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| 模倣 | 洞窟 | 逆流 | 逃避 | |||||||||||||||
| 遮断の明日 | 無の記憶 | 言葉は洋服 | 消去法 | |||||||||||||||
| 渓谷 | 羽ばたく | 木にあらず | 同類 | |||||||||||||||
| 宴 | 法則 | 風来坊 | 風の町 | |||||||||||||||
| 気楽な稼業 | 郷愁 | 滑る | 質と量 | |||||||||||||||
| もしも | 1億分の1 | 同化 | 風穴から | |||||||||||||||
| 音の風景 | 不完全な独白 | 月日 | 種類 | |||||||||||||||
| 刻印 | 確信 | 反射と吸収 | 上へ | |||||||||||||||
| 変換 | 恋の文 | 今年を研ぐ | 砂の自負 |
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| アドレス帳を新しくした |
| 離れていった人のアドレスや |
| とりもどすことができない愛を削除して |
| 鉛筆で記した人のぶんに |
| かすかな痛みと愛おしさを感じながら |
| ふっと息をふきかけてみる |
| 風が次のページをめくっていた |
| 私もどこかで誰かのアドレス帳から |
| きっぱりと消されたり |
| 鉛筆書きにされているかもしれない |
| 分別で固まった大人たちは |
| お互いさまという言いかたで諦観し |
| 心を解き放つ |
| 初々しい新入生のような住所が |
| 手帳の片隅で はにかんでいる |
| 07/08/04 |
| 模倣 |
| むせかえるような香料よりも |
| 無香料がいい |
| 強い香りで |
| もとのにおいを覆いかくす努力や |
| 人に迎合すべく所作は侘しい |
| 巷には香りが氾濫していて |
| 花やフルーツや あらゆるものの香りが |
| 模倣されている |
| 度を越した親切は |
| やさしさは |
| ときに神経をさかなでする |
| あるがままが いい |
| 07/07/28 |
| 遮断の明日 |
| 切り刻むという行為が好きではない |
| 玉ねぎのみじん切りでさえ |
| けれど 思いたって |
| なぐり書きしてきたノートを |
| 手というシュレッダーでこなごなにした |
| 手刀という刀で切りすてた |
| いっしゅんのうちに |
| 思考回路が遮断され |
| 証拠と 足跡が消えた |
| がらんどうになった私の中に |
| いつしか露草が生い茂り |
| 月見草が咲きみだれ |
| 蜘蛛が糸を編んでいた |
| 07/07/21 |
| 渓谷 |
| 旅を終え |
| 宿をあとにするとき |
| さよなら |
| ありがとう と |
| 部屋に向かって私は言う |
| どんなに快適で心なごむ宿であっても |
| もう二度と訪れることはないだろうと |
| わけもなく思ってしまうのだ |
| 確信に近い鮮やかさで |
| 岩にぶつかり水しぶきをあげる激しい流れや |
| おだやかな小川の流れに身をゆだね |
| 私は一枚の木の葉になる |
| 流れに逆らうエネルギーに |
| 拮抗するものを探しあぐねながら |
| 07/06/23 |
| 宴 |
| 一生分の鉛筆がある |
| 最後に買ったのはいつだったろう |
| いつから減らなくなったのだろう |
| ひきだしの中や |
| ペンたての中で |
| 寂れた繁華街のような |
| ふしぎな存在感を漂わせながら |
| 芯を丸くして寝そべっている |
| 芯を尖がらせ上を向いている |
| 鉛筆で書く字は |
| 力強かったり精気がなかったりして不揃いだ |
| キーボードで文字を打つ軽やかさもなく |
| その日の気分を投影させるような |
| 人間的な鉛筆と疎遠になって久しい |
| 疎遠は 蜜月のあとの宴か |
| あいまいな季節にまどろんでいる |
