馬ばなし
―― 天皇賞編 (1) ――
「遅いっ!いったい何をしているんだ、あいつは!」
先程から駅の改札口でイライラと前カキをしながら待っているのは、額からスッと伸びた流星が美しいメイショウドトウ。
「まったく、今日はテイエムオーシャンちゃんの家で秋華賞の祝賀会があるっていうのに‥」
前カキのし過ぎで、身体がほとんど埋まるほどの穴が出来た頃、向こうから砂埃を上げながら走ってくる黒い馬体が‥。
「おお、ドトウ、遅くなって悪かったな!」
息を弾ませながら近づいて来たのは、オカマバーを抜け出して来た、ステイゴールドだった。
「まったく!!おまえ1分58秒3も遅れやがって! 2000m戦が1回出来る時間だぜ」
「まぁ、そう怒るなドトウ。これでも急いで来たんだぜ‥‥あれ?オペラオーは??」
「あいつは直行するってよ。俺と歩くとどうしてもレースになっちまって、お互いに疲れちまうんだ。習慣ってやつさ」
話しながら、2人は電車に乗り込む。
平日の夜、電車はサラリーマンで溢れていて空いてる席はない。
仕方なく吊り革に掴まったステイとドトウの前に、競馬新聞を広げたオヤジが2人、大声で話をしている。
「まったく、この間のステイときたらだらしがねぇ、何だよあの斜行は!!」
「ああ、まったくだ!あいつのせいでオイラの財布はスッカラカンになっちまったぜ」
オヤジたち、目の前のステイとドトウにはまったく気が付いていないようだ。
「このやろう‥」
ステイが拳を握り締めてつぶやく。
「まあ、待て。こんな所で事件を起したらヤバイぜ。それより次が降りる駅だ」
ドトウに押さえられて、渋々思いとどまったかに見えた、その時。
「お〜っとっと‥‥」
電車の揺れに便乗してステイがよろめく。
「ガシッ!!」「ガシッ!!」
2つのひずめが2人のオヤジの顔にヒット!!
「おっと、悪かったなオヤジさんたちよ。俺、ちよっとよろめく癖があってな」
「あっはっは‥」
豪快に笑うドトウ。
顔にくっきりと蹄鉄のあとが残るオヤジ達を尻目に、2人は電車を降りた。
「さぁ、急ごうぜ。今日は天皇賞の前夜祭も兼ねてるんだったな。
そう言えば、ダイテキさんもタガジョーを送ってから来る、って言ってたぜ」
2人は足を速めた。(B)
「おい。招待状持ってきたよな?」
ドトウが自分の鞄を探すが見つからない。
「また、またぁ〜。招待状がないと顔パスは無理って言ってたじゃぁ‥」
ステイが心配そうな顔をドトウに向ける。
ガサッ。ガガガサッ‥‥‥。
「ないーーーーっっ!!」
青ざめるドトウとステイ。
「こんなに楽しみにしてきたのに、俺たちって‥」
2人の悲しげな背中に、夕日がたっぷりと注がれる。
「どうした〜っ。そこの2人〜〜っ。背中が泣いちゃってるぜぇ」
その声に、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔の2人が、ゆっくりと振り返る。
「ダイテキさんっ!」
そこには神々しいばかりの輝きを放つ、ダイテキの車があった。
「んん?乗って行くか?ここから歩くとけっこうあるしさ」
優しいダイテキの目を見ていると、ますます涙が止まらない2人。
ドトウが重い口を開く。
「実は、招待状‥忘れてしまって‥」
「んん?ハッハッハ!ウッッヒョッヒョ!!」
「???」
ダイテキの奇妙な笑い方に、2人の涙は急速乾燥を遂げる。
「俺のキャリア知ってるか?ん??乗ってけよ、俺、年間パスポート持ってるからよ。5人までは顔パスなんだぜ。」
「ええっ!?」ドトウの目の玉はまん丸だ。
「年間パスポートって、オーシャンちゃんの家ってそんなシステムだったのか‥」
ステイもやや頭が混乱しているようだ。
「新しいセキュリティシステムさ。知らなかった?」
その時、車の中からもう1人の声が‥‥。(U)
「へっ?」
驚いた2人が車の後部座席を覗くと、そこにはサイレントハンターの姿が‥。
「やぁ、これはお達者クラブの‥じゃない、ベテランのハンターさんじゃないですか、そういえばハンターさんも天皇賞に登録されていましたよね」
礼儀正しいステイが頭を下げる。
「ああ、俺もそろそろ大穴をあけないとよぉ‥うめねぇと結婚できねぇからな」
「えっ?ついに結婚っすか?」
車に乗り込みながら、ステイとドトウが驚きの声を上げる。
「まぁな‥早く身を固めないと、あいつはすぐに別の男の所に行っちまうからよ‥とにかく、そんな訳で金を作らないとな」
ふうっ、とハンターがタメ息をつく。
「金って、ハンターさん5月に新潟大賞典を勝って、結構な金額が入ったじゃないっスか?」
ドトウが前の助手席から驚きの声をあげる。
「あんなG3の賞金なんて、もうとっくの昔にうめねぇに吸い取られ
ちまったぜ。最近、寒くなって来たからってレグウォーマーってのに
凝っててよぉ、1284足も買ったんだぜ。それもみんな俺とお揃いで買うんだからよぉ‥」
横に座っているステイがハンターの脚元を見ると、確かに超ド派手なレグウォーマーを履かされている。
「大変っすねー」
ステイとドトウが同情したような顔を向ける。
「おい、そろそろ行くぜ!このままじゃ遅刻しちまう!」
ダイテキが思いっきりアクセルを踏み込む。
”キキキキーーー!!”
「うわぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
皆が一斉に悲鳴をあげる。
ダイテキ、すごい運転である。
「おらおら、そこのジジィ!死にてぇ〜のか!」
「くそぉ!前のババァ、とれー運転だぜ、ぶつけてやろーか!」
「ばかやろう!黄色なんかで止まりやがって!ぶっとばしてやる!」
「ダ、ダイテキさんって、ハンドル持つと性格が変わるんですね〜」
ステイが叫ぶ。
助手席のドトウは目を開けていることも出来ずに脚をつっぱっている‥。
オーシャンの家まであと少し‥。 (B)
その頃、竹園オーナーの家では‥。
オーシャン2冠記念のパーティー会場は豪華に飾りつけられ、机の上にはこれまたゴージャスな料理が所狭しと並べられている。
竹園オーナーは挨拶のリハーサルに余念がない。
「すまないが、もう一度頼む」
天井から吊り下げられたゴンドラで和田Jとともに降りてくる竹園オーナー。
二人は半ばで飛び降りると、1回転して地面にすちゃっと着地し、大声で吼えた。
「シャーーーーーー!!」
「よし、これで完璧だ! さすが和田君。君より『シャー!』が決まる男は、宇宙狭しと言えどイノキぐらいなものだろう」
イノキは『ダー!』だろが。
「シャーーーーーー!」
「君もそう思うかね、本田君!」
突然話をふられ、話は全く聞いていなかったのだが、本田Jはテキトーに頷いてしまう。
「皆さん、遅いですわね‥」
「シャー!」
喧騒とは少し離れた場所で、今回主役のはずのTMオーシャンは窓の外を見てため息をつく。
「天皇賞の練習でお忙しいのかしら?」
「シャー!」
「道中で渋滞にでも‥」
「シャー!」
「‥‥‥」
「シャー!」
「‥‥‥」
「シャー!」
「‥‥和田さん」
「シャー!」
「シャーシャーシャーシャーうるさいのよっ!」
ぱっかーーーーーん☆
こうして和田Jは夜空の星になりました。
天皇賞までには帰ってこいよ。(O)
”ブルン、ブルンブルン‥”
「おーし、着いたぞ」
ダイテキが後部座席を振り返ると、ハンター・ステイは爆睡状態。
助手席のドトウも半笑いの顔で寝ている。(幸せな夢でも見ているのか?)
よく見ると、3人のヨダレがタラタラとシートに垂れているではないか。
「ウォー―――ッ!!俺の新車になんてことをっ!!」
ダイテキは慌てて車から降りると3人を引っ張り出した。
「ZZZZZZZZ‥‥‥」
地面にほっぽり出したにもかかわらず、誰一人起きようとしない。
と、そこへ
”キキィーーーーーっ!!”
