2003.07.03up

脳深部刺激術(DBS)の体験記のトップへ

DBSに揺れる心(期待と不安)  by 阿刀田俊子

◆数年前まで
私は17歳で歩きにくいと感じて以来38年になる若年性患者です。
発病からの症状は一貫して歩行困難で、書字障害も震えも少しありました。
25歳で抗パーキンソン病薬の内服を始めてから25年近くは殆ど進行していないようにみえ、実際薬の量はずっと変わらず、変わったことといえばパーロデルが加わったことくらいです。

ところが、内服開始後は家事も手抜きながら一人でなんとかやっていたのが、数年前から転ぶようになりました。
転び始めるまで、すくみも姿勢保持障害も薬で充分コントロールできており、問題といえば、薬が切れたとき・効いてこないときのことと、時折起きるジスキネジアだけだったのです。
今だったら、もっと薬ののみ方を工夫して薬効時間の切れ目を作らずにジスキネジアも起こさないで、いい状態を保つことが出来ただろうと思います。

【※現在の処方:ネオドパゾールを1/3錠ずつ7、8回(1日に2.5錠位)、ペルマックス4錠、シンメトレル2錠、ドミンを眠る前に1錠。この処方で、ほぼ1日をカバーできジスキネジアも殆ど気にならない。その他デパスをときどき服用】

◆すくみと姿勢保持障害
 数年前に転ぶようになってから私の日常生活のQOLは、はっきり低下しました。
先ず一人で外出するのが不安になり、生活するために人の手を借りなければならなくなって現在は歩行介助と移送・家事援助・機能訓練・訪問看護などを受けています。
現在気になるのはすくみ・姿勢保持障害・転倒のほかに、身体が少し右に傾いてることと右わきの筋肉がひきつれる痛みがあること。それに時折、うまく話せないことがあることと唾液が口の中にたまるのを感じ始めたことです。
歩行は突然すくんで硬直するのを除けば、かなり長く歩くことができます。今の問題は薬が効いているときに起こるすくみ(硬直)と姿勢保持障害で、それが結果的に転倒につながっているといえます。
転倒にはDBSの効果がないことは知っていますが、視床下核のDBSはパーキンソン病の症状を全般的に改善すると言われ、すくみと姿勢保持障害にも多少効果があります。
歩行が改善しすくみと姿勢保持障害も改善すれば、また一人で外出できるようになるかもしれません。好きなときに行きたい場所に歩いて(電車やバスに乗って)行ける。どんなに幸せなことでしょう。期待に心が動きます。
固縮が原因で右に傾きかけているのも、右脇のひきつれるような痛みもDBSで改善されるかもしれません。
DBSが成功すればオンの状態はそのままでも、オフの状態がなくなるといいます。
そういうことを考えてつい最近までは、単純に近い将来DBSを受けることになるだろうと思っていました。かなり期待していたといえます。 

◆主治医とPTは慎重派
 私の主治医はDBSについて「あと5年は経過を見てみないと」と言い、私はそんなに待てないなと思っていました。理学療法士(PT)は「折角今の状態を維持しているのだから、軽々しくDBSを受けるべきではない、たとえパーキンソン病の症状は改善しても脳の手術をするのは取り返しのつかないことになりかねない。あくまでも慎重に」と否定的な意見です。そう言われると、私の気持ちも「そうか、あと5年くらいは様子をみよう」と慎重になるのです。

◆DBSについて新たに知ったこと
 昨年末から今年にかけて、3人の知人がDBSを受けました。
それで初めて分ったこと:
*手術で電極が視床下核にピタッと命中して手術直後の状態がいかによくても、その状態が長く続くわけではないこと。
*手術後気分がハイになることがある。
*手術後半年から1年経たないと安定した状態にはならない。
*手術後よだれが急に増えたり、発語、書字に問題が起こるケースが多い。

言葉が明瞭に発音できなくなり字が極端に下手になるのが明らかなら、いくら動けるようになったとしてもDBSを受けるのにためらいが生じます。手術前に言葉の問題があると術後にそれがもっと悪化するらしく、今でも時折話しにくさを感じている私にはマイナスの要素になる。