| 07/06/16 |
| 気楽な稼業 |
| 摂取カロリーと消費カロリー |
| プラスマイナス ゼロをめざして |
| バランスよく ね |
| 私 近ごろ 否 だいぶ前から |
| 突出してきたわ |
| 意識してひっこめても |
| いちじしのぎにすぎないから |
| 無駄な努力は もうやめちゃった |
| 収入と支出 |
| プラスマイナス マイナスにならないようにね |
| プラスが多けりゃ |
| それにこしたことはないけれど |
| バランスは二の次 |
| 無駄な努力と執着をなくせば |
| 人生も気楽なものよね |
| 07/06/09 |
| もしも |
| なにが欲しい? と聞かれたら |
| 消えるもの と私は即答する |
| たとえば 札束 |
| たとえば 囁き |
| たとえば 薔薇の花束 |
| たとえば 空気 |
| たとえば 水 |
| そして 待つ心 |
| 07/06/02 |
| 音の風景 |
| 聞いたことがありますか |
| 花が散る音を |
| 蜘蛛が巣を張る音を |
| 草木が芽吹く音を |
| 青竹が空を切る音を |
| 心のなかに降る通り雨や |
| ふきこむ風の音を |
| 雲が流れる音を |
| 見たことがありますか |
| 心の闇を |
| 涙の源流を |
| 巷の喧騒をよそに |
| ひたすら静かですね |
| 07/05/26 |
| 刻印 |
| 印刷された文字は |
| 誰にも媚びず |
| 誰とも妥協せず |
| あるがままの姿を崩さず |
| かたくななまでに生真面目だ |
| 山は あくまでも山 |
| 川にはならない |
| なることができない |
| 川は あくまでも川 |
| 海にはならない |
| なることができない |
| 愛は あくまでも愛 |
| 憎しみに変えることはできない |
| 文字たちは |
| 凛とした孤高をたもちながら |
| 時に刻まれてゆく |
| 07/05/19 |
| 変換 |
| 勝手に指が動いて |
| にんちしょう と入力していた |
| 理由はワカラナイ |
| きっかけはワスレタ |
| 認知賞 と変換されたのは |
| 認知症として認知されていないということか |
| 愛と 明るい諦観と |
| 揶揄が込められたようなボケという呼称が |
| やがて痴呆症に変わり |
| いまは認知症となったはずなのに |
| 認知賞というからには |
| 賞をもらえるらしい |
| りっぱな表彰状だろうか |
| 光りかがやく金品だろうか |
| ご褒美でももらわないことにゃ |
| 一生懸命生きてられないわよね |
| 07/05/12 |
| 会話 |
| エネルギッシュな油絵 |
| 水の音や風の音が聞こえてくる水彩画 |
| 山深く分けいりたくなるような水墨画 |
| 比して |
| ことさらに目立つことなく |
| いつも片隅にいるカット絵は |
| 寡黙な はにかみ屋 |
| カット絵が何か呟いた |
| 〈なぁに?〉と訊ねたら |
| 〈別に... 〉と答えてうつむいた |
| 07/05/05 |
| 洞窟 |
| 近くのコンビニエンスストアが消えた |
| 〈長い間お世話になりました〉 |
| と書かれた一枚の貼り紙を残して |
| 重宝だった店の |
| 思ってもいなかった突然の店じまい |
| いつだってそうだ |
| どんなこともそうだ |
| あることがあたりまえ |
| いることがあたりまえ |
| そして ある日 |
| 足元をすくわれる |
| 突然やってくるものは |
| 潔い必然でもあるかのように |
| 数日後 その前を通ると |
| 冷たい海になったむきだしのコンクリートが |
| 口をあけた洞窟が |
| 半開きのシャッターの隙間から見えた |
| 07/04/28 |
| 無の記憶 |
| 絵葉書をくれた人がいた |
| 鈴蘭が描かれた たった一枚のその絵葉書を |
| まだ蒼かった私は |
| 愛読書のようにいつも手元においていた |
| その前から かの花が好きだったのか |
