uso.










 くすみの全くない、このただ白い空間で、私はまばらにちらちら光る布に全身くるめられてただひたすら立っていた。ヴェールが下げられた私の視界はその白で、真昼のきつい陽光がそこら中で照り返されて、目眩を覚えるほどだ。

―暑い。
―熱い。

 きつく巻き上げられた髪は蒸されて、頭皮から玉のような汗が流れているのがわかる。

―熱い。

 拭き取ってしまえば少しは楽になれそうなものだが、ヴェールがそれを阻んでいる。 鼻の毛穴から鼻先へと伝って、ついに大粒の玉の汗が真っ白な大理石へと叩き付けられる。

 たまらず左手をかざす。 薬指には無表情な小さな小さな石がぽつんと取り残されている。 すばらしい分散率で、昼の強い光に透かされて、大理石の天井に極上のファイアが踊る。
 熱気と日差しと緊張と疲労で、何も聞こえなくなりながら、 私は手をかざした姿勢のまま、天井に踊るファイアを呆然と見つめていた。

―変わらず美しいものは真理だ。

 私の全身が高温で焼かれていく。 血も肉も透明無色に燃え尽きたあと、 やがて純白の骨ががらがらと音を立ててめちゃくちゃに崩れていくのだ。 とてつもない高温と高圧が私に加えられて。

 遠くで鈍い鐘の音が響いていた。 私はきらきら光る純白の骨をずりずりと引きずりながら、 真っ赤に血の通った、柔らかい肉付きのいい唇に口づけをするのだ。


私は一瞬の死の匂いを嗅ぎにゆく。

【 石の花 】 100727














満腹の腹を抱えて、
完全重装備で前人未踏の山に臨む。


初登頂に成功する。
頂上付近の岩の裂け目にはガスが発生していて、
すごい熱さに目眩を覚えて落下する。

原石のランプで地中を彷徨う。
どこまでも同じ暗闇だったから、
侭よと地底湖へ深く深く潜水する。

途中で水脈に出会う。
ものすごい水流で、大量の水をがぶがぶ飲みながら、
深海の湧水地点にようやく放り出される。

手足をばたばたさせて漂いながら、
徐々に上へ上へと持ち上げられる。
真っ暗な視界が、やがて乱反射した鈍い光に満たされる。

びしょびしょで、なんとか岸辺に吐き出される。
ぼろぼろの布切れを順繰りに打棄りながら、
べたべたとそこら中に這い回った形跡を残す。

うつむき加減に家路を辿る。
ここがどこだかわからないから、
めちゃくちゃに路地を出たり入ったりする。

うちに帰って、シャワーを浴びて一息ついたころ、
目の前に見つけた。


間抜けな裸。
喉の奥が空腹でちりちりしている。

【 ファッショナブル 】 100726














窓がない。

 目が覚めると私は知らないどこかで、誰かと差し向かいに椅子に掛けていた。 外で風がひゅうひゅう言っているのだけが確認できた。



 目の前でぴんぴん、と音が弛むことなく鳴っている。 卓の上には鈍く光るウランガラスのコップが、天井から漏れだした水を受けている。 一滴、また一滴と落ちるたびに彼が薄い唇でなにかを低くつぶやく。 滴る雫と聞き取れない声が、溜まった水とガラスに弾かれて、狭い部屋の濁った空気を中途半端に伝う。
 まるで短く張った弦を弾くような、甲高いー
 まるで強くしなって鞭打たれたような、甲高いー

 幾重にも交錯するイメージ。 私は弾かれるように背を丸めて頭を覆った。 卓を挟んで向き合った、青白い顔の彼が両腕を、それぞればらばらな方向に広げるのは同時だったと思う。

 微かに頭をもたげて見やると、彼は先端から赤茶けて木質化したような指先をわらわらと動かして、私の腕と水の微かに溜まったコップとをそれぞれ目指していた。 瞬間、私の全身は粟立った。

 それでも私は彼の表情を伺おうと目をぱしぱしさせる。 瞬き、瞑るたびに私の脳裡をかすめるのは、悪い夢を見たときの侭よという諦めと、意固地に捕まるのを避けようとするこころ。 彼の濁った目は何にも注がれていなかった。 私は瞬間、吐き気を催した。

 椅子から崩れ落ちて嘔吐いている私をよそに、 一足先にコップへとたどり着いた彼の指は、私の腕を諦めた指とともにそれをしっかと握った。 のどが必死に鳴るのが向こうで聞こえた。

 頭上でこつこつと卓を叩く音がする。 じりじりと後ずさりながら、ようやく立ち上がりかけた私の目の前に、 少しばかり潤った彼の指が見える。 爪先には双葉が覗いていた。 彼はもう動かない。

 私は音を立てないように、そっと、ただそっと壁をすり抜ける。 背中には滴る水が、無人になった卓を叩き続ける音だけが聞こえる。



 彼はもう動かない。 私と同じ顔をして、あの場所でただ、待っているのだ。 来るべき時を知って、それをただひたすらに待っている。 ひょろひょろと徒長して、やがて部屋いっぱいになる時を。

 目が覚めると雨に降られていた。濡れた風が通り過ぎる。
 私の胃は空っぽだ。



―(次に目が覚めるのはいつなのだろうか?)

【 思出 】 100714


















「おーい。おおーい・・・。」

遠くで呼ばれるような、耳元で生暖かい湿り気を感じるような。
悲劇的でもなければ、喜劇的でもない。
単調で退屈で進歩のないような、無機質な―

だから、音だ。声ではなくて。

私の頭の両端の器官がそう判断するし、頭も直感で決断を下す。
偽りのない南中の日の光が、私の体を真上から突き抜けて、
体の真中の真中に、カッと熱が籠る。
熱い。とてつもなく熱い。

「おーい、おおーい・・・。」

音だ。声ではなくて!

私はだから、今は、この音から遠ざかる。
遠くでもない、一定の距離を置きながら。
耳を塞ぐでもなく、めちゃくちゃに走るわけでもなく。

ただ、
声になってしまわないうちに!

【 おもいで 】 100702