―― 天皇賞編 (2) ――
”でもよく考えてみろ。スライドなんているか?何に使うんだよ?”
と、心の中でハンターは思う。
”でも、おかげで上映会は中止だし‥。”クククク‥ダイテキもやるよなぁ。”
「おい!ハンター。ダイテキさんはどこ行ったんだよ?」
何故か顔面キスマークだらけのステイ。さっきの停電の時に、誰かにやられたようだ。
「うぇっ!?すげぇな、その顔‥」
「でも、キスされてる時、線香臭かったんだよな‥」
悲しそうなステイ。ハンターもそれ以上聞かないことにした。
「あぁ、ところでダイテキなんだけどよ‥」
と、その時。
”ピーピーピーピー!!”
火災報知機が鳴り渡る。
「皆さまーー!速やかに非難願います!!」
アナウンスの声もかき消され、会場大混乱。
ハンターとステイは迷子にならないようにお互い手をつなぐ。つなぎにくいけど。
そこへドトウも息咳きってやってきた。
「はぁー、はぁー。なんだかここはトラブルだらけの家だね」
そういうと慌ててハンターと手をつなぐ。
「ダイテキさんは?どこ行ったの??」
ドトウがハンターに聞いても黙ったままだ。
煙が蔓延してきた。
「苦しいよ、ハンターさん」
ドトウが涙目で訴える。
「よしっ」ブッチューっ!スパッ!!
「うっ!」
「どうだ楽になったか?」
どうやらハンター人工呼吸のつもりだったらしい。
「う‥ニンニク臭い‥」
そう言うとドトウは意識を失った‥。(U)
ドトウは夢の中で天皇賞に出走していた。
大歓声の中、スタートが切られ、全馬が一斉に飛び出す。
まず頭を取ったのは、逃げ宣言をしていたサイレントハンター。
昨夜大量に食べた餃子のせいで、物凄いニンニク臭を撒き散らし
ながら走ってゆく。
もちろん、だれも競りかけて行くものはいない。
ドトウは中断のやや前あたりで宿敵テイエムオペラオーと並んで走っていた。
ドトウに騎乗の安田がオペラオーに乗っている和田をチラリと見た。
「シャーーーッ!!」物凄い顔でにらみ返してくる和田。
もはや先輩も後輩も関係ないようである。
頭に来た安田が「アッカンベー」をして見せると、ますます逆上する和田。
「シャーーー!!シャーーーーーーッツ!!」
と、それをGOサインと勘違いしたオペラオー、3コーナー手前でスパートをかける!
ああ、早過ぎる、っと観客は大パニック!
ゴール前でオペラオー&ドトウの馬連50万馬券を握り締めたおさるは、すでにショックのあまり倒れている。
一気に先頭のハンターに並びかかるオペラオー。
隣に並ぶと、いや応なしにハンターのニンニク臭が襲い掛かる。
「うわ〜〜〜、く、くっさいぃぃ〜〜!!」
たまらずオペラオーがハンターを抜きにかかる。
「何をぉ、この野郎、抜かせてたまるものか!!」
むきになるハンター。
4コーナーを前に32秒の脚を繰り出す2頭‥つぶれるのは近い‥。
「何やってんだあいつら??」
ドトウの斜め後ろで、黒光りのする馬体をしならせてステイゴールドが走っている。
騎乗は世界の武豊。
「ふっ、バカだな和田のやつ。まんまと安田の策略にはまっちまって」
豊がニヤリと笑ったその時。
「うわ〜〜っ!どいてくれ〜!」
なんと、名手岡部が慌てている。
「きゃぁきゃぁ☆ 僕って今、天皇賞を走ってるんだ〜、かっこいいぃ〜!」
唯一、3歳で出走のトレジャーが岡部の静止にも関わらず、嬉しさを隠し切れずに爆走!
まるでスラロームのように各馬の間をすり抜けて行く。
岡部の額から汗と納豆が飛び散る。
ネバネバネバネバネバネバ〜〜〜〜。(B)
「うわぁ〜〜!!」
飛んで来た納豆をかわそうと、ステイに斜行のサインを出す豊!
しかし、ステイは頑として聞き入れない。
そりゃーそうだよね〜、あれだけ非難されたんだもの‥。
「ベシャッ!!」
豊の、おフランス仕立ての勝負服に納豆が張り付く‥。
「うわっ!なんだよぉ〜、汚ねぇな〜」
慌てて手で払いのけようとするが取れない。
ネバリが命、おかべ納豆。
さぁ、最後の直線!!
