もう、10年以上も前になるが、歯科の専門誌「歯界展望」から、いままでに本誌に掲載された論文の中で何が最も印象に残っているか書いてくれと頼まれて、即座に次の一文をまとめて送ったことがある。


忘れられぬフッ素批判論文

卒後30年近く本誌を購読してきて、じつにさまざまな著者の見解に接することができたのは、一読者として感謝の言葉もないくらいである。
回顧すれば、30年は一瞬に過ぎ去ったとも思われるが、実はただならぬ歳月の連続でもあった。その間、深浅の差こそあれ、一貫して本誌に眼を曝しつづけてきたわけであるから、その論文の量たるや誠に膨大なものがあろう。
しかし、そのなかのどれが私に最も深い感銘を与えたかと問われれば、答えるにはいささかも躊躇しない。私は即座に、昭和51年7月号に掲載された赤石 英氏(東北大学医学部法医学教授・当時)らの論文「新薬の臨床試験と上水道フッ素化をめぐる法医学的諸問題(第48巻1号)」をあげるのである。

目からウロコが落ちるという言葉がある。天啓を受けるという言葉もある。この論文から受けた私の印象とは、言ってみればそんなものだ。この論文は、まさに私の目からウロコを落とした。さて、その目で歯科界を眺めてみると、今まで見慣れた風景がみるみるうちに変わっていくのに愕然とした。誠に読書の醍醐味を経験させてもらったものである。 ◇
4年前、群馬県にフッ素論争が勃発したとき、私は一年にわたって長い論文を書き、歯科医師はじめ各方面の県民に対してフッ素問題の核心を説明したのだが、そのなかでこの論文を取り上げ、次のように述べた。

「著者らはこの論文のなかで、『常日ごろ医療事故関係の鑑定業務などを通じて社会と密接なつながりをもっている法医学の立場から、取り返しのつかない(略)損害を未然に防ぐことも(略)重大な任務と考え、あえて問題提起をした』と述べている(略)。『う触予防薬投与の臨床試験を行う場合には、わが子に率先して試みる心意気が必要』と説く。フッ素推進論者はこの論文と正面から取り組み、論破する気骨をみせてもらいたい。その勇気もなく、何が予防の、大衆の福祉のだろうか。」

改めて説明するまでもないであろうが、この論文は、安全性の保証もロクにないまま歯科界の内部で自己肥大を続けるフッ素推進論にあえて頂門の一針を加えようとしたものである。
この論文の著者らと全く同様な主張を、公衆衛生の分野から具体的に実証し続けた人に柳沢文徳教授(東京医科歯科大学・医・疫学・当時)がいたことはよく知られていよう。しかし、歯科界の当事者はコソコソ陰口をきくだけで、こうした批判に堂々と対峙することは一切しなかった。

今や歯科が三流の業界にまで蹴落とされてしまったことは誰でも知っている。ここにもその原因の一つがあることは疑いがない。科学とは、"真実"をめぐる生存闘争の知的ゲームである。そこで要請されるのは知的誠実というものである。これを欠いたまま科学を自称しても、相手をしてくれる者は誰もいないであろう。(歯界展望・第700号・1991・10月) 


残念ながら、こんな状況は、その後10数年たっているのに一向に変わっていないうようである。
フッ素推進論者は、フッ素危険論に対して、キチンとした文章といえるような形での反論は、おそらくすることができないのであろう。彼らにできるのは、精々陰口をたたくか、無署名の下品な誹謗文書を配布して、政治的に立ち回ることくらいである。(参照・フッ素信仰はこのままでよいのか
しかも、最近では驚いたことに、口腔衛生学会の名のもとに厚労省大臣に対して、900ppmフッ化ナトリウム溶液(フッ素洗口液)を「臨床試験なし」に早急に薬事法上の承認を行うようにとの要望書まで提出した(平成13年9月)。

非常識もここまでくると開いた口がふさがらない。
あらゆる薬物は、その認可にあたって、その効能と害作用とが厳密に試験されるべきなのは、改めて述べるまでもない。さもなければ、鼻くそのような薬が万能の秘薬でもあるかのように宣伝され、そのあげくに思いがけない副作用で人間を苦しめる結果になることは、様々な薬害をいまさらことごとしく例にあげるまでもあるまい。

フッ素洗口液など厳密に医学的に試験すれば、予防効果などないことは、ただちに白日のもとにさらされるにきまっている。彼らが「臨床試験なしに」この薬の承認を求めるのは、何が何でも、国民をフッ素づけにしたいという、およそ常識では理解できないおそるべき情熱に支配されているからとしか思えない。この点で、残念ながら口腔衛生学会とは、その非常識かつ独善的なること北朝鮮のごとくであり、とても患者さんの健康をあずかるべき良心ある歯科医師の集団とは思えない。
こんな学会があることも、国民は知っておく必要があろう。

追記

赤石教授らの論文は、かつて同教授の講義を受けた東北大学医学部出身の加藤純二医師のホームページに掲載されている。


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口腔衛生学会のこの非常識 !

臨床試験なしにフッ素洗口薬を認可しろだって
村上 徹