生まれたての詩・15
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| 冬の音 | 眠りの街 | 風まかせ | 競演のとき | |||||||||||||
| 閻魔様の独白 | 星たち | 蜻蛉のとき | 万華鏡 | |||||||||||||
| 明日の風 | 日課 | 殿様 | かざぐるま | |||||||||||||
| 鳥に | 宴のあと | 立体と直球 | 軽やかに | |||||||||||||
| 願望 | 圏外 | 髭の日 | 寡黙な返球 | |||||||||||||
| 夕化粧 | 立秋の暦 | もしも | 幸せな朝 | |||||||||||||
| 歌うとき | 1パーセント重さ | 無機質な鉄則 | 探しもの | |||||||||||||
| 冬眠 | 2の兵 | 交代 | 海への径 | |||||||||||||
| 冷気 | 新生 | 無償の善意 | カプセルの独白 | |||||||||||||
| 待つ | 私自身に | 再生 | 今日から |
| 冬の音 |
| ボーンボーンと柱時計が鳴っている |
| 澄みきった朝の冷気のなかで |
| 頼りなげに |
| 正確に |
| 部屋はまだ凍っている |
| 融けるまで蒲団から首だけをだして |
| 今日という日を迎え撃つ |
| なにもない一日かもしれない |
| なにかがある一日かもしれない |
| 今日というカーテンを開けたら |
| なにが見えるだろうか |
| 明るんできた空に聞いてみる |
| 09/12/19 |
閻魔様の独白 |
| 嘘が呼吸している |
| 息切れしそうになりながら |
| あるいは平然と |
| 「嘘こぐど閻魔様にベロを抜かれる」 と |
| 言われていた幼かった私たち |
| 信じていたのだろうか |
| 信じていなかったのだろうか |
| ただ お寺にあった閻魔様や地獄の絵からは |
| おどろおどろしさが伝わってきて |
| 胸に迫ってきた |
| 年を重ねた今 |
| 閻魔様も怖くはなく |
| 自分がつく嘘も |
| 巷に氾濫している嘘も |
| 他人事のようにながめている |
| 心を痛めることもなく |
| 09/12/12 |
| 明日の風 |
| 風は何処へ行った? |
| 前日の天気予報では |
| 強風が吹き |
| 体感温度の低さが予想されていた |
| あにはからんや |
| そよと吹く風は優しく |
| 小春日和の穏やかさだ |
| 天気予報は |
| 雲隠れし去ってゆく |
| 明日の風は |
| 今日吹かない |
| 09/12/05 |
| 鳥に |
| 曇りの日に飛ぶヘリコプターは |
| ブルブルと寂しい音を震わせ |
| 鼠色の空にとけてゆく |
| 青空の日に飛ぶヘリコプターは |
| かろやかなメロディーを奏でながら |
| 鳥になる |
| 09/11/28 |
| 願望 |
| 一日に何度も |
| 上書き保存をする |
| 変わることへの願望が |
| マウスを握らせて |
| 上書きをしているうちに |
| 順次 私が消えてゆく |
| 未練がましく |
| たびたび引きかえしたりもする |
| あともどり 可とばかりに |
| 確定されるのは |
| 優柔不断の私そのものだ |
| ハツカネズミが |
| 今日も手元から離れない |
| 09/11/21 |
| 夕化粧 |
| おしろい花が咲いていた垣根が |
| ふと心をよぎる |
| 子どもたちがまだ小さかったころ |
| 私がまだ若かったころ |
| 見るともなく見ていた |
| 夏の夕暮れに咲き始めることから |
| 夕化粧という別名があるらしい |
| はかなく美しいその名を知ったのは |
| ずいぶん後のことだ |
| 小心という花言葉に |
| 自分自身を重ねながら |
| 薄暮の時刻を懐かしんでいる |
| 誰に見せようか 夕化粧 |
| 09/11/14 |
歌うとき |
| 小さな失敗 |
| 大きな失敗の |
