@ 使途不明金


 「救急車だ!」「医者を呼べ!」
議場内は大騒ぎになった。
 町議会で一億ン千万円の使途不明金について答弁中に、依田助役は崩れるように倒れてしまったのだ。
 意識が途切れて…何時間たったのだろう…ぼんやりとタコつぼの中にいる自分を、依田は感じていた。
「あなた…」「助役さん!」
 聞こえない、聞こえない。一億ン千万円なんか、知らん。知らん。…何も聞こえんぞ。
 「すみません。面会謝絶です。お帰りください」
 あれは、妻の美智子の声だナ。
「使途不明金はご存じないはずないでしょ?ひとこと…奥さん!」記者が食い下がる。
「ウルサイわねッ!」とドアを閉める音。
 なんだこの声は、ナツメの声だ。なんでアイツが来ているのだ?あれほど家へは来るなッて言っておいた筈なのに。
「ご臨終です」繙繙医者は、まだ生きているオレに許可なしに決めてイイのか?
「ナツメさん、あなたのためにこんなになってしまったのよ。あなたがいなければ…」
「よう言うワ。助役の下半身の面倒を見たのヨ。お世話になりました…くらい言ったら」
ナツメ、そんなコト、口を慎め。
「あの一億ン千万円はあたいのものヨ!」
「あんたには渡すもんか、ばかばかしい!」 
「これ、これ。これを見てよ」
 ナツメは、ハンドバッグから依田の書いた遺書を取り出して見せた。
「くやしいッ…こんな女にッ!」美智子は、思い切り依田の胸にすがって泣く。
「苦しい、放せーッ!」あッ、シマッタ……
「あなたッ!」
「どうなるの?…この遺書は」


A 異星人キッズ

                    
 
シンセサイザーの風に乗せて、異星神Stゴッドは宇宙空間に電波粒子を発散する。一日 五度、地球上のキッズは特殊レシーバーで粒子を受ける。それが聖地からのミサである。そのミサをしない者はその信教を疑われ、抹殺惑星に追放される。
 電波粒子は耳から入り、キッズの頭蓋骨の中で卵胞と結合する。卵胞に閉じ込められた電波粒子は分解され、知性蛋白T、赤い感情脂肪Sとなって全身に運ばれる。
 最近、感情脂肪Sがとみに多くなり、血管内に付着する傾向が強くなった。そのため、感情コレステによる若年性頓死が、異星キッズには目立って来たと、異星医学界に報告が出されている。
 異星キッズには、ミサがそれほど重要であるとは、旧人類吉田三郎には分からない。
「うるせえッんだよ。これ。」
 カシャ、カシャと聞こえる連続音が、癇に 触る。耳障りなのだ。 
「音が漏れている。耳悪くなるぞ」
「…oyaji ♪Uニャロッ!V Na,♪DX DXy  RUSSAI, …HEY!♪kyaro!」U
「ほんとに。一体ここをどこだと思ってい るんだ。どいつも、こいつも」
 旧人類地球人と異星人キッズとの争いが朝の電車の真ん中で始まった。「ここは地球なんだ。早く出ていけ、お前らの惑星へ戻って行け」
 神聖な朝のミサを邪魔されたキッズMは、我慢しきれなくなった。レシーバーから耳を外すと、旧人類吉田に頭突きかまし、ひるんだところをなぐり掛かった。
 突然、爆発音と共に耳を抑えてキッズMは倒れた…奇妙なリズムが耳から鳴り始め、液泡が流れ出した…★s感I情IT卵 Sv蛋感IS…T白D肪I子… f★SS★s知 ★T卵



B 復讐の喝采

          
 電車の中から死体が毛布にくるまれて、運ばれてくるたびに喝采して、おれは笑った。
テレビの後ろのネックレス売場。
 「これは、赤札までもうお安くしておりますのですから…、ホホ。」
 「きょうは大安吉日だから、よろしいんじゃありません、勉強していただいて」

 パンパンの子と呼ばれ、歩いていれば、ツバをかけられ、石をぶつけられ、おれは誹謗されて生きてきた。折角買った眼鏡を壊され 、人のそしりに耐えて来た。おれは、泣きゃあしなかったぞ。力をふりしぼり、いつかアイツらに、復讐してやる。それが唯一の希望だった。いつもその希望に満ちて、頭はいっぱいだった。電車に乗れば、こいつら全員死んでしまえ。百人も千人も真っ裸にして、なぶり殺してやる。おれの頭の中は、復讐ではち切れそうになる。

 「前に買った時も、勉強してもらってとても、エエ、いい買物したと思って喜んでおりましたの。」
 「ハァ、ありがとうございました。このネlックレスは統一価格でして、どこのお店へいらしても、同じです。」

 テレビの画面にアップになる。布にくるまれた死者の足が見える。
 生きている人間を殺す。これ程の快感が他にあるか。偽善者め。正直に言ってみろ。死んだ人間が多ければ多いほど、おれは快感が走る。一万人を殺して、おれだけが生きてい るとしたら、無上のエクスタシーだ。

 「もう、これはお安くなっておりまして、オホホホ…、それはお客さま。」
 「うるさい、だまれ、だまれ!
 機関銃で、お前も、お前も、みんな殺してやる!
おれは、人間に復讐してやる!」


