ミールワームによる骨格標本の作製

はじめに

骨格標本の作成法には、様々な手法がある。目的や、自分がやりやすい方法を適宜選択して行うのがよい。現在のわたしは、主に、ミールワームによって除肉した後に、パイプスルーで仕上げるという手順を用いている。

準備

ミールワーム(もしくはミルワーム)とは、一般にチャイロコメノゴミムシダマシ Tenebrio molitor の幼虫のことを言う。通称の通り、鳥や熱帯魚、ハムスター等の、昆虫を好んで食べる動物の餌として利用されている。ペットショップなどで安価に手に入るうえ、飼育も容易である。

ミールワームの飼育法については、他に多くのサイトがあるため、適宜検索してもらいたい。わたしの場合、適当な大きさの水槽や虫かごに、百円ショップで購入した園芸用の水苔を軽くほぐしたものを敷き、そこにミールワームを入れている。水苔は、隠れ場所と餌を兼ねているが、標本制作を前提にした場合、水苔を使用するのがベストかはやや疑問もある※。大型の虫かごには、冬場の温度を確保するために小型のヒーターを吊り下げている。

※水苔の繊維が骨に絡まることがあり、特に小型で繊細な骨格を扱うときに注意が必要となってしまう

処理

処理させる前に、予め取れる柔組織はなるべく取り除いておき、虫かご内に放り込む。瞬く間にわらわらと試料を取り囲み、細かいところまで筋肉を食べていく。詳細は後述するが、作業そのものは比較的楽な部類に入るのではないだろうか。

過剰に食害される前に引き上げる必要があるため、たいてい若干の柔組織が残っている。適切なタイミングで引き上げれば、ほぼ全身が関節した状態の標本が手に入る。骨膜や腱、鱗などを取り除く必要があるが、ほとんど取り除かれているため、手間としてはそれほど多くはない。ピンセットやメスで取り除いた後に漂白、乾燥させて標本は完成する。

Freetailさんの手順に習い、仕上げとして過酸化水素水ではなくパイプスルーを用いている。漂白だけでなくタンパク質の分解、除菌消臭効果もあり効果的である。

魚類の骨格標本をミールワームによって作る方法を紹介しているサイトがある。基本的な作業の流れは同様であり、ここも参考になると思う。

ポイント

ミールワームの個体数は多めにしておくのが良さそうである。個体数があまりに少ないと、残った肉が乾燥してさらに処理に手間取ることになる。過剰な個体数を用意しておくと、小鳥サイズであれば半日で骨だけになるようである(Freetailさんからの情報)。ただし、注意しないと骨まで食べられたり、細かい骨が脱落してしまう。頻繁に処理状況を確認できないようであれば、個体数はほどほどに抑えた方が無難である。

具体的に最適なミールワームの個体数がどれほどかは一概には言えない。処理する試料のサイズや温度、ミールワームの齢など様々な条件によってかなり変わってくる。最も活動的な温度は20℃前後のようである(維都さんからの情報)。わたしの場合、およそ20℃前後の温度下において、ヒヨドリ大の鳥が概ね2〜3日で骨だけになる程度の個体数を用意している。多くの標本を手がける必要がある場合は、少なくともこの程度のペースは必要になると思われる。細かい骨の脱落に特に注意したい場合は、ミールワームの個体数をこれよりもやや少なめにしたほうがよいかもしれない。

趾骨や尾端骨、舌骨などは、注意しないとすぐに脱落してしまう。肋骨の関節部分も容易に食害されるので、時々処理具合を確認する必要がある。個体数を多くしている場合は、ある程度処理が進んだら、1時間毎くらいの頻度で様子を見ておいた方がよいかもしれない。

部位によって処理の進み具合は異なる。これ以上食われたくはない部位には、フォルマリン原液を塗ると、その部分を避けるようになるようである(維都さんからの情報)。逆に、処理を進めたい部位をガーゼで覆うと、ミールワームが隙間に潜り込むため、その部分の処理が進むようである(Fさんからの情報)。鳥の場合、趾や尾、肋骨など、比較的後半身寄りの部位が脱落しやすい。後半身が十分に処理されたら、頭を下にして虫かごの壁面に立て掛けるようにしておくだけでも、ある程度処理をコントロールできる。若齢のミールワームだけ、もしくは個体数の少なめにした容器を別に用意し、慎重に処理したいところでそちらに移すという手もある。簡単な方法でも、コントロールするタイミングを見計らえば、かなり良い結果が得られる。

ミールワームは、ある程度乾燥した状態の肉はよく食うが、過剰に乾燥すると逆に処理が進まなくなる。そのような場合は、試料を一度水に浸けると、再びよく食うようになる。ただし、ミールワーム自体は水を嫌うようなので、注意が必要である。

小鳥の場合、Freetailさんも指摘されているように、後肢の鱗がネックとなる。予め剥いた上で処理したり、そのままミールワームに処理させた後にパイプスルーに浸けてから剥くなど、一手間かける必要がある。

失敗例

ミールワームによる処理を試みたところ、試料から蛆がわき、ミールワームごと焼却処理する事態になったという話をTさんから伺った。特別に薬品処理や加熱処理をしないため、新鮮な試料であっても、そのまま処理すると、このようなことが十分に起こりうる。予め冷凍するなどの処理をしておく必要がある。

虫かごの下には、ミールワームの糞が溜まる。さらさらとした顆粒状の糞で、土のような感じである(し、実際にこのように土はできるのだろう)。前述のように、過剰に乾燥した試料は水に浸けると再びよく食われるようになるが、このとき、あまりぼたぼたと水が滴るような状態で虫かごに入れると、濡れた土(のような糞)を中心にカビが生えるので注意が必要である。なお、言うまでもないと思うが、さらさらの糞は風に舞うことがある。小さな子供がいる環境やアレルギー体質の人は、特に扱いには注意を払った方がよいかもしれない。

ミールワームの管理にまつわる諸々

餌としてミールワームを利用する場合、低温にしておくことによって蛹化を遅らせるようである。しかし、骨格標本作製のためには、ミールワームの活動に適した温度にしておく必要がある。そのため、ミールワームが次々と成虫になるのは避けられない。多数の標本を作る場合、ミールワームの累代飼育をするのは理にかなっているが、単発的に骨格標本を作る場合、増殖するミールワームをどう管理するかは問題となるだろう。小動物を飼育している場合、増えたミールワームは餌として消費することができる。しかし、1〜数体しか標本を作らないことが明白で、しかもミールワームを消費するあてがない場合、ミールワームの使用は避けた方がよいかもしれない。

累代飼育する場合、管理上の利便性と共食いを避ける意味でも、蛹と成虫は別の容器に移し、処理とは別の系で増殖させると良い。わたしの場合、百円ショップで購入した米びつに、同じく百円ショップで購入した水苔を敷き、同じく百円ショップで購入したドッグフードを餌に成虫を飼育している。幼虫が孵化したら、巣材もろとも処理系の虫かごに入れている。

実例

ガビチョウ
ミールワームで2日処理した後、パイプスルーに2日浸けたガビチョウ Garrulax canorus
ガビチョウ
同上。風切りを残すこともできる。
ガビチョウ
同上。手根中手骨や指骨など柔組織を取り除きにくい部位も良く処理される。
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