| 線引きは曖昧だけれど |
| 失敗のたびに |
| 私 バカよね |
| おバカさんよね |
| と 聞き慣れたフレーズで歌う |
| それは 自嘲か 鼓舞か |
| 昨日 不用意に |
| シンビジュームの茎を折ってしまった |
| 初々しい蕾を守るべく |
| 支柱を立てようとした瞬間 |
| ポキッと音がした |
| 目の前が真っ暗になった |
| 暗闇のなかで私は |
| 目を凝らしている |
| おバカさんの歌を歌いながら |
| 09/11/07 |
| 冬眠 |
| 「見まい聞くまい語るまい」と |
| 最初に言ったのは誰だろう |
| 消極的のようでもあるし |
| 逃げのようでもあるこの言いかたが |
| 私は結構好きだ |
| 部屋が散らかっていても 見まい |
| 見なかったことにしよう |
| 嫌なことは 聞くまい |
| 聞かなかったことにしよう |
| 聞えないふりをしよう |
| 余計なことは 語るまい |
| もの言えば唇寒しともいうし |
| 寒いのは苦手だ |
| ぬくぬくと炬燵にもぐって |
| 見まい聞くまい語るまい方式で |
| 熊のように冬眠態勢に入ろう |
| 09/10/31 |
| 冷気 |
| スズメバチと思われる蜂が |
| 玄関先で息絶えていた |
| 阪神のチームカラーの洋服を着て |
| 大きな図体をして |
| 背中を丸め |
| 君は これまで |
| 誰を刺したか |
| 誰も刺さなかったか |
| 最後には自らを刺したのか |
| かつての強気な獰猛さはなく |
| ただ静止したままだ |
| 秋の冷気と |
| コンクリートの味気なさの上で |
| 09/10/17 |
| 待つ |
| 待針は 布がずれたり |
| 狂ったりしないように |
| 基点から基点まで |
| 留めておくのが役目 |
| チクチクチクと進んでくる針を |
| ひたすら待っている |
| まぁるい頭をひょっこりと出したり |
| 花かんむりをかぶったりしながら |
| 到着したわね |
| あとは引き受けたわ |
| 次の待針にバトンタッチするまで |
| 待つことは |
| 明日を迎えるためのリハーサル |
| 09/10/10 |
| 眠りの街 |
| 早朝 5時 |
| 街は眠っている |
| 目覚めているのは家々の門灯と |
| 電柱に灯された明かりだけだ |
| 柿が実っている |
| 金木犀の星が散っている |
| コスモスが揺れている |
| 心せかせながら |
| 郵便ポストまで 自転車を走らせる |
| 一刻も早く |
| その人に想いが届くように |
| 09/10/03 |
| 星たち |
| スターダストになった言葉たち |
| 詩の言葉が浮かんでこない |
| つっかえ棒を無くしたようで |
| ふわふわと頼りない |
| なのに 強がりではなく |
| すこしも寂しくないのはなぜ? |
| ものたりなさも感じないのはなぜ? |
| むしろ しがらみを振りきり |
| 恋の終わりのように妙に爽やかだ |
| そして今 |
| 罪を犯した者が現場に戻るように |
| おめおめと戻ってきた |
| 季節は確実に変わっていた |
| 金木犀の香りが秋を染めている |
| 09/09/26 |
| 日課 |
| 歯磨きは私の唯一の趣味 |
| 歯と歯の隙間まで念入りに磨く |
| テレビをみながら |
| 新聞を読みながら |
| ついでに舌磨きもする |
| 二枚舌に生えた苔を削ぎ |
| 口の中を清くタダシク保つために |
| 舌禍を防ぐために |
| 息爽やかを目ざすために |
| 歯と舌を磨くのが日課 |
| はあっ はあっ |
| これで大丈夫 |
| たぶん大丈夫 |
| 爽やかな一日が始まる筈だ |
| 昼食のあとも 夕食のあとも |
| 強迫観念に押されるように |
| 歯ブラシを手にしている |
| 09/09/19 |
| 宴のあと |
| 宴もたけなわ |
| 口元に食べものの一片がついていたのを |
| その人は声にださずに |
