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19, 出撃 がおおおおおん!! Gブルコギドンが吼える。 「作業員は撤収準備を! それと、大至急避難勧告を強化! 隣接地区までの避難シェルターを全解放してください!」 瑠璃の的確な指示が飛ぶ。 それにあわせて慌しく動く作業員達。 このような事態に直面しても大きなパニックにならないとは、さすが覇道財閥、そして覇道財閥総帥、といったところか。 「おぉりゃあああっ!!」 ガガガガガガゥゥンッ!! 「 ドギュウウウウン!! 「紅き力よ、焼き尽くせ! クリメイション!」 ゴォォォォォォッ!! その間、九郎たちはGブルコギドンに対して全力で攻撃を仕掛けていた。 九郎の二丁拳銃が、エルザの魔砲が、マリアベルの業火が、Gブルコギドンの外装甲に突き刺さるが―― 「……マジかよ」 「全然効いてないロボ!?」 「なんと理不尽な……」 巨大化したことでより防御力を増したGブルコギドンの装甲に、それらの攻撃はほぼ無効化されていた。 その姿を見て、飛び上がりながら喝采を送るトカ。 「さすが、さすがだトカGブルコギドンッ!! 今のお前なら放射能怪獣にすら勝てそうな勢いだと見たッ!」 「楽しいか!? 人が必死になって攻撃してるのに、それが効いてないのがそんなに楽しいか、えぇ!?」 「あ、スンマセン、謝りつつ前言撤回するのでその頚動脈っぽい個所を生絞りするのは勘弁して欲しいトコロ」 九郎に全力でハングツリーを喰らったトカは素直に白旗降参した。 「お嬢様、我々も退却を! 現在の兵力ではあのマシンに太刀打ちできません!」 「くっ……」 ウィンフィールドの提言に、一瞬だけ悔しげな表情を見せた瑠璃だったが、即座に頭を切り替えて九郎たちに呼びかける。 「……わかりました。皆さん、ここは一旦……!」 この場を離れよう、と瑠璃が口にする前に、その異変は起こった。 ごごごごごごごごごごごご……!! この区画一帯を揺るがすような、激しい地鳴り。 そして最初は微弱に、そして徐々に激しくなっていく揺れ。 アーカムの住民ならば、聞き慣れてしまった重低音。 「こ、この地鳴りは!?」 「なんか果てしなく嫌なんだがすっげー聞き憶えがあるぞっ!?」 ごばあぁっ!!! 九郎の嫌な予感とともに、巨大な何かが地中から飛び出してきた! ドラム缶のようにずんぐりむっくりなそのフォルム、その両サイドから伸びたやけに細い二本の腕、その腕に取り付けられた冗談のような大きさのドリルと機関銃。 見間違えようもない。 アルが叫ぶ。 「ドクターウェストの破壊ロボだと!?」 「あんにゃろ! てっきり地面に埋まってるのかと思ったらいつの間に!」 『ぬわーっはっはっはっはっは!!』 九郎がうめくと同時に、破壊ロボのスピーカーからドクターウェストの爆笑が響いてくる。 『だーっはっはっはっはっはっはっはっ!! よくも人を風に舞う一枚の木の葉の如く吹き飛ばしてくれた上に怒涛の如く圧し掛かる瓦礫の生き埋めにしてくれたであるな、そこな悪趣味マシン! かくなる上はこの『ドクターウェスト/無敵ロボ28号アタラクシア』で、そのちぃっぽけな図体をブレイクしてくれるのであるってなんかすっげえでっかくなってるぅぅぅ!?』 「今ごろ気付くのかよ!」 スピーカーから聞こえてくる驚愕の声に、思わず突っ込む九郎。 『ぬぬぬぬぬ、だがしかぁしっ! ちょおっと大きくなったくらいでデカイツラしてもらっちゃあ困るのである! 当たらなければどうということはないということを、嫌というくらい見せ付けてくれる!』 