高橋アキ ピアノ ドラマティック vol.8

ピアノ・ドラマティック・シリーズ第8回によせて

2002年に開始したこのシリーズも早いもので今年で10年目を迎えます。ピアノ独奏曲ではあっても滅多にプログラミングできない長大な作品や壮大な規模の作品、例えば初回に取り上げた西村朗氏のヒンドゥー神話に基づくドラマティックな演奏時間80分の「ヴィシュヌの化身」、第2回のジョン・ケージの1時間のダンス・ドラマ「フォー・ウォールズ」、またフェルドマンの80分に及ぶ「バニータ・マーカスのために」などをプログラムの中心に据え、そこにクラシックから委嘱作品の初演を含む現代までの様々な作品も含めてプログラムを組んできました。
シューベルトの登場は今回で4度目になります。前々回、長大な遺作のソナタ全3曲を一晩で演奏したのに続いて、今回は規模の大きな二長調のソナタと「さすらい人幻想曲」を取り上げます。この2曲には、死の直前にまとめて作曲された遺作の奥深い世界とはまた違った、シューベルトの輝かしい青春の歓びや力強さがまず感じられ、気分も華やぎます。それでも、彼の音楽全体に特徴的な「移ろいゆく意識の流れ」のようなメロディは確固としてここにも存在します。それはピアノ曲ではあっても器楽的な作りだけにはなり得ない、ためらい、ただよい、たゆたっている心の「歌」なのでしょう。今回はオール・シューベルト・プログラムではなく、そこにモーツァルトの名作ソナタを加えてみました。

高橋アキ