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| プライド | 交錯 | 明日の量 | 了解 | |||||||||||||
| 風を | 期限アラカルト | 鏡の日記 | 軽い重さ | |||||||||||||
| 託された笑み | 光る刃 | 雑踏の明日 | 検索の仕方 | |||||||||||||
| ‥ | 行間から | 泡沫の在処 | 単に | |||||||||||||
| 空気の贈りもの | 転嫁の明日 | 見知らぬ歳月 | 切り替え | |||||||||||||
| 陰圧 | 眩暈 | 凪 | 追う | |||||||||||||
| より遠く | 白い提灯 | 何処へ | 樹海 | |||||||||||||
| しりとり | 符号と証 | 遠景 | 線へ | |||||||||||||
| 対峙の行方 | 疾走のあと | 遥かな香り | 重なる夢 | |||||||||||||
| ゲーム | 退化の改新 | 風の日記 | 朝礼 |
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| プライド |
|
| 催しもの会場でヨーヨー売りを手伝った | |
| うまくできたときの子どもたちの歓声と | |
| にわか売り子の私のはしゃいだ声が | |
| 秋の空にこだまする | |
| 大抵は家族づれできているのに | |
| ひとりで ただ見ている女の子がいた | |
| やってみる? と声をかけると | |
| 首を横にふり うつむいた | |
| しばらくすると またきている | |
| やってみる? と もういちど声をかけると | |
| お金がないから と言ってその場を離れた | |
| 何度目かにきたときは | |
| ちょうど人だかりが途切れたときだった | |
| お金はいらないからと言っても | |
| 水に浮かんだヨーヨーを見つめたままだ | |
| いっしょにやってみようかと誘うと | |
| ようやくはじめた | |
| じょうず じょうずと手をたたくと | |
| つりあげたヨーヨーを手に | |
| わきめもふらずに帰っていった | |
| あの子は喜んだのだろうか | |
| あどけなく いたいけなプライドを | |
| 傷つけはしなかったか | |
| 午後の陽が | |
| 人々で賑わう広場に鈍くそそいでいた | |
| 06/10/07 | |
| 風を |
|
| 走るたびにガタガタと音がして | |
| スムースに走らなくなった自転車 | |
| ん? | |
| 空気が抜けているのがわかった | |
| 生まれて初めてタイヤに空気を入れた | |
| これまでの人まかせを返上して | |
| 右 左 直進 急停車など | |
| こまわりのきく なんでもござれの名人技 | |
| サドルや荷台が錆びた自転車だけれど | |
| 腐っても鯛 | |
| 錆びても自転車 | |
| しょんぼりしていたタイヤが | |
| 新鮮な空気で満たされ | |
| はちきれそうになって風を切っている | |
| 06/09/30 | |
| 託された笑み |
|
| 金木犀が咲いた | |
| 葉と葉のあいだから | |
| 金色の 満面の笑みがこぼれる | |
| まもなく | |
| ほろほろと | |
| 木の涙が地面を染めるだろう | |
| 花びらとはいえないほどの | |
| ちいさな星たち | |
| 散ってしまったら | |
| 花とはよばれない非情 | |
| 来年がある | |
| 再来年がある | |
| ずっと先もある | |
| 06/09/23 | |
| ‥ |
|
| 〈など〉が | |
| ナド | |
| 等 | |
| ‥と変換された | |
| ‥は 二点リーダと付記されて | |
| などだらけ | |
| 否 なぞだらけ | |
| ‥も などだなんて | |
| なんど考えてもわからない | |
| 地味で目だたず | |
| ひかえめについてくるだけなのに | |
| そっとつなぐだけなのに | |
| 縁の下の力持ち | |
| 他にももっとあるという含みを持たせるとき | |
| まとめるとき | |
| けんそんした言いかたのとき | |
| さりげなく言葉と共存する〈など〉を | |
| とがめるものなど誰もいない | |
