
このページでは、私が大切にしているヴァイオリン小品(ヴィオラ小品も含む)の中から16曲ほどをご紹介し、演奏者の立場から解説を試みています。
【目次】
1. 愛の挨拶(エルガー作曲)
2. 子守唄(フォーレ作曲)
3. シチリアーノ(パラディス作曲)
4. メロディ(グルック作曲)
5. テンポ・ディ・メヌエット(クライスラー作曲)
6. ロンディーノ(クライスラー作曲)
7. 美しいロスマリン(クライスラー作曲)
8. シンコペーション(クライスラー作曲)
9. ロマンス(シューマン作曲)
10. ユーモレスク(ドボルザーク作曲)
11. 金髪のジェニー(フォスター作曲)
12. タイスの瞑想曲(マスネ作曲)
13. ヴォカリーズ(ラフマニノフ作曲)
14. エレジー(フォーレ作曲)
15. アダージョとアレグロ(シューマン作曲)
16. コル・ニドライ(ブルッフ作曲)
17. オーボエのための3つのロマンス(シューマン作曲)
18. ロマンス 1番 ト長調 作品40(ベートーヴェン作曲)
19. ロマンス 2番 ヘ長調 作品50(ベートーヴェン作曲)
20. わが故郷より(スメタナ作曲)
1. 愛の挨拶(エルガー作曲)
美しい愛らしいメロディです。オフ会やジョイントリサイタルなどのオープニングを飾るにうってつけの作品ではないでしょうか。オープニングに何を持ってきたらいいか困ったときはこれに限るといったところです。
中間にフラジオレットで音を出すところがあります。ここは結構難しいですね。フラジオレットでは左の指は軽く弦に当てます。左の指の弦に対する当たりが軽いために、このことにつられてボーイングも軽くなってしまいがちですが、ボーイングは結構しっかりやる必要があります。指が弦に乗っていることによって、弦の振動しようとする力が弱められています。フラジオレットでは、このことに打ち勝って弦が鳴る必要があるのです。
最後の伸ばす音は、弓を2回くらい返してもよいのではないでしょうか。ピアノ伴奏をする人は、ヴァイオリン奏者の弓の返しを注意して聞き取り、弓の返しによる音の途切れをカバーするように音を出す工夫をしてあげるとうまくいきます。
2. 子守唄(フォーレ作曲)
これはフォーレの作曲技術の粋を集めた傑作とされています。ピアノ伴奏のリズムにたいするヴァイオリンの旋律の乗っかり具合がなんともいえず粋です。子供を寝かしつけるための子守唄としての性格を離れ、ひとつのヴァイオリン小品として高い完成度にある作品であると思いますが、全体であまり大きな立派な音で弾いてしまっては雰囲気が台無しになります。逆にか細く弱々しい音になっても良くないと思います。どれくらいの「立派さ」の音で弾くかが考えどころです。
3. シチリアーノ(パラディス作曲)
作曲者のパラディスは、フルネームをマリーア・テレージア・フォン・パラディスといいます。1759年にウィーンに生まれ1824年に同地で亡くなっています。彼女の作品である程度頻繁に演奏される、つまり実質的に残っている作品はほぼこれだけだといってよいでしょう。
シンプルなメロディであるだけに独特の難しさがあると思います。あなどってはなりません。まず各パッセージを演奏するにあたって、ポジションの選択(弦の選択)は忠実に楽譜の校閲者の指示に従うのが無難です。高いポジションで音程とりに難渋しても、やはりその弦が選択されていることには音楽上の必然があると考えられます。
また、調性がフラット系であるだけに音程に注意することが必要です。このシンプルなメロディに哀愁が漂い始めたらそろそろ出来てきだしたんじゃないでしょうか。
4. メロディ(グルック作曲)
この作品の原曲は、グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』の中の第2幕第2場のバレエ音楽として演奏されるものです。原曲では、フルートがあたかも独奏楽器のようにメロディを奏でていますが、ヴァイオリン小品としても独自に演奏されるようになっています。
原曲がフルートのメロディであるだけに、音域が高めですね。またその旋律もフルートの音色の魅力を開拓するような旋律です。ヴァイオリンで演奏するときは、このあたりを意識することが必要であると思います。
5. テンポ・ディ・メヌエット(クライスラー作曲)
クライスラーは、1875年にウィーンで生まれ、ウィーン音楽院で音楽の勉強を開始。その後パリで研鑽を積み、やがて軍隊を経験しますが、1943年にはアメリカに帰化しています。彼の作風は、フランス的な明晰さと儀古典的な雰囲気をあわせもっており、優雅で気品のある作品が多いです。この「テンポ・ディ・メヌエット」は彼の儀古典的雰囲気をもった作品の代表作であるといえましょう。