「思いっきり体格差にモノを言わせようとしてた奴の言う台詞かそれは」 九郎の言葉を無視するかのように、破壊ロボはGブルコギドンに向かっていく。 Gブルコギドンのほうも、目の前のドラム缶型のロボを敵と認識したのか、両手を上げて威嚇のような姿勢を取っている。 『ロックン・ロォールッ!!』 破壊ロボの全身の砲門が一斉に開く! その悉くがGブルコギドンを捉えると、それぞれが出鱈目な順番で火を噴いた! ドドドドドガドガドガガガガッ!!! 「うわあぁぁ! 危ねえロボー!」 「あのキ○ガイ、こっちの被害とかその辺のことちっとも考えてやがらねぇな!?」 破壊ロボの砲撃は、Gブルコギドンのみならず、辺り一面に満遍なく降り注いでいた。 地面が爆ぜ、壁が抉れ、あちこちで土砂が降り注いだ。 「うわぷっ……お、おのれ……」 と、立ち込める土煙の中で、顔をマントで覆いながら拳を振るわせるマリアベル。 「ちゃちなゴーレムの分際で、わらわに土砂を被せるとは! こうなれば、二体まとめて目にもの見せてくれよう!!」 そう言って、マリアベルは懐から何かを取り出した。 それを不思議そうに見つめるエルザ。 「……何だロボ? その穴の空いた石」 「ふっ、これぞ『巨人のオカリナ』! わらわの僕たるゴーレムを召喚するためのアーティファクトよ! さあ、出でよアースガルズッ!!」 自信満々にそう宣言すると、マリアベルは大きく息を吸い込んで、巨人のオカリナに口をつけた。 ぶぴぴっぴぴぃぃぃぃぃっ!! 「うわあっ!? へたくそだロボっ!?」 「う、うるさい! 音は問題ではないのじゃッ!」 思わず仰け反り返るエルザに、多少顔を赤くしながら反論するマリアベル。 オカリナから流れ出た怪音波は辺りに響き渡り、余韻を残して消えていった。 ……そして、地面から再び地鳴りと震動が響きだす! 「なにぃ!? またかぁ!?」 ごばあぁっ!! 九郎の叫びと同時に、やや離れた場所から巨大な何かが現れ出る! デフォルメした人型のフォルム、背中からせり出した二本の円柱、両腕部に取り付けられた特徴的な円形の盾。 地面から出現したその巨体を満足げに見上げつつ、マリアベルが歩み寄る。 「ふっ、特別に紹介してやろう。これこそ、わらわたちノーブルレッドが技術の粋を集めて創り出したゴーレム。重装防衛型・参式改、アースガルズ2! こやつの力にかかれば、あんなポンコツどもなど物の数ではないと思え!」 マリアベルはGブルコギドンと破壊ロボを指差すと、声も高らかに命令した。 「さあいけアースガルズ2! あの2体のロボットを撃破するのじゃ!」 音声認識機能が働いたのか、マリアベルの言葉に反応して駆動し始めるアースガルズ2。 大きな腕を振り上げて、撃ち合いを続けている2体に突進していく。 『む? なんであるかこのちんちくりんなロボットは? って、どわぁ!? な、殴ったね!? 親父にも殴られたことがないのに!』 がおおおおおおん!! 先に戦闘を繰り広げていた2体もアースガルズ2を敵と認識したらしく、戦いは三つ巴の様相を呈してきた。 「むむむむむ、我輩のコントロール下を離れたGブルコギドンを応援するわけにはいかんが、かといってあんなドラム缶やら惑星Fで見たロボットやらを応援するのも気が引ける。ああ、そんなトカゲのジレンマ」 「って、そんなことで悩んでる場合じゃないよ!?」 一人、いや一匹、立ち止まってなにやら思慮しているトカを、厚志が片手で軽々と引っ掴む。 「おう、そうでした。こういうときにこそ真の力を発揮するのが名優の真骨頂。