ひとりごと
◆3月11日、私は台湾にいました。羽田を朝出発して,夕方ごろ歩く会の仲間たちと台北のお寺を訪ねていたときです。お寺の番をしている方が手招きして私たちを呼び、従業員の方が見るテレビを見せてくださいました。最初に目にした画面には「東京タワーが歪んだ」と解釈できるような文字が並んでいました。とっさに私は東京直下型地震がとうとう来たのか、と思いました。その後、台北のホテルではNHKの日本語放送を見ることができたので、東京以上に東北の太平洋岸に大きな被害が出ていることがわかりました。
日本の報道がどうだったのかはわかりませんが、台湾で目にするのは大津波や火災や地震で生き埋めになった村、といった恐ろしい映像でした。台湾の新聞にも「この世の地獄」というような見出しが躍っていました。それで、旅の仲間たちも私も留守宅に連絡をして安否を確認しようとしたのですが、最初の2日くらいはまったくつながりませんでした。
予定どおり14日には東京に戻り、本棚から落ちてなだれた本の片付けや、割れたガラスの始末などをしていたのですが、今度は福島原発の事故が収束するどころか、次々に爆発、火災とひどいことになってきました。私は、こうした一連の報道がなされるまで、福島には第一と第二があることも知らなければ、第一だけで6機もあることや、3号機にはプルトニウムを使ったMOX燃料が使われていることも知りませんでした。ニュースなどで見聞きしたことがあったとしても忘れてしまっていたのだと思います。
◆青短では、卒業式と入学式は中止になりましたが、授業は普通に始まりました。3年ゼミの最初の日に、原発の是非についていろいろな視点から考えてみようと思ったのですが、学生の中には,原発がなんなのか、放射能被害がどのようなものなのか、まったく知らない人もいて、びっくり! チェルノブイリ事故は彼女たちの生まれる前のことだったのだなあ、とあらためて思いました。
このゼミの学生たちは、多くが来年から子どもにかかわる仕事につきます。小さな子どもたちほど放射線被曝の影響を受けることを考えると、ゼミの学生たちにも自分で判断できるだけの情報を伝えていかなくては、といました。「ただちに影響がない」という政府の発表を聞いて安心し、何も考えていない、あるいはどう考えていいかわからない学生も多かったからです。
◆学生に伝えるためには、私自身がきちんとした情報を手に入れなければならないと思いました。そこで、政府の報道からネット情報まで、原発推進派から脱原発派までいろいろな情報に触れ、自分なりに考えました。重要だと思われる(単に私がそう思うだけですが)情報は、「アフリカ子どもの本プロジェクト」のメルマガで毎日のように会員には伝えていきました。
あれから1か月以上たって、少し整理してみると、こんなふうになるのではないかと思います。

<原発推進派の論理>
(1) 石炭や石油などの化石燃料は近い将来枯渇してしまうため、それを使った発電方法では電力の安定供給ができなくなる。
(2) 地球温暖化の原因とされるCO2や、大気汚染の原因とされるNOx・SOxを排出せず、優れた環境性を有している(東電のHPから)。
(3) 原発はほかの方法に比べて安く電力を供給することができる。
<それに対して、私はこんなふうに考えました>
(2) については、たとえCO2を出さないとしても、いったん事故が起これば、広範囲に土を汚し、海を汚し、空気を汚すわけですから、とてもクリーンとはいえないことが、今回の事故で明らかになってしまいました。
「福島の原子炉はもともと欠陥があった。もっと安全な原発をつくって事故が起こらないようにすればいい」という人もいますが、100%の安全などありえないのですから、いつか事故は起こります。それに設計上より安全なものができたとしても、実際の工事が手抜きだったり、ミスしていたり、ということもありえます。これについては、元原発技術者の菊池洋一さんが話しているのをYouTubeで見て、びっくりしました。
http://www.youtube.com/watch?v=gNWVljrvl3o&feature=youtu.be
また中には、原発の開発・改良は人類の進歩の過程で必要だと考える人もいるようです。石田衣良も、マイケル・サンデルのテレビ番組で「安全面を極力強化し、それでもリスクが残ることは承知の上で原子力への依存を続ける」というほうに賛成し、「自動車や飛行機を作った時、必ず最初は危険でしたね。その危険を全て乗りこえて少しずつ前進してきたのが人類の歴史だと思っています」と話しています。
私は石田衣良の小説は好きでよく読んでいたのですが、自動車や飛行機の安全性と原発の安全性を同等に考えるこの人の感性と知性にあれっ? と思ってしまいました。だって原発事故は自動車事故や飛行機事故と違って、時間と空間の両方で広範に環境を汚染し、桁違いに多くの生ある者たちに悪影響を及ぼしてしまうからです。それに、原発はたとえ事故を起こさなくても、どんどんたまっていく廃棄物の処理さえできていないのです。

(3) については、私も原発による電力供給がいちばん安いと聞いていたし、廃棄物処理とか事故になった場合の処理や保障などを考えなければ、安いのだろうと思っていました。
東電の現在のホームページで見ても、「1kWhあたりの電源別発電コスト」というところに原子力がいちばん安くて5.3円と書いてあります。2005年の資源エネルギー庁の資料でも、やはり原子力がいちばん安くて5.9円になっています。
ところが、ソフトバンクの孫正義さんが電力会社の別の資料(「設置許可申請書に記載された原発の発電原価」)を引いて説明している動画を見ていてびっくり! 実数では、ごく最初の時期を除いて、どれも10〜20円になっていたからです。
http://ustre.am/:XyYd
孫さんのこの動画は、ほかにも資料をいろいろと挙げて、いまや原発はいちばん高くつく発電方法となり、自然エネルギーの利用へと方向転換するべきだと言っています。彼は実業家なので、経営者として合理的に考えたうえでそういう結論に達したのだろうと思います。なかなかおもしろいので、ぜひ見てください。
最後に(1)ですが、これは化石燃料による発電か原子力による発電かという二つの選択肢しか用意されていない場合の考え方です(私たちが二者択一だと思い込まされてきた部分もあると思います)。太陽や風を利用する自然エネルギーという考え方を導入すれば、また全然違ったものが見えてくるのだと思います。
アメリカの「ワールドウォッチ研究所」の報告書では、世界規模で見ると、風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる発電容量が、2010年には原発を上回った(原発/3億7500万キロワット 再生可能/3億8100万キロワット)と伝えています。(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011041602000186.html

