生まれたての詩.12

次のページ 会話 雷の明日 回想
模倣 洞窟 逆流 逃避
遮断の明日 無の記憶 言葉は洋服 消去法
渓谷 羽ばたく 木にあらず 同類
法則 風来坊 風の町
気楽な稼業 郷愁 滑る 質と量
もしも 1億分の1 同化 風穴から
音の風景 不完全な独白 月日 種類
刻印 確信 反射と吸収 上へ
変換 恋の文 今年を研ぐ 砂の自負

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アドレス帳を新しくした
離れていった人のアドレスや
とりもどすことができない愛を削除して

鉛筆で記した人のぶんに
かすかな痛みと愛おしさを感じながら
ふっと息をふきかけてみる
風が次のページをめくっていた

私もどこかで誰かのアドレス帳から
きっぱりと消されたり
鉛筆書きにされているかもしれない
分別で固まった大人たちは 
お互いさまという言いかたで諦観し
心を解き放つ

初々しい新入生のような住所が
手帳の片隅で はにかんでいる

               07/08/04




 
 模倣

むせかえるような香料よりも
無香料がいい

強い香りで
もとのにおいを覆いかくす努力や
人に迎合すべく所作は侘しい

巷には香りが氾濫していて
花やフルーツや あらゆるものの香りが
模倣されている
度を越した親切は
やさしさは 
ときに神経をさかなでする

あるがままが いい

               07/07/28










 
 遮断の明日

切り刻むという行為が好きではない
玉ねぎのみじん切りでさえ

けれど 思いたって
なぐり書きしてきたノートを
手というシュレッダーでこなごなにした
手刀という刀で切りすてた
いっしゅんのうちに
思考回路が遮断され 
証拠と 足跡が消えた

がらんどうになった私の中に
いつしか露草が生い茂り
月見草が咲きみだれ
蜘蛛が糸を編んでいた

                07/07/21      








 
 渓谷

旅を終え
宿をあとにするとき
さよなら
ありがとう と
部屋に向かって私は言う
どんなに快適で心なごむ宿であっても
もう二度と訪れることはないだろうと
わけもなく思ってしまうのだ
確信に近い鮮やかさで

岩にぶつかり水しぶきをあげる激しい流れや
おだやかな小川の流れに身をゆだね
私は一枚の木の葉になる
流れに逆らうエネルギーに
拮抗するものを探しあぐねながら

                07/06/23









 
 宴

一生分の鉛筆がある
最後に買ったのはいつだったろう
いつから減らなくなったのだろう
ひきだしの中や
ペンたての中で
寂れた繁華街のような
ふしぎな存在感を漂わせながら
芯を丸くして寝そべっている
芯を尖がらせ上を向いている

