呪い(2004/5)
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 地元の友人の結婚式に招かれた私は、昼間の渋滞を避けて真夜中に海沿いのバイパスを走っていた。高速道路を使わず下道で行くのは初めてだが、他に車も無くスイスイと飛ばせて、高速代が勿体無いくらいだった。と、前方に赤い光の玉がプラーンプラーンと揺れている。警察の誘導灯であった。

 兄サン、お急ぎのところ悪いけど、こっちゃぁ通行止めだ。石持峠のトンネルは、今は通れなくなっとるんだ。悪いけど、5分くれぇ戻って旧国道の方を行ってくんねえか。おっと、運が悪いなんて思いなさるなよ、石持峠のトンネルは、そらぁ事故が多くってな。それで通られねぇようにしたんだ。

 5分戻れ、だって?それならば5分かかってここまで来る手前で、誘導してくれても良いようなものだ。イヤミのひとつも言いたくなった。通行止めってどういうことです?事故が多いからといって通行止めにするんですか。

 兄サン、仕方ねえんだヨ。あのトンネルは特別なんだ。・・・兄サン話聞いてくか?石持峠のトンネルの話さ。10分ばかしの短い話だが。

 私はその話を聞いた。要約するとこうだ。

 石持峠のバイパスは5年ほど前に大幅に整備され、道幅も適度に広くまた緩やかな起伏に気持ちの良いカーブも有り、どうやらスピードを出したくなる道のようであった(それには私も同感だ)。そのためか、石持隧道(例のトンネルのこと)では一般のドライバーや、いわゆる「走り屋」による死亡事故が多発していた。県警の交通課では、対策会議が何度も開かれた。あるとき1人の警官が発言した。「死亡者の数を電光装置で表示してはどうだろう。」縁起でもない、遺族の気持ちを考えろ、そんな反対意見もあったが、頻発する事故の防止には変えられない。かくして石持隧道の両方の入り口に、死亡者カウンターが1つずつ設置された。カウントがひとつ、またひとつと数えられるのを見たドライバーは恐怖し、スピードを抑えた。もくろみ通りであった。事故は減り、死亡者カウンターを考案した警官は表彰された。
 それから約2年後。事故はまた起きていた。カウンターの数字が増えなくなると、ドライバーは安心してまたスピードを出すようになる。死亡事故が起きる。カウンターが進む。そうするとしばらくの間事故は減るが、いつかまた同じことが繰り返される。半年に1度は人が死んでいた。対策会議が3年ぶりに開かれた。死亡者カウンターを考案した警官が発言した。「事故の無い時でも、嘘でも良いから定期的にカウンターを進めてはどうか。」倫理的な問題があるようにも思われたが、協議の結果、その案は採用されることになった。前の事故から時間が経ち、スピード違反の切符を切られるものが増えてくると、頃合を見てカウンターをひとつ進める。すると、事故はピタリと起きなくなった。だいたい2〜3ヶ月に1度カウンタを進めていると効果的なようだ。お盆などには家族連れを想定して、一度に数字を2つ進めることもあった。
 ところが。ここ1年ほど、事故は逆に増え始めていた。カウンターを毎月進めてみても、事故は逆に増えるばかりだった。おかしなことに、スピード違反の件数は、増えるどころか減っていた。大してスピードを出さないのに事故を起こしているようなのだ。もう1つ、おかしな事があった。この頃の事故はトンネルの中でばかり起きていた。少なくともカウンターを設置する以前の事故は、石持隧道を抜けたところ、暗いトンネルの中から急に明るい外へ飛び出したときに目が眩みハンドルを切り損ねる、という物が殆どだった。原因を調査するために、この頃トンネルの中で事故を起こした者に話を聞くと、動物を轢いたような気がした、とか、タイヤがなにか大きなものを踏んだなどと言う。しかし現場には、そんなものは、何も無い。
 県警は、もうお手上げの状態だった。嘘の死亡者カウンターの数字は、もう20も進めていた。もともと交通量の少ない場所なのに、小さなものを含めれば殆ど毎日のように事故は起きた。人喰いトンネルだと皆は気味悪がり、やげて幽霊の仕業だという噂が立ち始めた。そしてある日テレビの取材班が霊能者を連れて来た。取材には県警からも何人かが付き添った。死亡者カウンターを考案した警官も来ていた。・・・霊能者は石持隧道を端から端まで歩いた後、こう言った。「だいたい人ほどの大きさで、手足らしきものが3本から5、6本。白っぽくて、ぐにゃぐにゃしている。トンネルの床にゴロゴロと、その数、ざっと20。」
 その取材の少し後、石持隧道で恐ろしい惨事が起こった。それ今から半年前。事故原因の調査を名目に「通行止め」が決まってから、いまもそのままである。

 得体の知れない話である。しかし気味が悪かった。バイパスを引き返す間ずっと、道の先のほうだけを見るように心がけたが、後部座席にその白っぽいぐにゃぐにゃがデロリと横たわって、車を遅くしているように思えた。






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