| ここ ここ と指をさして教えてくれた |
| それだけのことだったのに |
| ただちに私のなかの |
| 「いい人チーム」に登録された |
| ご飯粒を口のまわりにつけていると |
| おべんとうを持ってどこに行くの? |
| と言われたのは幾つぐらいのときだったろう |
| たぶん その瞬間 |
| 親指と人指し指でご飯粒をつまんで |
| 口のなかにほおりこんだに違いない |
| 口はなんでも知っている |
| 古びた歌詞を替え歌にしながら |
| 私は愛しい米粒を探している |
| 09/08/22 |
| 圏外 |
| 仲間内だけの話に興じ |
| 新しい顔を圏外におくのは |
| 寂しいことだ |
| 無意識だったとしても |
| ひょっとして頭の片隅で |
| その人のことを気遣いながらも |
| きっかけがつかめないのかもしれない |
| 人見知りをしているのかもしれない |
| 照れているのかもしれない |
| 新風に戸惑っているのかもしれない |
| あなたにも あなたにも |
| 残したくないトラウマの記憶 |
| 私のなかの遥かなトラウマが |
| 空に向かって走りだす |
| 09/08/15 |
| 立秋の暦 |
| 日めくりの暦が剥がされないまま |
| 二週間もひっそりと沈黙を保ち |
| 怠慢をつづけていた |
| 今日 まとめて剥がした |
| 単なる雑紙と化し |
| 色褪せた二週間分の暦の |
| 一枚一枚の間に挿まれていたのは |
| 言いそびれていたことだったか |
| 守りたかったことだったか |
| 悔いだったか |
| 秘めやかな想いだったか |
| バラの香りだったか |
| 立秋の小さな風が |
| そよと吹いた |
| 09/08/08 |
| 1パーセントの重さ |
| 手の平の面積は |
| 体全体の面積の1パーセントだという |
| わずかな広さの手の平が担う役割は |
| 曖昧に思えるのに |
| 鈍重に存在しているだけのようにみえるのに |
| 両手をあわせて神仏に祈るとき |
| 水をすくうとき |
| かしわでを打つとき |
| 拍手をするとき |
| 何かをおしいただくとき |
| もみ手をするとき |
| 1パーセントは小気味よく働く |
| 99パーセントも |
| それぞれのパーツの役割を |
| さりげなくはたしている筈だ |
| 09/08/01 |
| 2の兵 |
| 雷には敬称がついて |
| カミナリ様とよばれるのは |
| 特別あつかいじゃない? |
| ひいきじゃない? |
| ひょっとして |
| 稲光や耳をつんざく天の怒りが怖いのかしら |
| 崇め奉っているようにもみえるわ |
| 地震 雷 火事 親爺の |
| 二番目にランクインされているぐらいだから |
| 昔から恐れられていたのね |
| 雹 霰 霙 雪 雨には |
| 敬称がついてないのはどうして? |
| 威勢のいい暴れん坊の雹や霰にも |
| 敬称をつけてご機嫌をとりましょうか |
| ヒョウ様 アラレ様 と |
| 09/07/25 |
| 新生 |
| 整地され |
| さら地になったその土地に |
| いままで何があったのか |
| 覚えていない |
| 思いだせない |
| 時を待たずに |
| きっぱりと生まれ変わる潔さが |
| 槌音高く響いてくる |
| 私もいずれ蜃気楼になり |
| 夢うつつに槌音を聞きながら |
| 新しさにバトンタッチするのだろう |
| いままで何があったのか |
| 覚えていない |
| 思いだせない |
| 09/07/18 |
私自身に |
| その人の姿がみあたらない |
| 今 どこ? |
| 今 どこ? |
| と せっかちな私は |
| 雲にたずねる |
| 人に聞く |
| 携帯電話をかける |
| あなたを避けているのかもしれないよ と |
| 雲は遠慮がちに言う |
| そうかもしれないわね |
| 否定はしないわ |
| でも 悪いところがあったら直します なんて |
| 陳腐な言いかたはしないつもりよ |
