生まれたての詩.11

プライド 交錯 明日の量 了解
風を 期限アラカルト 鏡の日記 軽い重さ
託された笑み 光る刃 雑踏の明日 検索の仕方
行間から 泡沫の在処 単に
空気の贈りもの 転嫁の明日 見知らぬ歳月 切り替え
陰圧 眩暈 追う
より遠く 白い提灯 何処へ 樹海
しりとり 符号と証 遠景 線へ
対峙の行方 疾走のあと 遥かな香り 重なる夢
ゲーム 退化の改新 風の日記 朝礼


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 プライド

催しもの会場でヨーヨー売りを手伝った
うまくできたときの子どもたちの歓声と
にわか売り子の私のはしゃいだ声が
秋の空にこだまする

大抵は家族づれできているのに
ひとりで ただ見ている女の子がいた
やってみる? と声をかけると
首を横にふり うつむいた
しばらくすると またきている
やってみる? と もういちど声をかけると
お金がないから と言ってその場を離れた
何度目かにきたときは
ちょうど人だかりが途切れたときだった
お金はいらないからと言っても
水に浮かんだヨーヨーを見つめたままだ
いっしょにやってみようかと誘うと
ようやくはじめた
じょうず じょうずと手をたたくと
つりあげたヨーヨーを手に
わきめもふらずに帰っていった

あの子は喜んだのだろうか
あどけなく いたいけなプライドを
傷つけはしなかったか
午後の陽が
人々で賑わう広場に鈍くそそいでいた

                  06/10/07

 
 風を

走るたびにガタガタと音がして
スムースに走らなくなった自転車
ん?

空気が抜けているのがわかった
生まれて初めてタイヤに空気を入れた
これまでの人まかせを返上して

右 左 直進 急停車など 
こまわりのきく なんでもござれの名人技
サドルや荷台が錆びた自転車だけれど
腐っても鯛
錆びても自転車

しょんぼりしていたタイヤが
新鮮な空気で満たされ 
はちきれそうになって風を切っている

                 06/09/30



 
 
 託された笑み

金木犀が咲いた
葉と葉のあいだから
金色の 満面の笑みがこぼれる

まもなく 
ほろほろと
木の涙が地面を染めるだろう

花びらとはいえないほどの
ちいさな星たち
散ってしまったら
花とはよばれない非情

来年がある
再来年がある
ずっと先もある

                  06/09/23








 

〈など〉が
ナド  
と変換された 
は 二点リーダと付記されて

などだらけ
否 なぞだらけ
‥も などだなんて
ど考えてもわからない

地味で目だたず 
ひかえめについてくるだけなのに
そっとつなぐだけなのに
縁の下の力持ち

他にももっとあるという含みを持たせるとき
まとめるとき
けんそんした言いかたのとき 
さりげなく言葉と共存する〈など〉を
とがめるものなど誰もいない

                 06/09/16

 
 空気の贈りもの

1:1.618は
黄金比といわれる もっとも美しく
安定した比率だという
すぐれた建造物 絵画 芸術作品などに
それはみられるらしい
地球の随所で 

ハガキ 名刺 タバコの箱 新書などの
縦横の絶妙なバランス黄金比は
ほっと安心できる存在
それすら感じさせない空気のような存在

体型は無理にしても
せめて足の爪か前歯一本だけでもあやかりたいものだ
もっとも 爪や歯が夜ごと黄金に輝いていたら
不気味ではあるけれど

あなたと私
黄金比になれるか

                  06/09/09






 
 
 
 陰圧

吸うことは 
神さまがくれた本能
生まれながらにして具わった技術 
生きることへの第一歩

泣くことで空腹を訴え
体全体を陰圧にするかのようにして
母乳を吸う赤ちゃんと
それに応える母親は
いつも 優しい絵になる
かけがえのない時間を
母と子の一番美しい季節を
清々しい闘いのときを
私は今頃になって気づいた

麺類を食べるときは
音をたてて すすってもいいという不文律があり
大抵の人は知らぬまに習得しているのに
すすることができない人がいるという
吸うことと すすることは似たもの同士
違うのは 
生存の必須条件か否かだろうか 
生きることへの憧れの差だろうか 

