骨格標本の作製について Step-1

はじめに

骨格標本を作るために様々な方法が考案されてきた。まずは骨から筋肉などの柔組織を取り除く必要があるわけだが、そのための代表的ないくつかの方法を簡単に紹介する。

方法 特徴や注意点等
煮沸する方法 最も手軽な方法であろう。長時間かけて試料を煮て、柔らかくなったところで筋肉を取り除いてゆく。ただし火元の管理が必要となる。
水中へ埋没させる方法 いずれも柔組織を自然に腐敗、分解させる方法。ネコなどに掘り起こされないように工夫する必要がある。また、細かい骨が紛失しやすい。
土中へ埋没させる方法
カツオブシムシに柔組織を食わせる方法 剥製などを食害するカツオブシムシの幼虫に柔組織を食わせるという方法。筋肉部分のみを食うため、関節した骨格標本をきれいに作ることが出来る。カツオブシムシの脱出に注意する必要がある。

また、化学的な方法も何種類か知られている。

方法 特徴や注意点等
蛋白質分解酵素で柔組織を分解させる方法 大型動物の標本に適している。タシナーゼという酵素によってタンパク質を分解させる。迅速に質の高い標本が出来る。詳細は北海道大学図書刊行会の骨格標本作製法を参照されたい。
パイプ洗浄剤を用いる方法 花王パイプスルーによって柔組織を分解する方法。手軽に入手できるうえ関節した状態で骨を取り出すことが出来る。また、漂白、除菌も同時に出来る、詳細は化石研究会会誌の排水パイプ用洗浄剤を利用した小動物骨格標本作成法を参照されたい。
入れ歯洗浄剤を用いる方法 ポリデントによって柔組織を分解する方法。詳細は盛口満の著書を参照されたい。
アルカリ溶液を用いる方法 水酸化ナトリウム水溶液などに漬け柔組織を分解させる方法。一般に骨がもろくなると言われている。危険な薬品を用いるので扱いには注意が必要。
二重染色法 柔組織を透明化し、硬骨と軟骨を染色する方法。詳細は愛媛大学理学部生物地球圏科学科発生学研究室のホームページや養殖研報の河村・細谷(1991)などを参照されたい。

はじめに挙げた煮沸する方法や、最近ではポリデント法、パイプスルー法が多く利用されているようである。必要な器材が用意しやすく簡便であるというのはやはり魅力的である。

蛋白質分解酵素による方法は、北海道大学で詳しく研究されている。市販されているタシナーゼN-11-100という酵素を用いる。骨(と付着している柔組織)と酵素液をタンクの中で50℃に保たせ、柔組織を分解させる。大型獣でも一晩で分解できるという方法である。上でも挙げた書籍、骨格標本作製法はかなり高価だが、酵素を用いなくとも大いに勉強になる一冊である。骨格標本製作について詳しく解説されているのは、この一冊と、盛口満氏の著書(たとえば骨の学校―ぼくらの骨格標本のつくり方)くらいであろう。このあたりの本はぜひ参照されたい。

さて、我々解剖団では、基本的にアルカリ溶液を用いた方法を使ってきた。もともとは私、臼田が高校の頃、予備知識の無い状態で骨格標本を作ろうとしたのがきっかけだった。蛋白質を分解する方法として、水酸化ナトリウムを用いてみた。

一般に骨がもろくなると言われ、そのため敬遠されているが、低濃度の溶液に長時間浸積させることで、意外と簡単に標本に出来ることが分かってきた。小型の動物に対して有効と思われる。ここでは、この方法について簡単に説明してゆきたい。ただし、非常に危険な薬品を使うため、くれぐれも注意が必要である。個人でこの方法を使うのは、安全の面からむしろ避けた方が良いかも知れない。各人もっともやりやすい方法を探るのがベストだろう。

まず必要なもの

骨格標本を作るに当たってまず必要なものは、メスでもピンセットでもなく、肝心の動物体である。我々解剖団では、基本的に事故死もしくは自然死した動物に限って扱っている。今まで例外的にあったのは、大学の実験に用いられたニワトリと、害鳥として処理されたカラスを譲ってもらったというケースである。落鳥落獣はそうそう見かけない。チャンスを逃さないよう、ビニール袋を常に携帯するなど地道な手間が必要である。また、調査や観察会で出かける人に、死体を見つけたら拾ってきたもらうよう頼んでおくことも必要である。