そういうわけで、先程から人語を解するようになってしまったゲーよ、なんかやれ」 厚志に掴まれて持ち運ばれる姿勢のまま、トカはゲーにひどくアバウトな命令を下した。 「いや、私などよりも、ここは一つ速水くんに任せてみたらどうでしょうか? 彼ならきっと何とかしてくれると思いますが」 「む、無茶なことを言うなぁ。流石に僕一人じゃあアレの相手はちょっと……」 ゲーの無責任とも取れる発言に、苦笑いで返そうとした、その時。 ――――――……………………―――――― 「…………え?」 厚志の耳に、ふと、この場に居ない誰かの声が聞こえた気がした。 聞き覚えのある、ひどく懐かしい声だったような気がする。 「この声は……」 「……そうですね。確かにあなた一人では、あの怪獣に立ち向かうのは無茶かもしれません。ですが、『彼』と一緒ならば、どうですか?」 ゲーの問いに、しかし厚志は答えず、声のした方に恐る恐る振り向いた。 そこには、瑠璃といっしょにやってきた装甲車……シートに覆われたその荷台。 「……なにをしているんですか、速水さん?」 その姿を不審に思ったのか、既にリムジンに乗り込みかけていた瑠璃が声をかけてきた。 「……覇道さん」 「はい?」 「あなたたちの準備していた物というのは、もしかして……」 『これでも喰らいやがれであるっ! ミサイル発射ぁ!!』 ドゴォンッ!! その時、ドクターウェストの破壊ロボから放たれたミサイルの一つが、Gブルコギドンから逸れて近くの家屋に着弾した。 「きゃっ!?」 吹き荒れる爆風。 その風に煽られ、装甲車のシートが吹き飛ばされる。 露にされた装甲車の荷台。 そこに横になっていたものを見て、厚志は大きく息を呑んだ。 「……士魂号……!!」 「っ!? 速水さん、その名を……!?」 ……そう。 それはかつて、日本という国で作り出された戦車の異端児にして鬼子。 かつて共に戦場を駆け抜けた戦友。 各部位が多少異なってはいるが、厚志が見紛うはずがない。 「間違いない、士魂号だ……しかもこれは、複座型!」 「……仰るとおり、これは士魂号複座型、突撃仕様です」 厚志の後ろに立った瑠璃が、静かな口調で説明し始める。 「正式名称『 そこで一歩前に進み出て、厚志の顔を横から窺う。 「この機種はかつての『大戦』時、日本のごく一部の地域にしか配備されなかったために、その存在を知る人間はほとんどいないと聞いています。……速水さん、あなたは一体……?」 「…………」 厚志は答えない。 ただ、黙って目の前の人型戦車……士魂号を見つめている。 と、そこへ、通信機を片手に持ったウィンフィールドが早足で歩み寄ってきた。 「お嬢様!」 「どうしました、ウィンフィールド!?」 「先発隊から連絡です! 破壊ロボ出現に伴って起きた衝撃により、ビルの一部が崩壊、退路が断たれたと……!」 瑠璃の表情が、さぁっと青ざめた。 「……っ!? なんということ……!! すぐに迂回路を探しなさい!」 慌てて通信機に向かって応対をはじめる瑠璃。 その間も、厚志は士魂号を見上げていた。 目を閉じる。 先程の声は、今もなお厚志の耳に響いてくる。 かつて、自分が絶望的な戦いに身を置いていた時も、この声は聞こえていた。 そう、道理で懐かしいはずだった。 声の主は誰あろう、この目の前の物言わぬ鉄の巨人だったのだ。 声は、一つの言葉だけを繰り返し繰り返し言い続けていた。 すなわち――共に戦おう、と。 厚志はゆっくりと目を開くと、士魂号に向けて一つ大きく頷いた。 そして、通信機ごしのやり取りを続けている瑠璃に向き直る。 「ですから、何とかしてBルートへ……そちらの被害はわかりますか? ……そう、それならば……」 通信に気を取られている瑠璃は、後ろの厚志に気がつかない。 