                 06/09/02

 
 より遠く

頭も 顔も 胸も 腹も、手足も 
痒かったら 自分で掻くことができる
唯一 遠く手が届きにくいのは背中

背中掻いて と私は夫に頼む
ポリポリポリ 
もっと右 あ 左 いや もっと下
ありがとう ついでに肩ももんでね

背中掻いてくれ と夫は私に言う
広くて大きな背中を
ポリポリポリ ポリポリポリ
もっと右 あ 左 いや もっと下
もういいかい?
もういいよ

海原が 岩盤が
去年の夏から行方不明
私は30センチのプラスチックの物差しで
背中を掻いている

                  06/08/26



 
 しりとり

目覚まし時計が止まった
だいじょうぶ 
置時計があるから

置時計も止まった
まだ余裕がある 
柱時計があるから

柱時計も止まった
ぜ ん め つ

電池切れか故障か分からないまま
とりあえず電池を買い 交換した

当然のように
なにくわぬ顔で日常が動きはじめた

止まることは不幸なことか
動くことは幸せなことか

かざぐるまがまわっている

                  06/08/19




 
 

 対峙の行方

命は いつも 
早朝の目覚めの時刻にやってくる

  本気で向きあっているわけじゃないわ
  かすかな風を感じるだけで
  日々の雑事にまぎれ
  忘れてしまう程度のことだともわかっている
  巷でもきっと
  君の存在はそんなものかもしれないわね
  人は 日々なにかに対峙し
  ひそかに抵抗し
  しなやかに 生きていくものなの
  目覚めたばかりの孤独な時刻に
  やみくもに訪ねてくるのはやめてね

つよきで たよりなげで こわれそうで
えたいのしれない未確認物体が
いくつもの朝に伴走している

                   06/08/12




 
 ゲーム

待ち合わせをしているらしい人たちが
携帯電話を片手に
みどりの窓口のまえに立っている
待ち人があらわれると
かるく手をあげ 
にっこりと微笑み
嬉々として歩みさってゆく
 〈幸せなんだ きっと〉

私は 幸せゲームを視界にいれ
涼しげに 
否 汗をぬぐいながら通りすぎる
みどりの窓口から
わずかに冷気がこぼれていた

                   06/08/05







 
 交錯

狭いけもの道にそって
月見草が咲いていた

  仏花を買いにいく
ただそれだけのことだったのに
月見草の海を見たとき
ふいにこみあげてくるものがあった

うまれる前から知っていた風景に出会った
という気がしたのか
音楽をきいて その当時の情景を思いだす
という類のことだったのか
亡くなったひとの面影を花のなかに見たのか
それらの幾つもの思いが
いっしゅん交錯したのかもしれない

数日たっても
私のなかで月見草は咲きつづけている 

                  06/07/29



 
 期限アラカルト

菓子折をもらった
賞味期限が切れていた
善意の解釈をしながらも
ほんとうは少し傷ついた

賞味期限が当日の水菓子を
了解を得てから人にあげた 
了解が朗らかに笑っていた

(朝採りの)枝豆たべる?
と 自家栽培をしている人から電話があった
いただくわ と勢いよく即答した

賞味期限の切れたプリンをたべたら
おなかがクックッと笑った

それぞれの賞味期限が
至上命令のもと周りを一瞥している

                   06/07/22




 
 光る刃

深い夜に
包丁を研ぐ音が聞こえてくる
幻聴か事実か 
夢か現(うつつ)か判然としない
私は 安達が原の鬼ばばぁ の
おどろおどろしい昔話を思いだし
かなしばりにあったように
布団のなかで身をこわばらせる
うごいてはいけない 
みつからないように息をひそめて
じっとしているにかぎる
もうすぐ夜があけるから

あけがた 風もないのに
カーテンがさわさわと鳴る音や
建具が軋む音は 私のつぶやき
薄紫色をした煙草の煙が
あかるんできた障子に吸いこまれてゆく

                  06/07/15






 
 行間から

「用件のみにて失礼致します」のフレーズを
好んで使っていたころがあった
こざっぱりと剪定された文章も
嫌いではない 今も
なのに 人からその類のメールがくると
  (便箋に書かれた手紙は既に神話)
私は行間に目をこらしてしまう
剪定された切り口からの樹液を
その人の体熱で温められたひと粒の言葉を
わずかな肉声を 
つい 探してしまうのだ
恋をしている女のように
乳飲み子が母親のお乳をせがむように
 
