『東京オフ会物語』−もしも王子がオフ会に−

 

 1997年9月6日土曜日、かのと・ゐ、赤口・・・・
 渋谷駅前109パート2の2階、喫茶店『Mozart』には、何カ月も前からこの日を待ち焦がれていた人間たちが、続々と集まってきていた。『ひっぴいはっぴい』東京オフ会。インターネットという不思議な世界で知り合った仲間の、実在を確かめる日でもあった。壁ぎわに並んだテーブル席を、5人、10人と参加者が占めていく。不安な気持ちを抱えて1人、店に踏み込んだ参加者も、入るなりすぐ左側に、ズラリと並んだタダならぬ一団に、
「あのう・・・・『ひっぴいはっぴい』・・・・?」
 おずおずと声をかけるまでもなく、
「そう! 合言葉は『ひっぴいはっぴい』!」
「いえーい! 座って座ってー!」
 たちどころに返ってくる陽気な笑顔に、不安は瞬く間に氷解してしまうのだった。やがて重宝部長のHARUKOは時計を見、立ち上がった。
「さて・・・・そろそろ行きましょうか。」
 まだ来ていない不届者約1名のために、幹事のてこなは後に残ることになった。他は全員、重宝部長に従い店を出た。外は残暑の熱気と雑踏。本当に渋谷というところは、どうしてこういつもいつも人が多いのだろう。『Gift』で由紀夫がセンター街を自転車で駆け抜けたシーンが、合成ではないかと囁かれるのも、この人ごみの物凄さを知っている者の意見であろう。あの撮影はおそらく、とんでもない早朝に行われたのだ。ビデオをよく見ると、由紀夫と田村の背中を慌てて目で追っている一般人もちゃんと映っている。・・・・それはさておき気をつけないと、先を行く部長を見失いかねない。駅前の大スクランブルで信号が変わる。どこまでが車道でどこからが歩道なのだか全く判らない。13人は人の波を泳ぎきり、無事、道の反対側へたどりついた。
 ぴたり、とHARUKOは立ち止まった。中間点呼か? と思いきや、彼女は、
「ごめーん! 間違えたあ! こっちじゃない! むこう側です!」
「なにーっ!?」
 一同は即、回れ右。そしてもう一度荒波に挑んだ。
「ごめんねーっ! 一回下見に来てるのに・・・・ああん情けない!」
「いいっていいって。あたしもHARUKOさんに任せっきりで、全然気がつかなかった。」
「アタシは『あれ〜っ?』て思ってたんですけどお。」
「だったら早く言えってか?」
 山手線のガードをくぐり宮益坂を正面に見て、再度信号待ちをする。目指す会場は『渋谷カラオケ倶楽部』。追いついた幹事のてこながここで合流。14人になって横断歩道を渡り、建物の中に入りエレベータに乗った。
「時間ちょっと過ぎちゃったね〜。」
 誰かが言うと、
「ねえ、もしさ、もしこれであたしらが中入ってったら、『おせーよ、ふざけんなよ』とか言って拓哉くんが待ってたらどうするう?」
「エーーーーーーーッ!?」
 狭いエレベータに一同の声がワンワンと反響した。
「まっさかあ!」
「いんや、判んないわよお。だって彼、今日オフだしさあ。」
「もしかしてそんなんだったら、すごいよね。」
「したらオーナー、大爆発―っ!」
「今ごろって、オーナーはもしかして草引き?」
「えーっ草引きって何?」
「運動場の『草むしり』だって。ホラ運動会が近いからさあ。」
「校庭にそんな、草はえちゃうの?」
「あっちは気候がいいから。」
「あっそっか。納得。」
「世界中の誰が見ているか判らないインターネットに堂々と方言載せるヤツウ〜! オーナーらしくていいよねえ。」
 8階でドアは開いた。降りるなりまた歓喜の叫びが上がる。
「あーーーーっ!」
 一同を迎えたのは、入り口のガラスに両面貼りつけられたSMAPのポスターであった。
「きゃああーん、この頃の髪形―っ、あたし好きーっ!」
「それ何とか剥がせないのー?」
「駄目だつうに。」
 幹事たちが予約を告げ、カウンターで利用手続きをしている間も、ピーチクパーチクおしゃべりは止まない。土曜の午後、客は多いらしい。あちこちのドアから歌声が漏れてくる。HARUKOはそこで、店員に意外なことを聞いた。
