『Sultan 〜The Lovesong is Forever〜』

 Selaculca Scenario Another Story Part3

 "あなたの背中だけを追って"   by ブタベスト


ト リトアの町・セラクルカの家の前・某日朝
セラクルカ「なっ、何なのよこれ〜〜っ!!」
レクスとロッタ君が兵隊さんたちに連れて行かれて、何日かして、あたしは信じられない記事に驚く羽目になった。
ロッタ君のいない今は新聞をとってくるのはあたしの仕事だった。
パパもママも仕込みで忙しいから。
たった2ページのガリ版、しかも1週間に二・三度という新聞で、いつもは大したことも書かれていない。
時々、黒麦とか小麦とかの作付けなんかの記事が載ってるから無視できないけど、まだ今はそういった季節でもないからやっぱり大した記事も載ることはない。
でも、今日だけは違った。
その記事はこんな出だしで始まる。

『ルキア王国政庁公式発表 6月16日 国王オルハン2世は実孫レクスを王太子として擁立することを決定。これによりレクス殿下は王位継承候補第一位となる。また同日、レクス殿下と財務大臣ログマン氏の実娘シーリーン嬢との結婚が発表され、王宮で式典が行われた』

……事実だけを伝える記事。
ううん、こんなのが事実だなんて信じられない!!
レクスが次の王様で、しかも結婚っ!?

ト セラクルカの家の扉が開き、女性が顔を出す
レア「あらあら…どうしたの? 大きな声出して」
セラクルカ「あっ、ママ…この記事見てよ!」
レア「な〜に、新聞握り締めちゃって。えっと…あら、これは…レクス君が王子様で結婚しちゃったのねぇ。すごいわね〜」
セラクルカ「すごいわね〜、って、ママはそんなんでいいの?」
レア「………ええ」
セラクルカ「何でよぅ…。だって、あの情けなくて、弱虫で、意気地なしで、ネボスケで、スケベで、役立たずで…優しいだけが取り柄のあいつが次の王様なんて」
レア「あらあら、自分の恋人をそんな風に言っちゃっていいの?」
セラクルカ「うっ…」
レア「あのね、実は私、知ってたのよ」
セラクルカ「……何を?」
レア「レクス君とロッタ君が王族だったってこと」
セラクルカ「は?」
…あたしはもう訳が分からなくなってきた。
相変わらず右の頬に手をあてて笑いながら話しているままだけど…言ってることは普通なんてものじゃないわよ〜。
レア「イリナさんのことは覚えてる?」
セラクルカ「もちろんよ。レクスのお母さんには色々教えてもらったもの。お裁縫とか、お洗濯とか、ケンカの仕方とか…」
レア「あらあら…私のできないことばかりね」
そう。あたしのママは料理は出来ても他のことはてんで駄目だったりする。
あたしがやるようになるまでは全部お父さんがやってたし。
だからパンの作り方以外はレクスのお母さん…イリナさんに教わったの。
レア「ま、それはともかく、イリナさんから聞いてたのよ。イリナさんが国王様の娘で、王宮を逃げ出してリトアにいるんだって」
セラクルカ「……っ!!?」
レア「もちろん、お父さんも知っていたのよ。それで、イリナさんからは、もし自分たち夫婦に何かあったら息子たちのことお願いします、って私たちは頼まれてたの」
セラクルカ「パパも知ってたって言うの? だってあんなにレクスこき使ってたじゃない」
レア「一番こき使ってたのセラちゃんでしょ?」
ママのキツイ一言に何も言えなくなってしまう。
レクスも嫌なときはハッキリ言えばいいのに、いつも苦笑いしながら「分かったよ」って引き受けちゃうんだもん…。
………そこがあいつの良いところなんだけど。
レア「イリナさんがあの火事を予想してたとは思えないけど…誰かには伝えておきたかったんでしょうね」
セラクルカ「何でイリナさん、レクスたちに教えなかったのよ。レクスだってこんな貧乏生活しなくて済んだんだし…」
レア「あなたがいるからじゃない?」
セラクルカ「あたしっ!?」
予期してなかった答え。
ママの目は真面目で冗談でないのはわかる。
でも、どうして。
レア「自分が王族だなんて分かったら、レクス君のあなたへの態度が変わっちゃうと思ったんじゃないかしら。それに、それはあなたも同じ」
セラクルカ「…あたしは、レクスが王子様だって知っても今まで通りに……」
レア「……出来たかしら?」
あたしは何も言い返せなくなっていた。
今のあいつは、この町の丘から遠くに見える王都の、それも王宮の中の人なんだから。
あたしの住んでいる世界とは違う……。
レア「イリナさんは、あなたたち二人が普通の恋人であることを願っているのよ。もちろん私たちもね。だから、レクス君やあなたには話さなかったの」
セラクルカ「ママ……」
レア「でも、どうしましょうかね〜。レクス君結婚しちゃったんでしょ〜?」
それまでの真面目な顔はどこへやら、いきなりコロリと笑って冗談みたいに話し始める。
セラクルカ「えっ、あ〜〜〜〜っ!!」
そう、あいつが結婚してしまったということは、もうあたしとあいつは恋人なんかじゃ…。
ト 家の中から男の人の声が聞こえる
声「お〜い、仕込み終わらんぞー」
レア「あら、お父さんね」
とたとたと、店の中に入ろうとするママ。だけどあたしは動くことも出来なくて…。
レア「2・3日じっくり考えてみなさい。あなたが今、どうしたいのか」
にっこり振り返ってママが言う。
レア「お店のことは心配いらないから。レクス君のことをどう思っているのか、それだけよ」
パタン、とお店の扉が閉まる。