C 鼻咲く協会 


 グシュン、グシュン、グシュン
 鼻水を垂らし、目をしばたかせて電車に乗り込む。『鼻咲く協会』のバッジを光らせている。
 ヤアヤアやってますな、と隣の駅から乗った営業一課の課長が、顔全体に大きなマスクを掛けて『鼻咲く協会』のシールを貼っている。
 マァ、こんなもんですよ。たいしたことありませんよ。オタクの方が、盛大じゃありませんか。
 マダマダですよ。と言って、ティッシュの箱を二つ抱え、マスクをかけ、水中眼鏡を掛けている。
 イヤイヤ、私は凄いと思いますが、ちょっと真似できません。
 部長の家じゃ、一家揃って、くしゃみ、セキ、鼻水は、ティッシュを使わないですよ。どうするのです。
 全員、洗面器を持っていて、そこへ溜めて いるのさ。
 ホォー。すばらしい。
 大分溜まったらしいですな。
 かないませんなァ。やることのスケールが ちがいます。
 部長。呼ぶより…なんとかだ。
 や。おはよう。やってるか。キミたち。
 ブヨンブョン、洗面器に水状のものが溜ま っている。ひときわ大きな『鼻咲く協会』のバッジが胸についている。
 昨日から分ですか。
 今朝からだ。きのうの分は、もう社長のトコロヘ届けてある。これは、家族の分、こっちの鞄に入っている。
 鞄の蓋をあけて、中のビニール袋を覗かせる。

D ヨーコ甦り

 「お客さまにお知らせを致します。
二才くらいの女のお子が、迷子になっております。お心当たりの方は、二階のベビー服売場へおいでください」
 ざわめく館内に放送が流れた。
 二階のベビー服売場へいそいだ。
 「ヨーコ!」
 私は長女の名前を呼んだ。
 「洋子という名前でしたか」
 泣きじゃくるヨーコを店員から私はヨーコを受取った。急いでエレベーターに駆け込んだ。タイヤを軋ませて、車はデパートの駐車場から飛び出した。

アノー、先程、放送していました子供はこちらでしょうか。」
「何ですって」

 「ヨーコは生まれ変わりなんだ、な」
頬をつつくと、浴槽の中でヨーコは満足そうな顔をして笑った。
 「オーイ、ヨーコが上がるぞー!」
 交通事故で失った、我が家の長女ヨーコの遺影の前で、楽しい晩餐の夜となった。
 ハッピー バースデー、トウユー…
 「そうよ。ヨーコの誕生日に見つかるなんて、運がいいワ」

洋子って、呼んでいましたので。母親に違いないと…」
いい加減なことを言うな。親か子かくらい、分かるだろう」

 自宅の前の庭の盛土に、野良犬がクンクンと鼻を鳴らし、前足で穴を掘っていた。穴の中から、何かくわえて引っ張り出した。それは、血塗られた幼女の腕だった。もう一匹がその獲物を奪おうとして、唸り声で牽制する。シー、シー!夫が窓から犬を追う。
 スヤスヤと、ヨーコは眠っていた。


E 空よ 雲よ


 空は青く、雲は白かった。
 戦いの済んだばかりの戦場の静けさが、広がっていた。オレは瓦解したビルの下で、死んでいた。…オレの目の前に、一本のスミレの花が咲いていた。
 オレの名前はミッシェル。
ほんの二三年前まで医師としてこの町で働いていた。オレの神経は他国の蹂躪に耐えられなかった。全てをなげうってオレは立ち上がった。オレは志願して、秘密組織に加わった。市街戦になるまでは、指令に従って情報活動をしていた。医師の仕事をして、パリの町で最後まで残っていた。オレには恋人もいた。

 内戦の様相を帯びてきて、人は変わった。患者の某に、オレはバルチザンだと占領軍の司令部に訴えられた。肉1ポンドと交換に。 オレは恋人を連れて逃げ出した。
 途中で誰何された。廃墟のビルから狙撃兵を撃った。オレが一発撃つと、敵は十発は撃ってくる。夢中で撃った。敵は強大な火器で反撃して来た。オレは何というバカだった。恋人を置き去りにてし逃げたのだ。
 再び広場に戻ったオレが見たのは、何だ。凌辱された彼女の死体だった。バルチザンは武器もなく食料もなく、何の抵抗運動も展開できなかった。バルチザンの隠れ家を嗅ぎつけられ、一気に爆破された。暗い場所が明るくなった。
 六月、連合軍の進攻により、パリはようやく窮地を脱した。野良犬は、人間以上に飢えていた。空腹だけが生存の証明であった。オレの死体から肉を引きちぎり、くわえて行った。オレの骨の残骸がここそこに散らばっている。
 …一本のスミレの花が咲いている。
 空は青く、雲は白かった。

F 花川幻月の反乱

                                                                      
 天皇の即位バレードが丁度幻月の前を差し 掛かった時、突然破裂音が響いた。 
 バババッン!バババッン!バババッン!
 バババッン!
 彼女は外套の内側に爆竹を目一杯くっつけて、それがマッチ一本で全部発火する工夫をしていた。
 マッチすって火をつけた後、外套を道路へ放りだしたのだった。
 ところが、意に反して誰も注目しない。目の前のパレードに気が行っていて、爆竹の音は、景気付けの余興の一つと思われたのだろう。幻月にしてみれば面白くない。
「天皇制、反対!」
 懐に隠していたビラを、パーッと辺りにばらまいた。私服、制服の警察官が寄って来た。その場で、彼女は捕らえられた。

「考えられません」「また、やりましたか。売名行為ですよ」「奉祝ムードをぶち壊しだった」「日本から追い出してしまえ」
 カメラマンのテレビカメラにその場の実況がアップで写されていた。
 釈放された夜に幻月は、一人で酒を飲みながら、テレビを見ていた。
「判ってたまるか!テメェらに判ってたまるか。ばかやろー!」。