「『ひっぴいはっぴい東京オフ会』さまですね? 先におひとかたお見えになってらっしゃいますよ。」
「へっ?」
 HARUKOはKhanomとてこなの顔を見た。確かに時間を4分ほど過ぎているが、いったい誰が来ているというのか・・・・
「ひょっとしてmapleちゃんじゃないの?」
「JJさんかもよ。」
「早く行こ行こ! ふくれてるかも知れない。」
 14人はHARUKOを先頭に、指示された部屋に向かった。

 入り口のドアは中央がガラス張りで、中は見えるようになっている。さもないとココをホテル代わりに使うお馬鹿な客がいるからだ。HARUKOは鼻歌まじりにドアの前に立ち、取っ手に指をかけ、ごく自然に中を見た。
「・・・・どしたの?」
 ほわっとした口調でてこなは言った。
「HARUKOさん?」
 Khanomも尋ねた。HARUKOの様子が尋常でない。取っ手に伸ばされた手はピタリと止まり、完全にフリーズしてしまっている。やがて彼女の肩は、目に見えて震え始めた。
「ねえ、どしたの。」
 てこなはHARUKOの肩をつかんだ。HARUKOはゆっくりと顔を彼女に向けた。驚愕と狂喜が一緒になったような、そのまま気を失っても不思議はない表情をしていた。
「あ・・・・あ・・・・あ・・・・お、お、お、お・・・・」
「なに? どしたの?」
「お、お、お、お・・・・」
「どしたのよHARUKOさん!」
「おうじ・・・・」
「えっ?」
「おうじが・・・・王子がいる・・・・」
「何、聞こえないわよ、何なの!?」
 てこなに揺さぶられ、HARUKOはいきなり彼女に抱きついた。
「中に王子がいるううーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
「うそーーーーーーーっ!!」
 彼女らはドアに飛びついた。重ねモチになって押し合ったため、誰かの手が取っ手を回してしまい、ドアはいきなり内側に開いた。ドッと中になだれこみ、たたらを踏んだ一同の耳に、
「おせーよ!」
 TVで、CDで、ラジオでビデオでコンサ会場で聞き覚えた、あの、・・・・あの拓哉の声が飛び込んできた。
「もう5分も過ぎてんじゃねえかよ、ふざけんなよ、普通ヒトを呼んどいて待たす?」
 彼は一番奥の席で足を組み、膝に曲リストを開いて、黒いサングラス越しにこちらを見ていた。マネキンの集団のように固まってしまった彼女たちの前で、彼はゆっくりサングラスをはずし、胸のポケットにしまった。何か動作をするたびに、さらり、さらりと髪が揺れる。

「ねえ・・・・」
 HARUKOはKhanomの前に腕を突き出した。
「おねがい・・・・ちょっとつねってみて・・・・」
 Khanomは拓哉を見たまま、自分の横に下がっているてこなの腕をつねった。HARUKOに聞き返す。
「痛い?」
「ううん痛くない・・・・」
「あたし、痛いかも知れない・・・・」
「なんでてこなが痛いのよ。」
「わかんない・・・・」
 拓哉はたまりかねたようにリストをテーブルに放り出して、
「ねえ。」
「・・・・!!!」
 14人の肩が同時に跳ねた。常日頃「会いた〜い、一度でいいから間近で拓哉くんに会いた〜い!」などと言っていても、いざ目の前で実物に話しかけられた彼女たちの大脳は、一瞬にして全ての活動を停止してしまったのだ。
「つったってないでさ、・・・・まあ、座って?」
 拓哉は立ち上がり、コミカルな仕種で辺りの椅子を手で示した。
「ほら、そっちから順に詰めて。ねっ? さっさと動こう? はいメニュー。ドリンクのオーダー、するでしょ?」
 14人は部屋の入り口に固まって依然つっ立っていたが、そこにいるのがまぎれもない木村拓哉その人であること、勘違いでも何でもない、このオフ会のために来てくれたらしいこと、この世紀のスーパースターをこのあと自分たちが独占できること・・・・などを、ゆっくりと理解しだし、
