重要判決解説コーナー


このコーナーは音楽の著作物に係る著作権侵害について提起された民事訴訟の重要な判決を10件ほどとりあげ、解説するものです。判決文は所定のリンクをたどると最高裁判所のホームページに設けられたデータベースからPDFファイルの形式で読むことができます。判決文は長い場合が多いので、各判決の「事案の説明」と「判決文の要旨」だけを読むことで済ませてもよろしいかと思います。


1.「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」事件 
  東京高裁判決昭和49年12月24日
  最高裁判決昭和53年9月7日

【事案の説明】
この事件は、一つの音楽著作物『ワン・レイニー・ナイト・イン・トキョー』が、別の著作物『夢破れし並木道』に「依拠(いきょ)」して(つまり「真似て」)作られたか否かが争われた事件で、東京地裁→東京高裁と進み、最高裁まで争われました。東京高裁の判決文に沿って事案を説明しますと、控訴人は米国の音楽出版社レミック・ミュージック・コーポレーションで、被控訴人は、作曲家であり作詞家である鈴木道明氏及び同氏から「ワン・レイニー・ナイト・イン・トキョー」の著作権の譲渡を受け、日本グラモフォン、日本クラウン、キングレコードその他のレコード会社にレコード製作をさせた株式会社日音です。控訴人は、『ワン・レイニー・ナイト・イン・トキョー』は、『夢破れし並木道』の改作であって、著作権侵害にあたるとして提訴しました。

【判決文の要旨】
最高裁判決文の要旨は、「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を知覚させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従って、その存在、内容を知らなかった者は、これを知らなかったことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない」と判示しました。

【判決文】
東京高裁の判決文はこちら 
最高裁の判決文はこちら 


2.「昭和の記録」事件 
  
東京地裁判決昭和53年11月8日

【事案の説明】
この事件の原告は、アンサンブル・ファンタジアという演奏家グループで、同グループは財団法人NHKサービスセンターの依頼を受け、同法人刊行のカセットテープ「昭和の記録」等のテーマミュージックを演奏しました。一方、被告は新潟市に本店を置く無名かつ所規模の企業Xであり、同企業は「昭和の記録」の録音テープを複製したうえ、これを貸与するとともに、「聞く昭和史」と題する録音カセットテープを製作販売しました。そこで原告は、被告に対して録音権侵害による損害賠償を請求しました。さらに複製された録音の品質が悪いとしてここに演奏家としての名誉が傷つけられ、演奏家としての人格権が侵害されたとして慰謝料も請求しました。なお、本件は、実演家の人格権についての規定(著作権法90条の2、90条の3)が創設される前のケースです。

【判決文の要旨】
この裁判では、「原告らはG(指揮者)及び他の楽員16名と共同して、オリジナルテープに収録された楽器演奏につき著作隣接権たる録音権を取得したものであり、したがって、右録音権の一内容としてオリジナルテープを増製する権利を有するものであることは明らかである」として、被告の録音権侵害を認定しました。その上で、「原告らの演奏家としての名誉が、被告らの無断増製等の行為によって、その不法行為責任を問われなければならないほどに毀損されたとするにはなお不十分である」として原告演奏家の人格権の侵害までは認定しませんでした。

判決文


3.「芸団協」事件 
  
東京地裁昭和57年5月31日
  
東京高裁判決昭和60年2月28日

【事案の説明】
原告は主に近畿地方において音楽演奏に従事して生計を立てている演奏家です。被告は社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)であって、著作権法代95条第2項の規定に基づき、文化庁長官により商業用レコードの二次使用料を受ける権利を行使することができる団体として指定された団体です。原告は、商業用レコードによる放送等についての二次使用料を受ける権利はレコード吹き込みの有無にかかわらずすべての音楽実演家に与えられるべきであるにもかかわらず、自分達は配分を受けていないとして被告らに二次使用料の配分を求めて提訴しました。