原爆や被曝をどう考えるか、という基本的なことについては、小出裕章さんのお話がわかりやすく、理解するうえで大いに役に立ちました。たとえば、これです。
http://www.youtube.com/watch?v=4gFxKiOGSDk
小出さんは、京都大学原子炉実験所の助教(ちなみに助教とは、教授、准教授の次の職位で、還暦を過ぎてもこのような職位にあるのは、原子力を研究しながら原発に反対しているせいで出世の道を閉ざされたとのことです)で、人間としてどう考えたらいいのか、ということについても教えていただきました。それにしても、テレビに出てくる東大の先生たちはひどいですね。東電から研究費をたくさんもらって、魂まで売り渡してしまったのでしょうか?
広島と長崎の核爆弾はアメリカが落としたものですが、今回は日本が自分の国に核爆弾を落としたようなものです。そう考えると、原発にはテロリストに襲われる危険性が高いという欠点もあると思います。原発の上に何かを落とす、あるいは原発施設の一部をどうにかすれば、核爆弾を落としたのと同じ結果になるのですから。
何より私は、安心して窓をあけてさわやかな風を家の中に通し、安心して魚や野菜を食べられる海と大地を、そして子どもたちが思いっきり外で遊べる日常を、福島のためにも自分のためにも取り戻したいと思っています。
放射線被曝の影響については、いろいろな学者(偽学者もふくめて)がいろいろなことを言っています。「放射線を浴びると健康になる」というトンデモ博士(博士は自称かも)もいます。政府も、子どもの年間被曝線量限度が20ミリシーベルトでも問題ないと言っています。だいじょうぶかもしれないと思う人は、以下の動画を見てください。福島の事故が起こる前に収録されているものですが、チェルノブイリ事故の研究をしていたアメリカの毒物学者Janette Sherman博士が語っています。日本語の字幕もついています。
http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/
WHAT'S NEW
○青短の金曜日の2限(10:35〜)は、ゲストスピーカーをお呼びしての授業で、卒業生や関係者は聴講することができます。2011年度のスケジュールが決まりました。前期はこんな方たちにこんな話をしていただきます。ただし、今年は節電等の関係で前期の日程を7月9日までにすべて終えることになり、予定していた齋藤惇夫さんと村山隆雄さんのお話は聞くことができなくなってしまいました。とても残念です。
野坂悦子さん(翻訳家 紙芝居研究家):4月22日
落合恵子さん(クレヨンハウス代表):5月6日
池上理恵さん(静岡自然を学ぶ会代表 ):5月13日、5月20日
吉原美穂さん(「クーヨン」編集長):5月27日
佐々波幸子さん(朝日新聞記者):6月3日、7月1日
○おもしろい本が2冊出ました。この2冊に載っているような本は、売れる本にはなりにくいので、一般の方の目に触れる機会も少ないのかと思います。私も、この2冊で初めて知って読んでみたいと思う本が何冊もありました。お薦めします。
『多文化に出会うブックガイド』世界とつながる子どもの本棚プロジェクト編 読書工房発行 2011.3.10 1800円
第1部 多文化社会を生きるための本棚:いろいろな立場から多文化を考える人たちのエッセイが並んでいます。(私のも)
第2部 異文化と出会うための本棚:東アジア、東南アジア、オセアニア、南アジア・中央アジア・西アジア、ヨーロッパ西部・南部、ヨーロッパ東部・北部、ロシア、アフリカ、北アメリカ、中央アメリカ・南アメリカに分けて、それぞれの地域に関して日本で出ている児童書がカラーの表紙画像とともに紹介されています。
第3部 多文化理解のためのナビゲーション:図書館や学校・地域の現場で多文化理解のための活動をしている人々の実践報告が並んでいます。
巻末には、多言語書籍の入手先リストや索引があります。いとうひろしさんの表紙の絵もすてきです。
『きみには関係ないことか:戦争と平和を考えるブックリスト '03-'10』京都家庭文庫地域文庫連絡会編 かもがわ出版発行 2011.4.25 1600円
第1章 いま世界で何が起こっているのか:なぜ、子どもが兵士に?/兵器に傷つく子どもたち/紛争と難民/貧困がもたらすもの/放射能汚染/今なお存在する米軍基地/韓国・北朝鮮とのかかわり、という各分野ごとに、いろいろな児童書がカラーの表紙画像とともに紹介されています。
第2章 過去の出来事から学ぶ:戦争は暮らしを変える/兵士とは/語り継ごう、アジア侵略の事実/沖縄戦を忘れないために/核兵器の時代は広島・長崎から始まった/ホロコーストを考える、という各分野ごとに、いろいろな児童書がカラーの表紙画像とともに紹介されています。
第3章 未来のためにできること:「被爆国日本」ができること/日本国憲法を学んでみませんか/平和を求めて行動する人/人が人らしく生きる---人権と自由/地球に生きる仲間たち---環境問題を考える/世界の人々とその文化や暮らし/自分の意見をもつために、という各分野ごとに、いろいろな児童書がカラーの表紙画像とともに紹介されています。
巻末には年表や索引もついています。