異邦人幻想曲


37 determinato 〜決然とした〜

「……六回目の聖杯戦争か」

「既にサーヴァントは揃いつつあります。始まるのも時間の問題でしょう」

「しかし協会も聖堂も察知できなかった。これは異例なことだ」

「確かに今回の聖杯戦争は異例です。恐らく、前回、前々回と通常とは異なる決着を迎えた為かと」

「……君はどう考えている、遠坂」

「冬木の現管理者として、このまま傍観することは望ましくない、と」

「ふむ…………」

「……………………」

 * * *

  プルルルルル。プルルルルル。

  ガチャ。

「――――あ、もしもし?」

 ……

あ、流石ですね、わかります? 俺です、五代です」

 ……

「よかった、異動とかで違う場所にいたらどうしようかって思ってたんで……いやホント久しぶりですね」

 ……

「……ええ、それはすみませんでした。桜子さんにもそう言っといて下さい」

 ……

「今ですか? 今はロンドンにいます。友達の所に泊めてもらってるんですよ」

 ……

「ええ、近いうちに日本に帰るつもりなんですが……それに関してお話があるんです」

 ……

「あのですね、俺、また未確認生命体と戦ったんですよ」

 ……

「本当です。それに、あの薔薇のタトゥの女……そう、B1号の姿も見ました」

 ……

「ええ、そうです。それで、やつらはもう一度日本にやってくるらしいんです」

 ……

「多分、本当のことだと思います。目的地は冬木市っていうところなんですが……知ってます?」

 ……

「あ、そうだったんですか。そう、その冬木市です。やつらの目的地はそこらしいんです」

 ……

「はい、その事件と関係があると思うんですが……とにかくその冬木市の人たちには……」

 ……

「……すみません、久しぶりの電話でこんな無茶な話を……」

 ……

「ありがとうございます。じゃあ、お願いします。俺も、すぐに日本に向かいますから」

 ……

「はい、待っててください、一条さん」

 * * *

  ガチャ。

「五代さん、どこに掛けてたんですか?」

 雄介が電話を置いて振り返ると、リビングでお茶を飲んでいた士郎が話し掛けてきた。
 どうやら話が終わるのを待っていたらしい

「ん? 一条さんっていう刑事さんのとこ。未確認の事件の時も、随分お世話になった人なんだ」

 士郎の向かい側に座っていたアルテイシアの隣に腰掛けながら雄介が答えると、士郎は困ったように眉をひそめた。

「刑事って……魔術師関係のことなんで表沙汰になるのはちょっと……」

「うん、でも何も知らない人たちが巻き込まれるのは嫌だからさ。そういう可能性は、出来るだけ無くしておきたいじゃない」

「それは……確かにそうですけど」

 雄介の返答に、士郎は言葉を詰まらせる。
 それは雄介の言葉に反感を持ったからではなく、自分が魔術師寄りの思考をしていたことに気がついたからだった。
 どうしても救えない人というのは出てきてしまう。
 義父の語るその言葉が嫌だったから、衛宮士郎は正義の味方に憧れたのではなかったのか。
 軽い自己嫌悪に陥った士郎をよそに、雄介が別の話題を振る。

「あ、でも、二年前の聖杯戦争については、未確認の仕業じゃないかって話も出ていたらしいよ」

「はあ……」

「そうなのですか?」

 首をかしげるセイバーとアルテイシア。
 未確認事件を直接知らない二人にはあまりピンと来ないらしい。

「いろいろあってその線はなくなったらしいんだけどね。案外、警察でも魔術師のことは知られてるのかも」

「そりゃそうでしょ。下っ端ならともかく上の方が知らないわけないわ。そうじゃなきゃ魔術師は今まで生き残ってるはずないし」

 冗談めかしていった雄介の言葉に、唐突に玄関の方から言葉が返ってきた。
 そしてリビングに入ってきたのは声の主……凛だった。

「もう終わったのですか、リン」

「たった今、ね。それより五代さん、警察にはなんて説明したの?」

「えっと……冬木市に未確認がやってくるらしい、って」

 雄介が電話の内容を簡潔に述べると、凛はそう、と安心したように肩を降ろす。

「じゃあたぶん大丈夫よ。冬木の名前を出したんなら、警察のほうもそれ用の対応してくれるはずだから」

「そうなのか?」

「そうなの。ま、その辺は「イロイロとこみいった事情」ってヤツよ」

 肩をすくめながら言う凛。

「ところで遠坂、そっちのほうはどうだったんだ?」

 自己嫌悪から立ち直ったらしい士郎が、凛のために紅茶を入れながら呼び出しの結果を尋ねた。

「正式に許可が出たわ。派遣に関しては大分渋られたけど、結局他に適任の魔術師もいないから」

 士郎の入れた紅茶に口をつけながら自信満々に答える。
 それはそうだ、と士郎は思う。
 自分のこととは言え、これだけ立て続けに騒ぎを起こしたのだ。
 協会としては当然見過ごせないだろう。
 それでも許可が出たということは、協会が聖杯戦争を警戒しているのか、あるいは……よほど遠坂の報告が巧みだったのか。
 ともあれ、これで行く口実は出来た。

「行くわよ。冬木へ」

 凛の言葉に、その場にいた全員が頷いた。



  異邦人幻想曲-ストレンジャーファンタジー- 完

  次章……大恐慌奇想曲-パニックカプリッチオ-


 戻る