| そのときから好きになったのか判然としない |
| あの鈴蘭は |
| いつ どこに消えてしまったのだろう |
| 無くなるのには |
| 失くすのには |
| 理由があったはず |
| 今は それすらわからない |
| 鈴の音も聞こえなくなって久しい |
| 有から無へ |
| 記憶と無が交叉している |
| 07/04/21 |
| 羽ばたく |
| 外反母趾が赤い顔をして |
| 泣きべそをかいている |
| 口を尖らせている |
| 痛いのね |
| 言わなくてもわかるわ |
| くる日もくる日も |
| 土踏まずを弓形に反らせながら |
| 縦20数センチ |
| 横10センチにも満たない面積で |
| 重い図体を支えてくれている君(きみ) |
| あした いっしょに町にでて |
| 駅前の百貨店で |
| 君に合う靴を買おうね |
| きゅうくつな住処のなかでも |
| 羽ばたけるような |
| 07/04/14 |
| 法則 |
| さざなみのような風にも |
| ゆきずりの風にも |
| 一期一会の風にも |
| 意志を持つ風にも |
| 春の嵐にも |
| 桜の花びらは |
| たおやかに応える |
| 風と呼吸を合わせ |
| 右に左に肩をゆらしながら吹雪く花びらたち |
| そのあと訪れるいっときの静寂 |
| すこし間をおいて また 風 |
| 散りぎわを知っている花びらだけが |
| 先を競うようにして舞い散る |
| 花冷えのなか |
| 美しい法則が風に寄りそう |
| 07/04/07 |
| 郷愁 |
| 何十年ぶりだろう |
| 自分用の弁当箱を買ったのは |
| 何年ぶりだろう |
| 弁当づくりをするのは |
| 描かれている桜と蝶に誘われて |
| 私は幼子になって舞う |
| 人は一生のうち何回笑うのだろう |
| というテレビコマーシャル風に |
| 人は一生のうち何回弁当箱を買うのだろう |
| と 格別の意味もなく呟いてみる |
| 何回もなかったような気がする |
| 記憶にあるのは |
| 平べったいアルミの弁当箱だけだ |
| 桜咲く季節に郷愁がやってきた |
| あどけない顔をして |
| 07/03/31 |
| 1億分の1 |
| (或いは0.5) |
| しょせん 私は私 |
| 深紅のバラ |
| 桜の花びら |
| わすれな草 |
| 菜の花畑 |
| 緑なす草原 |
| はてしのない空 |
| 雄々しい山 |
| 清濁あわせ持つ川 |
| きらめく湖面 |
| 丸い海 などのいずれにも |
| な・れ・な・か・っ・た |
| 生まれたときから |
| そして これからもきっと |
| 私は私 |
| 07/03/24 |
不完全な独白 |
| 3色ボールペンの中の |
| 黒だけが出なくなった |
| 黒い色は もういないと分かっているのに |
| 巣立ちの羽音を聞いたのに |
| 私は 習いのように手にし |
| 途中まであとを追った |
| そして ひきかえした |
| 赤の出番はわずかだ |
| 青も人待ち顔をして三角の一辺にいる |
| いま ペン立てのなかは |
| 不完全なものの洪水で溢れそうだ |
| さあ 水を汲みだそうか |
| もうすこし 水ぬるむ春にひたっていようか |
| 07/03/17 |
| 確信 |
| 生家の前には火の見櫓が聳え |
| 隣には夜警所があった |
| (消防の役目は当番制だったようだ) |
| 質素なその建物からは |
| 毎夜 煌煌とした灯りがこぼれ |
| 談笑する声が聞こえていた |
| が いざ火事のときは |
| 半鐘の音がジャンジャンとなり |
| 一気に張りつめた空気に変わることを |
| どきどきしながら見ていた |
| ガラス窓から垣間見えたのは |
| 裸電球 薪ストーブ 木の椅子 |
| するめなどを炙る煙 わずかな酒気 |
| 笑顔 |
| 幼いながらも |
| 彼らに守られている |
| という無意識の確信をもっていた気がする |
| 今の私に |
| 守るべきものはあるか |