鉛筆で書く字は
力強かったり精気がなかったりして不揃いだ
キーボードで文字を打つ軽やかさもなく

その日の気分を投影させるような
人間的な鉛筆と疎遠になって久しい
疎遠は 蜜月のあとの宴か
あいまいな季節にまどろんでいる

               07/06/16





 
 気楽な稼業

摂取カロリーと消費カロリー
プラスマイナス ゼロをめざして
バランスよく ね

私 近ごろ 否 だいぶ前から
突出してきたわ 
意識してひっこめても 
いちじしのぎにすぎないから
無駄な努力は もうやめちゃった

収入と支出
プラスマイナス マイナスにならないようにね
プラスが多けりゃ
それにこしたことはないけれど
バランスは二の次

無駄な努力と執着をなくせば
人生も気楽なものよね

                07/06/09








 
 もしも

なにが欲しい? と聞かれたら
消えるもの と私は即答する

たとえば 札束
たとえば 囁き  
たとえば 薔薇の花束
たとえば 空気
たとえば 水
そして 待つ心

               07/06/02














 
 音の風景

聞いたことがありますか
花が散る音を
蜘蛛が巣を張る音を
草木が芽吹く音を
青竹が空を切る音を
心のなかに降る通り雨や
ふきこむ風の音を
雲が流れる音を

見たことがありますか
心の闇を
涙の源流を

巷の喧騒をよそに
ひたすら静かですね

                07/05/26









 
 刻印

印刷された文字は
誰にも媚びず
誰とも妥協せず
あるがままの姿を崩さず
かたくななまでに生真面目だ

山は あくまでも山
川にはならない 
なることができない
川は あくまでも川
海にはならない 
なることができない

愛は あくまでも愛
憎しみに変えることはできない

文字たちは
凛とした孤高をたもちながら
時に刻まれてゆく

               07/05/19






 
 変換

勝手に指が動いて 
にんちしょう と入力していた
理由はワカラナイ
きっかけはワスレタ

認知賞 と変換されたのは
認知症として認知されていないということか
愛と 明るい諦観と 
揶揄が込められたようなボケという呼称が
やがて痴呆症に変わり
いまは認知症となったはずなのに

認知賞というからには
賞をもらえるらしい
りっぱな表彰状だろうか
光りかがやく金品だろうか

  ご褒美でももらわないことにゃ
  一生懸命生きてられないわよね

               07/05/12






 
 会話

エネルギッシュな油絵
水の音や風の音が聞こえてくる水彩画
山深く分けいりたくなるような水墨画
比して
ことさらに目立つことなく
いつも片隅にいるカット絵は
寡黙な はにかみ屋

カット絵が何か呟いた
〈なぁに?〉と訊ねたら
〈別に... 〉と答えてうつむいた

               07/05/05











 
 洞窟

近くのコンビニエンスストアが消えた
〈長い間お世話になりました〉
と書かれた一枚の貼り紙を残して

重宝だった店の
思ってもいなかった突然の店じまい

いつだってそうだ
どんなこともそうだ
あることがあたりまえ
いることがあたりまえ
そして ある日
足元をすくわれる
突然やってくるものは 
潔い必然でもあるかのように

数日後 その前を通ると
冷たい海になったむきだしのコンクリートが
口をあけた洞窟が
半開きのシャッターの隙間から見えた

                 07/04/28





 
 無の記憶

絵葉書をくれた人がいた
鈴蘭が描かれた たった一枚のその絵葉書を
まだ蒼かった私は
愛読書のようにいつも手元においていた
その前から かの花が好きだったのか
そのときから好きになったのか判然としない

あの鈴蘭は
いつ どこに消えてしまったのだろう
無くなるのには
失くすのには 
理由があったはず
今は それすらわからない
鈴の音も聞こえなくなって久しい

有から無へ
記憶と無が交叉している

                07/04/21







 
 羽ばたく

外反母趾が赤い顔をして
泣きべそをかいている
口を尖らせている

  痛いのね
  言わなくてもわかるわ
  くる日もくる日も
  土踏まずを弓形に反らせながら
  縦20数センチ
  横10センチにも満たない面積で
  重い図体を支えてくれている君(きみ)

 
  あした いっしょに町にでて
  駅前の百貨店で
  君に合う靴を買おうね
  きゅうくつな住処のなかでも
  羽ばたけるような

               07/04/14





 
 法則

さざなみのような風にも
ゆきずりの風にも
一期一会の風にも
意志を持つ風にも
春の嵐にも
桜の花びらは
たおやかに応える

風と呼吸を合わせ
右に左に肩をゆらしながら吹雪く花びらたち
そのあと訪れるいっときの静寂
すこし間をおいて また 風
散りぎわを知っている花びらだけが
先を競うようにして舞い散る

花冷えのなか
美しい法則が風に寄りそう

               07/04/07




 
 郷愁

何十年ぶりだろう
自分用の弁当箱を買ったのは

何年ぶりだろう
弁当づくりをするのは

描かれている桜と蝶に誘われて
私は幼子になって舞う

人は一生のうち何回笑うのだろう
というテレビコマーシャル風に
人は一生のうち何回弁当箱を買うのだろう 
と 格別の意味もなく呟いてみる
何回もなかったような気がする
記憶にあるのは
平べったいアルミの弁当箱だけだ

