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『うみさち通信』

                                          ■いのちにやさしいお産(19号より)
                                          
    
いのちにやさしいお産
片桐 弘子(長野県助産婦会 総会 基調講演より)

 いのちにやさしいお産というのを考えたときに、ひとつはお母さんの体のことを考えましたけど、その次に考えたのは、子どものことだったんです。
 生まれてすぐの赤ちゃんは、まだ目は見えてないと言われてますけれども、赤ちゃんとお母さんがどれだけつながったものであるかということが、この時よくわかります。特に水中の場合には、じっくり観察できたし、じっくり味わうということを手にいれやすかったといえるでしょう。赤ちゃんは、今どんな思いをしているのか、どんな気持ちでどんな風にしてこちら側の世界を知るのか、ものすごくリアルに解るんです。

 やっぱり子どもにとって、生まれた時がヤッターという瞬間だったら、ヤッターという顔をしているんです。それで例えば、お母さんがいきみっぱなしというか、「早く出したいわ」って感じで、いきんでいきんで出しちゃって、っていう場合には、子どもは、自分自身のペースで生まれてきていないでしょ。すると、文句を言ってるような顔をしているんですよ。早いだけのお産に対して、子どもは満足してないんですね。でも自分が満足した瞬間を自分自身が捕らえてきている子は、最も穏やかな顔をしているんですよ。目をあけたり、手を伸ばしたり足を伸ばしたり、背伸びをしてお母さんの方を見たり、本当にすばらしい光景だったんです。 

  赤ちゃんはどんな気持ちで生まれてきたのかな。自分たちもどんな気持ちで生まれて」きたのかなって、ま、思い出すことは出来ないんですけれどもね、私たちは、ワークでね、呼吸法というのをやったんですよ。 スタッフ皆でやってみたし、お母さんたちともやってみたんです。そしたらやっぱり、私たちの身体の中に記憶されて、残っているのがわかりました。

 私はね、生まれてくる時って本当に怖かったんですよ。うまれること自体が。ホント清水の舞台から飛び降りるようってありますけれど、あれみたいですよ。でも、行かなくちゃいけない、という内部からの衝動は、ものすごく強いんですよ。行くのが怖いの。生まれるのが怖いんです。けれども、行かなくちゃいけないって目をつぶって必死になってるみたいな。
また、別の人はね、「こっちよ、こっちへいらっしゃい」って声がしたので、そちらの方を見ると明るかったから、そっちへ行けばいいんだと思って進んできたっていうんですよ。

 赤ちゃんは産道を通ってくるときに、陣痛の波に合わせて背骨を動かして進んでくるんです。陣痛でぎゅっと力が加わる時には、おしりの方から押された力が、背骨を伝わってグッと背筋が伸びます。そして、陣痛が収まった時にスッと背骨が丸くなって、ちょっと進むんです。そのちょっとづつを繰り返して繰り返して生まれてくるんですけれども、その時の赤ちゃんの感触って、快感なんです。産道を通ってくる時の赤ちゃんは、快感しかないんです。甘美の世界なんです。
すっごくいい気持ち、だから言われてる言葉は、しっかり聞いています.憶えています。「早く出てよ」とか「やめて」とか聞くと、すごく悲しい。でも、おかあさんが「キャー」とか「ワー」とか「イターッ」とか言っているのは、何にも悲しくない。だから、痛みや、自分自身を解放するためには、何をしてもいいんだよ。でも、約束ごとがあるとするならば、赤ちゃんが聞いて悲しくなるような言葉はやめてねってことなんです。

そしてね、こんな風に赤ちゃんの気持ちってどんなんだろうって聞いてみるとね、もう全員が言っていることは、「呼吸をしたとき うれしい」って。呼吸をすると、この世に生まれていいということなんだ、それがとってもうれしいって。
 赤ちゃんが自分自身で呼吸をはじめるということが、どんなに大切なことなのかということが解ったのは、やっぱり、生まれてすぐの赤ちゃんの表情をよく見ていてなんです。
へその緒を切るタイミングは、いつがいいんだろうというのを考えながら、赤ちゃんの表情をよく見てました。生まれてきた赤ちゃんが泣くと元気な証拠って、ずっと言われてましたでしょう。だから助産婦のわたしたちは、生まれてきた赤ちゃんをオギャーと泣かせることをあたりまえのことだと思っていました。それが肺呼吸のはじまりなんだと。

でも、赤ちゃんが生まれて、自分で呼吸をはじめるんです。しっかり呼吸ができるようになると、それまで酸素を送ってくれていた胎盤が、その役目を終えて自分から剥がれて出てきます。その時がへその緒を切るタイミングなんだということがわかりました。
 水中でも水中でなくてもこれは同じ、一番大切なことは、自分で呼吸を始める、ということなんです。そしてそこまで、私たちもできるだけ見守ってあげてたいですから、赤ちゃんにもお母さんにも、その時を十分味わって欲しいなあと思います。いのちにやさしいお産を手に入れるために、こころの扉のもう一つ中をあけて、自分の感触に気が付いて欲しいなあと思います。

 いのちにやさしいお産というのを考えた時に、介助する側にとってみたら、分娩台の上でお産するのに比べると、見えないわけですよ。見えないから危険なのか、解らないのかというと、そういうことではなくて、見えなくても赤ちゃんがどれくらい進んできていて、どうかってところが、身体に解るんですよ。陸であろうと、水中であろうと。お母さん自身の感覚ですから。
一回のいきみで、どれくらいグーっと進んでくるのか、どれくらい出かかっているのかというようなことを、見える見えないではなく、感触として。お母さんの感じている感触が、現場にいて一緒に伝わってくるんです。感じるということは、見えることよりももっと、私たちの情動を呼び覚まして、ささいな変化にも、捕らえることができるんです。私たちにはそんな力が備わっていることを忘れないで、いろんな感じを見つけていって欲しいですね。