セラクルカ「あたしはあいつのことを…」

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実際のところ、どうしたらいいかさっぱり分からなかった。
どうしようもなく、日にちだけが過ぎて、あたしの傍にあの人がいないことが、ただそれだけが寂しかった。

そしてまた何日かして、新聞に小さな募集広告が載った。

『日雇い住み込み調理の出来る方。王宮内で働ける方。日給及び待遇応相談。若い女性の方優先致します』

…王宮の中に入れる。
…でも、王宮に行ってあたしは何がしたいの?
あたしはレクスと会ってどうするの?

レア「セラちゃ〜ん、明日の仕入れのことなんだけど〜って、また新聞握りしめちゃってどうしたの?」
セラクルカ「あっ、ママ…。えとね、この募集なんだけど…」
レア「何々・・・あらあら、王宮のアルバイトの募集じゃない。いいわねー、国王様に直に会える機会なんてそうそう無い……」
あっ、と気づいたようにあたしの顔を見るママ。
あたしの沈黙が何を意味しているかはもう分かっているみたい。
レア「……行きたい?」
あたしはしばらく黙ってしまった。
まだ自分の気持ちが分からなかったから。
それでも、遠慮がちに口から出た言葉は一つしかなかった。
セラクルカ「……うん……」
レア「不安かしら?」
セラクルカ「あたしは…レクスに会いたい…。でも、レクスは…もうあたしのことなんか忘れちゃってて、結婚した人のことだけ見ていたら…」
レア「レクス君にとってセラちゃん自身が過去の人間になってる、っていう証拠を突きつけられるのが怖いってことかしら」
セラクルカ「もう、どうしたら良いのか分かんない。だって、あたしたち恋人なのに、レクスだって『お嫁さんになってください』って言ってくれたのに、あたしだって嬉しかったのに…どうしてこうなっちゃったのよ」
まだ朝早い時間だから他の家の人は通りにはいないけど、もし聴かれていたらすごく恥ずかしい台詞ばかり出てくる。
でも、私は今の思いをママにぶつけるしかなかった。
まるで赤ん坊みたいだけど。
レア「セラクルカちゃんは…レクス君のことを信じられない?」
セラクルカ「信じてるわよ。でも、あいつはもう私の知らない人と結婚…」
レア「結婚してるからあきらめるの?」
セラクルカ「………ママ?」
レア「…どうなの?」
今までに見たことのない、真剣なママの顔。
あたしの目をまっすぐ見つめて、ただあたしの答えを待っている。
しばらく二人とも黙ってしまって、そして、
セラクルカ「……あきらめたくないよぅ……ぐすっ…」
いつしかあたしは泣き出していた。
それまで抑えてきたはずの感情と涙があふれ出してきて止まらなかった。
セラクルカ「…レクスぅ…会いたいよぅ……ひっく…」
レア「やっと、自分の気持ちに気がついた?」
あたしは、何よりも、レクスに会いたい気持ちでいっぱいだった。
会って、あたしは誰よりもあなたを好きですって言いたかった。
もちろん、あたしのことだから素直に言うなんて出来ないかもしれないけれど…
やっぱり、あいつのことが好きだから…。
あいつの心の中にあたしがいることを信じたいから。
レア「よしっ、行ってきなさいっ。そして、ど〜んとレクス君にぶつかってきなさい。うじうじしてるなんてセラちゃんらしくないわ。あなた自身でレクス君にぶつかっても、こちらを向いてくれないならしょうがないけど、やってみなきゃ分からないわ」
セラクルカ「ママ…」
レア「駄目だったら…ウチに帰ってきなさい。あなたにどんなことがあっても、ここだけはあなたが帰れる場所なんだから」
セラクルカ「ママ…ありがとう…。あたし、王宮に行ってみる。レクスにぶつかってくるわ」
レア「うん、それでこそあたしの娘ね。やっぱりあなたには笑顔が似合うわ」
セラクルカ「もう、ママったら…」