| 迎合するようだから |
| 誰に? |
| その人に あの人に 雲に |
| 私自身に |
| 09/07/11 |
| 風まかせ |
| ちょいと そこのゴーヤのオニイサン |
| 相変わらず遊び人ね |
| よそ見をしちゃダメよ |
| という私の言など無視し |
| するすると細い手をのばして |
| 手あたり次第にどこにでも絡みつくのね |
| 伸びるにまかせているから |
| もう二階の出窓まで届いたわ |
| ま 風のカーテンに |
| 緑の葉をいっぱい繁らせ |
| 日よけの役割を果たしてくれたら |
| ぶぅらり ぶぅらりと |
| たくさん実をつけてくれたら |
| 遊んでばかりいたことを帳消しにして |
| おおめにみてあげてもいいわよ |
| 09/07/04 |
| 蜻蛉のとき |
| 回送のバスが通り過ぎてゆく |
| どんなときも |
| あとを追うことを良しとしない私が |
| 苛立たしさをこめて |
| 走り去るバスを目で追っている |
| 変更できないバスの都合と |
| 急いている私の都合が |
| いっしゅん ぶつかりあう |
| 回想は |
| センチメンタルな繰りごと |
| 他者にとっては退屈なしろもの |
| たいていのことは忘れているのに |
| 回想という網にかかったものだけが |
| 自己を顕示する |
| 思い出を美化し粉飾しながら |
| 回送も回想も所詮は蜻蛉か |
| 09/06/27 |
| 殿様 |
| 「殿」は目下の人に使う敬称 |
| 「様」は個人への敬称 と |
| いつ誰が決めたのだろう |
| 宛名に「殿」をつけるか「様」をつけるか |
| 迷うときは決まりに従うのが無難だ |
| 日々の暮らしのなかで |
| 殿 殿 と呼びかけるのは |
| 親しさと愛おしさの表現 |
| いつのころからか |
| 公用文・商用文でも「様」を使うようになったらしい |
| 「様」は気配りと協調性を備え |
| どこにいても様になる |
| 折々の決まりごとは |
| 理路整然とした心優しい科学だ |
| 09/06/20 |
| 立体と直球 |
| バンドネオン ピアノ バイオリン |
| ギターなどが奏でるタンゴ*の音色が |
| 直球でやってきて |
| 心のなかにズバッと落ちた |
| 響きわたる躍動感 |
| 艶やかな情感 |
| まっすぐに飛びこんでくる生の演奏には |
| とうてい敵わない |
| 詩を書くことなど なにほどのこと? |
| 私の書く詩は平面的で透け透け |
| 比して音楽は立体的だ |
| 直球を抱いて |
| 心地よい敗北に酔っている |
| *アルフレッド・ハウゼ タンゴオーケストラ |
| 09/06/13 |
| 髭の日 |
| ドラッグストアや |
| 量販店に並ぶ新製品は |
| 私を浦島太郎にする |
| ダストボックスの蓋の内側に貼って |
| コバエの侵入を防ぐグッズなど |
| とりあえずは買ってしまう |
| 当然 防いでもらう筈だった |
| ところが 蓋を開けるたびに |
| 強い芳香剤が鼻をつき |
| コバエどころか私のほうが閉め出され |
| 拒絶されるはめに |
| 以前から売っていたのだろうか |
| 気づかなかったのは |
| ひねもす 手持ち無沙汰に |
| 髭を撫でていたせいかもしれない |
| 09/06/06 |
| もしも |
| 旅先で ふと心をよぎる感慨は |
| いったいなんだろう |
| 人里離れた鄙びた宿に |
| 山の麓の農家に |
| 茅葺の民家に |
| 海峡の町に |
| 白壁のお屋敷に |
| さびれた町家に |
| 嫁いでいたかもしれないあなた |
| 住めば都といわれているけれど |
| 暮らしにはなじめたか |
| 幸が薄いことはないか |
| ひょっとしてあなたは |
| 凛とした眼差しで |
| 遠くをみつめていたかもしれない |
| 夢と現の狭間を |
| 薫風が通りすぎてゆく |
| 09/05/30 |
| 無機質な鉄則 |
