生徒会の帰り、生徒会長の彼と旭座へ映画を見に行った。
彼が行こうというのは、成人指定映画「どぶ」(主演:乙羽信子)だった。中学生には、セックスの強調された映画はタブーだった。私は今まではズーっ喜劇映画ばかり見ていたから、そんな大人の映画を見に映画館に入るのは気がとがめる。
禁止されたものに挑戦する気分は、「親友」としての絆を強める作用をした。放課後示し合わせて夕方映画館に行った。
彼は人前では陽気な行動で人を笑わせ、なおかつ、大人に通じる会話ができた。それが、また彼のパフォーマンスであった。その性格は一生変らなかった。
彼が生徒会の会長になるまで、歴代の生徒会長は、校長の息子。本州製紙工場長の息子など、いわゆる体制派型の優等生タイプだった。しかし、彼は陽気で人を笑わせる庶民派パフォーマンスで、圧倒的な支持を得て生徒会長に当選した。後輩に聞くと、以後、このタイプの会長が続いたという。
私が彼と親しくなったのは、映画を一緒に見に行ったときからだったと思う。
彼の家、尾鳩の社宅へ行ったこともある。家の中では、本音が語れないと、日記帳を持って家の外に出た。
彼はここを読め、とページを広げた。
A子さんへの憧れ、恋愛感情が赤裸々に綴られていた。彼は小学5年で母を失い、私も小学校に入る前に母をなくし、家庭には継母がいて、環境が似ていた。どこか心情的に似た性格があったのだろう。そのことから来る悩みも書かれていた。
生活背景が似ていると、お互いに引き寄せるものがあるのだろう。中2で一緒のクラスになって以来、カレと付き合いが続いた。多分に気持ちを理解して欲しかったのだろう。
個人的な会話となると、あえて自分の裏側を見せたがった。理解を求めるのだった。大勢の中では陽気な行動をする彼が、沈み込んだ態度になり、その落差が大きかった。
秘密を共有することで「親友」が成立するかもしれないが、何かドサッとくる精神的な重みを感じた。翌日学校へ行くと「お互いに目を合わせられないな」と彼は表現した。
映画館旭座のいす席に並んで座ると、中学生は皆無だ。日本映画が盛んに作られていた時代だったし、周りには観客もわりと多かった。小さな町だから誰か知っている人がいそうなものだが、誰も知らない大人ばかり。映画館に入るのもドキドキだし、映画の内容を見るのも中学生にはドキドキだった。彼との「親友」としての密度も濃くなっていく過程が緊張感の中にあった。
映画自体は「どぶ」というくらいだから、キレイな話ではない。乙羽信子の初めての汚れ役だとの評判で、徹底的に「既成のイメージ」を破壊していた。中3の私には、セックスは興味がはあったが、売春セックスは汚れすぎて、美人女優のイメージが台無し。気味が悪く嫌悪感があった。
帰り、夜の9時にはなっていた。彼は、本州製紙の最終バスで尾鳩へ帰って行った。
彼は普通の何倍も豊かな人生経験はしたが、50代早々亡くなった。
彼の人生の多くの面で関わっていた私は、彼の上昇志向をいつも痛いほど感じていた。なんでも器用に早くやっていける彼には、遠回りの人生は望むところではなかった。それゆえに、却って遠回りになった観も否めない。
|