| 06/09/16 | |
| 空気の贈りもの |
|
| 1:1.618は | |
| 黄金比といわれる もっとも美しく | |
| 安定した比率だという | |
| すぐれた建造物 絵画 芸術作品などに | |
| それはみられるらしい | |
| 地球の随所で | |
| ハガキ 名刺 タバコの箱 新書などの | |
| 縦横の絶妙なバランス黄金比は | |
| ほっと安心できる存在 | |
| それすら感じさせない空気のような存在 | |
| 体型は無理にしても | |
| せめて足の爪か前歯一本だけでもあやかりたいものだ | |
| もっとも 爪や歯が夜ごと黄金に輝いていたら | |
| 不気味ではあるけれど | |
| あなたと私 | |
| 黄金比になれるか | |
| 06/09/09 | |
| 陰圧 |
|
| 吸うことは | |
| 神さまがくれた本能 | |
| 生まれながらにして具わった技術 | |
| 生きることへの第一歩 | |
| 泣くことで空腹を訴え | |
| 体全体を陰圧にするかのようにして | |
| 母乳を吸う赤ちゃんと | |
| それに応える母親は | |
| いつも 優しい絵になる | |
| かけがえのない時間を | |
| 母と子の一番美しい季節を | |
| 清々しい闘いのときを | |
| 私は今頃になって気づいた | |
| 麺類を食べるときは | |
| 音をたてて すすってもいいという不文律があり | |
| 大抵の人は知らぬまに習得しているのに | |
| すすることができない人がいるという | |
| 吸うことと すすることは似たもの同士 | |
| 違うのは | |
| 生存の必須条件か否かだろうか | |
| 生きることへの憧れの差だろうか | |
| 06/09/02 | |
| より遠く |
|
| 頭も 顔も 胸も 腹も、手足も | |
| 痒かったら 自分で掻くことができる | |
| 唯一 遠く手が届きにくいのは背中 | |
| 背中掻いて と私は夫に頼む | |
| ポリポリポリ | |
| もっと右 あ 左 いや もっと下 | |
| ありがとう ついでに肩ももんでね | |
| 背中掻いてくれ と夫は私に言う | |
| 広くて大きな背中を | |
| ポリポリポリ ポリポリポリ | |
| もっと右 あ 左 いや もっと下 | |
| もういいかい? | |
| もういいよ | |
| 海原が 岩盤が | |
| 去年の夏から行方不明 | |
| 私は30センチのプラスチックの物差しで | |
| 背中を掻いている | |
| 06/08/26 | |
| しりとり |
|
| 目覚まし時計が止まった | |
| だいじょうぶ | |
| 置時計があるから | |
| 置時計も止まった | |
| まだ余裕がある | |
| 柱時計があるから | |
| 柱時計も止まった | |
| ぜ ん め つ | |
| 電池切れか故障か分からないまま | |
| とりあえず電池を買い 交換した | |
| 当然のように | |
| なにくわぬ顔で日常が動きはじめた | |
| 止まることは不幸なことか | |
| 動くことは幸せなことか | |
| かざぐるまがまわっている | |
| 06/08/19 | |
| 対峙の行方 |
|
| 命は いつも | |
| 早朝の目覚めの時刻にやってくる | |
| 本気で向きあっているわけじゃないわ | |
| かすかな風を感じるだけで | |
| 日々の雑事にまぎれ | |
| 忘れてしまう程度のことだともわかっている | |
| 巷でもきっと | |
| 君の存在はそんなものかもしれないわね | |
| 人は 日々なにかに対峙し | |
| ひそかに抵抗し | |
| しなやかに 生きていくものなの | |
| 目覚めたばかりの孤独な時刻に | |
| やみくもに訪ねてくるのはやめてね | |
| つよきで たよりなげで こわれそうで | |
| えたいのしれない未確認物体が | |
| いくつもの朝に伴走している | |
| 06/08/12 | |
| ゲーム |
|
| 待ち合わせをしているらしい人たちが | |
| 携帯電話を片手に | |
| みどりの窓口のまえに立っている | |
| 待ち人があらわれると | |
| かるく手をあげ | |
| にっこりと微笑み | |
| 嬉々として歩みさってゆく | |
| 〈幸せなんだ きっと〉 | |
