断想集


第870話 本との出会い・ホントのつきあい

なぎら健壱ってこんなに……

なぎら健壱『東京路地裏暮景色』

2012.2.4


 東京の路地裏探訪記である。なぎら健壱とくれば得意とする領域は東京のこっち側、すなわち東側のはずなのだが、本書で歩くのはこの領域にとらわれていない。新宿も歩けば、吉祥寺や日比谷公園へも足を運ぶ。銀座も歩いているが、ここはもともとは下町であり著者の生誕地でもあるからして不思議ではない。神保町、神田、八重洲、早稲田、池袋といった盲点になりがちなところへも足を運ぶ。深川、州崎、上野、柳橋、両国、浅草、本郷、北千住はお得意な領域。さらに、ちょっと足を伸ばして亀戸、錦糸町へも。そしてあまり歩いたことがないという都電荒川線の沿線も歩く。この守備範囲の広さが意外だった。

 といっても、場所の選定は手当たり次第ではない。例外はあるものも、ほとんどは思い出の地の再訪である。私的な路地裏散歩である。かつての思い出が語られ、そして今同じところを歩いて感じたことが被せられる。そのころわたしは東京にはいなかったのに、著者の私的思い出を受け入れてしまうのは、同年代のためだろうか。ほかにも何かありそうな気もする。それはさておき、

 ところで、なぎら健壱ってこんなに文章がうまかったっけ? 過去の酸っぱさもあり、なかなかしっとり落ち着いた雰囲気の文章が繰り広げられる。お見事! むろん、なぎら健壱ですからお笑いもありますが。

 自ら撮影したモノクロ写真も多数挿入されている。とりわけ、同じところを撮った新旧の写真の対比があり、その変貌を驚き嘆く。なぎら健壱って写真撮るのがこんなにうまかったっけ? 時間、空間の切り取りかたも、何を伝えるかが最初ににありそれが的確に伝わってくる。お見事!

 といった具合で、著者の名前を見て読む前に想像した内容よりははるかに素晴らしい仕上がりになっている。たいへんおもしろくあっという間にぐいぐい読了。先入観で判断してはいかんなあ、と痛感。なぎら健壱ってこんなに良い散歩者でしたっけ? 面白おかしいだけではありませぬ。的確に街に身を置き、観察しております。

なぎら健壱『東京路地裏暮景色』(ちくま文庫/2011)


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