ものすごいブレーキ音がして車が止まる。
「危ないじゃないかー。えぇ?こんなところでなにしてんだーっ!!」
怒鳴りながら車から降りて来たのは‥。
「おぉっ。ガバじゃねぇか。」
すかさずダイテキが声を掛ける。
イブキガバメントのようだ。
「あっ!!先輩っ、お久しぶりですっ」
そんなやり取りにも気づかず、路上で眠り続ける3人‥。(U)
「テキサス先輩! 自分、秋天出るんスよ!先輩目標にがんばってたんで、一緒に走れて光栄っス!」
どすどすどすどす、ふみふみふみふみ。
嬉しさと興奮のあまり足踏みをするガバ。
足元の3人には気づかない。
「夏の昇り馬の実力を見せるっスよ! 自分、秋のG1全部獲るつもりでいるっスよ!」
「いい心意気だ。お互いにがんばろう」
むぎゅむぎゅむぎゅむぎゅ。
「さっ、先輩。早く行ってご馳走いっぱい食べるっス!」
「あんまり食べるとダンツフレームみたいに牛だブタだと言われるぞ」
「自分、そんなに子供じゃないっスよぉ〜、体重管理もバッチリっス」
「んじゃ、早く行くか」
屋敷の中へと消えていく2人。
しばらくして、取り残された3頭が夢から覚める。
「むおおおおおおお、誰だっ、オレの美しい顔に蹄鉄跡つけやがったのわぁぁ」
異様な顔の痛みに、鏡を見て絶叫したのはサイレントハンターだ。
「お‥俺もだ‥」
呆然とするドトウとハンターの背後で、真っ黒でピカピカの馬体のステイゴールドだけが、とりあえず難を逃れたのであった。(O)
「くっそう‥。それにしても何で俺達寝ちまったんだっけ??」
首をかしげるハンターの横で、あきれた顔でドトウが答える。
「やだな〜、ハンターさんっ。ダイテキさんの運転があんまりすごいんで、睡眠薬を飲んで寝ていこう、って言い出したのはハンターさんじゃさいっスか!」
「そうだっけ??」
ハンター、すっかり忘れているようだ。
「まぁ、いいじゃないか。早く屋敷に入ろうぜ」
オーシャンに会いたくてたまらないステイが2人を促す。
「ああ。 それにしてもすごい屋敷だな、オーシャンちゃんはここに下宿してたのかぁ」
3人が屋敷に入ろうとしたその時、どこからか音が‥。
「‥シャ、シャー‥シャー‥‥シャー」
「???」
「何の音っすかね?ハンターさん?」
「さぁ‥季節はずれのセミじゃねぇーのか?」
「シャー‥シャー、シャー」
「ドジなセミもいたもんだぜ、もう秋だってのによぉ‥」
笑いながら3人は屋敷へと入っていった。
「シャーーーーーーーッ!!」
声を限りの絶叫もむなしく、木に引っかかったまま、身動きの取れない和田。
いつか誰かに気付いてもらえる日は来るのだろうか‥‥。(B)
「招待状もしくはパスポートのご提示願いま〜す!」
玄関では行列が出来ていた。
ハンターも首からパスポートが下がっている。(年なので、さっき踏まれた蹄鉄の跡が顔にクッキリだ。)
「あれ?ハンターさんもパスポートを??」
ドトウが覗き込む。(こちらはやや薄くなった蹄鉄の跡。)
「シルバーパスよ。」
「ほぉ〜〜〜っ!!」納得する一同。
「でもダイテキさんのはゴールドだったよな?」
ステイがハンターに聞いてみる。
「あいつは、シルバーが嫌でさ。わざわざ金払ったんだよ。
シルバーだと無料なのになっ。」
「ほぉ〜〜〜〜〜っ!!!」一同、感心しきり。
やはり、この世界に長くいると色々なサービスが受けられるようだ。
しかしステイは年内引退の身。
うらやましくハンターのパスポートを眺めていた‥。
「はい。どーぞ、前へお進み下さい」
いよいよオーシャンに会えるのか!?
扉が開く‥‥。
「迷子になるなよっ!!」
ダイテキが念を押し、いよいよ中へと入って行く。
おぉ!まるで城のような広さ。
おや?ゴンドラの上で誰かが手を振っている。
「あれは!オペラオーじゃないのかっ?!」
ステイが思わず叫んだ。(U)
「ハッ!!‥ニャンぱらりんっ!」
華麗に三回転しながらオペラオーがゴンドラからジャンプ!