「うそ・・・・」
「拓哉くん? 本当に拓哉くん?」
「来てくれたの・・・・? ほんとにい?」
 感動の波が胸の底から高まって、ついに爆発した。
「キャーーーーーーーーーッッッッッ!!」
「拓哉くんだーーーーっ!!」
「うそーっうそーっうそーーーーっ!!」
 拓哉はニヤリと笑い、
「そ。そのノリがね、欲しかった。」
「キャーーーーッ!」
 壊れていたスピーカーがいきなり直ったように、彼女らは悲鳴を上げながら、おのおのシートに飛びついて座った。全員の瞳の中に10ダースくらいの星とハートが入っている。
「もちょっと近くに来ていいよ。何? この不自然な空間。」
 幹事だからと言って彼に密着するのも恐れ多く、およそ20センチほどの距離をおいて隣に座チているHARUKOに、拓哉は笑った。
「い、いえ、そこは・・・・そんなもったいない・・・・」
「もったいないって、俺は別に特別なもんじゃないんだから、ほら、来てって。」
「・・・・HARUKOさんっ、ほら。」
 腰を押すのはKhanomとてこなであった。てこなは、本人慌てているのだろうが決してそうは見えないおっとりした口調で、
「そこはさ、交代制にしない? 特等席ってことで、持ち回りで・・・・」
「持ち回りって、当番じゃないんだから。」
 彼女らの心をほぐそうとでもするかのように、スーパースターは信じられないほどフレンドリィだった。
「はい、ビールのひとォ!」
「はーい!」
「それからコーラのひとォ!」
 ドリンクのオーダーとりまで代わりにやってもらい、乾杯する段になって、ようやく14人は普通の声を出せるようになった。
「じゃあ乾杯しよう。幹事さん、はい、音頭とって。式次第、進行の方、よろしくね。」
 HARUKOは立ち上がった。拓哉の指示で動けるなんて、日本中のファンに対して申し訳ないような、誇らしいような、まだ半分信じられないような、そんな気持ちで、
「えー・・・・えーと、その・・・・。」
 ぐっ、と胸を押さえてから彼女は叫んだ。
「インターネット、やっててよかったねえーーーーーーーーっ!!」
「よかったーーーーーーっ!」
「ひっぴいはっぴいサイコーだよねーーーーーっ!!」
「サイコーーーーー!」
「かんぱーい!!」
「かんぱーいっっっっっ!!!」

「木村さんは・・・・インターネットってやってるんですか?」
 小柄な体をテーブルに乗り出すようにして、まなは尋ねた。
「俺? 俺はねえ、そんなにはやってない。回りの奴らはね、吾郎とかは結構やってるみたいだけど。」
「ふうん、やっぱごろちゃんは、やってるんだ。」
 彼イチ押しのあさこはつぶやいた。
「でも『そんなには』ってことは、ちょっとは、やってるんですね?」
「ん・・・・まあ、2〜3回?」
 どっと笑いがはじける。今度はReikoが、
「じゃあ、じゃあこの集まりの元になってる、『ひっぴいはっぴい』は知ってます?」
「知ってるよ。」
 さらりと彼は言った。エーーーーーッと大音響のリアクションが起こる。
「だって飯田さんのメール、載ってるじゃん。あれってけっこうインパクトあるよ。ギョーカイの人、ちょくちょく覗いてるらしいもん。」
「うっそー、ほんとにい?」
「ともちゃん聞いたら喜ぶう!」
「・・・・あ、ねえねえHARUKOさあん。」
 てこなは手をヒラヒラさせて、
「あれ、そろそろやろう? たっくんにも入ってもらって・・・・。ほら知子さんあての。」
「あ、参加者自己紹介?」
「うん、それっ!」
「そっか、始めようか。」
 彼女はバッグをごそごそやっていたが、中からビデオカメラを取り出した。
「じゃあただ今から、知子さんと、それから拓哉くんに対しての、参加者自己紹介を1人ずつやりましょう! テープは知子さんに送ります! ハンドル名と、それから、拓哉くん、SMAPくんにハマッたいきさつを必ず入れて下さ〜い!」
「いえ〜いっ!」
 まっ先に拍手したのは拓哉だった。
「じゃあどっちから行く?」
「拓哉くんラストがいいから・・・・こう?」