| 私は 幸せゲームを視界にいれ | |
| 涼しげに | |
| 否 汗をぬぐいながら通りすぎる | |
| みどりの窓口から | |
| わずかに冷気がこぼれていた | |
| 06/08/05 | |
| 交錯 |
|
| 狭いけもの道にそって | |
| 月見草が咲いていた | |
| 仏花を買いにいく | |
| ただそれだけのことだったのに | |
| 月見草の海を見たとき | |
| ふいにこみあげてくるものがあった | |
| うまれる前から知っていた風景に出会った | |
| という気がしたのか | |
| 音楽をきいて その当時の情景を思いだす | |
| という類のことだったのか | |
| 亡くなったひとの面影を花のなかに見たのか | |
| それらの幾つもの思いが | |
| いっしゅん交錯したのかもしれない | |
| 数日たっても | |
| 私のなかで月見草は咲きつづけている | |
| 06/07/29 | |
| 期限アラカルト |
|
| 菓子折をもらった | |
| 賞味期限が切れていた | |
| 善意の解釈をしながらも | |
| ほんとうは少し傷ついた | |
| 賞味期限が当日の水菓子を | |
| 了解を得てから人にあげた | |
| 了解が朗らかに笑っていた | |
| (朝採りの)枝豆たべる? | |
| と 自家栽培をしている人から電話があった | |
| いただくわ と勢いよく即答した | |
| 賞味期限の切れたプリンをたべたら | |
| おなかがクックッと笑った | |
| それぞれの賞味期限が | |
| 至上命令のもと周りを一瞥している | |
| 06/07/22 | |
| 光る刃 |
|
| 深い夜に | |
| 包丁を研ぐ音が聞こえてくる | |
| 幻聴か事実か | |
| 夢か現(うつつ)か判然としない | |
| 私は 安達が原の鬼ばばぁ の | |
| おどろおどろしい昔話を思いだし | |
| かなしばりにあったように | |
| 布団のなかで身をこわばらせる | |
| うごいてはいけない | |
| みつからないように息をひそめて | |
| じっとしているにかぎる | |
| もうすぐ夜があけるから | |
| あけがた 風もないのに | |
| カーテンがさわさわと鳴る音や | |
| 建具が軋む音は 私のつぶやき | |
| 薄紫色をした煙草の煙が | |
| あかるんできた障子に吸いこまれてゆく | |
| 06/07/15 | |
行間から |
|
| 「用件のみにて失礼致します」のフレーズを | |
| 好んで使っていたころがあった | |
| こざっぱりと剪定された文章も | |
| 嫌いではない 今も | |
| なのに 人からその類のメールがくると | |
| (便箋に書かれた手紙は既に神話) | |
| 私は行間に目をこらしてしまう | |
| 剪定された切り口からの樹液を | |
| その人の体熱で温められたひと粒の言葉を | |
| わずかな肉声を | |
| つい 探してしまうのだ | |
| 恋をしている女のように | |
| 乳飲み子が母親のお乳をせがむように | |
| |
|
| 今日 私は | |
| 香りも風味もない無味乾燥なメールを | |
| 送信した | |
| 06/07/08 | |
| 転嫁の明日 |
|
| 眠いのは 眠りすぎたせい | |
| 空腹なのは 飽食のせい | |
| 涙がでないのは 寂しさのせい | |
| 空が青いのは 空が死んだせい | |
| 僕はなにひとつ悪いことはしていない | |
| ただ せんない詩を書き | |
| 日々を噛んでいるだけなんだ | |
| 今日も空は 勝手に青かった | |
| 06/07/01 | |
| 眩暈 |
|
| なかなか来なかったバスが | |
| ようやく来たものの | |
| 行き先の表示は「回送」 | |
| 当然のように | |
| 目のまえを すうっと快走してゆく | |
| からっぽで走るなら | |
| のせてくれればいいのに と | |
| 私は定番のつぶやきを口にする | |
| 回送は 時間の調整 | |
| 運転士にとっては | |
| 乗客に気を使わないですむ貴重な時間 | |
| いこいのひとときなのかもしれないと | |
| 思いなおしつつも | |
| うらめしげにバスの後ろ姿をみおくる | |
| 私のなかの回想は | |
