| 自治医科大学神経内科 藤本健一 |
概説
手術は全て定位脳手術によって行われる.頭蓋骨に固定したフレームと脳深部の目標点の位置関係を三次元空間に再構築して,直視出来ない脳深部構造へ正確にアプローチする.従来の破壊術に加えて,深部電気刺激(Deep Brain Stimulation:DBS)やガンマーナイフによる治療も行われている.
歴史
パーキンソン病に対する定位脳手術の歴史は古く,薬物療法よりも早い1947年に開始された.当時はMRIやCTスキャンもなく,抗生剤も不十分で手術のリスクは高かったが,他に有効な治療が無かったため,たくさんの患者が手術を受けた. しかし1967年にL-DOPAが臨床応用されると,その劇的な効果の前に手術を受ける患者は激減した.しかしL-DOPAの使用期間が長くなるに連れて,wearing-off現象や不随意運動など,長期服薬に伴う副作用が問題となった.これらの副作用に対する対策として,1980年代に後腹側淡蒼球破壊術が,1990年代にDBSが開発された. 2000年4月より本邦でもDBSの保険適用が認められた.
破壊術と深部電気刺激(DBS)
破壊術では頭蓋骨に開けた小さな穴より針を刺入し,目標点を熱凝固する.一方DBSでは目標点に慢性電極を留置して,前胸部に植え込んだ刺激装置で高頻度持続刺激する.DBSに関して現在使用可能なのは,Medtronic社製のActiva systemのみである.このシステムでは,手術後にプログラマーという装置を使うことによって,体外から刺激電極の接点,刺激の幅,電圧,頻度を調整することが出来る.この調整はチューニングと呼ばれている.破壊術とDBSの長所と短所を表にまとめた.
破壊術とDBSの比較
| * |
破壊術 |
DBS |
| 麻痺等の合併症 |
あり得る |
稀 |
| 両側手術の危険性 |
ある |
少ない |
| 術後の調節性 |
ない |
ある |
| 長期的な有効性 |
ある |
不明 |
| 感染や断線の危険 |
ない |
ある |
| 磁界や電界の問題 |
ない |
ある |
| 治療の費用 |
安い |
高い |
|
目標点と治療効果
治療の目標点は視床,淡蒼球,視床下核の3ヶ所で,視床と淡蒼球は破壊とDBS,視床下核はDBSが行われる.目標点により治療効果に差があるため,症例に応じた選択が必要になる.また破壊術では両側手術による合併症が知られている.例えば両側の視床を破壊すると意欲低下や痴呆症の危険があり,両側の淡蒼球を破壊すると仮性球麻痺といって発語や嚥下が障害されることがある.したがってこれらの部位を両側治療する必要がある場合には,片側は破壊しても良いが,対側はDBSを選ぶようにしている.また3ヶ所の治療部位のうち,服用する抗パーキンソン病薬を減量できるのは,視床下核のDBSだけである.
目標点と治療効果
| * |
視床 |
淡蒼球 |
視床下核 |
| 振戦 |
+++ |
++ |
++ |
| 筋強剛 |
++ |
+++ |
++ |
| 無動・動作緩慢 |
− |
+* |
++ |
| 歩行,姿勢反射障害 |
− |
±* |
++ |
| 日内変動 |
− |
++ |
++ |
| 不随意運動 |
− |
+++ |
++ |
* 筋強剛が強い場合は有効なことがある. |
問題点
手術療法は薬物療法と対立するものではなく,互いに補完する治療法である.長い闘病の中でいつ,どのような手術を行うかを決めるのは,長く患者を診ている医師の仕事である.多くの内科医はこれまで手術治療に興味を示さなかったが,薬物療法で行き詰まった症例が手術によって甦ることもあるので,手術の適用について十分に理解する必要がある.一方,これまで外科医は頼まれれば何でも手術する傾向があった.パーキンソン病の長い闘病の中で,現在本当に手術をする必要があるのか,ずっと患者を診ている内科医と十分に議論をつくす必要がある.DBSでは,手術後に薬とチューニングという二つの治療手段を手にすることになる.この二つをどのように組み合わせて治療に役立てるかは,今後の課題である.
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