*手術後の電圧調整がとても重要であること。
電圧調整のやり方はフランス人患者から聞いたグルノーブルでのやり方とはかなり違う。
DBSは手術だけをいうのではなく、電圧調整、手術前と手術後の心理的サポート、スピーチセラピストなどを含むプログラム全体で考えるべきものだということ。
フランス人患者は、心理コンサルタントに助けられてDBSの効果を最大限に引き出したと言っている。

*入院中の看護士など病院側の対応なども大きな問題で、これがうまくいかないとDBSの効果にも影響を与えることになる。
日本はフランス・グルノーブルに比べてまだまだDBS後進国であり、「DBSを受けたらよくなる」という単純なことではないことも分ってきました。
一大決心をしてDBSを受けるからには、最善の結果を得たい。
そのためには先進国のフランスにだって行きたい気持ちはあるけれど、日本でDBSを受けると、特定疾患に認定されている患者は今のところ自己負担が1万4千円ですむ。フランスでDBSを受けるとなると保険は全く使えず、手術代の他に渡航費・滞在費、通訳・介助の人の費用もかかることになります。渡航も1回だけではすまないので総額はかなりになるでしょう。
問題は後遺症のことだけでなく、病院・医師のことや経済的なことまで考えなくてはならない。手術の時期の問題もある。
それでも効果が充分期待できるなら、試みる価値はあると言えるのだが、その効果に少々疑いが出てきた。

◆DBSは私の症状に効果があるだろうか?
 一番肝心なのはDBSで私の症状がどの程度改善するかということ。
最近グルノーブルのポーラック教授の「Lドーパで解消するタイプのすくみには、DBSは効果がある」という発言を耳にした。
効果があるかどうか試すには、一度でいいからLドーパを大量に飲んで、そのとき「すくみ」が起きるかどうかみるというもの。
私の場合、薬の効きかたによっては脚が硬直気味になる。すくむどころか硬直しやすくて(薬は効いているのに)歩けなくなる。
この状態を「すくみ」というのかどうか分らないが、すぐに試してみる勇気が私にはない。
先日試してみたのではないが、たまたま薬を早くのみすぎて脚の筋肉が硬直してしまった。その結果、歩くどころか立っていることもできずに転びまくった。このようすでは薬ですくみが解消するとは到底思えなくなった。
※表≪視床下核DBSによる症状の手術後の経過≫(ポーラック教授による)
無動 経過が長くなるとやや悪化。
スピーチ 3年で効果が落ちてくる
歩行障害 3-4年で効果が落ちてくる
ジスキネジア 5年以上経っても改善されたまま
Lドーパの減量 継続される
5年以上経過観察者のLドーパ内服: 49人中18人はLドーパの内服なし
気分に対する影響 ない
DBSによる痴呆 ない
精神症状 既往のある患者では精神症状が現れることあり。
上の表によると、ジスキネジアにはかなり安定した効果が期待できるが、「歩行障害」と「スピーチ」は3-4年で効果が落ちてきてしまう。
私にとって肝心の「歩行障害」に対する効果が続かないとなると、これはかなり私のDBS願望は後退せざるを得ない。
大体5年位で電池の交換をするとして、そのとき既に歩行障害がまた現れているというのは…

◆意外だったこと
 意外だったのは、前にも書いたとおり手術直後電気刺激を始める前の状態が良かったとしても刺激を始めると必ずしもそのよい状態が続くとはいえないということ。電圧がいいところまであげられないせいなのかは分らないが、無動もジスキネジアも起こることがある。そのことを聞いたとき、DBSを何のためにやるのだろうと思った。手術直後のいい状態は一体、何なのだろうと。
あとから判ったことは、電圧の調整がとても重要で、いい状態に安定するまで半年も1年もかかることがあるということだった。

◆決断が出来ない
 これらのことから、手術後も粘り強い忍耐と努力が要ることが分った。DBSがパーフェクトでないという意味がやっと分ってきた。
今の状態を保つ努力を続けて、まだしばらく様子をみながら新しい薬の開発を待つというのが現実的賢い選択なのかと思い始めている。
とはいうものの、病歴42年になる患者が5年ほど前から具合が悪くなってきたという話を聞くと、私の持ち時間はもうそんなに残っていないのかもと不安がまた起きてくるのだ。
神様がトントンと私の肩をたたいて、今が決断の時だよと知らせてくれないものだろうか。
決断力のない私は本当に困ってしまう。
DBSをめぐる私の思いは複雑に揺れる。

2003.07.03 阿刀田俊子

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