「ドン!」
前髪の乱れを気にしながら着地のポーズを決める。
「きゃぁ☆ オペラお兄さま素敵!」
オーシャンが駆け寄る。
「なんだよ、キザな野郎だぜ、ねぇハンターさんっ!」
ステイがムッとした顔でハンターの方を振り返ると、そこには口の中に山のように料理を押し込んでいるハンターの姿が‥。
「うわっ!やだな、ハンターさん、鼻からスパゲッティが垂れてるじゃないスか!! もっと落ち着いて喰ってくださいよ〜」
そんなステイの声を無視するかのように、今度はステーキに喰らいつくハンター。
狂牛病が恐くないのか?ハンター!!
「ふっ‥あんなに喰って、バカなやつだ」
後ろからオペラオーが声を掛ける。
ムッとしながら振り返ったステイに、挑戦的な目を向けるオペラオー。
「この間は残念だったなステイ。わざわざ斜行なんてしてくれなくても勝ったのは俺だったのに」
「なんだとぉぉぉぉ〜〜〜!!」
”バシバシバシーーッ☆!!”
2人の間に火花が散る。
一触即発!!
と、その時‥。(B)
「二人とも、俺を忘れてもらっちゃ困る。天皇賞、JC、そして有馬記念!俺の前を走る馬は、今後1頭もいない。最強馬の称号は俺がいただくぞ」
2頭の間に割り込むドトウ。
ぶっつけで本番で天皇賞への出走であるが、その顔は自信で満ち溢れている。
「同じ相手には二度と負けん。オーシャン、君との未来のためにも。次の天皇賞は‥オーシャン、君のために勝つよ」
オペラオーは後ろに隠していた大輪のバラをオーシャンの前にすっと差し出した。
「まあ、お兄さまってば‥」
オーシャンの頬が朱に染まる。
「あ、コノヤロー!ぬけがけしやがって!!オーシャンちゃん、オレもプレゼント持ってきたんだ」
ステイゴールドが懐から取り出したのは、ブランド物のバッグである。ちゃっかり武豊に頼んで買ってもらっておいたのだ。
「おめでとう、オレは君が秋華賞をとるって信じてたよ」
「‥ステイさん。有難うございます」
ここは負けじと、ドトウも必殺アイテムを取り出す!
「パドックで雑音が耳に入らないように、本当は俺が守ってあげたいんだけど、せめてこれを‥」
ピンクと青のド派手なメンコ。
咄嗟にオーシャンは『なかったこと』にした。
「さあ、皆様。これからメインイベントであるスライド上映会がはじまりますわ。お席にお掛け下さい」
途端、会場からブーイングの嵐嵐嵐!!!
それもそのはず、スライドの内容は『史上最強の馬主・竹園の華麗で危険でアダルティーなウキウキ激動の半生(天の巻)』とかタイトルしてあるヤヴァイものだ。
開始3秒で全員が眠ってしまうこと、間違いなし!
「何でこれがメインイベントなんだよ‥」
「オーシャンちゃんのお祝いじゃなかったのか。なあ、本田ー!!ちょっとお前、オーナーに『ひっこめオッサン!』って言ってやれ」
ダイテキとハンターは、本田を相手に日本酒をちびちびやっている。
2頭の目はすでにすわっていた。
本田、何気にピンチ。(O)
と、”バチンッッ”
大きな音がしたかと思えば、あたりが真っ暗になってしまった。
ざわめく会場。
どうやら、ゴンドラだの大型スクリーンだのと電気使いまくりでブレーカーが落ちてしまったようだ。
「なんか暗いけどいい雰囲気だな」
酔いで完全に目のすわったダイテキが呟く。
「いい雰囲気っていうか何も見えないし‥」
ほろ酔いでも少し不安になるハンター。
そして、その場からこっそり逃げ出す本田‥。
”キラッ☆”
何かが光ったのをハンターは見逃さなかった。
「ブルブルっ!!!」身震いするハンター。
「ブースカ.。o○ガースカ.。o○ZZZZZ.。o○」
ダイテキはすでに撃沈している。
ハンターは、ふらつく足元に気合を入れながら光った先を探す。
”キラっ!キラキラっ!!”
(見える!見えるぞ!!きっと宝に違いない!!)
ハンターは心の中で思った。
(暗闇の中だ、ネコババしたって分らない‥ふっふっふ)
そして、それに手を伸ばす‥。
んん?何だぁ??触った、触ったけど‥。
「きゃぁ!何すんのよ〜〜〜っ!!」
”バッチ―――ンっ!!”