| 通りすぎることなく どうどうめぐり | |
| 眩暈をひきつれて | |
| 06/06/24 | |
| 白い提灯 |
|
| モシモシ モシモ〜シ 聞こえる? | |
| 雲の奥のあなたの住処には | |
| 電波が届きにくいみたいね | |
| でも聞いてね | |
| 新盆のとき 迷わないで家に帰ってこられるように | |
| 目印に白い提灯を軒下に吊るす慣わしがあるんですって | |
| 知ってた? | |
| 吊るせるような軒下がないんですけど と | |
| 〈お仏壇のハセガワ〉の店員さんに言ったら | |
| ベランダやカーテンレールに吊るしてもいいって | |
| おしえてくれたわ | |
| むかしから 蛍光灯の取替えなどは | |
| あなたの役目だったわね | |
| 「係り活動」だなんて暗黙の了解をしあって | |
| あいかわらず私は高いところが苦手なの | |
| だからお願い | |
| 新盆にまにあうように | |
| とりつけにきてほしいの | |
| そういっちゃなんだけど | |
| 一石二鳥っていうもんよ | |
| 私にも会えるし | |
| 予行演習にもなるはずよ | |
| 白い提灯がさがっている他の家に | |
| まちがって入っていかないための ね | |
| 話 変わるけど 今年もツバメがきたのよ | |
| モシモシ モシモ〜シ 聞こえてた? | |
| 06/06/17 | |
| 符号と証 |
|
| 事件のあと | |
| 疑われる立場の女性は | |
| 一線を画され | |
| 呼び捨てられているような | |
| 〈おんな〉 というかりそめの | |
| 冷やかな呼称で報道される | |
| 〈おんな〉から | |
| 単なる符号 | |
| あるいは 愛されている証の | |
| 出生のときにもらった名前と | |
| うけつがれた苗字に戻る日 | |
| 母親の胎内にかえっていくのだろうか | |
| たったひとりで | |
| 体をかがめた胎児になって | |
| 06/06/10 | |
| 疾走のあと |
|
| おなじみの舗道を | |
| 目的もなく 自転車で走る | |
| 疾走のあと | |
| ペダルを踏むのをやめても | |
| 自転車は穏やかな余力で走り続ける | |
| ジョギングをする人たちがいる | |
| カラスが啼きながら旋回している | |
| 「余力」「余生」「余命」の〈余〉は | |
| 余りもの ということではなく | |
| 疾走のあとの優しいご褒美 | |
| ゆたかさと ねぎらいのことば | |
| 新緑が降るなか | |
| 私は ゆらり ゆらり と | |
| 余力に身をゆだねながら | |
| 舗道の人になる | |
| 06/06/03 | |
退化の改新 |
|
| 使わないと退化する | |
| という法則をあてはめると | |
| 私の目のまわりや | |
| 口のまわりや | |
| 頬の筋肉は | |
| 限りなく退化しているに違いない | |
| 愛を見つめることも | |
| 恋を語ることも | |
| 人と話をすることも | |
| 笑うことも なくなった | |
| 或は めっきり減ってしまった目や口や頬 | |
| 15+5+10=30(分) が | |
| 今日 人と話をした時間 | |
| 15+5+3=23(分) が | |
| 用事がらみの通話時間 | |
| 0.5×2=1.0(分) が | |
| 文鳥への〈おはよう〉〈おやすみ〉などの | |
| あいさつの時間 | |
| 今宵 ひとり言をいいながら | |
| 顔の筋肉トレーニングでもしようか | |
| 腹式呼吸をしながら | |
| ア. イ .ウ. エ .オ. と | |
| 発声練習でもしてみようか | |
| 小糠雨が | |
| 窓を 草木を 私を ぬらしている | |
| 06/05/27 | |
| 明日の量 |
|
| ざるいっぱいの春菊をゆがいて | |
| 冷水にさらし しぼったら | |
| ひとにぎりの量になった | |
| 〈ごまあえにしよう〉 | |
| 雑多な昨日をゆがいて | |
| 冷水にさらし しぼったら | |
| 昨日が小さくなった | |
| 無垢な明日が | |
| 大手を広げて待機している | |
| 06/05/20 | |
| 鏡の日記 |
|
| 目を瞑ったら | |