頭争いに疲れたハンターとオペラオーがズルズルと後退。
豊はステイを追いもせず納豆を取るのに必死だ。
「今だ!」
満を持して安田のムチがしなる。
弾丸のように駆け抜けるドトウ。
勝利を確信したかに見えたその時!
「ダッダッダッ!」
後ろからダイワテキサスもやって来た!
「ドドドドドーーーッ!」
2頭が並んだ!
「ブワックショ〜イ!!」
ドトウがクシャミをしたところがゴールだった。
長い写真判定の結果、クシャミで鼻の穴の膨らんだドトウが勝利!
「やったぁぁぁぁ〜〜〜〜、俺は天皇賞馬だぁぁ〜、むにゃむにゃ‥」
「おい、起きろ!ドトウ!逃げ遅れるぞ!!」
「まったく、こんな時に夢でも見てるらしいぜ、ドトウのやつ‥」
顔を見合わせるステイとハンター。
煙が3頭の足元まで迫っていた‥。(B)
「ん‥目が痛いよ」
ドトウが目を覚ます。
ハンターとステイはドトウをわし掴みにし、避難していた。
外は雨が降っていた。
「あっ、ダイテキさん!!」
ステイが思わず叫ぶ。
そこに立っていたのはレインコートの襟を立てたダイテキだった。
「終わったよ、すべてが‥」
「何が終わったって言うんだ?」ハンターもダイテキの顔を覗き込む。
「天皇賞‥」
「えぇっっっ!!」
「今から俺たちが出るレースじゃないかっ。」
「それが日にちを間違えててさ、今日だったんだよ」
ステイが慌ててポケットから携帯を取り出す。
「あ、留守電が入ってる‥」
ピピピ‥。
(新しいメッセージをお預かりしています‥”おい!ステイ!!どこへ行ったんだー!早く来い!!時間がないぞ!”
10月28日、1件です‥)
「豊さん‥」
ステイの瞳に涙がにじむ。(U)
と、そこへ、工事用ヘルメットをかぶり、手にプラカードを持った
竹園オーナーがやって来たではないか!
「や〜、みなさん驚いた??」
プラカードには【ドッキリカメラ】と書かれている!
「なんだ、ドッキリカメラって?」
ステイがつぶやく。
「俺達、まんまと騙されたってわけよ」
ムッとしながらハンターが答える。
「ええーーっ、なんだよぉ〜、みんな嘘だったのかぁ? 俺、泣いて損したぜ」
「いやいや、ステイ君、すまなかったな。ちょっと余興で盛り上げようと思ってな。
煙は発煙筒だし、君の電話にもちょっと細工させてもらってな、はっはっはっ‥!!」
「ううう‥、コノヤロウ‥」
ステイ、ハンター、ドトウがオーナーを睨み付ける。
が、そんな3人には、まったくお構いなしに竹園が続ける。
「おお、もうこんな時間か‥さぁ、ではそろそろお開きとしようではないか、わっはっは‥」
笑いながら屋敷に消えてゆく竹園オーナー。
「何だったんだよ、今日のパーティーは‥」
疲れ切った顔のステイとドトウ、そしてハンター‥。
「まったくなぁ‥」
「そういえば、ダイテキのやつ、どうしたんだよ」
「あのやろー、俺達を騙しやがって!」
怒りを押さえ切れないステイの前に、トボトボと近寄って来る影‥。
「ダイテキ!!」
3人が声を掛ける。
「悪かったなぁ、みんな。竹園オーナーにスライドを盗んだことが
バレて‥許してやるから協力しろって‥ごめん‥。」
「いいさ、お前が悪いんじゃないさ」
ハンターのやさしさがダイテキの心にしみる‥。
疲れきった4人が家路に向かう頃、竹園邸の1室ではすでにオペラオー
が深い眠りについていた。
「ふっ、これであの4人はクタクタだろうて、明日の天皇賞に勝つのは
私の可愛いオペラオー‥」
ドアの隙間からオペラオーを見つめ、不適な笑いを浮かべる竹園オーナー‥。
いよいよ明日、天皇賞(B)
疲れ果てた天皇賞出走メンバーは、ダイテキの車で東京競馬場へ向かう。
もちろん運転手ダイテキを除いては、全員爆睡状態だ。
みな寄り添うように眠っている。(ドトウとハンターは手を握ったままだ)
ダイテキは思う。”可愛い奴らだぜ”
「着いたぞ。」
ダイテキの声に、一同素早く反応して起き上がった。
さすがにGT。それなりに緊張感もあるようだ。
「よし、んじゃ頑張ろうぜ!」
ステイの声に、それぞれの馬房へ散っていく面々。
ダイテキは葉巻をまず1本。
ドトウはなぜか緩んでしまったジャージのゆるゆるゴムに泣きそうな顔。
ハンターは大久保調教師にカツ丼の出前の催促。(まだ喰うのか?)
