生まれたての詩.1
             
生まれたての詩ってどんな詩?
正真正銘、生まれたばかりの詩ですので未熟です。
でも、とびっきり初々しくて、新鮮!!!(の、つもり)
右と左のルール
温もり
わすれな草
おみやげ
伏線
予感
音のない音
投影

錯覚
安堵の方法
視線
割る
コピー
削除
三月おしまいの日は
会話

明日


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 右と左のルール
緊張と怠惰の交錯した駅の朝
エスカレーターの右側を通勤びとが
靴音をたて気忙しく歩きながらのぼってゆく
時には歩かない人もいて
流れが止まったりする
左側に立っている人達は
エスカレーターの動きに身を任せじっとしている
  どうぞどうぞ急いでいる人は右側へ
  私は今日は左側で大丈夫
いつからか人は暗黙のルールを作った
それは優しさの証
暮らしのささやかな知恵
優しさと知恵が日々を見守っている
                       00/3/4
聞くところによるとエスカレーターに乗る時、
歩く人は関東では右側で関西では左側とのこと。






 温もり
道の僅かな窪みに張った薄氷を
パリパリパリと踏む
植え込みのきわにたつ霜柱を
サクサクサクと踏む
幼い日の顔をした私が
冬の朝は空気が凛としていて
些細な音も旋律に変えてしまう
足裏から伝わる感触を辿ってゆくと
古里の冬が見えてくる
屋根には根雪がいつまでも残り
道は固く凍っている
何も寄せ付けないほどに
だから私は 
薄氷や霜柱を踏む時の音の確かさが
好きなのかもしれない
冬の真っただ中でさえも
温もりを見つけてしまうのかもしれない
                   00/2/19






 わすれな草
道端に咲く淡い紫色の小花を
わすれな草とばかり思い込んでいた
知らずにいることが夢を見ることであったり
思い込みや間違いは真実にもなりうるから
私は知ってしまったことを少し悔いている
本当のわすれな草を見たいと思う
けれど あえて見ずにいよう
心の中に幻の花を咲かせ続けるのも
わるくはない気がする
この春も田圃の畦道や道端に 
<私の>わすれな草は咲くだろう
小さく儚げな花びらは
春の風に乗って蝶になるだろう
                    00/2/12










 おみやげ
欲しい物など何もないわ
と 日頃言っている私が
おみやげをもらうと わくわくする
おみやげを買うとき 
一瞬 私を思ってくれたのかしら
温泉饅頭を頬張りながら
一瞬より少し多くその人のことを思ってみる
逝ってしまった人達からも
記憶という名のおみやげを幾つも頂いた
記憶を紐解いて手の平に乗せてみると
温かくて ふわふわしている
記憶は ふっとやって来ては
寂しい日の私に
寄り添ってくれたりする
私は幾人の心に
おみやげを残せるだろう
                   00/2/5





 伏線
遠い記憶のように
繰り返し見る夢がある
継ぐものがいなくて取り壊された生家に
なぜかいつも
煌々とあかりが灯されているのだ
眩いばかりの明るさが
寂しさを倍加させる事を
私は夢の中で知った
旅先で一人取り残される夢もよく見る
バスはきまって親しい人達を乗せ
砂ぼこりをあげながら走り去ってゆく
追うことも出来ず
焦燥感にかられながら目覚める私
夢は現実から逃れる為に見るのではなく
現実に戻る為に見るのかもしれない
重苦しく切なく寂しい夢を見るのは
まっさらな朝を迎える為の
伏線なのかもしれない
                 00/1/22


 予感
浴そうの縁で蜘蛛がまどろんでいる
日向ぼっこをする猫のように
「お久しぶり」と指で軽く触れたら 
すくっと立ち上がった
その日は何故ともなく 
針のように繊細な手足と 歩く姿を
初めて見つめたのだった
お湯の飛沫が苦手なのか 
私がシャワーを使う時 
いつも  さっと身を隠していたのに
その日は違っていた
飛沫を浴びながら
私の側に座り込んでいるのだ
あっ 動かない 動けない
それまで力強い脚力を見せていたのに
身を縮め小さくなっている
確かな技で営々として築く精巧な巣
朝露に輝く栄光
それらを放棄してしまったのは何故?
土の温もりや草木の優しさを捨て
冷たいタイルを選んだのはなぜ?
まどろんでいたわけではなく
私を待っていてくれたんだね
けなげに歩く姿を見せてくれたね 最後に
黒い点のようになってしまった蜘蛛を
小手鞠の枝に明日そっとのせてみよう
春はまだ浅くて芽吹いてはいないけれど
                      00/1/8
小手鞠(こでまり)の花言葉は努力