今日 私は
香りも風味もない無味乾燥なメールを
送信した

                   06/07/08







 
 転嫁の明日

眠いのは 眠りすぎたせい

空腹なのは 飽食のせい

涙がでないのは 寂しさのせい

空が青いのは 空が死んだせい

  僕はなにひとつ悪いことはしていない
  ただ せんない詩を書き
  日々を噛んでいるだけなんだ

今日も空は 勝手に青かった

                   06/07/01









 
 眩暈

なかなか来なかったバスが
ようやく来たものの
行き先の表示は「回送」
当然のように
目のまえを すうっと快走してゆく
からっぽで走るなら
のせてくれればいいのに と
私は定番のつぶやきを口にする

回送は 時間の調整
運転士にとっては
乗客に気を使わないですむ貴重な時間
いこいのひとときなのかもしれないと   
思いなおしつつも
うらめしげにバスの後ろ姿をみおくる

私のなかの回想は
通りすぎることなく どうどうめぐり
眩暈をひきつれて

                  06/06/24

 
 白い提灯

モシモシ モシモ〜シ 聞こえる?
雲の奥のあなたの住処には
電波が届きにくいみたいね 
でも聞いてね
新盆のとき 迷わないで家に帰ってこられるように
目印に白い提灯を軒下に吊るす慣わしがあるんですって
知ってた?

吊るせるような軒下がないんですけど と
〈お仏壇のハセガワ〉の店員さんに言ったら
ベランダやカーテンレールに吊るしてもいいって
おしえてくれたわ

むかしから 蛍光灯の取替えなどは
あなたの役目だったわね
「係り活動」だなんて暗黙の了解をしあって

あいかわらず私は高いところが苦手なの
だからお願い
新盆にまにあうように
とりつけにきてほしいの
そういっちゃなんだけど 
一石二鳥っていうもんよ
私にも会えるし
予行演習にもなるはずよ
白い提灯がさがっている他の家に
まちがって入っていかないための ね

話 変わるけど 今年もツバメがきたのよ

モシモシ モシモ〜シ 聞こえてた?

                  06/06/17
 
 符号と証

事件のあと
疑われる立場の女性は
一線を画され
呼び捨てられているような
〈おんな〉 というかりそめの
冷やかな呼称で報道される

〈おんな〉から
単なる符号
あるいは 愛されている証の
出生のときにもらった名前と
うけつがれた苗字に戻る日
母親の胎内にかえっていくのだろうか
たったひとりで
体をかがめた胎児になって

                 06/06/10








 
 疾走のあと
 

おなじみの舗道を 
目的もなく 自転車で走る
疾走のあと
ペダルを踏むのをやめても
自転車は穏やかな余力で走り続ける

ジョギングをする人たちがいる
カラスが啼きながら旋回している

「余力」「余生」「余命」の〈余〉は
余りもの ということではなく
疾走のあとの優しいご褒美
ゆたかさと ねぎらいのことば

新緑が降るなか
私は ゆらり ゆらり と
余力に身をゆだねながら
舗道の人になる

                   06/06/03







 退化の改新

使わないと退化する
という法則をあてはめると
私の目のまわりや
口のまわりや
頬の筋肉は
限りなく退化しているに違いない

愛を見つめることも
恋を語ることも
人と話をすることも
笑うことも なくなった 
或は めっきり減ってしまった目や口や頬

15+5+10=30(分) が
今日 人と話をした時間
15+5+3=23(分) が
用事がらみの通話時間
0.5×2=1.0(分) が
文鳥への〈おはよう〉〈おやすみ〉などの
あいさつの時間

今宵 ひとり言をいいながら
顔の筋肉トレーニングでもしようか
腹式呼吸をしながら
ア. イ .ウ. エ .オ. と
発声練習でもしてみようか

小糠雨が
窓を 草木を 私を ぬらしている

                  06/05/27

 
 
 明日の量

ざるいっぱいの春菊をゆがいて
冷水にさらし しぼったら
ひとにぎりの量になった
〈ごまあえにしよう〉

雑多な昨日をゆがいて
冷水にさらし しぼったら
昨日が小さくなった

無垢な明日が
大手を広げて待機している

                  06/05/20











 
 鏡の日記

目を瞑ったら
まぶたの裏側が冷たかった 

目は 
外に飛びだした脳の一部らしいから
脳そのものに違いない
それを白日のもとに晒すのが
目という鏡

まっしろな昼下がり
ふりしきる五月雨
かなしいほどの新緑
てもちぶさたの椅子
ぬくもりが消えた部屋
なりやまない電話
しずんでゆく太陽の残照などが
脈絡もなくやってきて 
まぶたの裏側をひんやりさせる 

私は今日 鏡をみがく
息をふきかけながら 

                 06/05/13




 
 雑踏の明日

逃げるときは
ただひたすら逃げることね

ホテルや旅館に身を潜めるのは危険よ
すぐに面が割れてしまうわ
山奥や沼のなかに隠れても
警察犬などに追われるのがオチよ
そう 雑踏のなかが穴場かしら
雑踏という集団はね 個性がないの
コピーされた顔のオンパレードにまぎれこむのが
良策かもしれないわね
そのあとはどうするかって?
とりこし苦労は禁物よ
逃げるが勝ちっていうじゃない?