| 07/03/10 |
| 恋の文 |
| ひとひらの写真が |
| 古いアルバムから はらりと落ちた |
| 必然のように |
| みしらぬ青年が |
| 颯爽と風をきっている |
| 物語はまだ始まっていない |
| お互い違った道を歩いていた日々や |
| 密やかに育まれた歳月や |
| 神の領域とでもいうべき出会いの不可思議さは |
| 写真のどこに刷りこまれていたのだろう |
| 妖しく胸が騒いだ |
| みしらぬその人に私は |
| 恋の文を書いた |
| 07/03/03 |
| 雷の明日 |
| 春の到来を告げる春雷が |
| 天井を駆けめぐる近さで轟いた |
| 落雷したような音をたて |
| 豪快に はげしく吼えた |
| ゴロゴロゴロと |
| 私の腹のなかでも雷がなっている |
| 幾何学模様の稲光が |
| 暗闇を射る |
| たえまない蠕動が角を削ぐ |
| エネルギーを使い果たした雷は |
| 萎えたマグマと化すのだろうか |
| そして春 |
| やがて春 |
| 07/02/24 |
| 逆流 |
| 指のささくれをむしったら |
| 血が出た |
| 小さく遠慮がちに |
| 血は出たがっていて |
| 私から離れたがっていて |
| 未練のように滲み出た |
| ティッシュをあて |
| 片方の手で押さえたあと |
| バンドエイドで塞いだ |
| 血は毒を含んでいたか |
| わずかな愛を含んでいたか |
| 鬱屈していなかったか |
| 壁にぶち当たりながら |
| 体中を巡る4リットルもの血液は獰猛だ |
| 一滴にも満たない出血などに動じはしない |
| ざあざあと滝の音がする |
| 07/02/17 |
言葉は洋服 |
| 羽織った言葉の袖や身頃から |
| 穿いた言葉の裾から |
| ざらざらした違和感が伝わってきて |
| 着心地が悪かったから |
| そっと空に放った |
| 純白の洋服を着た言葉はどこ? |
| ラフにジーンズを穿いた言葉はどこ? |
| 希望というスカーフをまいた言葉はどこ? |
| 窮屈すぎたり ゆるかったり |
| おもうようにはいかないものね |
| さあ 春色のブラウスでも買いにいこう |
| 07/02/10 |
| 木にあらず |
| 喉がいらついてコホと咳がでた |
| いっしゅん 足の向きと |
| つま先の角度が変わった |
| 行き先は 東でも西でも |
| どちらでもよかった |
| 風まかせだったから |
| 思いの 重さも軽さも |
| おなじだったから |
| 木のように立っているわけにもいかず |
| 咳が指した北北西に向かって |
| とりあえず歩きはじめた |
| 苦く小さな笑みが浮かんだ |
|
|
| 07/02/03 |
| |
| 風来坊 |
| 空気を読む |
| あるいは すう |
| あるいは はく |
| 空気って読むものなの? |
| すったり はいたりするものだとばかり |
| おもっていたわ |
| 空気よ空気 |
| おねがいだから 空の掲示板に |
| メッセージを残しておいてくれる? |
| 読めなかったら |
| 衰えた視力のせいにして |
| 小指を立てながら言うつもりよ |
| 人間業をやめます と |
| 私のまわりには |
| 読むことができなかった空気たちが |
| 風来坊のように漂っている |
| 07/01/27 |
| 滑る |
| Aさんに電話をしたら |
| 留守のようだった |
| Bさんに電話をしたら |
| 留守電の設定になっていた |
| 宙に向かって話をすると |
| 声がひっくりかえってしまうので |
| 無言でひきかえした |
| Cさんと |
| Dさんにメールをだした |
| 返信はこなかった |
| Eさんから |
| メールよりも少し重い手紙が届いた |
| 柱時計の秒針が |
| 今日も義務のように滑っている |
| 07/01/20 |
| 同化 |
| ミニ盆栽の松にかけられた針金が |
| 枝にくいこんでいる |
