洋菓子の匂い 色ガラス

昭和20年代、子供のおやつ
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 私は60歳を越した今でも、食い意地の張った根性が抜けない。
 腹いっぱい食べた後でさえ、テーブルの上に食う物が残っていると、それを食べてしまいたい衝動に駆られる。物が豊かになってから育った人には通じないかもしれないが、物を残すことが耐えられない。

 昭和二十年、二十一年の思い出と言えば、食うもことばかりだ。 
その頃、四つ目川の空き地は近所の人たちの大切な畑だった。ネコの額ほどの空き地にせっせと耕してさつま芋を植えた。一番食いでがあるのはさつまいもであった。石垣にはかぼちゃの蔓を這わせていた。かぼちゃ以外、じゃがいも、大豆。
当時の四ツ目川はこんな雰囲気だった。これは子野川の現在。どうして似ているのだろう。

 小学1年の春、学校から大豆10粒与えられて、秋に100粒にして納めることになっていた。
家の前の国道(恵比寿神社に植えた。しかし、畑でもない空き地ではうまく育つはずがない。環境が悪く枯れて、結局家から100粒持って学校に出した覚えがある。
 田んぼのあぜは大豆を植える場所と思っていたが、今田んぼの周りに大豆を植えている田んぼは見たことがない。南小の木造校舎と校舎の間に麦を作っていた時期があった。当時はあらゆる場所が食糧生産の土地だった。

 
 北朝鮮の食糧難を見ていると日本の戦後を想像する。武者小路実篤の絵に出てくるのは日本かぼちゃ。凹凸のないスイカのようなのは西洋かぼちゃ。かぼちゃのとれる時期は朝から晩までかぼちゃ尽くし。朝味噌汁の中にかぼちゃ、昼は煮物、夜も煮物。

 おやつにはかぼちゃの種を炒ったものも食った。亀田製菓の「柿の種」を見るたびに思い出す。あれは食べ過ぎると鼻血が出るとおどされた。


 おやつといえば、さつま芋の切干が代表だろう。切干芋も家で作っていた。蒸かした芋を筵の上にならべ屋根で天日干しされていると、蝿が飛んでくる。それをおっぱらいながら見ていると、つい手が出る。おいしそうな透明な感じのやつから盗み食い。


 歯の丈夫な子供は梅干の種を割って、天神といわれる芯を食った。梅干の塩気がしみていて案外美味であった、と記憶している。これもおやつの一種だった気がする。


 ユスラウメの苗を祖父の家から移植して育てたことがある。
 ナツメやグミほど一般的ではないが、パチンコ玉くらいのサイズで実ると真っ赤になる。グミの食感があってすっぱくはない。甘くて子供向きの味。小学1年の記念樹として植えておいたら、よく育ち実も多くつけた。7年目くらいに義兄が自宅を拡張したついでに抜いてしまった。


 道端で生えているユスラウメ、桑の実、グミは失敬して食うのは普通。サクラの花のあと紫の実、サクランボウではあっても実をとるサクラではないから、口の中が紫になるだけみたいなもの。


 南小学校の講堂の道路はさんだ前は畑になっており、その角にナツメの木が生えていた。この木は大きくて、子供では手が届かなかった。小さなリンゴのかたちをして、夏前にたわわに実って、通るたびに食べたいなと思った。所有者が羨ましかった。
 一体誰がとって食べていたのだろうか。中津高校で「鬼瓦」と言われていた日本史の先生の敷地内だったように思うが。 


 中津川の堤防の石垣は四つ目川ほど急斜面ではなかった。今も変りはないだろうか。桃山橋に近いところに、もちろんここだけではないが、とげとげの茎のヘビイチゴが茂っていた。いつの間にか、危険と思われたのか、ヘビイチゴはじゃまにされ、刈り取られてしまった。今探してもどこにもないだろう。
 ツブツブの実が赤くなると、大きくて案外美味しかった。ヘビが食うわけではないが、ヘビイチゴという名前が子どもには、どこかでヘビがみているのではないかと感じさせるものがあった。


 そんな時代に上等な西洋菓子のような匂いがする色ガラスが流行った。
半分赤、半分透明のタマゴ型で厚めの色ガラスだった。そのガラスを擦ると上品で美味しい匂いがする。飛行機の防弾ガラス、あるいは飛行士のサングラスと言われていたが、正体はわからず仕舞だった。

 そのガラスを擦ると、ほのかに匂いが漂った。数秒で消える、えも言われないこの上品な、想像を刺激する匂いは別世界だった。食える物がないならイマジネーションで食った気になろうと鼻をクンクンさせて嗅いだ。

 食糧難時代の子どもでないと通じない話ではあるが、戦中戦後子どもはこんな楽しみをみつけていた。この半透明ガラス、未だにあの匂いの感覚は残っているが、その後嗅いだことはない。幼児同士で石にその卵状のガラスを擦って遊んでいた、はるかな向こうの時間を思い出す。

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