この作品の演奏にあたっては、やはりそのようなクライスラーの作風をいかすような様式感をもって演奏することが基本姿勢になると思います。あくまで整頓高く、明瞭ではっきりした音で演奏することが望まれると思います。
6. ロンディーノ(クライスラー作曲)
この作品は、出版当初『ベートーヴェンの主題によるロンディーノ』と呼ばれていました。実際このような呼びならわしは現在でも残っていて、CDなどのヴァイオリン小品集などをみると、この呼び方が使われている場合があったりします。
ある音楽学者が、ここで用いられている「ベートーヴェンの主題」なるものは本当にベートーヴェンの作品の中から取材しているのかを徹底的に調べたようです。その結果、「間違いなくこの作品からの由来だ」とは確認されませんでした。現在ではこの「ロンディーノ」の主題がベートーヴェンの作品に由来しているという理解は完全に否定され、クライスラーが「ベートーヴェンの主題による〜」というタイトルをつけたのは、彼の茶目っ気だったのだろうとされています。
それにしてもなんとベートーヴェン的な雰囲気をたたえている主題でしょう。シンプルなメロディーの中にベートーヴェンのみやびの世界が聴こえてきます。
7. 美しいロスマリン(クライスラー作曲)
この作品は、実はまだ私のレパートリーにはなっていないのです。なぜかというと、この作品の演奏に必要とされるワンボウ・スタッカートの技術がまだ未完成だからです。しかし私は不遜にもこの作品をワンボウ・スタッカートのための練習曲として使っているのです。
この作品の演奏でもうひとつ難しいポイントがあります。それはトリルと装飾音。名人達の演奏を聴くとボーイングにもトリルにもじつに洗練された工夫がなされていますね。名人たちの洗練に近づくべく今日も練習にはげむのでアリマス。
8. シンコペーション(クライスラー作曲)
クライスラーの数ある作品群の中で私はこの作品が大好きです。なんとうきうきと楽しく茶目っ気たっぷりな作品なのでしょう。音楽の演奏では即興性というものがとても大事です。一つの作品でもそれを演奏する場が異なるときは、またそれぞれにちがった演奏になるものだし、またそのようにすべきです。同一の作品だからといって、どの演奏機会でもおなじように演奏すべきではありません。そうすることによって、作品は演奏者を経ていわば「生き物」のようによみがえるのです。
この「シンコペーション」という作品は、私たち演奏者にそのことを教えてくれます。そしてこの作品をステージで聴けるときは、私も即興性の大切さを思い起こしてみたいものだと思います。みなさん、ぜひ即興性たっぷりに弾いてみてください。
9. ロマンス(シューマン作曲)
この作品の原曲は、シューマンの「オーボエのための3つのロマンス」の第2曲です。全体は3部形式になっています。しかも全体を通してピアノとヴァイオリンが緊密に音を絡み合わせます。シューマンの作曲家としての力量がこの小品の中にもいかんなく発揮されています。この曲は、ピアニストにとってもかなりやりがいがあるのではないでしょうか。
4番でご紹介したグルックのメロディは、原曲がフルートのメロディでした。そして私たちがヴァイオリンで弾くときは、それがフルートのメロディであることを念頭にいれて音色を探求するのが良いということを申し上げました。このシューマンのロマンスでは、今度は原曲のオーボエのイメージを大切にしたいものです。第1部と第3部とは、田園風景の郷愁をさそうようなどこかのどかな感じのする旋律です。このような旋律はまさにオーボエの面目躍如です。中間部の第2部は、緊迫感があります。第2部では、第1部と第3部に対してテンポを変えて音楽の流れにアクセントをつけるようにするのが良いと思います。
10. ユーモレスク(ドボルザーク作曲)
この曲は、このページでご紹介する16曲の中ではある意味でもっとも難しいかもしれません。この曲の演奏では、重音のパッセージにいかに対処するかという課題があります。
ここで、音程のとりかたについて少し説明しておきます。音程は各音階の音をどういう音の高さに位置づけるかという音律に基づいてとるのが原則です。音律には代表的なものに、「ピュタゴラス音律」、「平均律音律」、「純正調音律」があります。旋律を歌うにはピュタゴラス音律が良いとされ、重音をきれいにひびかせるには、純正調が良いとされます。重音のパッセージでは、上の音(旋律を担っている音)はピュタゴラス音律に基づいて音をとり、下の音はこの上の音に対して純正の音程をとります。