ほとぼりがさめたころ
なにごともなかったように
すずしげな顔をして出てくることね
雑踏以外は誰も覚えてやしないわ たぶん

                 06/05/06


 
 泡沫の在処

知らぬまに
腕にキスマークがついていた
もちろん心当たりはない
家具などにぶつかった覚えもない

私の腕を 
唇のかたちに紅く染めたのは誰?
そのおかたは どこから飛んできて
どこへ飛びさっていったのだろう

ときめきにも似たおもいで
こわいもの見たさで 
まいにち私はみていた
そしてそれは 
日がたつにつれ茶褐色になり  
やがて 消えた 

ひがな ぶらぶらと腕を揺らしながら
色あせた記憶をなぞっている 

                   06/04/29


 
 見知らぬ歳月

まあたらしい駅の前に
木が植えられようとしていた
木はガリバーに
木の中ほどまで登って指図している人や
クレーン車を操る人や
まわりでなにか叫んでいる人たちは
小人のようにみえる

スローモーションで持ちあげ
植えこもうとしているのにうまくいかず
なんども試みている
こもを被った根の大きさと
掘った土の周囲や深さの計測は正しかったか
なにより
木は植えられることを拒んではいなかったか

人は道すがら 気まぐれに見あげるだろう
いつしか 風景にとけこんだ木と一緒に
きざまれていく時の長さを

                 06/04/22

 
 凪

親切は
ちいさく
かわいらしく
めだたず
さりげなく
軽いほどいい
うなずき
ほほえむだけでもいい

たとえば
走ってくる人をいっしゅん待つ
エレベーターでありたい
バスや電車の座席を
少しつめてあげられるお尻でありたい

親切は タンポポの綿毛のように
かろやかに飛んでゆき
凪いだ湖面に舞い降りる

                  06/04/15




 
 何処へ

偏屈に引きこもり
針穴ほどの窓から
ときどき外を眺める
  〈朝晩の判別ぐらいはつくわ〉

月の光がわずかにさしこみ
太陽の温もりが透過し
花の香りも届く
草木の息吹も聞こえる
  〈届くものがあれば生きられる〉

かたつむりのような殻を背に
私は明日 汽車に乗る

                  06/04/08










 
 遠景

チューリップが蕾を生んだ
緑色のとんがり帽子をかぶって
口をすぼめている

つんつんとユリも頭を出しはじめた

あなたが土のなかに遺していったチューリップ  
カサブランカ 山ユリ 鬼ユリなどの球根は
あなたの化身 

土が あなたを育んでいる 

いま 私は
欲しいものなど何もない

                    06/04/01
                








 
 遥かな香り

沈丁花が咲いた
星のかけらを集めた形で
定められた香りを放ちながら

花たちは 誰に教わったわけでもなく 
生まれながらにそなわった香りを
終生まもりつづける
かたくななまでの律儀さで
しずかな礼儀正しさで

人は花の香りを
幾つぐらいのときに覚えるのだろう
母親の胎内で既に知ってしまうのだろうか
記憶された香りは
けっして人を裏切らない

反して 
人は人を 涼しげに裏切るときがある
心がかわることもある
季節の移ろいのように
かわったことさえ気づかずに

                  06/03/25




 
 風の日記

病院で支払いをしようとしたとき
うっかり硬貨をフロアにぶちまけてしまった
硬貨たちはころころと転がったあと 
びたっと止まった
拾うのを手伝おうかどうしようかと 
ためらっている男性の視線を
私は背後に感じていた

私が拾い終わったとき 
フロアを見渡したその人の目は 
大丈夫 もう落ちてないよ と語っていた
受付の女性は
お手伝いできずにすみません と
カウンターから出てきて言ってくれた