| まぶたの裏側が冷たかった | |
| 目は | |
| 外に飛びだした脳の一部らしいから | |
| 脳そのものに違いない | |
| それを白日のもとに晒すのが | |
| 目という鏡 | |
| まっしろな昼下がり | |
| ふりしきる五月雨 | |
| かなしいほどの新緑 | |
| てもちぶさたの椅子 | |
| ぬくもりが消えた部屋 | |
| なりやまない電話 | |
| しずんでゆく太陽の残照などが | |
| 脈絡もなくやってきて | |
| まぶたの裏側をひんやりさせる | |
| 私は今日 鏡をみがく | |
| 息をふきかけながら | |
| 06/05/13 | |
| 雑踏の明日 |
|
| 逃げるときは | |
| ただひたすら逃げることね | |
| ホテルや旅館に身を潜めるのは危険よ | |
| すぐに面が割れてしまうわ | |
| 山奥や沼のなかに隠れても | |
| 警察犬などに追われるのがオチよ | |
| そう 雑踏のなかが穴場かしら | |
| 雑踏という集団はね 個性がないの | |
| コピーされた顔のオンパレードにまぎれこむのが | |
| 良策かもしれないわね | |
| そのあとはどうするかって? | |
| とりこし苦労は禁物よ | |
| 逃げるが勝ちっていうじゃない? | |
| ほとぼりがさめたころ | |
| なにごともなかったように | |
| すずしげな顔をして出てくることね | |
| 雑踏以外は誰も覚えてやしないわ たぶん | |
| 06/05/06 | |
| 泡沫の在処 |
|
| 知らぬまに | |
| 腕にキスマークがついていた | |
| もちろん心当たりはない | |
| 家具などにぶつかった覚えもない | |
| 私の腕を | |
| 唇のかたちに紅く染めたのは誰? | |
| そのおかたは どこから飛んできて | |
| どこへ飛びさっていったのだろう | |
| ときめきにも似たおもいで | |
| こわいもの見たさで | |
| まいにち私はみていた | |
| そしてそれは | |
| 日がたつにつれ茶褐色になり | |
| やがて 消えた | |
| ひがな ぶらぶらと腕を揺らしながら | |
| 色あせた記憶をなぞっている | |
| 06/04/29 | |
| 見知らぬ歳月 |
|
| まあたらしい駅の前に | |
| 木が植えられようとしていた | |
| 木はガリバーに | |
| 木の中ほどまで登って指図している人や | |
| クレーン車を操る人や | |
| まわりでなにか叫んでいる人たちは | |
| 小人のようにみえる | |
| スローモーションで持ちあげ | |
| 植えこもうとしているのにうまくいかず | |
| なんども試みている | |
| こもを被った根の大きさと | |
| 掘った土の周囲や深さの計測は正しかったか | |
| なにより | |
| 木は植えられることを拒んではいなかったか | |
| 人は道すがら 気まぐれに見あげるだろう | |
| いつしか 風景にとけこんだ木と一緒に | |
| きざまれていく時の長さを | |
| 06/04/22 | |
| 凪 |
|
| 親切は | |
| ちいさく | |
| かわいらしく | |
| めだたず | |
| さりげなく | |
| 軽いほどいい | |
| うなずき | |
| ほほえむだけでもいい | |
| たとえば | |
| 走ってくる人をいっしゅん待つ | |
| エレベーターでありたい | |
| バスや電車の座席を | |
| 少しつめてあげられるお尻でありたい | |
| 親切は タンポポの綿毛のように | |
| かろやかに飛んでゆき | |
| 凪いだ湖面に舞い降りる | |
| 06/04/15 | |
| 何処へ |
|
| 偏屈に引きこもり | |
| 針穴ほどの窓から | |
| ときどき外を眺める | |
| 〈朝晩の判別ぐらいはつくわ〉 | |
| 月の光がわずかにさしこみ | |
| 太陽の温もりが透過し | |
| 花の香りも届く | |
| 草木の息吹も聞こえる | |
| 〈届くものがあれば生きられる〉 | |
| かたつむりのような殻を背に | |
| 私は明日 汽車に乗る | |
| 06/04/08 | |
| 遠景 |
|
| チューリップが蕾を生んだ | |
| 緑色のとんがり帽子をかぶって | |
| 口をすぼめている | |