「へ? あたしからって?」
 ギックリ腰が完治していないクセに見栄を張って7センチヒールを履いてきたため、足首の痛いキムトモが頓狂な声を上げた。彼女は位置的に拓哉の正面でもある。
「しえー、参ったなあ・・・・」
 と言いながらも11年間演劇部にいたこの馬鹿は、咳払いひとつすると、HARUKOの構えるハンディカムに向かって、
「オーナー、見てますかーっ? 木村智子でえす! 草引き順調ですか〜っ? ただ今こちらは、もう、信じられないようなお客様を迎えて、最高に盛り上がっております『渋谷カラオケ倶楽部』からの中継でお送りしていま〜す!」
「いえ〜い!」
 HARUKOはカメラで会場をぐるりとパンした。最後に、手を振っている拓哉の笑顔もしっかり収める。拓哉は紙コップでビールを飲みながら、
「へえ、木村さんなんだ。」
「はいっ。よろしくお願いします。」
 やけに礼儀正しく彼女は答えた。
「しかも、なに・・・・木村智子? それってヤケにおいしくない?」
「は、これもみなロング・バケーションのおかげでございますっ。」
「キムトモさん、チカラ。チカラ抜いて。」
 続いてkyokoがカメラに向かった。拓哉の前での自己紹介だと思うと頭がぼうっとして、言ったそばから自分の言葉を忘れてしまいそうだ。しかも拓哉は、固まっているkyokoに対して、
「はい、本番行きます。・・・・いい? 5、4、3、2、・・・・」
 なんとADをやってくれたのだ。だが彼女はますます混乱してしまい、
「えっと・・・・あの・・・・その・・・・」
 拓哉は軽いノリで、
「はい、巻いて巻いて! 1カメ、そのまま回す!」
 ギャラリーは笑ったが、kyokoは汗をかいてしまった。『テイク3』で拓哉は、彼女にVサインでOKをくれた。
 AKKOは拓哉に言った。
「あのう、横浜、見に行くんです。楽しみにしてます。」
「あ、そうなんだ。いよいよラストだからね、うちらもみんな気合いれてるし、・・・・ただ天気がちょっとね。」
「平気ですよ雨なんか。雨が降ろうが槍が降ろうが、応援します。」
 AKKOの言葉に、13日以降のコンサートに行く者も行かない者も、そろってうなずいた。
 まなは拓哉に、美しい花柄の表紙のミニアルバムを開いて見せ、
「あたしね、スタジオで、見た・・・・じゃないや、お会いしてるんですよ。ほら、これその時の。」
「へえ、ちょっと見せて。」
 彼は腕を伸ばした。アルバムを手に取り、
「うわ、なんかなつかしー。俺ってさ、けっこう写真うつりいいよね。これなんかよく撮れてるよ。1枚もらっていい?」
「だめです。」
 大胆なまなの発言に会場はドッとわいた。
「まなさんて幾つ?」
 誰かが尋ねた。
「慎吾くんと同い年っ。」
 エーッ、という大反響のあと拓哉は、
「かわいくねえ年頃。」
 そう言って拗ねてみせた。もちろんすぐに「うそうそ冗談」とフォローすることも忘れなかったが。
 りえは、HARUKOが構えるカメラの方を見たが、角度的に拓哉の姿も完全に視界に入ってしまい、しゃべっている途中で、
「もう、拓哉くん、そんなに見ないで!」
 思わず両手で顔を隠した。それを見て彼が、
「・・・・チョーかわいー。」
 からかうように言ったので、全員が「ヒュイヒュイ」と冷やかし、りえは茹でダコよりも真っ赤になってしまった。うけたせいか彼はさらに、
「まっすぐで綺麗な髪してるよね。シャンプー何使ってる? こうやって毎日手入れしてるわけ?」
 ロングヘアを、念入りにトリートメントする真似をしてみせた。りえは膝の上でこぶしを握り、
「あたしもうぜったい髪切らないっっ!!」
 その宣言に全員が大拍手を贈った。
 Reikoはごくりと生唾をのみ、声が震えないよう深呼吸してからカメラに語りかけたが、笑顔はどうしてもぎこちなくなった。拓哉は彼女に、
「ほら、固まんなよ。なんつうか・・・・カメラの、向こうにいる人にむかって話す? レンズじゃなくて、知子さんに話すつもりで。」