「……こうなったら士魂号で時間を稼いで……いえ、無理がありますね……」 「……僕が、やります」 「え?」 突然、後ろから予想外の言葉をかけられて、瑠璃は思わず振り向いた。 そこには、確たる決意をその目に秘めた、厚志の姿。 「僕に士魂号を預けてくれませんか。僕が乗って戦います」 その言葉に、瑠璃は一瞬呆気に取られたように厚志の顔をまじまじと見つめたが、すぐに我に帰ると物凄い勢いで反論した。 「な、何を言ってるんです! あんな巨大な相手にどうやって戦うというのです!? 第一、あれに乗るにはそのための資格が……」 「資格なら……ここに」 厚志は胸元から首飾り……いや、首飾り風に手を加えられたものを取り出した。 チェーンに繋がれているものの、それは間違いなく戦車技能所有者であることを証明する印……士魂徽章。 「士魂徽章……! では、あなたはあの幻獣戦争の……!?」 「当時は少年兵、しかも速成教育組でしたけどね。元・熊本5121小隊に所属していました、速水厚志です」 改めて名を名乗る厚志。 その厚志の言葉に反応したのは、瑠璃の横に控えていたウィンフィールドだった。 「5121小隊……!? では、貴方があの……速水、厚志!」 「知っているの、ウィンフィールド?」 目を見開くウィンフィールドに、瑠璃が問う。 「はい……幻獣戦争で最もその苛烈さを極めていた、最後期の日本で流布していたという噂です」 噂ゆえに私も半信半疑でしたが、とウィンフィールドが呟く。 幻獣戦争。 『幻獣』と呼ばれる異形の化け物との長い長い戦いの名である。 7年前に幻獣が忽然と姿を消すまで、その戦いの歴史は50年以上にも続いて繰り広げられていた。 ちなみにこのアーカムシティは、覇道鋼造のずば抜けた先見の明と膨大な尽力によって、幻獣の猛攻に耐え切った数少ない場所の一つである。 「数少ない人類抵抗の地、日本の最前線で驚くべき戦果を挙げた部隊がありました。当時日本に出現していた幻獣の大半を打倒したその部隊は、年端も行かない少年兵たちで構成された急造部隊だったと……」 「それが……5121小隊?」 「はい。そして5121小隊の主力として活躍した少年兵が……速水厚志。終身撃墜数500以上のスーパーエースと言われています」 ウィンフィールドが語る話のあまりの内容に、瑠璃はしばし絶句した。 「…………本当なのですか、速水さん」 「本当ですよ」 信じられない、といった感じの瑠璃の言葉に答えたのは、厚志本人ではなく、なぜかゲーだった。 「彼こそ人類史上5人目となる『絢爛舞踏章』受章者です。死を告げる舞踏の者とまで謳われた、人類の決戦存在……と、こういう言い方は好きじゃないんでしたっけ?」 「……それを知ってるって言うことは、やっぱりキミだったんだね」 厚志はちょっと困ったような顔をした後、ゲーに向かって微笑みかけた。 「『アリアン』」 「……ええ、改めましてお久しぶり、と言うべきですかね……『絢爛舞踏』」 「また、『真実を見るために』やってきたの?」 「そんなところですね。……正直に言えば、今回の騒動、あなたが思っているよりも根が深いようです。マリアベルさんも恐らくは……いえ、今はそれよりも」 ゲーはそこで会話を切ると、改めて瑠璃に向き合って話し掛けた。 「そういうわけなので、非常事態であることですし、ここは速水くんに任せてみてはどうでしょう?」 「け、けど、この士魂号は複座型です! 速水さん一人では動かせません!」 言われて、ゲーははたと考え込む。 確かに瑠璃の言う通り、複座型を一人で扱うことは出来ない。 ……正確に言えば、操縦するだけならば一人でも出来なくはない。 しかし、そうすると電子装備を担当するパイロットがいないので、実質上士魂号は戦闘不能になってしまうのだ。 「ふむ、それもそうですね……私も扱えなくはないですが、この身体ではコクピットは無理でしょうね」 「……問題ない。私が乗る」 その言葉は、その場にいる者達の背後から聞こえてきた。 驚きと共に振り向くと、九郎に支えられて立っている、舞の姿がそこにあった。 「まっ、舞さん!? あなたは先程、運ばれていったはずじゃあ!?」 「ふん……あのようなモノが現れたというのに、のうのうと寝ていろとでも? 生憎だが、私はそれほど呑気な性格ではない」 「……大十字様、なぜ彼女をこちらへ?」 「お、俺のせいじゃないぞ、執事さん。舞さんがいきなり戻ってきて、『厚志の所へ連れて行け』って言って聞かねえから、仕方なくだ、仕方なく」 ウィンフィールドに問い詰められる九郎だが、慌てて自分に非がないことをアピールする。 「大体の話は聞かせてもらった。士魂号があるならば、我等に恐れるものなどない。行くぞ、厚志…………っ!」 一歩踏み出そうとした舞だが、途端に腹部を押さえて前のめりに倒れかける。 それを辛うじて支えなおす九郎。 「おいおい、やっぱ無茶だ! その身体じゃあんなのの操縦なんか出来るかよ!?」 「……汝が言う台詞か、それは……」 横でアルが何かを呟いているが、九郎と舞はそれを無視する。 「……問題ないと言っておるだろう。離せ」 「離せるかっての! 離したら倒れるだろうが!」 九郎の手を逃れようともがく舞と、離すまいとする九郎。 そうこうしている間に、その場へ更なる訪問者がやってきた。 「――此処にいたか、大十字九郎」 「!?」 振り向く九郎、振り向くアル。 そこに立っていたのは、黒衣を身に纏った威圧感のある一人の神父。 「言峰綺礼っ!?」 「テメエ、ライカさんに何をしたっ!?」 言峰がその腕に抱いているシスター……ライカの姿を認め、九郎が敵意を剥き出しにして叫ぶ。 「何もしてはいない。今はただ気絶しているだけだ」 「はっ、どうだかな。じゃあ一体何があったってんだ?」 九郎の問いに、言峰はただ視線だけを逸らして答える。 「……さて。暴漢に襲われていた所を偶然通りかかって助けた、と言ったら、お前は納得してくれるのか?」 「出来の悪い冗談だな。テメエ自身が暴漢だったってオチのほうがよっぽど信じられるぜ」 「ふむ。まあ、お前にどう思われようとも構わんが。しかしそこまで言うのならば、あとはお前にシスターのことを任せても良いのだな?」 「……あたりめえだ。ライカさんは俺が守ってみせる」 「そうか。では任せたぞ、大十字九郎。せいぜい守って見せるがいい」 ライカを壁にもたれかけさせると、即座にくるりと踵を返し、その場から立ち去ろうとする言峰。 その背中に向けて、九郎はフンと悪態をつく。 「ああ、とっととどっかに行きやがれ。厚志、悪いが舞さんを支えるの、代わってくれ。俺はライカさんを……」 「待て、九郎。こやつにはしてもらわねばならんことがある」 だが、その言葉はアルによって打ち消された。 同時にぴたり、と足を止める言峰。 「な、どういうことだ、アル?」 「言峰とやら。汝、恐らく治療のたぐいの魔術を扱えるな?」 「……なぜそう思う」 言峰は振り返らないままそう訊ね返した。 ふん、とアルは軽く鼻で笑ってみせる。 「しらばっくれるでない。昨日、二匹のトカゲどもになにやら施しておったであろうが」 「あっ……! そういえば!」 その時の事を思い出したか、九郎がはたと声を上げる。 