれほど緩やかではない変奏曲、第2番の第2楽章はアンダンテで始まり、ただちにアレグレットに移行する楽章です。これらは緩徐楽章と位置付けることは不可能ではないものの、聴き手を深い思索にいざなうベートーヴェンらしい精神性が盛り込まれた緩徐楽章は、ヴァイオリンソナタのジャンルではこの第3番において初めて登場したといってよいでしょう。またこの第2楽章はピアノパートが担っている音楽的な表現内容が素晴らしい。その意味においてピアノ奏者と合奏することの喜びと楽しみがひときわ深まる楽章であると言えます。

 第3楽章もけっこう難しい。演奏にあたっては、第1楽章と同様に合理性のある運指を考えながら練習する必要がありそうです。この第3楽章の219小節からはじまるコーダの部分は私のなかなかのお気に入りです。はつらつとした喜びの感情が見事に表現されており、同じベートーヴェンの第9番のヴァイオリンソナタ『クロイツェル』の第3楽章を彷彿とさせます。この部分をエチュードとして繰り返し練習するというのも悪くないと思います。

7. ヴァイオリンソナタ 第4番 イ短調 (ベートーヴェン作曲)

 ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは全部で10曲あります。今回このページでご紹介する作品を17曲選ぶにあたって、ベートーヴェンの作品が9曲も入ってしまいました。理由は易しいとか難しいとかということではないんです。なんといいますか、ベートーヴェンの作品というのは、音楽に取り組む者にとって「避けて通れない」という感触を抱かせてしまうんですね。まずベートーヴェンを学ぶことによって、そもそも音楽とはどういうものなのかを学ぶ。そしてそこで学んだことを元にして、例えばブラームスなりドボルザークなりに発展するのではないかと思います。このホームページのトップページでもちょっと触れましたが、ヴァイオリン作品の練習や研究を通じて音楽そのものの研究にも発展していきたい、そんな願いを抱くと、どうもベートーヴェンの作品ははずせないのです。
 この作品は第1楽章に難しいパッセージがありますが、うまい練習方法を発見しました。他の様々な場合にも適用できると思いますが、そのパッセージをピアノで弾いてみることです。難しいパッセージの音の並びを、ヴァイオリンの指板の上だけでなくピアノの鍵盤の上でも確認することによって、意外に音と音との関連が見えてきたりします。

8. ヴァイオリンソナタ 第5番 ヘ長調 『春』 (ベートーヴェン作曲)

 この作品はベートーヴェンの10曲のヴァイオリンソナタの中で最高の知名度と人気を誇っています。ある音楽系の雑誌のアンケートで、「元気な気分になりたいときに聴く曲は?」との質問に対して最高点を獲得しました。ベートーヴェンの10曲のヴァイオリンソナタの中でプロアマを問わず最も演奏される曲であると言えましょう。
 私も大好きです。これまで私が取り組んできたヴァイオリン曲の中でもっとも多くの演奏回数を数えると思います。それにもかかわらず少しも飽きることがないのです。これはベートーヴェンのような大家の作品ならではの魅力でしょう。そういったの魅力の根源はいったいどこにあるのか、そんな問題を私たちに提起してくれるのもベートーヴェンのすばらしさなのかもしれません。

9. ヴァイオリンソナタ 第6番 イ長調 (ベートーヴェン作曲)

 この曲はなかなか渋くて好きです。全体としてはどちらかというと淡々としています。しかし格調高いですね。特に私は第2楽章が好きです。この曲の第2楽章を聴いていると、私はどういうわけか日本庭園、それも鎌倉時代などの白砂と松の簡素な構成の中にも深い趣のある日本庭園を思い浮かべます。ベートーヴェンは日本庭園を知っていたのでしょうか。
 第3楽章では変奏曲が登場します。変奏曲形式は、これ以前では1番のヴァイオリンソナタの第2楽章にもありますが、この6番の変奏曲はぐっと密度が増しています。ピアノ共演をしてくれたO氏が「ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは6番以降が難しい」と言っていました。このあたり通じるところがあるのでしょう。

10. ヴァイオリンソナタ 第7番 ハ短調 (ベートーヴェン作曲)