| きゅうくつそうね |
| いま はずしてあげる |
| 人間の思い通りに針金で矯正され |
| 優等生然として鎮座している |
| 悪かったわ |
| 失念していたわけではなく |
| 単に知らなかったの |
| 針金をはずすことを |
| いつしか枝に同化し |
| 枝になってしまった針金の痕跡が |
| らせん状に くっきりと残されていた |
| 執拗な記憶のように |
| 束縛から開放された? |
| それとも |
| それとも |
| 束縛は自由と同義語だったか |
| 尖がった葉たちがシーソーをしている |
| 07/01/13 |
| 月日 |
| 餅つき 嘘つき 思いつき |
| つきにもいろいろあるけれど..... |
| 餅つきは |
| かつては暮れの風物詩だった |
| 威勢よく杵をおろし |
| ふたたび高くかかげると |
| すかさず 合いの手が入る |
| (ひょっとして愛の手だったか) |
| 嘘つきは 年中無休 |
| 音もなく準備される次の嘘 |
| 思いつきは 不定期 |
| 結果の是非は時の運 |
| いずれにも |
| 呼吸 確信 自信が肝要だ |
| 耳に残る餅つきの音 |
| 嘘つきが広げる波紋 |
| 思いつきがもたらす意外性 |
| つきが月日を運んでいる |
| 07/01/06 |
| 反射と吸収 |
| 自分をニ分割する |
| 心をニ分割する |
| 机の上の卓上鏡に |
| バッグの中のコンパクトミラーに |
| 私が反射する |
| 立方体の私が |
| 鏡のなかでは平面的な写真のネガ |
| あらあら 今日はお疲れ気味のようね |
| だいじょうぶ? |
| |
| ありがとう |
| だいじょうぶよ |
| コピーのあなたがいるもの |
| ニ分割の片割れの鏡たちが |
| 私を反芻する |
| 06/12/30 |
| 今年を研ぐ |
| 包丁を研ぐ |
| ただひたすら |
| 刃のほうは角度をつけて |
| しゅっしゅっしゅっとリズミカルに |
| 根気よく研いでゆく |
| そのあと 刃をなぞると |
| ささくれのような捲れ(めくれ)が |
| 指先に伝わってくる |
| 裏面も研いでいくと |
| 捲れが削ぎとられ光りだす |
| 〈切る〉という頂点をめざして |
| ついでに 粗い砥石で |
| 心の中のささくれも研いでみた |
| 私はなにを切ることができるだろう |
| 06/12/23 |
| 回想 |
| 冬の陽がさしこむ部屋 |
| 朱色の小さなちゃぶ台 |
| ご飯の上で |
| ゆっくり溶けてゆく魚の煮こごり |
| おかっぱ頭の私 |
| 編みこみ模様のセーター |
| ビロードの黒い衿のついた半纏 |
| 母が繕ってくれた足袋 |
| ところどころ空白の |
| 色あせたパズルが回っている |
| 気ぜわしい年の瀬に |
| 06/12/16 |
逃避 |
| そよそよと ではなく |
| よそよそしく |
| 風が吹いてくる |
| 冬枯れの野から |
| 心変わりを責めない |
| 去る人は追わない ことが |
| 私のささやかな不文律 |
| こわれそうな掟 |
| ありふれたことだもの |
| ことさらのお知らせはいらないわ |
| 私の得意技は逃避 |
| 見えないよ |
| 聞こえないよ |
| |
| 06/12/09 |
| 消去法 |
| その1 消しゴムやインク消しで消す |
| その2 修正ペンで塗りつぶす |
| その3 Back spaceキーをクリックする |
| その4 燃やす |
| その5 忘れる |
| その6 その他 |
| 消し去ること |
| それは 過ちへの反撃 |
| 反撃はいつも |
| かすかな痕跡を残す |
| 塗りつぶしたその内側に |
| 白砂のような灰に |
| 乾いた心のすみっこに |
| 06/12/02 |
| 同類 |
| めざまし時計が鳴っていた |
| テレビの音や |
| 水の音や |
| 朝餉のざわめきにかき消されたのか |
| 気づくまで30分もかかった |