桜咲く季節に郷愁がやってきた 
あどけない顔をして

               07/03/31



 
 1億分の1
      (或いは0.5) 

しょせん 私は私

深紅のバラ
桜の花びら
わすれな草
菜の花畑
緑なす草原
はてしのない空
雄々しい山
清濁あわせ持つ川
きらめく湖面
丸い海 などのいずれにも
な・れ・な・か・っ・た

生まれたときから
そして これからもきっと 
私は私

               07/03/24








    
 不完全な独白
         

3色ボールペンの中の
黒だけが出なくなった

黒い色は もういないと分かっているのに
巣立ちの羽音を聞いたのに
私は 習いのように手にし 
途中まであとを追った
そして ひきかえした

赤の出番はわずかだ
青も人待ち顔をして三角の一辺にいる

いま ペン立てのなかは
不完全なものの洪水で溢れそうだ
さあ 水を汲みだそうか
もうすこし 水ぬるむ春にひたっていようか

               07/03/17     






      
 
 確信

生家の前には火の見櫓が聳え
隣には夜警所があった
 (消防の役目は当番制だったようだ)
質素なその建物からは
毎夜 煌煌とした灯りがこぼれ
談笑する声が聞こえていた
が いざ火事のときは
半鐘の音がジャンジャンとなり
一気に張りつめた空気に変わることを
どきどきしながら見ていた

ガラス窓から垣間見えたのは
裸電球 薪ストーブ 木の椅子
するめなどを炙る煙 わずかな酒気
笑顔

幼いながらも
彼らに守られている 
という無意識の確信をもっていた気がする

今の私に
守るべきものはあるか

               07/03/10




 
 恋の文

ひとひらの写真が 
古いアルバムから はらりと落ちた
必然のように

みしらぬ青年が
颯爽と風をきっている

物語はまだ始まっていない

お互い違った道を歩いていた日々や
密やかに育まれた歳月や
神の領域とでもいうべき出会いの不可思議さは
写真のどこに刷りこまれていたのだろう

妖しく胸が騒いだ
みしらぬその人に私は
恋の文を書いた

               07/03/03








 
 雷の明日

春の到来を告げる春雷が
天井を駆けめぐる近さで轟いた
落雷したような音をたて
豪快に はげしく吼えた

ゴロゴロゴロと
私の腹のなかでも雷がなっている
幾何学模様の稲光が
暗闇を射る
たえまない蠕動が角を削ぐ 
エネルギーを使い果たした雷は
萎えたマグマと化すのだろうか

そして春
やがて春

               07/02/24








 
 逆流
 

指のささくれをむしったら
血が出た
小さく遠慮がちに

血は出たがっていて
私から離れたがっていて
未練のように滲み出た

ティッシュをあて
片方の手で押さえたあと
バンドエイドで塞いだ

血は毒を含んでいたか
わずかな愛を含んでいたか
鬱屈していなかったか

壁にぶち当たりながら
体中を巡る4リットルもの血液は獰猛だ
一滴にも満たない出血などに動じはしない

ざあざあと滝の音がする

               07/02/17







 言葉は洋服

羽織った言葉の袖や身頃から
穿いた言葉の裾から
ざらざらした違和感が伝わってきて
着心地が悪かったから
そっと空に放った

純白の洋服を着た言葉はどこ?
ラフにジーンズを穿いた言葉はどこ?
希望というスカーフをまいた言葉はどこ?