 この曲は5番の『春』および9番の『クロイツェル』についで人気のある曲です。短調でありながらかなり派手なところがあると思います。またそこが人気の理由かもしれません。しかも4楽章編成の大曲です。ベートーヴェンの10曲のヴァイオリンソナタの中で4楽章編成の曲はこれを入れて3曲しかありません。
 私が抱く印象では、最初のふた楽章(第1楽章と第2楽章)と、後のふた楽章(第3楽章と第4楽章)とで難易度がずいぶん違うような気がします。私の知り合いのあるピアノ奏者の方が「ベートーヴェンって楽譜どうりに一応弾けるようになってその後が難しいのよね。」とおっしゃっていました。まさにその通りであると思います。そして最初のふた楽章と、後のふた楽章の難易度における差は、まさにこの点の難しさの差であろうかと思います。
 したがって、この曲を公開演奏のステージで弾くのであれば、準備にかける時間の比率を十分注意する必要があると思います。昔あるジョイントコンサートグループの演奏会でこの曲が演奏されるのを聴いたことがあります。そこでは、最初のふた楽章と、後のふた楽章とでずいぶん出来ばえが異なっていたのです。
 この事例は私たちに「出来栄えのムラには注意が必要」であることを教えています。すなわち、「楽譜どうりに一応弾けるようになってその後」をどれくらい深められたのか、その探求は4つの楽章すべてにわたってバランスがとれているのか、そんなことをきちんと考察する必要がありそうです。

11. ヴァイオリンソナタ 第8番 ト長調 (ベートーヴェン作曲)

 この曲はベートーヴェンのヴァイオリンソナタでは、5番『春』についで私の愛奏曲になっています。昔地元のホールの市民音楽祭でこの曲を演奏したとき、大変好評であったので、すっかり気を良くしてしまいました。そのとき私たちの演奏をきいてくださったある方が、「あなたの演奏を聴いていると、くっ、くっと頭が重くなって眠くなってしまったのよ」とおっしゃっていました。一見すると褒められているのかけなされているのかわからない批評ですが、間違いなく褒めてくださっているのです。
 第1楽章は躍動感に満ち溢れたソナタ形式。第2楽章のメヌエットは、聴くものを深い思索にいざなうようなところがあります。また、この楽章は生地の音のいいピアニストが弾くと本当に映える気がします。第3楽章は、ちょっと趣をかえたベートーヴェンの茶目っ気や、やんちゃな活動性のようなものものぞいています。小ぶりな作品ながらピアニストにとってもやりがいがあると信じます。

12. ヴァイオリンソナタ 第9番 イ長調 『クロイツェル』 (ベートーヴェン作曲)

 ご存知のように、この作品は古典派ヴァイオリンソナタの王者です。この曲、特に第1楽章は、アマチュアが弾きうるアッパーリミットではないかと思います。私はこの曲の第1楽章だけを地元の市民音楽祭で演奏したことがあります。
 これを弾き終えたとき、もう金輪際こんな難しい曲は弾くまい、と心に決めてしまいました。なぜこのような心理が発生するのでしょう。それは、同一の作品を機会を改めて弾くときは、前回とは異なった、それもできれば前回よりは進歩した演奏をしたい、と心の片隅で思っているからでしょう。そしてそのような演奏が出来るという自信が持てるようになるまでは、その作品に再び取り組む勇気がなかなか湧いてこないということなのだと思います。
 優美で楽しい第2楽章は宝石箱から様々な色の宝石がこぼれ落ちるかのようです。そして躍動感と華やかさをあわせもった第3楽章。これらをそれぞれ個別の演奏機会で演奏しました。専門家の人はソロリサイタルなどで全楽章を一機に弾いて、しかも他の作品も弾くわけですから本当にすごいと尊敬の念をいだいてしまいます。

13. ヴァイオリンソナタ 第10番 ト長調 (ベートーヴェン作曲)

 この曲はCDなどで聴いてみると、わりあい単調に聴こえたりします。ところが実際に楽器を自分の手にとって弾いてみると、一つひとつの音が非常に深い意味をもってメッセージを送ってくるような気がするのです。ベートーヴェンのヴァイオリンソナタでは、7番が、5番の『春』および9番の『クロイツェル』についで人気のある曲だ、ということを申し上げましたが、私はこの10番こそが5番の『春』および9番の『クロイツェル』に次ぐ、いや比肩する作品なのではないかと考えています。
 私はそれほど頻繁にコンサートに足を運ぶわけではありません。しかしこの曲に関しては、ぜひいつか感動的な秀演に生で接してみたいと思っています。かなり前ですが、東京文化会館でのヨゼフ・スークの演奏会を聴きに行く予定でした。このときのプログラムが、ちょうどベートーヴェンの5番、9番、10番でした。そのときはあいにく演奏者が来日をキャンセルしてしまったのでした。

14. ヴァイオリンソナタ 第2番 イ長調 (ブラームス作曲)

 ブラームスはヴァイオリンソナタをわずか3曲しか残していません。他にはシューマンとの合作で、楽章だけの作品が残っているだけです。しかしそのどれもが深い威厳をもった大曲であり、私のようなアマチュア演奏家が安易に接近することを拒んでいるかのようです。
 その中で、この2番だけは、まだいくらか演奏者に親愛の情をいだいてくれているかのようです。しかしこれは、2番の作品が易しいという意味ではありません。実際例えば第1楽章の最初の50小節あたり、特に31小節から50小節あたりを弾くだけで、はやくもベートーヴェンなどにはない難しさが襲ってきます。一見してシンプルな音の並びになんと巨大な音楽の造形のエネルギーが宿っていることでしょう。
 第2楽章。私はこの暖かく包むような深い人間愛にみちた旋律に畏敬の念を抱きます。いったい自分の演奏はこの旋律のもつ優しさのどれほどを表現できているのだろうかと…。そして第3楽章。深く大きな大河の流れを髣髴とさせる堂々たる叙情。演奏時間は20分程度であり、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタでいえば8番とほぼ同じ長さですが、そこにはロマン派作品のもつ独自の質量感があります。

