飲料水の恐怖、ヒ素とフッ素の危ない関係
         
      
世界各地で続々と敗退するフッ素化法案

                            村上 徹 


アメリカやカナダでも、フッ素化政策の敗退はいよいよ本物となってきた。
厚労省歯科保健課長らをはじめわが国のフッ素化主義者は、口を開けば「先進国はどこでもフッ素化をやっている」とバカの一つ覚えのようなセリフをいうのが常套だが、国民は騙されてはならない。

ヨーロッパ各国でフッ素化を実施している国など、アイルランド(約70%)イギリス(約10%)、スペイン(約1%)を除けば殆どない。そのイギリスやアイルランドも、住民の反対運動が激化し、訴訟が続発する傾向とあっては、いくら政府がアメリカに追従したくても、これ以上の拡大はとても不可能であろう。

1950年以降、アメリカでフッ素化をめぐって行われた住民投票の回数は約2000回であり、その約60%でフッ素化が否決されてきたが[1]、ブッシュvsゴアの大統領選以後となると、フッ素化案が可決された自治体などまことに寥々たるもの、精々、1/6くらいにすぎない。なかにはオクラホマ州ノワタ市のように、住民から投票で拒否される前に、市議会が水道技術者の意見に従って自発的に永年のフッ素化を廃止したところもある。しかし、その決定に対してただちに上部機関から横やりがはいり、市議会のこの決定は覆された。その混乱ぶりは、インターネットで簡単に入手できるので、読者は各自ご自分の目で確認して頂きたい。

日本ではあまり報道されなかったが、アメリカ環境保護庁(EPA)の科学者らは、クリントン前大統領の指示で、飲料水中のヒ素の最大許容量を、現行の50ppbから2006年までに一挙に10ppbに引き下げる法案を作成し、議会に提出するばかりという時点で政権が交替した。そしてEPA長官も、現職のクリスティー・ホイットマンが就任した。

飲料水中にヒ素が50ppbまであっても合法というのは、先進国としてはまことに恥としか言いようのない数値である。先進国が文明国として尊敬に値するとすれば、こういう点での国民生活の基盤がしっかりしていると言う所にあるはずだ。これこそ社会福祉の基礎だからである。

ちなみに、日本やヨーロッパ各国では、WHOの基準と同じ10ppbとしているが、アメリカの歴代政府はこれに目をつむり、1942年に設定されたこの大甘の基準を、一向に見直そうとはしなかったのである。何しろ1942年といえば第二次世界大戦の真っ最中である。汚染や公害などを危惧していては軍需資材の増産などとてもできない。当時の衛生関係の基準がどんなものだったかは簡単に想像できよう。

また、アメリカの現行のフッ素の最大許容量は4ppm(日本では0.8ppm、中国では0.6ppm)であるが、もし、ヒ素が50ppbあり、フッ素が4ppm含有されていたら、こんな水道水などとても飲めたものではない。アジアやアフリカの最貧国なみである。いくらアメリカ人が無神経で、富裕層はミネラルウォーターを飲むのが一般といっても、「これではあまりに酷すぎる。ガンが多発するのも当然じゃないか」、という議論が沸き上がり、クリントンはこの声をとりあげた。そして環境保護庁に新な基準の作成を命令したのである。この背景には、環境問題に詳しいと言われるゴア前副大統領の影響力が働いていたのかも知れない。この間の事情は「科学的研究は、現行の飲料水中のヒ素濃度の許容基準はあまりにも緩いと結論している。」というにニーヨークタイムスの記事に現れている。

ところがブッシュが大統領に就任して早々に何を決めたかといえば、まず、京都議定書から離脱することと、この10ppb法案を逆転させる事であった。
(参照:http://ens-news.com/ens/mar2001/2001L-03-20-06.html)
この実態が明らかになると、知識人を中心に全米からごうごうたる非難が起こり、やっとこさ当選したブッシュの株は、ここで早くも急落の気配を見せた。平成13年4月28日づけの日経新聞「検証ブッシュ政権100日」というカコミ記事は、この間の消息をよく伝えている。