| つんつんとユリも頭を出しはじめた | |
| あなたが土のなかに遺していったチューリップ | |
| カサブランカ 山ユリ 鬼ユリなどの球根は | |
| あなたの化身 | |
| 土が あなたを育んでいる | |
| いま 私は | |
| 欲しいものなど何もない | |
| 06/04/01 | |
| |
|
| 遥かな香り |
|
| 沈丁花が咲いた | |
| 星のかけらを集めた形で | |
| 定められた香りを放ちながら | |
| 花たちは 誰に教わったわけでもなく | |
| 生まれながらにそなわった香りを | |
| 終生まもりつづける | |
| かたくななまでの律儀さで | |
| しずかな礼儀正しさで | |
| 人は花の香りを | |
| 幾つぐらいのときに覚えるのだろう | |
| 母親の胎内で既に知ってしまうのだろうか | |
| 記憶された香りは | |
| けっして人を裏切らない | |
| 反して | |
| 人は人を 涼しげに裏切るときがある | |
| 心がかわることもある | |
| 季節の移ろいのように | |
| かわったことさえ気づかずに | |
| 06/03/25 | |
| 風の日記 |
|
| 病院で支払いをしようとしたとき | |
| うっかり硬貨をフロアにぶちまけてしまった | |
| 硬貨たちはころころと転がったあと | |
| びたっと止まった | |
| 拾うのを手伝おうかどうしようかと | |
| ためらっている男性の視線を | |
| 私は背後に感じていた | |
| 私が拾い終わったとき | |
| フロアを見渡したその人の目は | |
| 大丈夫 もう落ちてないよ と語っていた | |
| 受付の女性は | |
| お手伝いできずにすみません と | |
| カウンターから出てきて言ってくれた | |
| 春の風がふいていた | |
| 06/03/18 | |
| 了解 |
|
| 豆類を料理する前には | |
| かならず ひと晩 水にひたしておく | |
| 騒がしい日中ではなく | |
| きまって 夜に | |
| 豆たちは | |
| 夜通しで夢をふくらませる | |
| 朝になると | |
| 満月のような豆たちが | |
| 鍋いっぱいに広がっている | |
| 夜は夜の | |
| 朝は朝の | |
| 暗黙の了解が ほほ笑む | |
| 06/03/11 | |
軽い重さ |
|
| 浴室の排水口や畳のうえに | |
| 私が落ちている | |
| かさぶたが剥れるように | |
| 私の一部が脱落する | |
| 数本の髪にも | |
| なにがしかの重さがあるに違いない | |
| 脳細胞もまた減ってゆく | |
| どこへ行ってしまうのだろう | |
| 閉ざされた頭という美しい宇宙から | |
| どんなふうに飛びたっていくのだろう | |
| わずかな重さを背にして | |
| 髪や脳細胞が減った分だけ | |
| 消滅した分だけ 私は軽くなる | |
| いっそ清々しく | |
| 見えるものと見えないものが混在し | |
| 日々せめぎあっている | |
| 06/03/04 | |
| 検索の仕方 |
|
| 握りこぶしを作ると | |
| 山が切りたつ | |
| 谷底を水色の静脈が走る | |
| 山は大の月の31日 | |
| 谷は小の月の30日 | |
| 例外は28日 | |
| 例外の例外は閏年の29日 | |
| 誰がいつ発見したのだろう | |
| とても簡単で優しい検索の仕方だ | |
| あなたは 春 谷で生まれ | |
| 7月の山で逝った | |
| 私は冬の山で生まれた | |
| 先のことは 検索不能だ | |
| 06/02/25 | |
単に |
|
| トラウマという馬が | |
| 私のなかに棲んでいる | |
| うたた寝をしていると思いきや | |
| ときおり けたたましく嘶きながら | |
| 私のなかを駆けまわる | |
| 濃霧や靄で包囲しようとしても | |
| 涙水で押し流そうとしても | |
| よしよしと なだめてみても | |
| 到底たちうちできない | |
| きみの棲家は | |
| ひろい牧場(まきば)がお似合いよ | |
| 牧草だって干し草だって | |
| いっぱいあるはずよ | |
| こんなに狭いところは窮屈でしょう | |
| おいだすつもり? なんて言わないでね | |