レア「まあ…駄目だったら、私がレクス君よりカッコいい男の子見つけてきてあげるから、心配しないでゴーよっ!!」
セラクルカ「ママっ!?」
レア「や〜ん、冗談なのに怒っちゃダメよー」
セラクルカ「まったくもう……」
ママは時々余計な時にこまかい笑いを欲しがるんだから。
決まってまじめな話の時だし。
レア「ま、あなたなら採用してもらえると思うから、心配しないで行ってらっしゃい。私が保証しちゃうわ」
セラクルカ「うんっ」

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ト ぐつぐつ…という鍋でモノを煮る音
運が良いのか何なのか…あたしはあっさり王宮のメイドとして採用されてしまった。
それで今、昼食の仕込みをやってるわけなんだけど…あの採用試験はなんだったんだろう…と今も思う。
試験内容は、世間一般常識の口答試験と、料理。
料理の課題は…パンとレモンアイスクリーム…。
…別に…何だって良いんだけど…なんでこの二つだったのかしら…?
最後に国王様の面接。
オルハン二世「ふむ…出身地はリトアとな…」
セラクルカ「はいっ」
何か問題があるかのように考え込む国王様。
…眉毛に覆われて目は見えないけど。
結局、その後もリトアの街のことについては聞かれなかった。
面接の最後の国王様の質問を思い出すとちょっと笑えてくる。
オルハン二世「のう…」
セラクルカ「はい?」
オルハン二世「時々つまみ食いに行くが、よいじゃろうか?」
セラクルカ「は!?」
オルハン二世「いや、その、なんじゃ…最近、シャーヒーンに食事制限を喰らっておってのう…腹が減って仕方ないんじゃ」
セラクルカ「ぷっ…あははは…」
オルハン二世「むぅ…笑わなくてもよいじゃろうに…」
セラクルカ「だっ、だって世界一の王様がつまみ食いだなんて…あはははは…」
オルハン二世「おぬし…今面接中ということ忘れておらんか?」
セラクルカ「あっ!!…済みません…」
オルハン二世「…まあ良い、その代わり、採用されたらつまみ食いは大目に見てほしいのう…」
セラクルカ「はい、分かりました!」
このときはポカをやってしまったと思って、すっかり不採用のつもりでいたし。
まさか後で本当に実行されるなんて思ってもみなかった。
これもずっと後で知ったことだけど、シャーヒーンという人は近衛将軍なんだとか…。
国王様の立場って一体…?
そんなことを考えてるうちに、後ろから聞こえる物音。
アルテースさんたちはまだお掃除の最中のはずだし…と思いつつ振り向いてみる。
ロッタ「えへへ…セラおねーちゃん♪」
セラクルカ「…ロッタ君!」
ロッタ「やっぱりセラお姉ちゃんだったね」
セラクルカ「…やっぱり?」
ロッタ「新しいメイドさん」
セラクルカ「一体どういうことなの?」
ロッタ「あのね、アルテースさんに試験のお料理、パンとレモンアイスクリームにして欲しいなって言ったの」
セラクルカ「キミが考えたの?」
ロッタ「うん、セラお姉ちゃんが応募してきたら、このお料理ならお姉ちゃん一番だもん、絶対受かるって思って」
セラクルカ「もしかして…あの募集も最初からあなたが考えたんじゃ…」
ロッタ「ううん、僕じゃないの。でも、セラお姉ちゃんなら来てくれるんじゃないかな、と思ったし…それに…」
セラクルカ「それに?」
ロッタ「兄上…寂しそうだから…お姉ちゃんがいなくて…」
…この子はやっぱりあの役立たずなレクスのことが本当に大好きなのね。
もしかして、国王様にもその話をしていたのかしら。
そうじゃなければリトアの名前にあんな風に反応しないもの。
ロッタ「それじゃあ、セラお姉ちゃん、お昼ご飯楽しみにしてるからね♪」
トタトタと厨房から出て行く。
…あの子って、昔っからレクスのことだけを考えてるのかもしれない。
あたしの恋の最大のライバルって、もしかするとあの子なのかも…。
って、ロッタ君男の子じゃない、何言ってんのかしら。
さ、お料理お料理。