具体的には、上の音と下の音との音程が短3度のときは、この音程を広めにとるようにすると、上の音に対してよくハモる音が見つかります。また、上の音と下の音との音程が長3度のときは、この音程を狭めにとるようにすると、上の音に対してよくハモる音が見つかります。重音における下の音は、単旋律でその音をとる場合とずいぶん異なっていることに気がつきます。
曲全体の雰囲気は、どことなく哀愁を含んでいますね。ユーモアには人間性への共感が含まれているからでしょう。
11. 金髪のジェニー(フォスター作曲)
この曲はヴァイオリン小品の中で私が最も愛している曲のひとつです。叙情豊かな旋律は『タイスの瞑想曲』に比肩しますが、曲の雰囲気はどこか甘酸っぱい蜂蜜とレモンの味わいです。
音色の探求のために、ハイポジションを結構多用していますが、もうひとつこの曲を演奏する上でのポイントは、ポルタメントを効果的に導入することです。そのためにも適切なポジションどりが必要になります。しかしながら、Carl Fischer版の楽譜を見ると、最初からG線の第6ポジションか第7ポジションを使うようになっています。これは結構大変ですね。もうすこし運指の楽な代替案はないものでしょうか。私は、最初はD線の第3ポジションで始める。6小節目でG線の第4ポジションに上がる、という運指を使っています。
またこの曲の後半には『ユーモレスク』とは異なるタイプの重音すなわち6度の和音がでてきます。ここでも、上の音と下の音との音程が短6度のときは、この音程を広めにとるようにする。また、上の音と下の音との音程が長6度のときは、この音程を狭めにとるようにすると、上の音に対してよくハモる音が見つかります。
12. タイスの瞑想曲(マスネ作曲)
この曲はおそらくヴァイオリン小品の中では最も人気のある曲でしょう。「この曲は大好きだ」とおっしゃる方は非常に多いです。実際、プロの演奏家のヴァイオリン小品集CDアルバムでは、収録曲にこの曲が抜けていることはまずないです。プロアマ問わずいろいろな方がお弾きになります。
それだけに、下手な演奏ができない、その意味で弾きにくい曲なのではないでしょうか。演奏会では、私は意識してこの曲をはずすようにしています。しかし「ここ一番!」というときはやはり選曲してみたい作品でもあります。
この曲を演奏するにあたって大切なことは、やはり曲の背景への理解でしょう。原曲はマスネが作曲した歌劇「タイス」の中の間奏曲です。主人公であるタイスを堕落への道から救おうと願いつつも、その官能的魅力に惹かれ、信仰への道とのはざまで苦悩する僧侶アナタエルの心の葛藤が描かれています。
全体の構成は3部形式になっています。中間部は、まさにこのような葛藤が描かれているといえましょう。この中間部のモチーフを十分に表現するためには、弦の選択も重要です。例えば33小節目からはぜひともA線の第5ポジションを維持し、34,35小節をG線で弾きたいものです。第3部では、第1部の旋律が再現されますが、ここで、第1部の冒頭における歌い方と同じになってはなりません。第1部の冒頭における歌い方は、甘く切ない憧憬の念です。第3部の再現旋律では、アナタエルの諦念と救済、安寧と安らぎが訪れ、静寂につつまれながら曲を終わります。
13. ヴォカリーズ(ラフマニノフ作曲)
この作品の原曲は、1912年に出版された、ソプラノまたはテノールのための《14の歌曲集》作品34の第14曲、すなわち終曲にあたる曲です。大変魅力的な旋律であるため、ヴァイオリン、チェロ、フルート、サクソフォン、トランペット、トロンボーン、2台ピアノなど、様々な編成に編曲されています。私がこの作品を演奏するとしたら、ヴァイオリンではなくヴィオラで弾きたい気がします。楽譜はドレミ楽譜出版社『ヴィオラ愛奏曲選』に収録されています。演奏のポイントとしては、やはりもともとは歌の曲であることにかんがみ、イントネーション(音程)に充分留意すること、16分音符を駆けないようにすることでしょう。ヴァイオリニストの澤一樹さんが『ヴォカリーズ/ヴァイオリンは語る』と題するヴァイオリン小品のCDアルバムをリリースしています。ヴァイオリン小品アルバムですから、澤さんはこの曲をヴァイオリンで弾いていますが、ヴィオラで演奏する場合も充分参考になります。この中では、澤さんは、1回目の繰り返しの部分を最初は通常の音域で、繰り返してからの2回目は1オクターブ下の音域で弾いています。このような試みも面白いと思います。
14. エレジー(フォーレ作曲)