| ユリの花束が届いた |
| 一輪が萎れると |
| スタンバイ中の蕾がひらく |
| ミステリアスなユリの花は |
| プラス マイナスを繰り返し |
| 花の数はけっして減らさず |
| 艶やかに咲きつづける |
| 私は夢の中にいた |
| 花は いつかは枯れる |
| という鉄則を忘れて |
| どのぐらい時がたっただろう |
| 恋の終わりのように色褪せ |
| 取り戻すことができない刻に合わせて |
| ひとひらずつ散っていった |
| 夢から覚めると |
| かぼちゃが転がっていた |
| 09/05/23 |
| 交代 |
| 犯罪捜査の主役だった指紋鑑定は |
| その座をDNA型鑑定に譲ったのか |
| 奪われたのか |
| 地道に生き残っているのか |
| 私にはわからない |
| DNA型鑑定で識別できる精度は |
| 千人に1.2人だったのが |
| たかが十数年で格段に進化し |
| 今は4兆7千億人に1人だという |
| 天文学的な数字に眩暈がする |
| 悪代官を懲らしめ |
| 不正を見逃さない科学捜査藩が |
| 肩で風を切って闊歩している |
| 5月13日付け朝日新聞「天声人語」参照 |
| 09/05/16 |
| 無償の善意 |
| 香りがいいから と |
| 知人が可憐な白い花を届けてくれた |
| 一枝だけなのに |
| むせかえるような甘い香りが |
| 部屋中にひろがる |
| 嗅覚が麻痺し |
| 体が香りで染まりそうだ |
| 一輪でも花があれば |
| 幸せになれる私だけれど |
| きつすぎる匂いに戸惑っている |
| 善意はいつも微笑みながらやってくる |
| そのたびに私の中を |
| 秘密の疲れが掠めてゆく |
| 09/05/09 |
| 再生 |
| 園芸用語の〈鉢増し〉とは |
| 今よりも大きいサイズの鉢に植え替えること |
| 植物は日々成長していくのに |
| 鉢はけっして育つことはない |
| プラスチック鉢は色褪せ |
| 化粧鉢や素鉢は縁が欠けたりするものの |
| 生まれたときと同じ大きさだ |
| いつしか植物と鉢のバランスが崩れ |
| はい さようならの状態に |
| 古い根は切捨て鉢増しをし |
| 新しい土で植え替えると |
| 植物たちは いっせいに息づきはじめる |
| 鉢も お似合いの伴侶を見つけるはず |
| お別れするのはお互いの為なんだ きっと |
| 09/05/02 |
| 競演のとき |
| 枯れたと思っていた葡萄の木から |
| 新芽がでてきた |
| 葡萄らしい粒々もみえている |
| しばらく見ないうちに |
| 様変わりしていたのに気づかなかった |
| それまでは眼中になかったのに |
| 急に手のひらを返したように |
| 世話をやきはじめた私 |
| 蔓を添え木に誘導したり |
| 肥料を施したり と |
| せっかちな私と |
| 豊かに実ってゆく葡萄との競演は |
| いま始まったばかりだ |
| 09/04/25 |
| 万華鏡 |
| その人の前で |
| 女はヒヨコになる |
| ぴよぴよと鳴きながら纏わりつく |
| 蚊や蜂になって通り魔のように刺し |
| フクロウと一緒にうたた寝もする |
| 人を惑わすカメレオンや |
| 突進する猪 豹 虎にもなる |
| ときにはモグラになって |
| わずかな光りを |
| 放射状に輝くものを |
| 地中から見あげたりするのだ |
| 09/04/18 |
| かざぐるま |
| さよなら |
| と 手をふる |
| ふり向いて |
| もういちど手をふる |
| 曲がり角で |
| また 手をふる |
| あなたの視界から私が |
| 私の視界からあなたが |
| 忽然と消えてゆく |
| 出会いと別れは かざぐるま |
| まわる まわる |
| 軽やかに風をうけて |
| 時あたかも新学期 新年度 |
| さよならと出会いが交替し |
| 違和感が親しさに変わっていく |
| 09/04/11 |
| 軽やかに |