そこでようやく、言峰はゆっくりと振り向くと、アルに向けて肯定を告げた。 「ふむ。確かに、私が得意とする魔術は治療。昨日の二匹程度の怪我ならば治すのは容易いことだ」 「では話は早い、汝、あの小娘を治療することは出来るか?」 アルは続けて、厚志に支えられている舞の姿を指差す。 「ふむ? どれ……」 舞に歩きよった言峰は、無造作にその顔をのぞくように身をかがめると、身体を手で探り出した。 そして先程ブルコギドン弐式によって打たれた個所に触れると、ほんの少しだけ眉をひそめた。 「……不可能ではない。だが、完全に治すには時間がかかる。それに、正規の手段で治療したほうが話が早い」 「構わぬ。動けるならそれでいい。後は自分でどうにでもしてみせよう」 答えたのは、舞本人だった。 揺るがない決意を秘めたその言葉に、まるで面白いものでも見るかのように口元を釣り上げる言峰。 「ほう。いいだろう、それならば何とかなるかも知れん。……そこに横になれ」 そう言って言峰は舞を静かに横たえさせると、その傍らに膝を着いた姿勢で、舞の腹部に片手を添えて呪文を口ずさんだ。 「 言峰の腕に刻まれた魔術刻印がぼうっと光り始めた。 その光は徐々に広がり、やがて掌を通して舞の身体へと伝播していく。 「テメエ……治せるんだったらなんでそのことを言わずに立ち去ろうとしやがった」 「おかしなことを言うな、大十字九郎。先に帰れと言ったのはお前だろう。私はそれを汲んでやっただけのことだ」 やがて魔術の光は治まり、膝を着いていた言峰が立ち上がった。 「一時的に動けるようにはしておいた。ただし、後になってどうなろうとも責任は持てんがな」 「それでいい。……そなたに感謝を」 遅れて立ち上がった舞は、具合を確かめるように身体を動かしてみた後、言峰に彼女なりに礼を言った。 「さあ、行くぞ厚志。我等もまだ、戦える。戦えるのなら、そうするべきだ」 「……わかったよ。全く、舞は強情なんだから」 「そなたにだけは言われたくない」 「さっきのお返しだよ」 言葉を交わしながら、二人は士魂号へと駆けていく。 「残っている整備スタッフは直ちに士魂号の発進準備を! 急いで!」 瑠璃の的確な指示が飛ぶ中、九郎はじっと言峰を睨んでいた。 「……なんだ? まだ疑いが晴れないのか、大十字九郎?」 「いや、もっと単純な話さ。テメエが胡散臭くてしょうがねえ。昔出会ったムカツク野郎にそっくりでね」 「それは言いがかりか? そんなことを言っている余裕があるとは驚きだが」 「なんだと……!?」 「いや、余裕があって当然だったか。お前にはあの二人のように、この現状に対抗できるような術はない」 言峰はあの二人、のくだりで士魂号の方を目線で示す。 そこには既に士魂号のコクピットに乗り込み、周辺機器のチェックをはじめている厚志と舞の姿。 「私が見るに、今のお前はまるで無力だ。私に言いがかりをつけるのは構わんが、果たしてそれでいいのか、『正義の味方』は?」 「…………」 言いたいことを全て言ったのか、言峰はまるで興味を無くしたかのように九郎の前から去っていった。 お前は無力だと、言峰は言った。 九郎はそれを、否、と大声で否定したかった。 戦える。 大十字九郎は、あんな怪異に対して遅れをとったりはしない。 ――そう、あの無垢なる刃が在れば。 だが今はそれも叶わぬ願いだ。 あれは既に失ってしまったから。 いつでもどこでも、呼べば虚数展開カタパルトによってこの場に現出する、そんな魔を断つ剣はもう、九郎の手には無かった。 お前は無力だと、言峰は言った。 九郎はそれを、否、と大声で否定することができなかった。 