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| 昭和二十六年発行 |
皆さん、財布の中に十円硬貨は入っていませんか。あったら、出して見てください。一番古い年号は、いつの物でしょうか。 ここに私は、二個の十円硬貨を持っています。一つは昭和二十六年、もう一つは昭和二十八年の発行のものです。二つ共、皆さんのお持ちの硬貨とは違って、かなり磨耗しております。 皆さんは、財布に十円硬貨が入っていると、その硬貨を何日間位財布にいれたまま持っていますか。1週間入ったまま、同じ状態ということがまずないのではないでしょうか。一番よく働くのが十円の硬貨でしょう。まるで継子扱いのように酷使されています。ここに持っております十円玉も、その点から考えますと、2日に一度あるいは、一時間に数度も転々と所有者が変わって、発行されて以来休むまもなく働き詰めだった…と想像されるのです。 私の試算によりますと、この昭和二十六年発行されたこの十円さんは40年間以上を出回っていたとすれば、39×150あるいは39×200=7800人の人に渡って、日本全国を旅して来たのではないか…思われます。 我々の想像もつかない修羅場に遭遇したり、あるいは泣きの涙の別れに出会ったり、大事にされたり、有名人の家で賓客としてもてなされ…など、旅を続けた結果、私の手に来たのでしょう。勿論、人生それぞれ違うように、十円玉にも個々の経歴と事情が違って、関東地方をぐるぐる回って来るヤツ、全国を旅しているヤツ、隣へ行ってまた家へ来たなんてまぬけてなヤツもいるとは思いますが…そういういろいろの十円玉の流転がありましょう。 この十円玉はオリンピックの千円硬貨、100円銀貨と違って、退蔵されることなく働きハチのように流通しています。市場に出回った期間は人から人へと移動したと思われるのです。それは、この硬貨が、文字通り御身をすり減らし働いたのです。 見てください。この通りギザは擦り減り文字の隆起部分も、昭和の50年代、60年代の物と比べると、かなり違いが明らかです。これだけの歳月生きてくれば、これだけ擦り減るのだと教えてくます。 40年前に生まれていれば、すなわちこれだけ私たちも擦り減っているのです。確か、私達、ガタが来ておりシミが出ており、病気がちになっておるのです。 錆び付き始めた肉体という現実を、この十円玉硬貨につきつけられるのは事実ではありますが、人間はこの肉体だけが人間ではないのです。肉体は傷つき、硬貨よりサビついても、人間の強みは内側にある精神、意志の強さが生きる指針をしっかり持っている限り、朽ちることはない… 私達の精神、内なる魂は、永遠に新鮮で、決して錆びたり、磨耗することはありません。 十円玉硬貨に示される現実、これは人間の外面の衰えをはっきり見せつけるのですが、これに負けない精神、魂を持って生きて行くことをお勧めします。 平成2年9月9日 目次へ |