【判決文の要旨】
一審では、「95条第1項の規定によれば、二次使用料を受ける権利は、右規定における『当該実演に係る実演家』すなわち放送または有線放送に用いられた商業用レコードに収録された実演を行なった実演家に帰属すべきものと定められていることが明らかである」とし、さらに「二次使用料受ける権利が、商業用レコードに収録された実演と無関係にすべての実演家に帰属すべきものと解する余地はない」とし、原告らの請求を退けました。なお、この裁判は控訴されましたが、控訴審でも原審の判断は支持され、補足意見が追加されました。

【判決文】
東京地裁の判決文はこちら 
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4.「ビデオメイツ」事件 
  
最高裁判決平成13年3月2日

【事案の説明】
本事件の原告は日本音楽著作権協会(JASRAC)です。被告はカラオケスナック等にカラオケ装置をリースするリース業者、有限会社ビデオメイツ及び同会社よりカラオケ装置のリースを受けてスナックを営業していた「ナイトパブG7」及び「パブハウス・ニューパートナー」の各経営者です。原告は、カラオケ装置のリース業者ビデオメイツに対して、スナックにおける歌唱や歌の付帯影像の上映の禁止、著作権料の支払い、及びカラオケ装置のスナックからの撤去を求めて提訴しました。

【判決文の要旨】
この裁判は一審から東京高等裁判所に控訴され、さらに最高裁に上告されました。一審、二審ともJASRACの請求を一部容認し、最高裁では、「上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結しまたは申込をしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である」とし、「リース契約の相手方(スナック経営者等)が著作物使用許諾契約を締結しまたは申込をしたことが確認できない限り、著作権侵害が行なわれる蓋然性を予見すべきものである」と判示しています。この場合の著作権侵害者は、カラオケスナック等で著作物の歌唱を楽しんでいる客ではなく、そのカラオケスナック等の経営者であるという点、及び訴訟の被告はカラオケスナック等の経営者ではなく、カラオケ装置のリース業者であるという点に注意してください。

【判決文】
東京高裁の判決文はこちら 
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5.「記念樹(作曲家)」事件 
  東京高裁判決平成14年9月6日
  最高裁判決平成15年3月11日

【事案の説明】
本事件は、一つの楽曲が別の他の楽曲の著作者がもつ著作隣接権である「編曲権」を侵害するといえるかどうかが争われた事件です。東京高裁の控訴審に沿って説明しますと、控訴人は楽曲『どこまでも行こう』の作曲者小林亜星氏及び同氏から右楽曲の著作権の信託譲渡を受けた金井音楽出版です。一方、被控訴人は、『記念樹』の作曲者服部克久氏です。控訴人は、楽曲『記念樹』は楽曲『どこまでも行こう』に係る編曲権を侵害するものとして被控訴人に対して損害賠償の支払いを請求しました。

【判決文の要旨】
この裁判の一審では、編曲権侵害ではなく複製権侵害が争われ、複製権侵害の認定については両曲の類似性は否定されました。そこで、原告は、訴訟物を複製権侵害ではなく、編曲権侵害の認定を求めるものと改め、二審と最高裁でこれが認定されたものです。二審である東京高裁の判決は、「少なくとも旋律を有する通常の楽曲に関する限り、著作権法上の『編曲』の成否の判断において、相対的に重視されるべき要素として主要な地位を占めるのは旋律であると解するのが相当である」とした上で、楽曲『どこまでも行こう』と楽曲『記念樹』の旋律の間には、楽曲『記念樹』が楽曲『どこまでも行こう』に依拠したと考えるほか合理的な説明ができないほどの上記のような顕著な類似性がある」と判示し、被告の編曲権侵害が認定されました。

判決文


6.「スターデジオ」事件 
  
東京地裁判決平成12年5月16日

【事案の説明】
この事件は、委託放送事業者が通信衛星サービスを通じて音楽番組を無線送信している場合において、その番組の受信者(視聴者)が番組の受信を通じて楽曲の録音(複製)をした場合、そのことがレコード製作会社が有する楽曲についての複製権の侵害に該当するかどうか、さらに委託放送事業者が公衆送信に先立ち保有サーバーに楽曲の音楽データを収録することが複製権の侵害に該当するかについて争われました。原告は、日本コロムビア株式会社、テイチク株式会社等のレコード製作会社8社です。被告は、株式会社第一興商で、「スカイパーフェクトTV」において「スターデジオ100」という音楽番組を無線送信していた委託放送事業者です。