「はい。」
 Reikoは、かつて誰に何を教わった時よりも真剣であった。他の13人も同様だった。
「それじゃガンづけだよ。睨むなって。もっと色っぽく。・・・・そうじゃなくて。いい?」
 拓哉は腰を浮かせてReikoのそばに顔を突き出した。並んでカメラに流し目を送る。うろたえたのはHARUKOであった。
「ちょっ・・・・ちょっと待って! そんな、あたしはどうすればいいのーっ! Reikoさんの流し目、すごい強烈!」
「HARUKOさん、どうせあたしの目なんか全然見てないクセに。」
 Reikoの突っ込みは何故か冷静で、その落差がまた爆笑を呼んだ。
 中居や慎吾に比べるとトークが決して得意とはいえず、気がのらないとブスッと無言になる拓哉が、これほどのコメントを惜し気もなく披露してくれるなど、思いもよらないことであった。普段の彼はいつもこのように自然なのか、あるいは、今日のこの集まりを彼は、心から喜んでくれているのかも知れない。
 あさこは言った。
「あの・・・・じつは私、以前ロンドンでお会いしてるんですよ。」
「ロンドン? うっそ、去年?」
「はい。サイン貰ったんですけど・・・・覚えてないですよね。」
 拓哉は古畑ポーズで考えこんでいたが、
「あ、わかったあん時の!」
「えっ、まさかホントに?」
 覚えていてくれたのか、とあさこは感動しかけたが、拓哉は大袈裟に謝った。
「すいません! ごめんなさい忘れました!」
 落とすタイミングが絶妙で、皆笑った。さすがの演技力であった。
「そうですよね。サインする相手なんて、何万人もいるわけですもんね。」
 あさこは言ったが、拓哉は、
「でも、これでもう忘れないから。ロンドンではごめんなさいだけど、渋谷カラオケ倶楽部で会ったことは忘れない。」
「・・・・えーっ、あさこさんだけー?」
 誰かが言うと、彼は、
「今日会った、この全員!」
「キャーーーーーーッ!!」
 最大の歓声が上がった。20世紀も終わりに近いこの日本に、生まれた甲斐を確信した瞬間であった。
 拓哉はYumiに言った。
「Yumiさんて・・・・なんかすごくしっかりした感じがするね。」
「いえ、そんなことないです。」
 答えてから彼女はピンときた。
「あたし・・・・年上ですよ拓哉くんより。」
「えっ!?」
 心底驚いたように彼は身を起こした。
「うっそ、マジ? この・・・・まなさんと同じくらいじゃないの?」
「かわいくない年頃ってことですか?」
 皆は笑ったが、てこなはすかさず、
「だめよおYumiさん・・・・黙ってればよかったのに。」
「あ、そっか。自分でばらしちゃった。」
「でも『かわいくない』って言われるよりいいじゃない。」
 まなの返しはナイスタイミングだった。爆笑につぐ爆笑で、雰囲気はますます楽しくなってきた。
 拓哉はNorikoに、
「・・・・歌、うまいでしょ。」
 開口一番そう言った。Norikoはびっくりして、
「なんでですか?」
「いや、なんとなく。マイク、放さないタイプじゃん?」
「えー・・・・やだ、そんなこと言われちゃったら歌いづらあい・・・・」
「ねっ、ほらほら聞いた? やっぱガンガン歌う気でいるんだぜきっと。・・・・いや、ほら冗談だって。」
「冗談じゃないもん。こうなったら歌ってやるう!」
 やんやの喝采がNorikoを包んだ。
「・・・・erikoさんも、そうだけどさ。」
 拓哉は不躾でない程度に彼女のファッションを一瞥し、
「今日の皆さん、わりとカジュアルだよね。何か前打ち合わせあり?」
「いえ、そんな別に・・・・。そんなに洋服とか、いっぱい持ってるわけじゃないし。」
「似合ってるよ。」
 短くツボを押さえた褒め方をして、
「なんかさ、今日ね、もしかして皆さん、すげえ派手な恰好してくるのかなと思ってた。こーんなドレスとかさ、振袖とか。」
 一同は口々に反論した。
「まさかそんなあ。」
「入学式に着飾ってくるおばちゃんじゃないんだから。」