この作品は1880年、フォーレが35歳のとき、チェロとピアノのための小品として作曲されたものです。フォーレにとってチェロは相当に興味と関心を惹いた楽器であるらしく、この曲以外にもチェロとピアノのための器楽曲を7曲ほど作曲しているようです。オリジナルがチェロの作品であることを考慮すると、この曲の演奏も、演奏する楽器をヴァイオリンとヴィオラのいずれかから選ぶとしたら、やはりヴィオラで演奏したいものです。重々しい挽歌の主題からはじまりますが、途中から軽やかさを含んだ純粋なメロディをピアノが奏で始めます。そのときヴィオラが最初の重々しい挽歌の主題からのモチーフで伴奏的に動きます。雰囲気の異なる2つの音の流れの溶け合い、そして聴くものを興奮にそそるようなダイナミックな盛り上がりに接続させる手際も見事です。
15. アダージョとアレグロ(シューマン作曲)
この作品はホルンとピアノのために作曲されました。音楽之友社の『名曲解説全集』によると、「室内楽曲」のカテゴリーに分類されています。シューマンがこの作品を作曲したころは、ホルンの機構的機能がかなり向上した時期にあたるようです。このことがシューマンをして、ホルンの室内楽曲を作曲しようという意欲にかりたてたのでしょう。実際、同じ年にホルンの曲が他に2曲作曲されているようです。冒頭のアダージョの部分は穏やかでロマンチックな雰囲気です。ホルンの音色のふくよかで透明感のある響きがイメージされます。時間的に半分弱ほど進行すると、アレグロの部分に入っていきます。ここは、いかにも快活で元気がよく、狩りの進軍ラッパの雰囲気です。私はこの曲をヴィオラで弾くわけですが、シューマンがこの楽曲のイマジネーションをどのようにホルンに託したのかをいろいろ想像できるので、ホルンで弾いた演奏例をあらかじめ聴いておくと参考になると思います。ホルンによる演奏の場合は、演奏者のブレス(息)の都合もあるのか、やや速めのテンポになるようです。ヴィオラによる演奏だと、ホルンよりは内向的でしっとりした雰囲気に仕上がる感じがします。
16. コル・ニドライ(ブルッフ作曲)
この作品は1881年ごろ、管弦楽の伴奏によるチェロの独奏曲として作曲されました。ヘブライの古い聖歌「コル・ニドライ」の旋律を変奏した幻想曲です。もとの旋律はユダヤ教の贖罪の夕べに教会で歌われる特別な聖歌で、「コル・ニドライ」とは「神の日」という意味になるようです。全体は2部構成になっており、第1部は宗教的な悲痛さをたたえた旋律で始まります。第2部はピアノソロのやや明るく叙情性の豊かな旋律ではじまり、これを独奏楽器が受け継ぎます。この第2部のテーマはその後変奏曲風に展開されます。この部分は演奏はなかなか容易ではないですが、強い緊迫感があり、聴くものの胸に迫るものがあります。この作品も、演奏する楽器をヴァイオリンとヴィオラのいずれかから選ぶとしたら、やはりヴィオラで演奏したいものです。参考になる演奏のひとつとしては、バシュメットによるヴィオラ演奏があります。バシュメットらしい洗練されたエレガンスを感じさせる演奏ですが、私には藤原真理のチェロによる演奏がとても参考になります。力強い説得力がなんとも言えない魅力です。
17. オーボエのための3つのロマンス(シューマン作曲)
この作品は1849年12月、シューマンが39歳の時に作曲されました。このころは、シューマンの健康状態や精神状態は安定し、創作力も充実していたようです。この曲はオーボエのために作曲されていますが、深い美しさをたたえた独創性ゆたかな旋律ゆえか、オーボエ以外の楽器でも演奏されます。実際、ペータース版の楽譜を見ると、オーボエ用演奏譜がヴァイオリン用演奏譜も兼ねていますし、クラリネット用演奏譜、チェロ用演奏譜も添付されています。また、Stainer
& Bell 社からヴィオラ用演奏譜も出版されています。さらに、この曲がフルートによって実演された例にも間接的ながら接しています。
この曲の第2曲がクライスラーによって編曲されていることはご存じの方も多いでしょう。このページの9番でも取り上げています。このクライスラー編曲版と、この原曲の第2曲とを対比すると、特に最後の部分でクライスラーがはっきりとした意図をもって変更を加えていることが分かります。すなわち、曲を締めくくる和音が2つ付加されているのです。この意図は、クライスラーが自分の編曲版が演奏されるときは、この曲だけで単独に演奏されることがありうることを考慮して、曲に自己完結性を持たせているのだと考えられます。また、ピアノ伴奏パートも、クライスラー好みにやや華やかな演奏効果を追求している向きもあります。
シューマンの原曲をヴァイオリンとヴィオラのどちらで弾くかという問題を考えてみますに、私だったらヴィオラのほうがやや好ましいかなと思います。原曲のオーボエの旋律のどことなく哀愁をたたえた清らかな雰囲気がヴィオラにマッチするように思うからです。