【判決文の要旨】
まず、受信者が無線送信された音楽番組の楽曲の録音を行なうことについては、「受信者が録音を行なうか否かは、専ら当該受信者がその自由意思に基づいて決定し、自ら任意に録音のための機器を準備した上で行なわれるものであって、被告が受信者の右決定をコントロールし得るものではないことからすれば、被告が受信者を自己の手足として利用して本件各音源のMDへの録音を行なわせていると評価し得る程度に、被告が受信者による録音行為を管理・支配しているという関係が認められないことは明らかである」として、受信者の録音行為は複製権の侵害には該当しないという判断を示しました。
また、委託放送事業者が公衆送信に先立ち保有サーバーに楽曲の音楽データを収録することが複製権の侵害に該当するかについては、「本件番組における音楽データの保有サーバーへの収録は、その運用の実態に照らし、それがいずれ消去されることが予定されたシステムの下における収録であるという意味において『一時的』なものといえるものであり、また、具体的な放送に通常必要とされる範囲内において行なわれるものであるから、著作権法102条1項によって準用される同法44条1項における『放送のための一次的な録音』に当たると認められる」と判示し、複製権侵害を否定しました。

判決文


7.「歌謡ショープロモーター」事件 
  
東京地裁判決平成14年6月28日

【事案の説明】
この事件の原告は、日本音楽著作権協会(JASRAC)です。被告は、歌謡ショー等の興行を主催するプロモーターで、有限会社ダイサンプロモーションと有限会社オカモトです。原告は、これら歌謡ショーのプロモーターが著作権者に無断で著作物を利用する演奏会等を制作していることが著作権侵害にあたるとして、歌謡ショー等の開催の禁止と損害賠償とを請求して提訴しました。これに対して被告側は、自分らは演奏の主体ではないから、歌謡ショーの制作は著作権侵害に該当せず、原告に対する著作物使用料相当損害金の支払い義務もないと反論しました。

【判決文の要旨】
判決では「演奏会の会場を設定し、入場料金を決め、チケットを販売し、演奏会に関する宣伝を始めとするセールス活動を行い、演奏会当日の会場の運営、管理をするなどの業務は、すべてプロモーターである被告が行なっていたこと、プロダクションが得る出演料は定額で、演奏会の損益は被告に帰属すること(略)から、これらの演奏会に関しては、被告が原告の管理著作物を演奏しようしたものと認めることができる」として原告の請求を認めました。
なお、ここで「プロダクション」というのは、歌謡歌手らの職業人としての身分を管理している組織のことで、「プロモーター」とは性格を異にしている団体であるという点に注意してください。そして著作権侵害行為者となる演奏主体を、実際に著作物である楽曲を歌っている歌手あるいは歌手の属するプロダクションではなく、歌謡ショーの興行元であるプロモーターであると認定している点が重要です。

判決文


8.「エムエムオー・JASRAC」事件 
  
東京高裁判決平成17年3月31日

【事案の説明】
この事件の原告は日本音楽著作権協会(JASRAC)です。被告は、有限会社エムエムオーで、利用者がそれぞれのパソコンを介して音楽データを送受信し、好みの音楽ファイルをダウンロードできるように、自己の中央サーバーを設置してサービスを提供している会社です。原告は、被告が利用者に提供しているサービスは、音楽著作物についての自動公衆送信権および送信可能化権の侵害にあたるとして、被告に対し送受信対象から楽曲の音楽ファイルを除外するとともに損害賠償の支払いを請求しました。