ステイは携帯で豊に到着の連絡。
それぞれの夜が更けて行く・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いよいよ天皇賞当日!!
10時現在の観客数、153万1265人。
異様な熱気だ。
ダイテキは朝から、ヤニ取りに余念がない。
ステイは豊といちゃいちゃモード。
ドトウはジャージのゴムの入れ替えに失敗。きつすぎてウェストにクビレができている。
ハンターは口の回りにご飯粒をつけたまま、まだ睡眠中。
「起きろよ、ハンター。今日はラストランだろ。」
安瀬厩務員がハンターを起こしに来た。(U)
「ふあぁ〜〜〜はふっ‥」
大あくびをかみ殺しながら、ハンターが目を覚ます。
「そうか、俺、今日がラストランなんだよな‥かっこ良く逃げないとなぁ、みんな期待してるだろうし」
ハンターが装鞍所に来ると、すでに他のメンバーは準備も終え、パドックの周回が始まろうとしていた。
「遅いぞ、ハンター!」
ダイテキが声を掛ける。
「おお、ちょっと寝坊しちまってさぁ‥。ん?どうしたダイテキ、なんだか元気がね〜な」
「だってよぉ〜、こんなひどい雨で‥、芝も泥んこだぜ。昨日の夜、寝る前にテルテルボーズ作ったのに‥」
重馬場の苦手なダイテキが、ガックリと肩を落す。
その向こうで、ステイも豊に泣きついている。
「だめだ、豊さん。俺、重馬場が嫌いなんだもの‥」
「大丈夫だステイ、ボクがついているよ」
豊はやさしくステイの肩に手をかけた、が、その顔には苦悩の色が浮かんでいた‥。
パドックの周回が始まる。
周回を重ねながら、ドトウは前を歩くオペラオーのお尻を見ていた。
「いいケツだ‥。じゃなかった、なんだかオペラオーのやつ、贅肉が取れたなぁ、そういえば、昨夜のパーティでも何も食べてなかったっけ、きっちり仕上げてきたってわけか。でも、今日は俺も負けないぜ!」
ドトウの気迫をバシバシお尻に感じながらオペラオーは歩いていた。
「ふふ‥‥いい気持ち。じゃなかった、今日は重馬場‥ステイもダイテキも沈んだな。敵はドトウ1人だ、今日もいつもどおりに勝たせてもらうぜ。」
ほくそ笑みながら歩くオペラオー。
そんなオペラオーを見ながら、ニヤリと笑うやつがいた‥。(B)
「イヒヒヒヒヒ・・・・」
いやらしい視線に思わずオペラオーが振り返る。
と、空を向いて口笛を吹きだしたそいつの名は‥通称デジ男。(アグネスデジタルだ)
”あ〜。芝とダート、どっちもいけるとかいう奴か。でも、芝の王者は僕に決まってるじゃぁ〜〜ん。”
思わず笑みの漏れるオペラオー。
ニヤニヤして周回しているところをドトウに見られた。
「オペラオー、こんなところで笑うなんて不謹慎だぜ」
ドトウが小さな声で忠告する。
「ああ。気をつけるよ」
そういって、さっとドトウにチップを投げやった。(口止め料か?)
が、ドトウもちゃっかりふところにそれを収めた。
(チラと見やると、のし袋に”寸志”と書いてあった‥なんだ?ワイロか?)