18. ロマンス 1番 ト長調 作品40
この作品は原曲は『独奏ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス』ですが、管弦楽パートをピアノに代替してピアノ伴奏として演奏されることも多いと思います。ピアノで伴奏する場合は、原曲のオーケストラスコアを用意して、オーケストラ版の演奏をいちど聴いておくとよろしいでしょう。オーケストラならではの色彩感のある伴奏音をピアノで再現する場合のイメージ作りになると思います。この作品の場合(2番のロマンスでもそうですが)、オーケストラパートが日向になる部分と影になる部分とがはっきり分かりやすくなっていますから、その区別に応じて音の響かせ方を工夫するとよいと思います。また、ヴァイオリンパートは、ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンパートとも、小品におけるヴァイオリンパートとも異なり、コンチェルトにおけるソロパートの趣があります。このため、この楽曲を単一楽章のコンチェルトのつもりでそれなりの堂々としたところを感じさせるような弾き方をするのがよろしいでしょう。楽曲の形式は、典型的なロンド形式で、「A→B→A→C→A→コーダ」の構成になっています。ヴァイオリン独奏部には重音がたくさん出てきますが、その響きは純潔で清楚な感じを受けます。
19. ロマンス 2番 ヘ長調 作品50
この作品も原曲は『独奏ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス』で、管弦楽パートをピアノに代替してピアノ伴奏として比較的頻繁に演奏されます。1番ト長調の『ロマンス』よりもメロディアスであり、華やかな演奏効果があるので、なかなかの人気曲です。この曲の演奏にあたっても、ピアノで伴奏する場合は、原曲のオーケストラスコアを用意して、オーケストラ版の演奏をいちど聴いておくとよろしいでしょう。この作品の調性であるヘ長調は、ベートーヴェンにとってゆかりの深い調性であるようです。同じ調性を使用している作品の有名なところでは、交響曲第6番『田園』があります。ベートーヴェンはヘ長調という調性に、明朗で牧歌的なイメージを投影していたと思われます。楽曲の形式は、1番の『ロマンス』と同様、典型的なロンド形式で、「A→B→A→C→A→コーダ」の構成になっています。この作品のヴァイオリンパートは、1番の『ロマンス』とは異なり、重音は出てきませんが、メロディーの上昇下降の幅が広く、それだけ旋律の歌い方にある意味での大胆さと華麗さが求められましょう。
20. わが故郷より
この作品は1880年、スメタナがちょうど56歳の時に作曲されました。作品には故郷の自然の中で遊んだ少年時代を懐かしむ心象風景が色濃く投影されており、また故郷を誇りに思う熱い気持ちもにじみ出ています。全体は2楽章から成り、第1楽章は3部形式、第2楽章はスメタナの自由な楽想を素直につなげていく自由部分形式になっています。
第1楽章の中間部分(85小節目〜105小節目)の最後の部分、特に103小節目から105小節目は、この第1楽章の中で一番難しいところであり、ピアノとも合わせにくいところでもありましょう。ここは、まずメトロノームでテンポを正確に刻む練習をし、105小節目の最初の3拍におけるピアノの音の動きを頭に入れて、トリルをしながらこれを耳で追うようにすればピアノとぴったり合うと思います。113小節目と114小節目は、それぞれ2拍目の音を間違いやすいので要注意です。すなわち「♯」がついているのを見落とさないようにするとよいでしょう。
第2楽章で私が難しいと感じたところは、51小節目59小節目に入るところまでです。特に54小節目のピッチカートに入る部分の「入り」の勘定を間違えないようにすることが必要です。私が考案したアイディアは、54小節目の2拍目を16分音符で勘定することです。76小節目から225小節目あたりまではリズムもメロディーも割に素直に書かれていると思います。226小節目以降のPrestoの部分は、作曲者の故郷を誇りに思う感情が色濃く投影されていると私は感じます。ここは私が持っているベーレンライター版の楽譜によると、2通りの弾き方が示されています。ヴァイオリニストの石川静さんは、『ノスタルジア』というタイトルのCDアルバムでは、Ossiaと記されている上の段の代替演奏譜の方で演奏しているようです。私もこちらで演奏しました。