「・・・・だから俺さ、タキシードでも着てこようかと思ったの。」
「えーっ見たあい!」
「着てみせてーーーっ!」
「だから『思った』って言ってんだろ? 人の話ちゃんと聞けって。」
 次にYAYOIが話し出そうとした時、隣のKhanomはニヤニヤ笑って言った。
「あのねえ拓哉くん、彼女はね、中居くん1押しなんですよ。」
「ちょっとっ!」
 YAYOIはビシャリとKhanomの肩をひっぱたいた。
「あいっ・・・・たあ・・・・。痛いよお〜。」
 Khanomはてこなに助けを求めようとすがりついたが、
「知らない。」
 するっと肩をはずされてしまった。YAYOIはKhanomに、
「ひとちゃんが言うことないでしょ? 何かあたしにうらみでもあるわけ?」
「いいじゃない、中居イチオシは本当のことなんだからあ。」
「・・・・まあまあお2人とも。」
 拓哉は苦笑してとどめ、
「でもって俺は、いったい何番目なんですか?」
 そうYAYOIに尋ねたので、これまた大うけの爆笑となった。
「えーと、私は・・・・」
「ちょっ、ちょっと、あたしを飛ばさないでよ。」
 話し出したてこなの腕を、Khanomはつかんだ。てこなは涼しい顔で、
「今のでもういいでしょ。」
「何それーーーっ!」
 そんな幹事の漫才も見ものだった。

「じゃ、拓哉くん。最後のトリ・・・・お願いします。」
 HARUKOの手に力がこもった。
「あ、俺?」
 彼はポテトチップスの粉のついた手を、ちゃちゃっとはたいてからカメラに向かった。
「いえ〜い、オーナーの知子さん、見てる〜?」
 キャーッと全員が叫んだ。
「今日、来れなくて残念だったねーっ! 草引き、順調―?」
 爆笑が起きる。
「こっちはもう、全員、絶好調で〜す!」
「いえーーーーーーい!」
「みんなっ、盛り上がっていこうぜぃ!」
「キャーーーーーッ!!」
「・・・・これさあ、知子さんが見たら、絶対悔しがるよね。」
 kyokoの言葉に拓哉は、
「でも草引きなんだから、しょうがないんじゃない? ・・・・ところで草引きって・・・・何。」
 またも大爆笑が起きたところで、忍びやかにドアが開いた。そっと顔を覗かせたのは、ここで合流することになっていたJJであった。
「あっ、お待ちしてましたJJさん! どうぞどうぞ! 今自己紹介がちょうど1周したところ!」
「・・・・ごめんなさい遅くなって。でもね、私2時にはそこにいたんですよ。」
「えっ?」
「でも皆さん、あんまり人数が多いから違うと思って・・・・。たしか10人くらいだと・・・・」
「あ、そうか、あれからバラバラッと入れ替えがあって、増えたんですよ。」
「そうだったの、なあんだあ。」
「じゃあ早速、自己紹介お願いします! こちらのカメラに向かって!」
「はあい。えーと、こんにちは、JJです。・・・・」
 上品な落ち着いた口調で話し終えた彼女に質問したのは、
「ねえ、JJって何の略? ウチのジュニアのこと?」
「えっ?」
 男の声に、しかも聞いたことのあるその声に驚き、JJは奥の席を見た。ヒッ、と息を飲んで彼女も硬直した。
「拓哉・・・・くん? ホントに? えっ、なんで? どうして? どうしてなの? やだ、なんで!?」
 うろたえるJJに一同は笑い、
「ほら、JJの意味。説明説明。」
「え・・・・ええと・・・・淳子、という名前にJをつけて・・・・」
「だから何で。」
 可笑しそうに拓哉は質問を重ねた。
「何か自分でもよく判りません! あーー・・・・あたし何言ってんのかしら・・・・誰か助けてえ!」
 そこでまた爆笑だった。拓哉と一緒に同じ部屋で声を合わせて笑えるなんて、どんな女神のプレゼントなのだろう。オーナー・tomokoはひょっとして、本物の天使なのではないだろうか。
「ねえっ! そしたらさ、もうカラオケタイム、行っちゃおーー!!」
 されば我が出番ぞとばかりにKhanomは言った。拓哉も即、応じた。
「Yeah〜〜〜!!」