| 単に 白旗をあげるだけよ | |
| たてまえは 一身上の都合にしておくわね | |
| さあ 見送ってあげる | |
| 06/02/18 | |
| 切り替え |
|
| 小学生の頃のクラス替えは | |
| 別れのシミュレーションだったのだろうか | |
| 人と離れる心細さや | |
| 未知への不安の | |
| 歳をかさねるたびに | |
| 出会いよりも多くなる別れ | |
| 三月に転勤になる と告げたときの | |
| その人の横顔を私はみている | |
| 心にきざんでいる | |
| 春は きらいだ | |
| 06/02/11 | |
| 追う |
|
| 夢は 太古からやってくるのだろうか | |
| それとも 近場から | |
| 思いつきでやってくるのだろうか | |
| みじんの作為もなく | |
| はじまりは | |
| 輪郭が不鮮明だけれど | |
| ある日とつぜん | |
| その顔貌と容姿をくっきりとあらわす | |
| そして | |
| 細胞と細胞は手をつなぎ | |
| しだいに増殖してゆく | |
| 夢は記憶に変換され | |
| 細胞に刷りこまれる | |
| ほほえみながら | |
| 音楽をかなでながら | |
| 体中を闊歩するから | |
| 容易に追いつけない | |
| 06/02/04 | |
| 樹海 |
|
| ドンファンという呼称は | |
| 揶揄か 蔑称か 羨望か | |
| すくなくとも尊称ではあるまい | |
| 死語になってしまったのか | |
| ちかごろ聞かない | |
| ドンファンといわれている人の | |
| 心の底を私は見たことがない | |
| 心の声を聞いたことがない | |
| 浮き草のように揺れる業の | |
| とどまることのできない性(さが)の | |
| 行き先を私は知らない | |
| いつも揺れているものは | |
| 日々さがしているものは | |
| なんだろう | |
| 私のなかで | |
| 06/01/28 | |
| 線へ |
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| 期待は線ではなく点がいい | |
| それも 針先ほどの | |
| 消えいりそうな薄墨色の | |
| 期待はずれだったわ | |
| 期待していたの? | |
| ええ 少しはね | |
| 点だもの すぐに消えるわ | |
| 点は自然消滅したり | |
| 波にさらわれたりする | |
| にぎやかで哀しい道化師 | |
| 期待していたよりよかったわ | |
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| 少しふくらんだ点が | |
| 線をさがしている | |
| 06/01/21 | |
| 重なる夢 |
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| みずみずしく輝き | |
| 強気だったころの | |
| あなたの夢をみた | |
| 生きていてくれたのね | |
| と 私は勢いこんで | |
| 機関銃のように話しつづけた | |
| 骨太で筋肉質な肩に頬をよせて | |
| あなたに夢の中で会えたことを | |
| あなたに告げたくて | |
| もどかしがっている夢を | |
| 夢のなかで見た | |
| 夢にでてくる人は | |
| いつしか遠ざかっていくのだと | |
| 聞いたことがある | |
| あまたある家を間違えず | |
| 風と一緒に雨戸を叩いてくれたのは | |
| あなた | |
| 06/01/14 | |
| 朝礼 |
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| 冷えこんだ朝の部屋に | |
| エアコンの温風がやってきて | |
| 頬をなでる | |
| レースのカーテンが | |
| 鳥の羽のように微かにゆれる | |
| 無表情でニュースを伝える | |
| 凍りつきそうな新聞 | |
| アナウンサーたち | |
| コタツが ほっこりと温かくなる | |
| パソコンが立ちあがる | |
| 炊飯器がひとりごとを言う | |
| たくさんのものを抱えた朝が | |
| するりとやってくる | |
| 06/01/07 | |