これ以外では、食用、つまりニワトリや魚屋で売られている魚類などを骨格標本にする手段がある。宗教的になるが、この場合、食べられる部分はちゃんと食べるというのが生き物に対する礼儀と言えるのではないだろうか。

他に、動物園に頼んで死体を譲ってもらうという手段もある。が、かなりのコネが必要であるうえ、たとえ有力なコネがあっても動物園によっては死体の取り扱いに厳しく譲ってもらえない場合も少なくないようである。正式な研究目的であれば手に入れやすくなるかもしれないが、個人で譲ってもらうのは困難なことが多い。ただの趣味で譲ってもらうことはできないと思っておいた方がよいだろう。おそらく、より確実に手に入れる方法は、ペットショップに頼んで死体を譲ってもらうことである。

いずれにしても、野生の生物(もちろん動物に限らず)を勝手に捕獲してはいけない。許可を持った人間が狩猟鳥獣を狩猟期間に限って狩猟する場合や、研究のため許可を得た人間が捕獲するという場合があるが、以上のような例外を除き鳥獣全種の捕獲は法によって禁じられている。個人が骨格標本を目的に許可無く野生生物を採取するのは許されない。

鳥獣保護法上、死体に対しては以上のような法的制限はないものの、正式には、それが落鳥落獣であること、つまり違法な捕殺ではないことを明らかにする必要がある。

天然記念物や特殊鳥類は特に注意が必要である。まずは鳥獣関係機関に届け出るべきである。

用意する

死体が入ったら、まず記録する必要がある。その個体が、いつどこで採取されたのか。和名、学名、必要な計測値等を記録する。標本庫にある標本で、こういった情報が不完全(採取場所が不明確など)なのは、死体が色々な人から、そして色々なところからやってくるため、不明な部分がでてきてしまっているためである。本来こういった標本は、標本としての価値はないので注意が必要である。特に絶対必要な項目は、採取場所と採取年月日である。我々の初期の標本は、特にこういった記録が欠落していた。また、大学の一部活内で行っているという制約があり、いわゆる学園祭的な場への展示のため準備の時間がないなどの理由から、記録が不完全になることが少なからずあった。こういったことからも、まず用意しなければならないものに、記録のための用紙、スケッチや写真がある。また、写真を撮るような場合、大きさの比較に定規などを一緒に撮るのも忘れてはならない。大きさの計測には、ノギスや定規を適宜使用する。体重の計測にバネばかりを用意してもいいだろう。計測に関する詳細は、栃木県立博物館の鳥類と哺乳類の計測マニュアル(I)を参照されたい。

さて、実際の解剖に向けて、解剖道具を用意する。解剖というとまずメスが浮かぶかもしれない。東急ハンズ等で市販されているものを数種類買いそろえれば十分である。また、代用としてカミソリの刃も使える。ピンセットやハサミ、台としてバットも用意するといいだろう。他には鉗子やガーゼ、柄付き針など、使いやすいと思うものを必要に応じて適宜用意する。典型的な「解剖道具」以外にも、新聞紙やトイレットペーパー、カッターも重宝することがある。実際に使うかどうかは別にしてもビニール手袋は用意しておくべきだろう。いつ何時、やばそうなものを扱う時がくるやも知れない。エタノールや消毒用の薬用石鹸も用意しておくべきであろう。

死体は、特に野生動物の場合、ダニや寄生虫が付いている。保存も兼ねて冷凍すると、大抵のものは死ぬ。煮沸でも大抵は死ぬ。一旦冷凍した標本は、一晩かけて自然解凍する。なお、このような標本は洗剤をつけて洗うときれいになってよいのだが(ちなみにこの時、動物の口まで水に浸けてはいけない)、洗った後の水も注目したい。この中には毛や羽毛に付着した小動物から種子、胞子が入っている。これを調べるだけでも価値があるはずである。

文献

(1992)排水パイプ用洗浄剤を利用した小動物骨格標本作成法.Journal of Fossile Research 25:43-44.
河村功一・細谷和海(1991)改良二重染色法による魚類透明骨格標本の作製.Bull. Natl. Res. Inst. Aquaculture 20:11-18.
栃木県立博物館(1986)鳥類と哺乳類の計測マニュアル(I).栃木県立博物館
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