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前奏曲−プレリュード− - declamand 〜物語るように〜 かつて、自分の父親である男はこう言った。 自分はかつて、あるものに憧れたのだと。 他人が聞いたら鼻で笑われるような存在に為りたいと願っていたのだと。 そう語る父親はいつも笑っていて、だが少し寂しげで。 幼かった自分は、なぜ彼がそんな風に笑うのかわからなかった。 英雄。 ヒーロー。 勇者。 あるいは……正義の味方。 本当に、他人が聞いたら笑ってしまうであろうそんな夢。 だけど、幼かった自分はわからなかった。 なぜなら、彼は自分にとって間違えようも無いほど英雄であり、ヒーローであったからだ。 その在り方を美しいと感じ、自分もそう在りたいと願っていたからだ。 だから、幼い自分はわからなかった。 なぜ他人が彼の夢を笑うのか。 だから、幼い自分はわからなかった。 なぜ彼自身、寂しそうに笑うのか。 だから、幼い自分はこう答えた。 彼が為りたかった存在。 その存在に、自分が為ると。 そう言った自分に、彼はなんと答えたのだったか。 そう、確か、彼は今度こそ笑って……寂しげでなく笑って、こう言ってくれたのだ。 「ああ、――――」 * * * そして思考は中断される。 懐かしい光景を幻視したものだ、と自嘲する事暫し。 思い出を懐かしいと感じるのは、自分がその思い出と既にかけ離れたものになってしまったからだ、とは誰の言葉だったか。 そう、あの頃の自分はもういない。 彼の夢を継ぐと決めた少年はもういない。 約束は破られた。 後悔は無いと言えず、だからこそ躊躇することも無く。 目の前には扉。 手の中には鍵。 胸の内には決意。 そして、頭の中には悪魔の囁き。 準備は整った。 さあ、一歩踏み出して舞台に立とう。 ありふれた筋書きと約束された結末が用意された舞台に立とう。 ただし、この身の役目は主役に非ず。 この身に任されたのは、この身に相応しいのは、裏切り者。 願いを裏切り、誓いを裏切り、世界を裏切る道化者。 あらかじめ定められた脚本に難癖をつけようと企む愚か者。 だがそれでも構わない。 正でも誤でも善でも悪でも、舞台に立てることには違いない。 そのことにむしろ、喜びすら覚えよう。 例えあの時の誓いと異なる役目であろうとも、彼の憧れた舞台に立つことには変わりは無いのだから。 * * * そうして、彼はその一歩を踏み出した。 例え世界を裏切ろうとも、世界を救うと心に決めて。 戻る |