★視床下核刺激治療の効果
視床下核刺激術(DBS)はパーキンソン病のほとんどの症状 すなわち 振戦、筋固縮、無動、ウェアリング・オフ、ドーパ誘発性の不随意運動、姿勢保持障害などのそれぞれに効果があるといわれる。
しかし、その手術方法、患者適応など各施設により違いがあること、また各施設毎の経験症例数がそれほど多くはないことから
手術の効果にも施設による差があることは否めない。
またそれぞれの症状が改善されるといっても 100%症状が消えるわけではなく、比較的改善される症状と改善されにくい症状がある。
また 治療効果に期待しすぎて 術後に落胆することも無きにしもあらずである。
手術前に神経内科主治医、脳外科医と充分な話し合い、納得した上で手術を受けることが必要であろう。
★視床下核刺激治療の適応
パーキンソン病治療ガイドラインにあるように、厚生省班会議「パーキンソン病に対する脳外科的手術療法の適応基準」はあるものの、視床下核刺激術に関して
各施設で統一された適応基準があるわけではない。神経内科医、脳外科医の間でも
いろいろ意見の分かれるところである。
視床下核刺激術が日本で ここ2,3年注目され実施されるようになってきたことを考えると、施設によっては
ある程度の経験を積むために 症例を集めているところもあるかもしれない。
手術を受けるかどうか、また その時期に関しては 主治医である神経内科医とよく相談して決めることが望ましい。主治医の相談無く決めることは良くない。
参考までに、某施設では次のような時期を手術時期としている。
* L−ドーパを1日5錠以上服用するようになった時期。あるいは薬剤調整が必要になり、そのために入院する必要が出てきた時。
* 会社で職場転換や退職をせまられるようになったとき。家庭の主婦の場合には
一人で家事が困難になったとき
* さらに進行して寝たきりで褥創ができそうになったとき
* 病気の進行の程度とは関係なく L―ドーパを体質的に飲めない人は適応となる
L−ドーパを内服しても 効果が見られなくなった人では 手術しても効果は期待できない。
進行期パーキンソン病に対する効果はかなりはっきりしているが、早期パーキンソン病に対する有用性は不明である。早期に
視床下核刺激術を受けることによって L−ドーパの内服量を少なくし、ジスキネジアや幻覚などの発現を抑制する有用性を示唆するデータもある。
★視床下核刺激治療により改善される症状
視床下核刺激術は パーキンソン病の諸症状に効果があることは認められているが、それぞれの症状が
どのように改善されるかという点についての 細かい記載は見あたらない。今回
某施設のご協力によりそれぞれの症状に対する効果についての詳しい説明を得られた。
ただし、これは症例の選択、手術がうまく行われたときであり、どのような場合でも
このような効果があるとは限らないことを念頭においてもらいたい。また 両側を刺激した場合と
片側だけ刺激した場合でも効果には差がある。
1,筋固縮の改善
手術反対側の上下肢の筋肉の固縮を改善する効果は著しい。
患者は 手術反対側の四肢が軽くなったように感じるという。実際に動きがなめらかになる。
また 寝たきりの患者でも 筋固縮が取れ身体が動きやすくなり、介護者が体位変換などをしやすくな る。また
自分で寝返りができるようになり褥創防止につながる。
2,オフ症状の改善
内服による オンオフの日内変動が激しい場合、視床下核刺激によって オフの時の症状がオンに近い状態にまで改善される。オフの時でも
身体が動かせるようになり、また オフの時間が非常に短くなる。
ただし、オンの時の症状が手術前に比べて さらに改善されるわけではない。すなわち
内服のときのオンの状態(ベスト・オン)をコンスタントに期待できるようになる。
内服によって オンの状態が得られない人や オンの時の状態があまり良くない人では手術の効果が少ない。
3,振戦に対する効果
視床手術によっても 振戦は改善されるが、視床手術では 振戦は改善しても動作がやや遅くなることがある。
これに対し、視床下核刺激術では、動作が遅くなることなく振戦が改善される。
4,薬の減量効果
両側の視床下核刺激術を行うと 薬の量を減らすことができる。一側の視床下核刺激では
薬の量はあまり減らない。
薬の量をだいたい50%くらい減らせるという報告もある。外国では 術後薬の内服が全く必要なくなったという例もあるという。
薬の量を減らすことによって ジスキネジアの出現を抑えることができる。
また L―ドーパ内服の副作用としての幻覚、幻聴などの症状に対しても、内服量を減らせることにより改善効果がある。
パーキンソン病の早期に 視床下核刺激治療を行うことにより 薬の使用量を少なくし、L−ドーパの内服によって生じるジスキネジアなどの
副作用を抑え、パーキンソン病の治療をコントロールしやすくするということも
今後は考えられるかもしれない。
5,その他の効果
* 腹部、大腿、腰など体幹に近い部分のしびれ、つっぱり、痛みは 手術直後からかなり和らぐ。ただし四肢末梢の同様の症状に対してはあまり効果がない。
* 左右の手で違う動作ができるようになる。たとえば 左手で受話器を持ち、右手でメモを取るなど。
6,あまりよくならない症状
* 常に車椅子を必要とする程度の人では、視床下核刺激によって杖歩行ができるくらいにまでは改善が可能であるが、杖なし歩行にまでは改善しない。
杖歩行の人では杖なし歩行が可能になる。
* すくみ足、小股歩行、突進歩行、身体が歩行時に動揺する人では 歩行が多少はよくなる。すくみ足に対しては一側刺激だけでも改善されるという報告がある。薬の調節によって
改善されるすくみ足にはDBSの効果も期待できる。
* 言葉について; ゆっくり喋っていたのが 早くしゃべれるようになる。不明瞭な言葉は
多少は聞き取りやすくなる。しかし声の大きさは変わらない。
* 寝たきりの人は 起きて歩行できる程度にまでは改善しない。ただし 身体が動きやすくなり寝返りができるようになる。
* バランス障害に対しての効果は少ない。パーキンソン病では 転倒するときに顔面から転倒することが多いが、DBS手術によって転倒の頻度は減っても
完全に転倒を無くすることはできない。
* 自律神経症状(起立性低血圧、便秘など)には効果がない。よだれにも効果はない。
7,現在の症状が視床下核刺激術を行ったために 悪化することはほとんどない。
8,筋固縮の全くないタイプのパーキンソン病では 症状に応じて視床下核よりも視床
または淡蒼球をターゲットにしたほうが良い場合がある。
一般に振戦のひどい場合は 視床を、ジスキネジアのひどい場合には 淡蒼球をターゲットにする。
9,精神症状について
術前から精神症状のある人では、術後にその症状が著明になることがある。
術後一時的に”ハイ”の状態になることがある。
また 術後うつ症状が現れる人もいるという報告もある。術後に精神的に不安定になり、涙もろくなったという症例の報告もある。
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