「イテェ‥イテェよ‥。おかぁちゃん‥」
ハンターがノックアウトされたその時、停電が直った。
「おぉ〜〜〜」ざわめきの中、ハンターは遠のく意識の中薄目を開けた。
そこに見えたのは、オーシャンの歯茎だった。
もちろん総金歯である。
暗闇で光っていたのはこれだった‥。
そして、物凄い形相でハンターを睨みつけている。
「うぅ‥‥おかぁちゃん‥」(U)
「ハンターさんってサイテーねっ!!」
プンプン怒りながらオーシャンは行ってしまった。
「うわぁ〜〜〜〜ん!」
泣き崩れるハンター、鼻水がダイテキの上に降り注ぐ‥。
「うるせぇなぁ、人が気持ちよく寝てるってぇのに‥。」
目を覚ましたダイテキがよろよろと立ち上がる。
「なんだか顔がしょっぱいな‥寝汗でもかいちゃったかな?」
まさかハンターの鼻水とは思ってないようだ。
「どうした?ハンター??おまえ酔うと泣き上戸になるんだな」
そう言いながら本田を捜す。
「ほんだぁぁぁ〜〜〜!!何処に行っちまったんだ、お〜〜い!!」
仕方なさそうに出てくる本田。
「おお、本田よぉ、もっと酒を持って来てくれないか」
そう言いながら本田に近づこうと1歩踏み出したとたん
”ズルッ!!ドスッ!!”
なんと鼻水で脚が滑ったのか、思いっきり本田にぶつかるダイテキ!
「うわぁ〜!」
その衝撃で本田の身体が宙を飛んで行く。
”ガラガラガッシャーーーーン!!”
なんと、本田の身体がスライドの映写機に激突。
こなごなに大破した映写機‥。
湧き上がる喝采。
「ああ、なんということを‥。」
落胆の色を隠せない竹園オーナー。
「本田君、ちょっと来たまえ。別室で話そう‥。」
部屋を出て行くオーナーと本田。
危うし!!本田。
次のレース、オーシャンに乗せてもらえるのだろうか?!(B)
顔面蒼白の本田を連れ、部屋を出て行こうとした竹園は、入り口で立ち止まった。
満面の笑みをたたえて‥。
「お騒がせしてすまない。映写機の替えはすぐに持ってこさせるよ。フィルムは‥先に『地の巻』からご覧になっていただこう。いやあ、皆さんがこれだけ楽しみにしていらっしゃるのに、中断という訳にはいかんからね。はっはっはっはっはっはっはっは」
天国から地獄に突き落とされた気分の一同。
激しいブーイングなどものともせず、竹園は本田を抱えて部屋を出ていった。
しかたあるまい、覚悟を決めてスライドを見る‥つーか、寝るか。
全員が寝ワラを用意し、スライドに背を向けた、その時だった。
会場の電気が再び落ちる。
映写機のカタカタと言う音が、闇の中に響きわたる。
10秒‥20秒‥。
が、いつまで経っても画面は白いまま。
別に誰も見たくはないが、全員は画面をひたすら待った。
いや、再び睡魔が襲ってきたダイテキだけは爆睡中であるが。
”--カタン。”
突如、背後で音が鳴った。
ハンターが気づいてテラスを振り返る。
テラスに続く扉が、わずかに開いていた。
扉は確か閉まっていたハズ‥。
「気のせいか?オレ、ちょっと酔っちまったかな?」
そう言いながらテラスへと向かうハンター。
テラスに出て、空気をいっぱいに吸いこむと、そこでとまってしまった。
月明かりに、ほのかに浮かび上がる影が在る。
「お前、そこで何をしている!」
ハンターの呼びかけに応えるよう、影はふわりと舞いあがり外塀に音もなく着地した。
「この家のお宝はいただいた」
影が口を開いた。
「てめぇ、誰だ?!」
「ダイテキ仮面、とでも呼んでもらおうか」
「はぁっ???」
慌ててハンターは後ろを振り返り、ゆかに転がっていたダイテキをさがす、が、いない。
「もしかして、お前、ダイワテキサスか?」
「うっ、うるさいっ!私はダイワテキサスなどと言う、かっこいい美しい馬ではない!とにかくこの家のお宝である竹園スライドはいただいた。天皇賞で1着になった馬に、このスライドを渡そう。それでは、さらばだっ、トウっっ!」
全員の天皇賞に対するやる気が、10000ポイントほど下がった!(U)
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「馬ばなし」はリレー小説です
参加して下さった皆さん(うめねぇさん、おさるさん、ラムちんさん)有難うございました。
リライト:ばーりん<2001.10>
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