さて、他のメンバーはというと
ハンターはラストランが雨になってしまい、ちょっと憂鬱な表情
。
ダイテキはニコチンが切れてイライラし始めている。
ステイもこの雨に体が冷えてきたのか、モミ手を始めたようだ。(スリスリ‥)
「とま〜〜〜〜れぇ〜〜〜〜っ。」
それぞれにジョッキーがまたがる。
「今日はいい酒が飲みたいぜ。」
デジ男のジョッキー四位はなぜか自信ありげだ。
「いいな‥若いって‥」
それを後ろで見るハンターが思わずつぶやく。
「じじぃも悪くないぜぇ」
そう言ったのはやっぱりダイテキ。
増沢調教師からニコチンパッチをもらって、尻にズラリと貼ってあった。
いよいよ本場場入場だ。(U)
「ウオォォォォォーーーーー!!」
各馬が本場場に入場してくると、ものすごい歓声が場内を包む。
その中でもひときわ大きな声で叫んでいるのがうめねぇであった。
「ハンタァーーーッ!頑張るのよぉ〜〜!」
レープロを振り回しながら叫んでいる。
「ぷぷぷっ、ハンターなんか来るわけねーだろ、ねーちゃんよ」
隣のおやじが不用意な言葉を投げる‥。
”ドスッ!バキッ!バッシーーーーン!”
うめねぇのバックドロップが炸裂!
「そこで寝てな、おやじ!」
哀れおやじ、柔道6段、剣道8段、合気道20段にプロレス75段のうめねぇの前に、ハズレ馬券と共に横たわる‥。
「ハンタァーーー、愛してるわよぉぉ〜!」
「ああ、あれはうめねぇの声だ‥」
体中に力がみなぎるハンター!
「よぉぉぉぉ〜〜し、ここは一発、でかい事をしてカッコつけなきゃな」
「おいおい、あんまりイレ込むんじゃねーぞ、ハンター」
ダイテキが声をかける。
”パーンパカパーンパパァーーーン!”
ファンファーレが鳴り響き、いよいよゲートへと向かう各馬。
全馬がゲートに納まった‥。
と、その時!(U)
「あっ、百円見っけ!」
ハンターが百円を拾おうと首を下げた。と、次の瞬間!
”ガッシャァーーーーーン!”
無情にもゲートが開く。
「あっ、あわわわ‥」
あせって飛び出すハンター‥‥しかし痛恨の出遅れ。
なんと、先頭をきるはずの彼が最後方を走るハメになってしまった。
「た、大変だ、早く先頭に行かなきゃ!」
「うわっ、待てよハンター、今からじゃ無理だ」
必死で手綱を引っ張る吉田。
「だってぇ〜」
半べそのハンターに、吉田が激を飛ばす。
「こうなったら最後の競馬で、新しいハンターの魅力を見せつけてやろうぜ!」
「‥うん」
けなげにつぶやくハンター‥。
しかし、あせったのは彼だけではない。
「おい!ハンターのやつ、どうして俺達の前にいないんだ??」
先頭に押し出されたドトウが叫ぶ。
「分かんねぇよ〜、百円がどうとか、って聞こえたような気がするけど‥」
3番手で内ラチ沿いを走りながらステイが答える。
その横でダイテキが心配そうに首を振っている。
「ふっ、あいつは出遅れたのさ」
2番手を追走しているオペラオーが、バカにしたようにつぶやく。
「なんだって!!」
3頭が絶句する。
「そんな‥、あいつこれが最後のレースなのに‥」
ダイテキの目から涙が溢れ出す。
「ドトウさぁ〜ん、先頭なんスから、もうちょっと早く走ってください
よ〜、遅いっスよ〜」
ステイの後ろを走るロサードが生意気にも声を掛ける。
「なんだとぉぉ〜〜!、俺は先頭なんか走りたかないんだよっ!」
ぶっちぎれるドトウ‥。
そのすぐ斜め後ろで、ニヤリと笑うオペラオー。
「勝負は決まったな」
目の前に4コーナーが迫っていた‥。(B)
「よしっ!!テキサス行くぜっ!!」
ヨシトミJの声に、ダイテキも少しずつ前に進出。
”ぬるぬるぬる‥”
馬場は最悪のコンディション。ぬめって仕方ない。
しかし、軽快に飛ばすダイテキ。
おっとぉ!その脚になにかが??
内に入ったステイがダイテキの足元を見るなり、目が飛び出した!
「マジっ!?」
その声に一同、条件反射でダイテキの足元を見やった。
そこには、小さく蹄(ひづめ)サイズに編まれたワラジが‥。
この時代にワラジ‥天皇賞という大舞台でワラジ‥。
みなの頭にショッキングなワラジの画像が染み込んでいく‥。
さっそうとメンバーを抜き去るダイテキ。
ワラジ効果様様だ。
ヒタヒタヒタ・・・。
その背後に忍び寄る影。
ワラジにも動揺しないその馬の名は‥。
出遅れたハンターであった!