窮屈すぎたり ゆるかったり
おもうようにはいかないものね

さあ 春色のブラウスでも買いにいこう

               07/02/10










 
 木にあらず

喉がいらついてコホと咳がでた
いっしゅん 足の向きと
つま先の角度が変わった

行き先は 東でも西でも
どちらでもよかった
風まかせだったから
思いの 重さも軽さも
おなじだったから

木のように立っているわけにもいかず
咳が指した北北西に向かって
とりあえず歩きはじめた
苦く小さな笑みが浮かんだ


               07/02/03
         





     



 
 
 風来坊

空気を読む
あるいは すう 
あるいは はく

空気って読むものなの?
すったり はいたりするものだとばかり
おもっていたわ

空気よ空気
おねがいだから 空の掲示板に 
メッセージを残しておいてくれる?
読めなかったら
衰えた視力のせいにして
小指を立てながら言うつもりよ
人間業をやめます と

私のまわりには
読むことができなかった空気たちが
風来坊のように漂っている

               07/01/27



 
 滑る

Aさんに電話をしたら
留守のようだった
Bさんに電話をしたら
留守電の設定になっていた
宙に向かって話をすると
声がひっくりかえってしまうので
無言でひきかえした

Cさんと
Dさんにメールをだした
返信はこなかった

Eさんから
メールよりも少し重い手紙が届いた

柱時計の秒針が
今日も義務のように滑っている

              07/01/20






 
 同化

ミニ盆栽の松にかけられた針金が
枝にくいこんでいる
  きゅうくつそうね
  いま はずしてあげる

人間の思い通りに針金で矯正され
優等生然として鎮座している
  悪かったわ 
  失念していたわけではなく
  単に知らなかったの
  針金をはずすことを

いつしか枝に同化し
枝になってしまった針金の痕跡が
らせん状に くっきりと残されていた
執拗な記憶のように
  束縛から開放された?
  それとも 
  それとも

束縛は自由と同義語だったか
尖がった葉たちがシーソーをしている

               07/01/13


 
 月日

  餅つき 嘘つき 思いつき 
  つきにもいろいろあるけれど.....

餅つきは
かつては暮れの風物詩だった
威勢よく杵をおろし
ふたたび高くかかげると
すかさず 合いの手が入る
(ひょっとして愛の手だったか)

嘘つきは 年中無休
音もなく準備される次の嘘

思いつきは 不定期
結果の是非は時の運

いずれにも
呼吸 確信 自信が肝要だ

耳に残る餅つきの音
嘘つきが広げる波紋
思いつきがもたらす意外性

つきが月日を運んでいる

               07/01/06




 
 反射と吸収

自分をニ分割する
心をニ分割する

机の上の卓上鏡に
バッグの中のコンパクトミラーに
私が反射する
立方体の私が
鏡のなかでは平面的な写真のネガ

  あらあら 今日はお疲れ気味のようね
  だいじょうぶ?
 
  ありがとう  
  だいじょうぶよ
  コピーのあなたがいるもの

ニ分割の片割れの鏡たちが 
私を反芻する

               06/12/30






 
 今年を研ぐ

包丁を研ぐ
ただひたすら

刃のほうは角度をつけて
しゅっしゅっしゅっとリズミカルに
根気よく研いでゆく
そのあと 刃をなぞると
ささくれのような捲れ(めくれ)が
指先に伝わってくる

裏面も研いでいくと
捲れが削ぎとられ光りだす 
〈切る〉という頂点をめざして

ついでに 粗い砥石で
心の中のささくれも研いでみた
私はなにを切ることができるだろう

               06/12/23





 
 