だが。 「九郎」 横から聞こえてくる、少女の声。 自分の名前を呼んでいる、ずっと一緒にいた少女の声。 「九郎、大丈夫だ。妾は知っておる。汝が一体、何者なのか」 「………………」 それを聞いて、自分の愚かさにぞっとした。 自分は一体、何を信じていたのかと。 例え自分が信じられなくても、自分の代わりに否定してくれる者がいる。 例え自分が弱くても、自分を強くしてくれる者がいる。 それを誓ってくれた少女が、自分の横に今もいる。 「…………はは」 笑う。 言峰の言葉を、そしてそれを一瞬でも正しいと考えてしまった自分自身を。 ガッ!! 思わず自分の額に拳を打ち付ける。 痛い。 けれど、これで目が覚めた。 「……悪いな、言峰。あいにく俺は、正義の味方でも変身ヒーローでもないんだよ。ただの、探偵だ」 真っ直ぐに言峰の去っていった方向を射抜く九郎の瞳は、烈火のように燃えていた。 「だがな、無力だってえのは勘違いだ。ただの探偵に何ができるか、見せてやるぜ!」 九郎はそう言うと、言峰に見向きもせずに駆け出していく。 いつものように、アルがそれに続く。 「九郎、お主、何をしようというのだ?」 「お前、判ってて聞いてるだろ?」 「ふん。汝の考えることなど、妾にはお見通しだ」 「……呼べると思うか?」 「呼べぬ道理が、何処に在る?」 「そうか。なら、問題なしだ! 往くぞ、アル!」 「ああ、往くぞ九郎!」 掛け合いを続けながら、二人は揃って剣指を結ぶ。 「憎悪の空より来たりて――」 虚数展開カタパルトは今や存在しない。 「正しき怒り胸に――」 この世界に、『彼』が存在するかどうかも確かではない。 「「我等は魔を断つ剣を執る!」」 だが、それでもこの声は、この祈りは、間違いなく『彼』に届く。 「「汝、無垢なる刃――――デモンベイン!!」」 二人がそれを信じる限り、デモンベインは再臨する! カッ!! 虚空に現れる立体魔法陣。 在り得ざるものを在り得るものへと入れ替える駆動式。 周囲の物体が、いや、空間がその魔法陣に向けて吸い寄せられる。 そして、巨大な質量を持った何かが、何もなかった空間に顕れ出る! ヒュゴッ!! 一転、空間が爆砕する。 先程まで吸い寄せられていた周囲の物体が、弾かれるように吹き飛ばされる。 その中心点、魔法陣が在った虚空から大地に降り立つ鋼鉄の姿。 「久しぶりだな……デモンベイン!」 「よくぞ、我等に応じてくれた!」 その中心部、コクピットの中で、九郎とアルは再び巡り合った戦友との再会を喜んでいた。 「さあて、さっそくあの考えなしどもにお灸を据えてやるとするか!」 「ああ、これ以上あんな色物如きに好き勝手やらせるものか!」 デモンベインの瞳に光が灯る。 悠然と立ち上がるその雄姿は、厚志たちの乗る士魂号からも確認できた。 「あれは……九郎くんたち、なの?」 「……そうか。あやつらもまた、思ったのだな。まだ戦う必要があると。だから、ああして戦おうとしておるのだな」 厚志と舞は、直感的に理解した。 あの巨人……デモンベインを動かしているのがなんなのか。 それは意思。 邪悪を憎み、戦おうという強い意思。 そんな二人に、整備スタッフからの声がかかる。 「士魂号、全チェッククリア! 発進準備、整いました!」 「了解! じゃあ、舞……」 「ああ、我等も行くぞ。発進する! 作業員は退避しろ!」 それは、闇を払う銀の剣。 それは、魔を断つ無垢なる刃。 「士魂号、速水・芝村機、出るっ!!」 「行くぜ……デモンベインッ!!」 二つの剣は、今、相応しい持ち主の手によって再び引き抜かれた。 進む 戻る |