『1988年10・19の真実−平成のパリーグを変えた日−      

 (佐野正幸著/新風舎)

(埼玉県・あおい卓美)

ご存知「10・19」本の決定版、といいたいところだが、そのじつ「10・19」のみを扱った本は他にはないはずで、ナンバーワンにしてオンリーワンと言い切っても差し支えないと思う。

著者の佐野正幸氏は近鉄百貨店東京店に勤める傍ら、バファローズの私設応援団の団長としてスタンドから近鉄というチームを見守り続けてきた、「10・19」を書くのにこれほど適した人もいるまいという人である。

その佐野さん、近鉄百貨店の業務の一環として応援団に狩り出された訳ではない。むしろ逆で、「近鉄ファン」が昂じて「近鉄百貨店」に就職した程の人である。その「近鉄百貨店」へ大卒後就職の口を聞いたのが誰あろう、驚くなかれ西本幸雄氏である。詳しいエピソードは本書を読まれたい。

この本にはスタンドから見た2試合の経過がくまなく書かれていることは言うまでもないが、それ以上に著者の野球や仲間に寄せる暖かい想いが込められており、むしろそちらの方を主眼に読んだ方が感慨深いものがある。

あの川崎球場が満員になるという前代未聞の出来事に遭遇した筆者の戸惑いは、野球に詳しくない人でも充分楽しめる部分かもしれない。なにしろタクシーの運転手の愛想がいい、外は長蛇の列なのにスタンドはまだ空席がある、弁当も飲み物も全部売り切れ、等々のエピソードには微苦笑させられた。

この「10・19」の2試合は、野球ファンにとって絶対に忘れることのできない試合であることは言うまでもないが、著者にとってグラウンドの外で起こったある出来事と同時進行で書かれていることに驚きを禁じえない。初めて読んだ時、私はそこに書かれていた「夫婦の機微」というものに愕然としたことを覚えている。私ならとてもじゃないが、あと20年連れ添ったとしても「夫の危機」をそこまで予知する自信などない。

この本の続編ともいうべき「嗚呼 1989 G線上のバリア」の最初の方で、「『これでは著者の自伝だ。もっと客観的に10・19を見据えて書いた方がいいのではないか』という批評があった」と述べられているが、ただ「10・19」を記録するだけならスコアブックでこと足りる。そこに「私」が入らないで何の感動があろうか。

 

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