春の風がふいていた

                    06/03/18





 
 了解

豆類を料理する前には
かならず ひと晩 水にひたしておく
騒がしい日中ではなく
きまって 夜に 

豆たちは 
夜通しで夢をふくらませる
朝になると 
満月のような豆たちが
鍋いっぱいに広がっている
夜は夜の 
朝は朝の
暗黙の了解が ほほ笑む

                   06/03/11












 
 軽い重さ

浴室の排水口や畳のうえに
私が落ちている
かさぶたが剥れるように
私の一部が脱落する

数本の髪にも
なにがしかの重さがあるに違いない

脳細胞もまた減ってゆく
どこへ行ってしまうのだろう
閉ざされた頭という美しい宇宙から
どんなふうに飛びたっていくのだろう
わずかな重さを背にして

髪や脳細胞が減った分だけ
消滅した分だけ 私は軽くなる
いっそ清々しく

見えるものと見えないものが混在し
日々せめぎあっている

                  06/03/04

 
 検索の仕方

握りこぶしを作ると
山が切りたつ
谷底を水色の静脈が走る

山は大の月の31日
谷は小の月の30日
例外は28日
例外の例外は閏年の29日
誰がいつ発見したのだろう
とても簡単で優しい検索の仕方だ

あなたは 春 谷で生まれ
7月の山で逝った
私は冬の山で生まれた
先のことは 検索不能だ

              06/02/25               








 
 単に

トラウマという馬が
私のなかに棲んでいる
うたた寝をしていると思いきや
ときおり けたたましく嘶きながら
私のなかを駆けまわる
濃霧や靄で包囲しようとしても
涙水で押し流そうとしても
よしよしと なだめてみても
到底たちうちできない

  きみの棲家は
  ひろい牧場(まきば)がお似合いよ
  牧草だって干し草だって
  いっぱいあるはずよ
  こんなに狭いところは窮屈でしょう
  おいだすつもり? なんて言わないでね
  単に 白旗をあげるだけよ
  たてまえは 一身上の都合にしておくわね

  さあ 見送ってあげる

            06/02/18

 
 
 切り替え

小学生の頃のクラス替えは
別れのシミュレーションだったのだろうか
人と離れる心細さや
未知への不安の

歳をかさねるたびに
出会いよりも多くなる別れ

三月に転勤になる と告げたときの
その人の横顔を私はみている
心にきざんでいる

春は きらいだ

           06/02/11










 
 追う

夢は 太古からやってくるのだろうか
それとも 近場から
思いつきでやってくるのだろうか
みじんの作為もなく

はじまりは 
輪郭が不鮮明だけれど
ある日とつぜん
その顔貌と容姿をくっきりとあらわす
そして 
細胞と細胞は手をつなぎ
しだいに増殖してゆく

夢は記憶に変換され
細胞に刷りこまれる
ほほえみながら
音楽をかなでながら
体中を闊歩するから
容易に追いつけない

           06/02/04






 
 樹海

ドンファンという呼称は
揶揄か 蔑称か 羨望か
すくなくとも尊称ではあるまい
死語になってしまったのか
ちかごろ聞かない

ドンファンといわれている人の
心の底を私は見たことがない
心の声を聞いたことがない
浮き草のように揺れる業の
とどまることのできない性(さが)の
行き先を私は知らない

いつも揺れているものは
日々さがしているものは 
なんだろう
私のなかで

            06/01/28






 
 線へ

期待は線ではなく点がいい
それも 針先ほどの
消えいりそうな薄墨色の

  期待はずれだったわ
  期待していたの?
  ええ 少しはね
  点だもの すぐに消えるわ

点は自然消滅したり
波にさらわれたりする
にぎやかで哀しい道化師

  期待していたよりよかったわ
  
少しふくらんだ点が
線をさがしている

           06/01/21



 
 重なる夢

みずみずしく輝き
強気だったころの
あなたの夢をみた
生きていてくれたのね
と 私は勢いこんで
機関銃のように話しつづけた
骨太で筋肉質な肩に頬をよせて

あなたに夢の中で会えたことを
あなたに告げたくて  
もどかしがっている夢を
夢のなかで見た

夢にでてくる人は
いつしか遠ざかっていくのだと
聞いたことがある

あまたある家を間違えず
風と一緒に雨戸を叩いてくれたのは
あなた

          06/01/14





 
 朝礼

冷えこんだ朝の部屋に
エアコンの温風がやってきて
頬をなでる
レースのカーテンが 
鳥の羽のように微かにゆれる

無表情でニュースを伝える
凍りつきそうな新聞
アナウンサーたち

コタツが ほっこりと温かくなる
パソコンが立ちあがる
炊飯器がひとりごとを言う

たくさんのものを抱えた朝が
するりとやってくる

            06/01/07

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