15. ヴィオラソナタ 第1番 ヘ短調 (ブラームス作曲)

 この作品は原曲はクラリネットソナタとして作曲されました。以前、NHKの『名曲探偵アマデウス』という番組で、ブラームスの交響曲第1番をとりあげていました。ここでは、ブラームスとワーグナーとを対比させてクラシックの音楽史について言及がされていました。ブラームスはベートーヴェンの交響曲第5番の流れをくみ、古典派の正統的後継者とならんとする方向性をもっていました。一方、ワーグナーはリストらと同調し、ベートーヴェンの交響曲6番『田園』に始まる表題音楽への方向性をもっていました。このブラームスのヴィオラソナタ1番は、古典派の正統的後継者たるブラームスの面目躍如とするところがあり、古典派ソナタの楽曲構成はどういうものなのかを典型的に示す構成となっています。
 第1楽章は、おそらくヴィオラの器楽曲やソナタの中では相当難しいぶるいに入ることでしょう。例えば運指ひとつをとっても、演奏を的確におこなうためには、どういう運指が適切かを入念に考える必要があります。特に私のようなアマチュア演奏家は、第2ポジションや第4ポジションなど偶数ポジションを苦手にしがちですが、もっとも合理性のあるポジション選択が第2ポジションや第4ポジションであると考えられたら、素直にそれを選択していく必要があります。また、ひとつのパッセージ、ひとつの小節の中にト音記号とハ音記号とが入り乱れるということがところどころあります。ト音記号やハ音記号が突如現れても動揺しないたくましい読譜力も要求されそうです。こんな難曲ではありますが、私はこの曲、とりわけこの第1楽章が大好きです。ここには、これからこの世を去りゆこうとする晩年のブラームスのメッセージが色濃く反映しているように思えてならないのです。
 第2楽章は静かな叙情性豊かな楽章、第3楽章は、どこかエレガントな雰囲気をもつ舞曲風の楽章、そして第4楽章は快活な躍動感を感じさせます。全楽章を通して、「これが古典派ソナタでござい」といわんばかりの堅固な構成ですが、しかしそこには人生の酸いも甘いも知り尽くした晩年のブラームスの悟りの境地ものぞいています。

16. ヴィオラソナタ 第2番 変ホ長調 (ブラームス作曲)


 このページは私のヴァイオリンソナタのレパートリーをご紹介するページですが、私はこの作品をヴィオラで弾きます。ヴィオラは普段ほとんど弾かないため、レパートリーは増えないし、演奏技術は衰える一方ですが、この曲をヴィオラで弾いておいた経験があるのは私にとって誇りです。ヴィオラのハ音記号譜面を読むのが苦手な私は、まずヴァイオリン演奏譜で下勉強します。ブラームス自身がヴァイオリン編曲バージョンを作曲しているのです。
 ヴァイオリン編曲バージョンを下勉強すると、ヴィオラバージョンの音域を5度上げただけではない違いがいろいろなところにあるのに気がつきます。特に第2楽章の重音の部分の違いは興味深いです。この部分はオリジナルのクラリネット作品にも当然ありません。ブラームスのヴィオラソナタは、クラリネット版の焼き直しではなく、ヴィオラのためのオリジナル作品だ、と主張する人の気持ちがわかるような気がします。

17. ヴァイオリンソナタ イ長調 (フランク作曲)

 ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』が古典派ヴァイオリンソナタの王者であるとすると、このフランクのヴァイオリンソナタはロマン派ヴァイオリンソナタの王者かもしれません。この作品は4楽章編成になっていますが、このような最高傑作クラスの作品は、どの楽章も素晴らしいですね。しかも各楽章が緊密な連携を保ってドラマを展開しているかのようです。この緊密な連携感は、4つの楽章のどの主題も、第1楽章の第1主題の動機を素材としたものであることに起因するのかもしれません。ところが、全体の構成は決して単調にならず、それどころか作品のエネルギーと情熱が多様なファンタジーをともなって私たちの胸に迫ってきます。
 ところで、この作品の紹介をするにあたって、私は改めてCDコレクションの演奏を数種類聴きなおしてみました。すると面白いことに気がつきました。それは演奏者のお国によって、音程(イントネーション)のとりかたが微妙に違うように感じるのです。これはフランス系の作品のゆえなのでしょうか。