 音のない音
楽しい語らいのあと
おいとまをするときに聞く
ドアの閉まる音
金属的で無機質な音
(不用心だから戸締まりをするのは当然のことだわ)
話が終わった後に聞く
素早く受話器をおく時の音
余韻を求めるなんて未練というもの
(それぞれに忙しいのだから)
けれど もっと寂しく聞くのは
人が 心の扉をそっと閉める時の音
自らの想いを閉じこめてしまう時の音
膝を抱えながら私は 
音のない部屋にうずくまっている
                       99/12/12







 投影
溢れる思いをあらわすことが出来るのは
沢山の言葉ではなく
たった一行の詩のほうかもしれない 
という思いが ふっと私の心に宿った
たった一行の詩は海をいだいている
茜色の
桜貝の色の
灰色の
紺碧の
それぞれの空の色を記憶しておくために 
海は決して眠らない
海の草のそよぐ音を子守歌にはしない
たった一行の詩は
貧しい一片の言葉を抱いている
寂しさの意味や
切なさの意味を忘れないために
一片の言葉はいつも目覚めている
                     99/11/7





 音
嫌いなタレントが出ているコマーシャルが
テレ画面に飛び込んでくると
私はすかさずチャンネルを替える
それは ささやかな意思表示
子どもじみた排他性
誰も傷つけてはいないわ と
私は言い募る
これまでどれ程の人達が  
私のチャンネルを替えたことだろう  
そのことに気づいたあと  
妙にぼんやりしながら聞く
リモコンが放つ吐息のような音を
雲の流れる音を
心の中のざわめきを
去ってゆく人の足音を
                     99/10/3





 錯覚
郵便受けの中を確かめる事と 
受信トレーを開く事が私の日課
密やかな夢を見るために
何もない日常に 
何か在る と錯覚するために
けれど 中が空っぽの時は
そっと扉を閉め 立ち去るのもまた日課
明日こそはきっと何かいいことがある 
と 夢を繋ぎながら
送信済みの昨日という日を悔いながら
蝶のように舞う言の葉を追いながら
夢は雪のようなもの
降り積もる時も
跡形もなく解けてしまうことも
或いは 凍てつく事もあるから
私は夢にはなりえない
  秋に蝶が舞う
  秋に雪が降る
                   99/9/5


 安堵の方法
  供養 
  それは美しい習わし
  これまでの「生」に対する
  慈しみと慰め
とあるお寺の部屋の片隅に
人形供養の為に送られてきた人形達が
無雑作に積み重ねられていた
パンフレットには 
料金は一口三千円
ダンボール箱一箱
又はビニール袋一袋までの量を一口とします 
と書いてある
古来から人は
人形の中に魂を見てきたのだろう
畏れを抱いてきたのだろう
安堵への代償
美しい習わしが
今 さりげないビジネスに
無粋にも 
殺し屋という愛すべき生業が
ふと私の心に浮かんだ 
                      99/8/7



 視線
あなたは 私の方を見て
微笑んでくれた 
けれど私は 
あなたの視線の中ほどに
いつも見てしまうのだ
閃光のはかなさを
刃のプライドを
氷の温もりを
放たれた視線は
私の胸のこのあたりを
悠々と通り過ぎたあと
澄まし顔で
美しい湖面に 
緑なす草原に 
降り立つのだ
飛行機雲のような視線の痕と
閃光と 刃と 氷が
真夏の太陽に灼かれている
                99/7/31





 割る
久しぶりに皿を割った
うっかり 落としてしまったのだ
細々と砕けたのではなく
小気味よい程きっぱりと真二つに割れた
皿にとってそれは
唐突なことだったろうか
否 唐突に見えながら本当は
私が気づかずにつけた傷を
元に戻すことのできないヒビを
内に潜ませていたのではなかったか
それらに耐えていたのではなかったか
花が咲くように哀しく
花が散るように明るく
私のもとから忽然と 
ひとつの日常が消えてゆく
微かな心地よさを感じながら私は
消えてゆくものを見つめている
                99/6/13





 コピー
今夜も女は メールを書いている
夕べも その前の夜も 前の前の夜も
名前のない夜も ずうっと書き続けてきた
送信トレーに未送信のメールがあります。
ここで送信しますか?
 「いいえ。」
これらのメッセージを完全に削除しますか?
 「はい。」
書いては消すこと
それは単なる日常
手紙はもともと 
書いては消すべきもの 
破り捨てるべきもの
以前から人は そんな風にしてきた
破いて屑籠に投げ入れるかわりに
今は只 「いいえ」と 「はい」とだけ
答えれば済む
 (とても簡単なことだわ。)
何ひとつ痕跡を残さない完全犯罪
けれど 女の心の中には
既にメールの全文がコピーされている
これらのメッセージを完全に削除しますか?
「はい」と答えるのだけれど
削除の機能は作動しない
幾度試みても
葬られる筈のメールが
女の心の隅々まで
日毎コピーされてゆく
                       99/5/9