 Khanomがワイヤレスマイクを持った。彼女はバクバクの心臓を皆に悟られない様に、注意深く言葉を発した。
「はい、えーっと、ではでは・・・・オープニングはですね、私ども、カセットテープを用意したんですよ。曲は『今夜はHearty Party』なんですけれどね。木村さんの“ささやき”を流して、参加者の皆さんの気分をHi−Fiにしよう、ってことで・・・。でも、こうしてご本人がいらっしゃってます・・・ってことは・・・ねっ?皆さん・・・・」
「Yeah〜!」
 全員の拳が高く上がる。
「なになに?その『Yeah〜!』は。皆なに俺に期待してんの?」
 いたずらっぽいバンビ・アイがひとりひとりの顔を順番に追う。見つめられた彼女たちの目はドミノ倒しのようにハート型になっていく。
「ひとことカラオケ開会を宣言する“ささやき”なり“掛け声”なりをお願いしたいと思うのですウ」
 てこなの眼鏡の奥には、ハートではなく星が入っていた。
「ん?カラオケ開会宣言?そんなのより、どうせなら一発目から歌っちゃう?」
「きゃーーーーっ!!!」
 拓哉は立ち上がり、ジーンズのベルトを両手で掴み2,3回腰を揺らした。後ろ髪の毛先はピョンピョン跳ねている。左耳のピアスにインディアン・ジュエリー。シルバーリングとブレスレッド。そして・・・足元はレッド・ウィング。
「拓哉だあ・・・・」
 Yumiがポツリと呟いた。
 そう・・・・拓哉だ。
 大脳は間違いなく彼の存在を認めている。満ち足りた時を、今自分達は彼と共に過ごしている。彼の一挙手一投足を見守る。全身が彼のオーラを受信する吸収体と化していた。《ビジュアルの中の木村拓哉》と、目の前にいる《生身の木村拓哉》を重ねる。
(私の拓哉)
(私の拓ちゃん)
(私のキムラ君)
(私のたっくん)
(私の・・・木村拓哉)
 夢のような現実をまだ半信半疑でいる仲間たち。
(【夢なら醒めるな!】【時よ止まれ!】)
 それはここにいる女たちの共通の願いであった。

「曲順とかは決まってるの?」
「はい、一応オープニングは『SMAP MEDLEY』で、そのあと『011』です。あとは皆さんお好きな曲を片っ端・・・」
「・・・なるほど、“片っ端”ねっ」
「あっははははは・・・・・・」
 Khanomの口調を真似たお茶目な拓哉にまたも笑いの渦が起こる。
「S.M.A.P・・・・SMAP・・・。S.M.A.P・・・・」
 モニターの中の映像を見ている者など誰一人いない。真っ直ぐに拓哉だけを見つめ、拍子を取り、歌詞を口ずさむ。
「Yeah〜!」(by Takuya)
「Yeah〜!」(by みんな)
「Yeah〜!」(by Takuya)
「Yeah〜!」(by みんな)
「・・・・・・Hearty Party、今日は最後まで盛り上がろうぜ〜!」
「Yeah〜!」
−♪踊り明かそう Dance tonight もっとドラマチックに〜!−
 早くも拓哉のペースにはまる女たち。完全にコンサのノリである。

「あー、遅くなっちゃって〜。ごめんごめん!いやー・・・」
 大音響のカラオケに負けず、騒々しくラストに入場してきたのはmapleだった。
「んーもう!なあにやってんだか!」
「遅いよ!mapleちゃん」
「さ、入って入って!隣どうぞ」
 りえが席をずれてmapleの為にスペースを作った。
「あ、ありがとございます」
 初対面なのに既にフレンドりー。すっかりノリのいい「ひっぴいはっぴい」の輪が出来上がっている。

「あー、はい、これ。ネームプレート。遅れて来たけどあげるって。良かったね」
 男のごつい、長い指がネームプレートを差し出す。
「あー、ドモドモ。男、来てんだ。あれ?幹事さん、今回は男子禁制じゃなかったんっすか?」
 PCをバッグから取り出す為に、mapleは屈み込んでいる。彼女の長い髪が視界を遮っていた。俯いたまま手だけを伸ばし、拓哉はその手のひらにネームプレートを落とした。
「あれ?そうだったの?じゃあ俺、退場?」
(おや???????)
