12歳はどんな歳だったか

 突如として悪魔の面が現れる
   

 五十数年も経つと、自分の十二歳がどんな年だったか、思い出すのは難しい。

 「針が落ちてもその音が聞こえるような姿勢で聞きなさい」
 六年二組の担任は新婚のS子先生は、教室での規律に厳しかった。先生は背丈もあり、めがね美人だった。考え方もしっかりした先生で、生徒は授業を真剣に聞いた。 

 体育も六年二組男子女子まとめて受持っていた。男先生と女先生が、お互いに男生徒と女生徒を交換して体育を見るのが一般的だったが、S子先生はすべて自分で受持った。

 先生はスラックスで運動場へ出てきて、生徒を前に体を動かし、準備体操を指導始めた。しかし、突如として12歳の男の子には悪魔の面が出る。

 「見ろ、見ろ」とO君は後ろから言った。
 S子先生が準備体操で後ろに返って大きく伸びるところだった。
「先生のあそこが」
 S子先生のある部分を見ろというのだった。十二歳は興味深々の年齢だった。私も見てやろうとと思ったが、男子のざわめきに先生は何か感じて、二度と後ろ伸びはやらなかった。

 恵那山を背景にした小学校から町の中心に小さな川が流れている。中津は水きれいだと町で知られている。下校時、学校から笹舟を流し競争をしながら帰っていた。六年生としてはちょうどいい遊びだった。笹舟が途中でひっかると木の棒で方向直して流すのだった。こんな可愛い遊びをしていたかと思うと、突如として違った面が現れた。

 「おーい」とO君が呼んだ。
 
流れの隅にフワフワとひかかっているモノを枝で持ち上げて見せるのだった。
見ると、薄手のゴム製品である。何回か同じモノを見ていれば、オクテの私にもそれが避妊具とわかった。
 昔はごみ収集なんて行われていないから、川に何でも流している人がいたのだ。だから、こんな意外なものが、と思えるものがひっかっていた。

 当時「衛生サック」と言っていたかな。
 それが何するモノかは漠然とわかっていたが、12歳にはリアリティが伴わない。
「○○先生が使ったんだ」
「昨日あの家から捨てたんだ」とか、
 O君は男4人兄弟の末子のせいか、マセていた。勝手に妄想を語っても、私はへーっていうだけだった。
 

 卒業間近かになったある日、クラスの男子4人女子4人で昔庄屋だったというN子さん宅に集まった。これも、O君が決めて、我々を誘ってくれた計画だった。小学6年で合コン(当時そんな言葉はなかったが)をやった。
 その日N子さん宅の家族は誰もいなかった。一日子供だけの世界になった。

 「遊ぼう」と女の子達がいって、全然知らないゲームを始めた。
 女の子は向こうの部屋にいて、目隠しで男の子がこっちの部屋から、順次出された女子の手を触り、「○○さん」と女の子の名前を当てる。お目当ての女子を当てた男子はカップルになるというゲームである。

 O君はY子さんの手を当て、カップルになった。
 彼はこのゲームの提唱者だから、うまいことやっている感じだった。女子たちはこのゲームに抵抗なく始めたから、女の子の中では初めから段取りができていたのかもしれない。

 うまくカップルになったO君とY子さんは二人、コタツで腹ばいで仲良く、なにか語らっていた。T君はどうもそれが気に入らないようだった。庭に回ったT君、部屋の戸をガラッと開け、腹ばいで並んでいる二人がこっち向いたところで、パチッとカメラで撮った。T君はやきもち焼いているな、と私には思えた。

 私は私なりの気持ちはあった。N子さんに年賀状出して返事をもらっていたし、彼女と親しくしたいと下心があった。
 プレゼントしようと、数日前から、杉の木でこけしを小刀で作り始めた。
 小刀でこけしはうまく彫れないものだ。丸いこけしはロクロ使って削らないとできないものだ。出来が悪いと思いつつ、当日ポケットに入れて持って行った。

 N子さんに手渡す雰囲気にはならないし、仕方ない、忘れたふりでコタツの中に置いてきた。すると、

 数日後、「野沢君、忘れ物、ハイ」
 
差し出された。作品の下手さ加減やら、恥ずかしいやら、なんとも言えない気分に襲われた。
 「いらないから、捨ててくれ」というのが精一杯だった。
 
 小学校卒業後、O君は一中に行き、Y子ちゃんは二中へ行った。O君は、そのY子と「デキテイル」と、学年クラスで冷やかされ続け、有名だったようだ。高校生になってからでさえ、「どの子だ、Y子って?」私に確認にくる者さえいた。

 確たることはいえないが、T君のヤキモチから、撮った写真を見せて広めたのではないかと思っている。

 昔の六年生でさえ、これだけ知恵もあったのだから、発育のいい今の12歳は相当進んでいる、と思わないと現実を見失うだろう。

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