| 数日前 朝6時に設定し |
| めざめと同時に解除したはずなのに |
| おなじ時刻に鳴りだしたようだ |
| 刷りこまれた朝6時という記憶を |
| 消すことができなかったのか |
| 封印したはずの私の記憶もまた |
| けたたましく鳴りだした |
| なにをめざめさせようとしているのだろう |
| 06/11/25 |
| 風の町 |
| 新しい町が現れようとしている |
| 否 ほとんどその全貌が現れた |
| 以前は雑木林だったのか |
| 荒野だったのか |
| 私は知らない |
| あと三日でオープンする映画館 |
| ショッピングセンター |
| レストラン街 |
| 巨大な駐車ビルなどの突貫工事が |
| 仕上げが 今日もつづいていた |
| 高揚した空気を漂わせながら |
| 活気あふれるこの町も |
| 何百年後か何千年後には |
| おきざりにされた記憶と化すのだろうか |
| つわものどもが夢のあと のようになるのだろうか |
| それとも繁栄しつづけるのだろうか |
| ふいに 私のなかを |
| 暖かいとも冷たいともしれない風が |
| 通りぬけていった |
| 06/11/18 |
| 質と量 |
| 好きな人−嫌いな人=好きな人 |
| の数式はなりたつか |
| 意味のないことか |
| 小学生じゃあるまいし |
| 好きだの嫌いだのというのは |
| ガキっぽいよね |
| 失ったものと得たもの |
| 質よりも量 |
| 量よりは質 |
| どちらがいいとはいえないけれど |
| 私は質をとることにする |
| お笑い芸人のきみまろ風に言うと |
| 〈残りすくない人生だもの好きにしたいわ〉 |
| ってとこかしら |
| 06/11/11 |
| 風穴から |
| その建物を |
| 私は ひそかにサティアンとよぶ |
| 灰色の壁面から |
| 煙のようなものが垂れ |
| 蒸気のようなものが噴きだしている |
| あれはなに? |
| バスの窓からぼんやりながめながら |
| だれにともなく問いかける |
| 建物のなかで鬱屈していたものが |
| 煙になって |
| 蒸気になって |
| 唯一の風穴から這いだしているみたいだ |
| それらは消えてしまうのか |
| そとに移動しただけなのか |
| サティアンは場違いのところに |
| 奇異な風貌で立ちつづけている |
| 06/11/04 |
| 種類 |
| ほほえみ |
| 沈黙 |
| 思い |
| 視線 などは |
| 言葉の種類なのだろうか |
| ほほえみからは ぬくもりが |
| 沈黙からは 同意や拒絶が |
| 思いからは 希望やせつなさや |
| フラッシュバックが |
| 視線からは やさしさや |
| ときには刺すような冷やかさが |
| 口にだして話す言葉よりも |
| いっそう強く伝わってくる |
| 秋が深まるなか 私は |
| 言葉の種類を反芻している |
| 06/10/21 |
| 上へ |
| 頭のてっぺんに |
| 5ミリほどのおできができた |
| おそるおそるまわりを包囲し |
| さわらぬ神にたたりなし |
| とばかりに特別あつかいをしながら |
| ブラッシングをする |
| 髪を洗う |
| どんなエネルギーを |
| たくわえているのだろう |
| 頭のてっぺんから |
| マグマの危うさを天に向け |
| 赤く放射している |
| 06/10/21 |
| 砂の自負 |
| 女は |
| 蜘蛛の巣に囲まれた家に住んでいる |
| 一歩そとにでると |
| 蜘蛛の糸が顔に纏わりつく |
* |
| 小説「砂の女」の家は |
| 砂丘の底に沈み |
| しきりに降ってくる砂は |
| 体のすみずみまで覆っていた |
| 蜘蛛にとって女は |
| 砂にとって女は |
| 異質の存在か |
| ちいさな獲物を狙っている蜘蛛は |
| 音もたてずに糸をつむぎだし |
| さめた退廃とエロスを漂わせる女は |
| かすかな自負を砂に重ねる |
| *安部公房著 |
| 06/10/14 |