| 期待と結果が一致すると |
| 期待どおり |
| 上回ると 期待以上 |
| 思惑どおりにいかないと 期待はずれ |
| と 人は歌うように言う |
| 期待という名の希望を抱きながら |
| 結果が期待を裏切ることなんて |
| ありふれたことなのに |
| 気づかないのか |
| 気づかないふりをしているのか |
| 人は宴に酔いながら |
| 軽やかに やりすごす |
| 09/04/04 |
| 寡黙な返球 |
| 痛いほどの直球でも |
| ひねった変化球でも |
| 返ってきたら |
| 懐に すとんと落ちてくれたら |
| 誠意に変わる |
| 誠意は不思議な生きもの |
| 「どんぐりころころ」の歌のように |
| お池にはまってしまったのか |
| どじょうと一緒に遊びすぎて |
| 草むらでうたた寝でもしているのか |
| いっこうに見つからない |
| あした探そう |
| あさって探そう |
| 夢のなかで私は呟く |
| 誠意は寡黙だ |
| 09/03/28 |
| 幸せな朝 |
| 人は ウグイスの正しい鳴きかたは |
| ホーホケキョだと思いこんでいるらしい |
| ホが抜けホケキョになったり |
| ーが抜けてホホケキョになったりすると |
| まだ新米のようだ |
| まだ子どものようだ |
| と 推測し断定する |
| 揶揄半分 愛情半分で |
| けれど もしかしたら |
| 余分なものは不要とばかりに省略し |
| 捨てさる知恵を持っている高齢のウグイス |
| の鳴きかたかもしれない |
| 初音を聞いた幸せな朝に |
| ホケキョ ホホケキョと真似てみた |
| 09/03/21 |
| 探しもの |
| 詩を一行書いたら日が暮れた |
| 一行も書けず |
| 心が空っぽの日には |
| 覆面をした夜がやってくる |
| 今日はどんな日だった? |
| 闇のなかで目をこらし |
| 手さぐりで探したけれど |
| ただ 空(くう)を切っただけで |
| 手ごたえがなかった |
| 枕元においてあるテレビのリモコンが |
| 頭にゴツンとあたった |
| とたんにスイッチが入り |
| お笑い番組が目に入ってきた |
| (人生なんて |
| 笑ったもん勝ちかもしれないわね) |
| 09/03/14 |
海への径 |
| たかが2泊の旅に |
| 暮らしを連れてゆく |
| コンパクトな日々がついていく |
| ケイタイ カメラ ガイドブック |
| 着替え ハンカチ 化粧品 ティッシュ |
| 財布 カード類 鍵 旅日記などを |
| リュックの中に詰めこむ |
| ひとつひとつは僅かな重さなのに |
| 必要最小限のものばかりなのに |
| 妙にかさばる |
| 擬似人生のようだ |
| 旅を終えると |
| 日常に紛れこんだ非日常が |
| リュックの中で |
| 潮の香りを放っている |
| 09/03/07 |
| カプセルの独白 |
| 薬のストックが語る私の来し方 |
| 風邪薬 解熱剤 湿布 下剤 抗生物質 |
| 睡眠剤 消毒薬 座薬 痒み止め 咳止め |
| 湿疹 めまい 胃炎の薬などの使い残しが |
| 空き缶の中に雑然と仕舞われている |
| 若さが誇った自然治癒力は |
| いつしか雲隠れしてしまった |
| 使いかけの風邪薬は? |
| 今 風邪をひいていないから |
| 睡眠剤は? |
| 目下 眠くてしょうがないから |
| 解熱剤は? |
| 熱はないから |
| 使用期限まじかの薬たちが |
| カプセルの中から |
| 錠剤のパッケージから |
| 私を窺っている |
| 09/02/28 |
| 今日から |
| いま この一瞬 |
| 私は誰を愛しているのだろう |
| これまで |
| 誰を愛してきたというのだろう |
| 愛に遅刻した |
| 愛を早退した |
| まだ遅くはない |
| 否 もう遅すぎる |
| 今日から私は |
| 遅刻の始末書や |
| 欠席届けを手に |
| さすらい人になる |
| 09/02/21 |