 
 削除
削除という言葉が
パソコンをするようになってから
急に身近な言葉になった

削除の確認の問いかけに
「はい」と即座に答えることが出来る時と
悔いを残しての「はい」の時とがある

何かを得るということは
失う予感を伴い
在ったということは
いつの日かなくなるということ
ただそれだけのことなのに
迷路に迷い込んでしまって
出口がみつからない

明日を軽くするために
出口を探しながら今日を削除している

                 99/4/29  






 三月おしまいの日は
朝から雨だった
季節のはざまに降る雨は
つめたく 温かく 曖昧だ

その日の朝
バス停留所には誰もいなかった
見慣れた街路樹 舗道 家並が消えて
荒涼とした野が広がっていた
独り佇む見知らぬ私
降りしきる雨の中を
ゆらゆらと近づいてくるバス
そのバスに乗らなければ
何も始まりはしない
行きさきは架空であっても
私はきっと乗る

舞台装置 整いすぎじゃないかしら
という呟きを消したのは
三月おしまいの日に降る雨の音だった

                 99/4/20





 会話
今日も私は 誰とも話をしなかった
否 電子レンジと話をした

ピッピッピッ
「はい、はい」

ピッピッピッ
「わかったわ」

ピッピッピッ
「わかりましたってば」
返事をしながら数回やり過ごす
伝わってくる律儀さや生真面目さを
確かめるために
一日の約束事のように

いつもと同じ会話をしたあと
温もったおかずやご飯を取り出すと
電子レンジは急に無口になる
ドアの内側を湯気で曇らせながら

そのあと私は ひとり食卓に向かう
一方的に語りかけてくるテレビと
会話にならない会話をしながら

                 99/2/15





 私
パソコンという摩訶不思議で
とてつもなく広い世界に迷い込んで一年余
そこには 童子(わらし)の私がいた 
童子は道に迷って泣きじゃくっている
思うようにいかなくて手足をばたつかせている
小さな発見をしては
見て!見て!と はしゃいでいる

大声で泣くことも
瑞々しい驚き 悦びや 戸惑いを感ずることも
はしゃぎまわることもしなくなった大人の私が
きかん気の 甘えん坊の
疑うということをまだ知らなかった頃の
童子の私に これから会いに行くところだ

                     99/1/30










 明日
名前を付けて保存された笑顔の数々
ファイルを開くと 
既製品の笑顔やオーダーメイドの笑顔
それに 無邪気な あどけない 曖昧な はにかんだ 
喜色満面の 諦観の こわばった 媚びるような 
少し寂しげな 等々の笑顔のアイコンが並んでいる
その日 私は少し寂しげな笑顔のアイコンをクリックした
   それは気まぐれのなせるわざだったのか  
   無意識にしたことだったのか
   必然だったのか 定かではない
ホームページに壁紙を貼る時のように 
瞬時にして私の顔に
少し寂しげな笑顔が貼り付けられた
フム まんざらではないわ
恋を失った女の風情を装いながら
すこしの間このままにしておこうかしら

あどけない笑顔は今の私には無理があるし
媚びるような笑顔は私の好みではない
いっそ 次はオーダーメイドできめてみよう
                           99/1/7



 朝
しし座流星群が見られるという日
ご多分にもれず にわか天文ファンになった私
北斗七星しか知らない私が
「しし座流星群観望用星座早見」なるものを見ている

早朝3時 近くの公園には
二人づれやグループで来ている人達がいた
「見えますか?」と たずねると
「いやぁ ぜんぜん」という答えがかえってくる
答える声が明るく そして弾んでさえいる

巨大なドーム型の漆黒の世界
生き物のように輝く星たち
じっと 星を見つめるなんて何年ぶりだろう
否 何十年ぶりだろう
否 生まれて初めてかもしれない

ついに 流星群とよばれるものには会えなかったけれど
<私たち>は充分満たされていたのではなかったか
私たちは本当に流星群を見たかったのだろうか
夢を見るために
ひたすら待つ という美しい時間を確かめるために
行ったのではなかったか

柄にもなく感傷に浸っていたら
突然 威勢のいい朝がやってきた

                            98/11/18
                         
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