その記事にはこう書いてある。

-飲料水中のヒ素の許容濃度に対する規制の実施を見合わせる−

今年三月米環境保護局(EPA)が示した新方針に米国中が仰天した。ヒ素は毒性が強い化学物質。全米アカデミーも飲料水中の濃度が高いと発がんの危険性ますと警告する報告を出していた。科学アカデミーは公正・中立な科学調査機関として知られ、その判断は米政策の重要なよりどころとなる。にもかかわらずEPAのホイットマン長官は「基準強化の科学的根拠が不透明」と述べ批判を浴びた。(略)濃度を激減させるには水道事業者の巨額投資が必要になるため、「コストを考慮し現実的な基準にしようと考えた(同長官)。(略)
 露骨な産業寄りの姿勢はあつれきも生む。飲料水中のヒ素濃度問題では
安全や健康より業界利益を優先していると非難され、ホイットマン長官が慌てて「現行より厳しい基準を早期に決める」と発表し直した。(略)


就任早々、はやくもつまづいたブッシュに天恵となったのが、9月11日の同時多発テロである。オサマ・ビンラディーンは、まさか自分が憎むべきブッシュの救いの神になるとは夢にも思わなかったであろう。大惨劇が起こった後のアメリカ議会や国民の政府に対しての忠実ぶり、熱狂的な愛国ぶりには今さら説明を要すまい。

しかし、全世界の国民の心を揺すぶったのは、テロに遭遇し不幸にも犠牲となった方々に対する哀悼の思いもさる事ながら、自己犠牲もいとわず敢然として職務を果たした警官や消防士たちと、彼らや彼らの遺族に連帯して事件に立ち向かった市民らの姿に対してであって、これを奇貨として保身を図る政治家に対してではない事は改めて記しておかねばならない。

それにしても、私が改めて驚嘆したのは、アメリカ社会の懐の深さである。
アメリカ中が官民あげてテロ事件に興奮していた2001年9月25日に、アメリカの環境保護団体として、最有力と伝えられる「シェラ・クラブ」は、「フッ素化が、環境や野生生物、人間の健康にとって有害だと心配するのは正当である」としてフッ素化を拒否する選択肢を自治体に与えることを要求したのである。
裏を返せば、政府の方針であるフッ素化を自治体が拒否しても、連邦政府はこれに報復するなという事であり、いままでは様々な形での報復があったのを認めたという事である。

ところが、前述した飲料水中のヒ素とこのフッ素化とが、じつは背後で深い関係にある事はよく知られていない。そもそもヒ素の濃度が高くなるとどんなふうに害があるかを、発がんという観点から見ると、次の表のようになる。



水道水中のヒ素濃度
( ppbで表示)
凡そのガン発生の危険性
(1日あたり2リッターの水道水を消費すると仮定)
0.5 ppb 10,000人に1人
( EPAが通常水道水に許容する最大の危険性)
1 ppb 5,000人に1人
3 ppb 1,667人に1人
4 ppb 1,250人に1人
5 ppb 1,000人に1人
10 ppb 500人に1人
20 ppb 250人に1人
25 ppb 200人に1人
50 ppb 100人に1人
*なぜこのような見積もりが出てきたのかといったこの表に関する細かい情報は、下記のサイトを参照して下さい。http://www.nrdc.org/water/drinking/arsenic/chap3.asp

生涯その水を飲み続けることによって、その水中のヒ素によってどれだけの人間がガンで死亡する危険性があるか

全米科学アカデミーのリスク見積もり' 1999 より*

From the Natural Resource Defense Council's February 2000 Report "Arsenic & Old Laws"


この表からわかるように、0.5ppbだって1万人に1人はこのためにガンになるので、現行のアメリカの50ppbの100人に1人という数値は、ガンの覚悟なしには、とても水道水なんか飲めないということになる。もちろん、これは最大許容量なので、アメリカのどの町の水道もこんなに多量のヒ素を含んでいるわけではないが、それでも、下記のサイトに一覧表として掲げてある市町村のヒ素濃度を眺めて見ると、決して少ない濃度ではないのにびっくりする。http://www.nrdc.org/water/drinking/arsenic/chap1.asp

ヒ素は様々なルートから飲料水を汚染するが、その最大のものが、フッ素化のために水道に直接混入するフッ化珪酸である。その見積もりは、水道事業者協会よれば、ヒ素全体の90%であろうと言われ、1.6ppbはヒ素濃度を押し上げているといわれている。(C. Wang, D.B. Smith, G.M. Huntly, "Treatment Chemicals contribute to Arsenic Levels," Opflow (AWWA), October 2000.)