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昼食の時間。
あたしの作った料理がコロンさんたちの手で運ばれていく。
あとで紹介するから、というわけであたしはとりあえず厨房で待機。
厨房からこっそりと食堂の方を覗き込む。
…レクスがいる…。
しばらく…といっても何ヶ月も経ってるわけじゃないけど、あいつはやっぱりあいつのまま。
リトアにいたころよりずっときれいな服を着て、アルテースさんたちと何か話してる。
アルテースさんはなんだか嬉しそう。
そして食事が始まる…レクスがスプーンでスープを一口…あ、固まっちゃった…。
無表情のままレクスの顔だけがロッタ君のほうを向く。
にっこり笑うロッタ君。
数秒後
レクス「ごっ、ごちそうさまっ!!」
あっ、逃げ出した!
まさかあたしの料理だってことに気付いたのかしら。
そりゃそうよね、あたしの料理何度も食べてるんだもの。
…って、そんなこと考えてる場合じゃないわっ。
あたしは即座に厨房から飛び出す。

レクスはあたしに告白してくれた。
あたしみたいに女の子らしくない、暴力的な女の子にプロポーズしてくれた。
そして、あたしたちは恋人になった。
いつか、あいつのお嫁さんになれる時を待ちながら続く平凡な毎日。
レクスがあたしを捕まえてくれるのを待ち続けていた。
…でも、今度はあたしが追いかける番。
あたしが好きなのはレクスだけなんだから。

そして、あたしはあいつの背中に向かって走り出した。
大切な約束、あたしは忘れてないからねっ。

セラクルカ「絶対にっ、逃がさないんだからぁ〜〜〜!!!」

Fin...


(Afterword)

ということで、セラSSでした。ありがたいことに、裏RY.O助様にAS化していただきました。ASの方では裏様にシナリオを若干手直ししていただきましたが…やっぱりプロのAS作家様は違うなぁ…と。ブタベの文章って、本当に、ASに向いてないですねぇ…とタメイキ(笑)
このお話の見所はやっぱりセラの母親・レアで…ほとんど本編に出てこないのにここまで書いてしまって良いのかすごく不安になってきます。
記憶だけでシナリオを書いているので本編といくつか矛盾している部分もあるかと思いますが、なるべく大目に見ていただけると助かります。
それにしてもファーブラASといい、このSSといい、ブタベの書くSSは傾向がハッキリしているのが笑えます。

なお、本編中の『ト』はト書きのことです。