【判決文の要旨】
判決文では「被告はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、その責任を問われるべきことは当然であり、被告を侵害の主体と認めることができるというべきである」として、原告の請求を容認しました。著作権法の第23条及び第92条の2による著作権者の自動公衆送信権および送信可能化権の保護規定が適用された判決であるといえます。

判決文


9.「社交ダンス」事件 
  
名古屋地裁判決平成15年2月7日

【事案の説明】
この事件の原告は日本音楽著作権協会(JASRAC)です。被告は、社交ダンス教室の運営会社及び当該会社の役員とダンスのインストラクターらです。この事件では、原告は、社交ダンス教室で社交ダンスを享受する際に音楽著作物を無断利用しているとして、被告らに教室での音楽著作物の演奏の禁止と損害賠償の支払い、さらに楽曲の演奏を録音したCDを演奏する再生装置の撤去を請求したものです。

【判決文の要旨】
判決では、「被告らの経営するダンス教授所が営利の目的を有しないものであることは到底認めることができない。そして、前記のとおり、社交ダンスの教授に際して音楽著作物を演奏することは必要不可欠であり、音楽著作物の演奏を伴わないダンス指導しか行なわない社交ダンス教授所が施設を維持運営できないことは明らかである」として、著作隣接権である音楽著作物の演奏権の侵害を認定し、被告に著作物使用料相当額の損害賠償の支払いを命じました。
なお、CDを演奏する再生装置の撤去の請求については、「上記撤去請求は、現時点で存在する本件物件の撤去にとどまらず、将来置かれ得る本件物件に対してもその効力を有するといわざるを得ないから、これを認容するためには、被告らが本件物件を使用することによって将来にわたり管理著作物を侵害する蓋然性が高いことの立証が必要というべきところ、これが尽くされたといえない」としてこれを認めませんでした。

判決文


10.「記念樹(音楽出版社等)」事件 
  
東京地裁判決平成15年12月19日

【事案の説明】
この事件の原告は判例5で紹介したのと同様に、金井音楽出版で、判例5における原告である楽曲『どこまでも行こう』の作曲者小林亜星氏は原告側の補助参加人としてこの裁判に加わっています。またこの事件の被告は、レコード製作会社ポニーキャニオン及び音楽出版社フジパシフィック音楽出版です。原告は、服部克久氏作曲の『記念樹』については、被告音楽出版社が服部克久氏より楽曲の著作権譲渡を受け、被告音楽出版社が被告レコード製作会社に利用許諾がなされ、当該レコード製作会社がCD制作を行なった行為は、楽曲『どこまでも行こう』にかかる編曲権の侵害に該当するとして、損害賠償の支払いを求めて提訴しました。
なおこの訴訟の結審は、判例5の裁判が最高裁で確定した後に行なわれています。判例5の解説でも言及したように、原告は、二審(東京高裁への控訴)を提起する段階で、訴訟物を複製権侵害ではなく編曲権侵害の認定を求めるものと改め、二審と最高裁でこれが認定されているものです。

【判決文の要旨】
この裁判では、「被告は本件アルバムないしその原版の制作にあたり、アルバム内の楽曲が他人の楽曲の著作権を侵害するものでないことを調査し、確認すべき注意義務がある。被告音楽出版社は、他人の楽曲の著作権を侵害する曲を管理委託することのないようにすべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然とJASRACに管理委託した。(略)また、被告レコード製作会社は、本件アルバムの販売を停止し、第三者による利用がされないようにする措置を執るなど、損害が拡大しないように対策をとることが可能であったにもかかわらず、これを怠った」として原告の主張を認めました。この判例からわかることは、判例5(楽曲そのものの著作権についての訴訟)においては、一審では服部克久氏側が勝訴、二審と最高裁では小林亜星氏側が勝訴という事実認定が微妙なケースであったにもかかわらず、裁判所は音楽出版社等に対して、楽曲の楽譜の出版行為が著作権侵害に該当しないかどうかについて注意義務を認めている点が大変注目されます。これは出版という、その楽曲の楽譜を広く市場に流通させる行為の社会的影響は大きいことを考慮したものと考えられます。

判決文