フッ化珪酸といえば聞こえがいいが、この物質は、実は燐酸肥料製造工場のフッ素除去用の排煙装置を洗浄した廃水である。これには20%程度のフッ化珪酸が含有されているため、フッ素化珪酸またはフッ化珪酸塩と称されているが、実物は法律でどこにも捨てることができない危険な廃水で、工場はただこれを大きな溜め池にプールして蒸発を待ちながら環境に漏れ出さない様に監視しているしかしようのない代物なのである。この模様は、インターネットで見る事ができる

燐酸肥料工場のフッ化珪酸廃水の溜め池
(フロリダ州ポーク郡
撮影・ポール・コネット、マイケル・コネット。
(2001年6月)

驚いたことにこの廃水には、フッ素ヒ素のほか、鉛、カドミウムなどの色々な重金属、微量のウランやラジウムなどの放射性元素まで含有している。これを直接飲料水に注入するなど、健全な常識がある者は絶対に思いもつかない事であるが、巨大企業に奉仕しなかったらアメリカの行政のトップなどとてもやってはいられない。というわけで、この施策もEPAの高級官僚によれば、「理想的なリサイクル」ということになる。「国民の喉は下水か」という怒りの声があがる所以であるが、下水にも流せない代物なのだから、実は下水以下である。EPAの専門職ユニオンが議会に訴えるのも当然である。

この物質でフッ素化しているのはアメリカだけではない。カナダもニュージーランドもイギリスも同じである。ただ輸入先が異なるだけである。皮肉なのはアイルランドで、アイルランドの輸入先はオランダやフィンランドだという。両国ともフッ素化を禁止しているのは周知の事実で、殊にオランダなどは憲法でフッ素化を禁止している。アイルランド国民が怒るのも無理はない

水道フッ素化は、1945年の発足当初こそフッ化ナトリウムで行っていたものの、何年もしないうちにフッ化珪酸が使用されはじめ、今ではアメリカでフッ素化している殆どの市町村(90%以上)が、これを使用しているのは前記のとおりである。何しろ原価がタダ以下なのだから、コストの高いフッ化ナトリウムなどたちうちできないのは当然であろう。いや、最初から敵の狙いはここにあったのかもしれない。フッ化珪酸が使用されるなどという事を、住民は何ひとつ知らされず、安全性など何ひとつ試験されずに使用されるようになったのであるから。

現在、日本でフッ素化が検討されているのは、沖縄県具志川村、岡山県真庭郡川上村、栃木県上都賀郡西方町、埼玉県吉川市、香川県三豊郡下の町村、群馬県下仁田市、北海道滝川市などであるらしいが、これらの自治体の関係者は、フッ素化がどんなものか十分知っているのだろうか。住民は警戒を要する。気がついたらヒ素の混じったフッ化珪酸を飲まされていたということになりかねない。そんなバカな、と思う人が多いだろうが、決して誇張した話しではないのである。
ためし仙台市で内科医院を開業しておられ、薬害追放に熱心に取り組んでいる加藤純二医師が、近辺の燐酸肥料工場に電話して確かめたところ、「もしフッ素化が実現すれば、厄介もののこの廃液のリサイクル先が見つかる」とフッ素化にひとかたならぬ興味を示していたという。

その後、ブッシュ大統領は、ヒ素政策のあまりの不人気ぶりに仰天し、クリントンが決めたとおり、最大許容量を10ppbとする法案を議会に提出するのに同意した。しかし、フッ素化政策を中止せずどうやってヒ素濃度を低下させるか、これは見ものである。アメリカの環境政策の関係者はカタズを飲んで見守っているようである。
発がん物質である点では、フッ素もヒ素と変わりはない。
反フッ素化闘争の健闘を、私は心から願っている。

参考文献

[1] Zev Ramba, Washington Bureau Editor of AGD Impact (the publication of the Academy of General Dentistry). Quoted in the Chemical & Engineering News (8/1/88). 翻訳・村上 徹訳・プリニウスの迷信・績文堂


               ホーム・ページに戻る

                  総合目次に戻る