元牧場主に罰金15万円の実刑判決 (判決文)
馬を衰弱させたことを根拠に実刑が適用された我が国初めての判例!!
判決 (抜粋)
小俣純雄
昭和22年7月26日生まれ
上記の者に対する動物の愛護及び管理に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官大井良春出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を罰金15万円に処する。
その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、長野県伊那群高遠町大字荊口1436番地1及びその周辺土地において「ゆうじんくらぶ乗馬牧場」を経営し、同所に設置された厩舎において被告人が所有・管理する愛護動物である馬2頭(クォータホース1頭、シェトランドポニー1頭)を飼育していた者であるが、平成13年3月9日ごろから4月11日までの間、上記馬2頭に対し、死馬2頭が放置されていた上に馬糞の清掃もなされていない不衛生な環境の下、十分な給餌をせず栄養障害状態に陥らせる虐待を行ったものである。
(証拠の標目)省略
(補足説明)
- 弁護人は、「2頭の馬の給餌を減らしていたこと及びその結果として2頭の馬の各体重が減少していた事は事実であるが、「伏せ」の調教課程として給餌を通常の約半分に減らしていたに過ぎないし、結果として2頭の馬も衰弱などしていなかったから、虐待には該当しない。」旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。
- 動物の愛護及び管理に関する法律27条2項に規定する「虐待」とは、愛護動物の飼育者としての監護を著しく怠る行為を指すものであり、その代表的な行為として「みだりに給餌または給水をやめることにより衰弱させる行為」が例示されているものと解される。したがって、必ずしも愛護動物が「衰弱」してなければならないというものではなく、著しく不衛生な場所で飼育し、給餌または給水を十分与えず愛護動物を不健康な状態に陥らせるといった行為も、上記「虐待」に該当するものというべきである。 これを本件においてみてみると、確かに、平成13年4月11日前後の時点における2頭の馬の体重の正確な測定値は記録に残っていない。しかしながら、
| @ | 平成13年3月2日にヘイキューブ(30キログラム入り)12袋が本件牧場に配達(なお、これは、牧場の地主である北原秀男が高遠町役場から「牧場に餌がほとんどない。」と告げられて手配したものである。)され、さらに同月28日にもヘイキューブ(30キログラム入り)1袋を北原秀男が上記牧場に持参したものであるところ、同年6月ころに上記牧場に残存していたヘイキューブは7袋(内1袋は使いかけのもの)(総量約202、7キログラム)であった。(検甲36.37)から、平成13年3月2日から同年4月11日までの間に使用されたヘイキューブの量は約187.3キログラムと推定できる(平成13年4月11日に馬2頭が保護されて以降は上記牧場には飼育馬が1頭も存在しない状況となったから、同年6月時点で残存していたヘイキューブの量が上記保護時点における残存量と推定できる。)。そうすると、この間の1日当たりの平均飼養使用量は約4.57キログラムとなるが、保護馬2頭分の飼料必要量として算出される1日当たりの平均量11,3キログラム(検甲70)をかなり下回っているといえる。 |
| A | 次に、その結果として、保護されたクォーターホースは、ボディコンディションスコア1(削痩)もしくはスコア2(非常にやせている)と判定され、栄養消耗症と推定されている(検甲63、77)。また、保護されたシェトランドポニーは、上記スコア3(やせている)。もしくはスコア4(少しやせている)と判定され、栄養失調症と推定される。(検甲77)。 |
| B | さらに、被告人は、毎日上記牧場にいるわけではなく、自分が仕事等の用事があるときには、別の人物に給餌及び給水をしてもらう必要があったが、世話を依頼していた中島貞之は平成13年1月下旬までその役目を辞め、その後に「電話した時に世話をしてくれ。」と依頼していた北原清作も2回しか上記牧場に赴いていない。(しかも、1回は馬に与える餌が無かった状態である。)。そして、その他に上記牧場で馬の世話を継続的に行なっていた者もいないのであるから、少なくとも平成13年3月9日から同年4月11日までの間、被告人が上記牧場において給餌・給水を含む馬の世話をきちんと行なっていなかった蓋然性は高いといわざる得ない。 |
| C | また、平成13年4月7日の厩舎の状況を見ても、周囲の馬糞が除去されず、しかも厩舎内及びその手前に死んだ馬2頭(しかも腐敗が進行していたものである)がそのまま放置されていたり、建物自体もボロボロといっても過言ではないものがある。(証人西尾、検甲2,3,5)保護された馬2頭は、そのような厩舎内に、それほど長くない綱(1メートル前後)で繋がれた状態にあったことに鑑みれば、極めて不衛生な状況下で飼育されていたといわなければならない。 |
| D | その上、被告人は、平成13年4月28日、生きている馬2頭の所有権の譲渡を西尾獣医師から求められ、それほど強く反対することもなくこれに応じている(被告人の当公判廷における供述)。このことは、被告人自身が今後適切に馬を飼育していくことはできないと認識していたことを推認させる。以上の諸点を総合考慮すると、被告人は、本件馬2頭に対し、十分な給餌をせず結果的に不健康な状態(栄養障害状態)に陥らさせた上、著しく不衛生な状況下で飼育していたものであって、愛護動物の飼育者としての監護を著しく怠っていたと評価せざる得ない。したがって、被告人は動物の愛護及び管理に関する法律27条2項に規定する「虐待」を行ったと認定するのが相当である。 |
(法令の適用) 省略
(量刑の理由)
本件は、乗馬牧場を経営していた被告人が、そこで飼育していた馬2頭に対し、極めて不衛生な状況下で、生命ある動物を苦しめた被告人の行為は非難されなければならない。特に、上記馬2頭は、5年以上もの間、被告人の下で飼育されてきており、十分な餌を与えられなくなっても、被告人を信頼して従順に空腹を耐えていたであろう様子を想像すると、まことに不憫である。
これらの点を考慮すると、被告人の刑事責任を軽視することはできない。
しかしながら、被告人が上記の2頭の馬の世話を適切に行なえないようになったのは、傷害ないし病気の影響で被告人の体が不自由になったことと無関係ではないと推察され、この点は酌む必要であること、上記馬2頭は栄養障害状態に陥ったが、シェトランドポニーは未だ栄養消耗状態にまで陥ってはいなかった等、被告人に有利に斟酌できる事情も認められるので、これらの諸般の情状(なお、上記牧場においては平成13年1月20日前後に2頭の馬が死亡しているが、その死因は解明されておらず、本件公訴事実においても問疑されていないから、この点を量刑に当たって反映させることは許されない。)を総合考慮して、主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(出席弁護人 鷲見皓平)
(求刑 罰金30万円)
平成15年3月13日
伊那簡易裁判所 裁判官 藤田昌宏