!
後ろすぎてダイテキのワラジが見えなかったのだ。
「何?何??ワラジってどれ?見えないよっ!!前を開けてくれよっ!!」
レースよりワラジを見ようと必死である。
「見せてくれよ〜〜〜〜〜っっ!!」
ついにブチ切れたハンター。(仲間外れにされるのが大嫌いなのだ。)
追い込み体制!!ものすごいスピードだ。
そしてドトウも我に返り、猛烈スパート。
しかしジャージのゴム跡が痒くて、いまいち踏ん張れない。
オペラオーも迫る!!不敵な笑みを浮かべている。
そして、なんと外からはデジ男もやってきた!!
ダイテキも力強くスパート!
そんな中、ワラジ見たさに力を出し切ったハンターには余力がない‥。
ゴ――――――――――――ル!!
「うぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
観客からなんとも言えない声があがる。(U)
なんと!トップでゴールを走り抜けたのはアグネスデジタル!!
ウィニングランをしながら、四位が何度もガッツポーズをする。
思わずスキップを踏んでしまうデジタル‥。
「シャァァァ‥」
地下馬道に戻ってくると、力なくオペラオーから降りる和田。
その肩に手をかける竹園オーナー‥。
「和田君、よく頑張ってくれた。今回は‥仕方ないな‥はっはっは‥」
力なく笑う竹園オーナー‥。
しかしその目は笑ってはいなかった。
「次は頑張ろうねぇっ!和田君っ!!」
「バシバシバシーーーッ!!」
和田の肩を力いっぱいに叩く‥いじめか??
その横で、ステイが豊に抱きついて泣いている。
「よしよし。仕方ないよステイ、こんな馬場じゃぁ‥」
「うわぁぁぁ〜〜〜〜ん。全然力が入らなかったっスよぉぉ〜」
「次に頑張ればいいさ!」
「次って、次も俺に乗ってくれるっスね、豊さんっ!!」
「うん?‥う〜〜〜〜ん‥‥あっ!、そろそろ12Rの支度が‥」
いそいそと去っていく豊。
「ゆたかさぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ん!!」
泣き崩れるステイ‥。
はたしてジャパンカップには乗ってもらえるのだろうか‥。(B)
”とぼとぼとぼ‥”
地下馬道を淋しく歩くドトウ、ハンター、ダイテキ、ステイ。
「鼻緒が切れちまったぜ‥」
ダイテキがポツリとつぶやく。
(ワラジは激しい運動に耐えられなかったようだ‥敗因はこれか?)
「豊さん‥」豊への愛が押さえられないステイ。まだ泣いている。
「痒くてやってられないよっっ!!訴えてやるっ!!」
半分怒っているドトウ。バリバリと腰のあたりを掻いている。
ゴムの入れ替えをした奴を追及する構えだ。
「えへへへへ。百円だもん!!人参買えるんだもんっ!!」
シンガリ負けにもかかわらず、満足げなハンター。平和な性格だ。
それぞれに、それぞれのドラマがある。
「ハンター、これでラストだよな。これ持ってけよ!!」
そう言ってハンターに駆け寄ってきたのは、優勝馬のデジ男。
「ああ。デジ男くんじゃないか。おめでとう。」
「これ、何も言わずにとっておけっ」
と、デジ男がハンターに何かを握らせた。
ハンターがそっと手のひらを開く。
【せんべつ。でじお。】そこには、ひらがなで書かれたメモと千円札が1枚入っていた。
「デジ男くん‥」
ハンターは粋なデジ男に感謝しつつ、ポケットマネーが1100円になったことが嬉しくて仕方ない。
「ありがとう。ありがとう‥」
そうつぶやきながら、ハンターは競馬場を後にした。
そしていつの間にか雨のあがった空に、真っ赤な夕陽が燃え、ゆっくりと沈んでいく。
こうして長く熱い戦いが幕を閉じた。(U)
―― 完 ――
*****************************************************
「馬ばなし」はリレー小説です
参加して下さった皆さん(うめねぇさん、おさるさん、ラムちんさん)有難うございました。
リライト:ばーりん<2001.10>