 回想

冬の陽がさしこむ部屋
朱色の小さなちゃぶ台
ご飯の上で
ゆっくり溶けてゆく魚の煮こごり

おかっぱ頭の私
編みこみ模様のセーター
ビロードの黒い衿のついた半纏
母が繕ってくれた足袋

ところどころ空白の
色あせたパズルが回っている
気ぜわしい年の瀬に

               06/12/16











 逃避

そよそよと ではなく
よそよそしく 
風が吹いてくる
冬枯れの野から

心変わりを責めない
去る人は追わない ことが
私のささやかな不文律
こわれそうな掟

ありふれたことだもの
ことさらのお知らせはいらないわ

私の得意技は逃避
見えないよ 
聞こえないよ
 

                06/12/09








 
 消去法

その1 消しゴムやインク消しで消す
その2 修正ペンで塗りつぶす
その3 Back spaceキーをクリックする
その4 燃やす
その5 忘れる
その6 その他

消し去ること
それは 過ちへの反撃

反撃はいつも
かすかな痕跡を残す
塗りつぶしたその内側に
白砂のような灰に
乾いた心のすみっこに

               06/12/02         







 
 同類

めざまし時計が鳴っていた

テレビの音や
水の音や
朝餉のざわめきにかき消されたのか
気づくまで30分もかかった

数日前 朝6時に設定し
めざめと同時に解除したはずなのに
おなじ時刻に鳴りだしたようだ
刷りこまれた朝6時という記憶を
消すことができなかったのか

封印したはずの私の記憶もまた
けたたましく鳴りだした
なにをめざめさせようとしているのだろう

               06/11/25








 
 風の町

新しい町が現れようとしている
否 ほとんどその全貌が現れた
以前は雑木林だったのか
荒野だったのか 
私は知らない

あと三日でオープンする映画館
ショッピングセンター
レストラン街
巨大な駐車ビルなどの突貫工事が
仕上げが 今日もつづいていた
高揚した空気を漂わせながら

活気あふれるこの町も
何百年後か何千年後には
おきざりにされた記憶と化すのだろうか
つわものどもが夢のあと のようになるのだろうか
それとも繁栄しつづけるのだろうか

ふいに 私のなかを
暖かいとも冷たいともしれない風が
通りぬけていった

             06/11/18

 
 質と量

好きな人嫌いな人好きな人
の数式はなりたつか
意味のないことか

小学生じゃあるまいし
好きだの嫌いだのというのは
ガキっぽいよね

失ったものと得たもの
質よりも量
量よりは質
どちらがいいとはいえないけれど
私は質をとることにする
お笑い芸人のきみまろ風に言うと
〈残りすくない人生だもの好きにしたいわ〉
ってとこかしら

             06/11/11




 
 
 風穴から

その建物を
私は ひそかにサティアンとよぶ
灰色の壁面から
煙のようなものが垂れ
蒸気のようなものが噴きだしている
あれはなに?
バスの窓からぼんやりながめながら
だれにともなく問いかける

建物のなかで鬱屈していたものが
煙になって
蒸気になって
唯一の風穴から這いだしているみたいだ
それらは消えてしまうのか
そとに移動しただけなのか

サティアンは場違いのところに
奇異な風貌で立ちつづけている

             06/11/04

 
 種類

ほほえみ
沈黙
思い
視線 などは
言葉の種類なのだろうか

ほほえみからは ぬくもりが
沈黙からは 同意や拒絶が
思いからは 希望やせつなさや
フラッシュバックが
視線からは やさしさや
ときには刺すような冷やかさが
口にだして話す言葉よりも
いっそう強く伝わってくる

秋が深まるなか 私は
言葉の種類を反芻している

           06/10/21






 
 上へ

頭のてっぺんに
5ミリほどのおできができた
おそるおそるまわりを包囲し
さわらぬ神にたたりなし
とばかりに特別あつかいをしながら
ブラッシングをする
髪を洗う

どんなエネルギーを
たくわえているのだろう
頭のてっぺんから
マグマの危うさを天に向け
赤く放射している

            06/10/21











 
 砂の自負

女は
蜘蛛の巣に囲まれた家に住んでいる
一歩そとにでると
蜘蛛の糸が顔に纏わりつく

       *
小説「砂の女」の家は
砂丘の底に沈み
しきりに降ってくる砂は
体のすみずみまで覆っていた

蜘蛛にとって女は
砂にとって女は
異質の存在か
ちいさな獲物を狙っている蜘蛛は
音もたてずに糸をつむぎだし
さめた退廃とエロスを漂わせる女は
かすかな自負を砂に重ねる

         *安部公房著
             06/10/14

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