 先程は男の声だとしか気づかなかった。しかし・・・。
(もしや・・・・?)
 mapleはソロソロと顔を上げた。一瞬の沈黙。−そして・・・・
「ぎ、ぎ、ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!なななな・・・・なんでええ。ヤダ、あんたマジで来たのオ?うっそーーーーお!」
 マイクを通してはいないのに、その声は部屋中に響き渡った。
「わー、mapleさん、いきなりテンション高〜い!」
 一番年下のまながケラケラと笑い出し、その渦は全員に伝染していった。
「きゃっはははははは・・・・・」
 mapleの呆然とした顔を見て、拓哉は悪戯っ子のように満足げに笑っている。

『011 ス』の楽曲をKhanomがリモコンに次々と入力していく。
「さあ、みなさ〜ん、歌ってくださ〜い!」
 ノリのいい『everything is cool』。
♪え〜ぶり〜しぃんぐ イズ く〜〜〜る ひとつだけー噂になろう so busy・・・・
 拓哉はマイクをそれまで物静かだったAKKOに向けた。
「はいっ!」
「へっ!は、は、はいっ・・・・」
 つい今まで拓哉が握っていたマイク。AKKOの手は緊張で震え、差し出されたものの掴みそこね、それを床に落としてしまった。ハウリングと共にゴトン、と鈍い音が響く。
「あーっ、ごめんなさあい。やだ、ごめんなさあい」
「あ、いいいい。大丈夫。気にしない気にしない。ついでにきんちょ〜もしない。ねっ」
 慌てているAKKOの前で、拓哉はニカっと笑ってマイクを拾い上げた。
「あ、ありがとうございます」
 立ち上がった瞬間の、TVで見慣れた髪を掻きあげる仕草を目の当たりにし、kyokoが呟いた。
「かっけー!!!」

 マイクを皆に譲り、手拍子と合いの手に徹していた拓哉がついにステップを踏み出した。
「キャーーーーーーーっ!!!!!かっこいーーーーーーーっ!」
「LetVs dance.」
「えーーーーーーっ。恥ずかしいよお」
 あさこが皆の気持ちを代弁する。
 HARUKOが言った。
「皆で踊ればこわくな〜い!」
「Yeah〜!」
 次々と立ち上がり、手足を思い思いに動かす。
「あーっ、ここここ!このコンサート・シーン、『うたばん』で流れましたよね?」
 Norikoが陽気に言った。
「そうそう、ステキなのよねっ」
 Reikoが応じる。
「Hey,カモン」
 拓哉に言われ、手を引かれたのは、ひとりだけ長椅子にもたれニコニコと手拍子を打っていたJJだった。
「えっ?わ、私・・・踊れませんよお・・・」
「JJさ〜ん、踊りましょうよ〜!」
 erikoにも促された。
  全員が立ち上がり、ステップを踏む。
 軽やかに、しなやかに身体を揺らしていた拓哉が、いきなりシャープな3回転を見せた。
「キャーーーーーーーーっ!!!」
 狭いParty Roomが地下のライブハウスのように熱気に溢れる。合わせて32コの目はまばゆいオーラを放ち続けるスーパースターに注がれていた。TVで見るより大分明るい亜麻色のような髪。しなやかというよりは男っぽい手…。それぞれが思い描いていたイメージとの些細なギャップに多少戸惑いつつ、目の当たりにしてみて初めて感じる拓哉のパワフルな魅力に彼女たちは新たに心を熱くするのだった。

−今自分たちは『木村拓哉』と共にひとときを過ごし、同じ空気を吸っているんだ!−

 アップテンポなナンバーを3曲踊り終えた後、拓哉はビールを口にしながら出入口付近に向かった。
「どーも」
 居合わせたりえとYAYOIにペコリと頭を下げて、彼はおもむろに胸ポケットからラッキーストライクとZIPPOを取り出した。
「あー、それがウワサのロンバケ・ライターですね?山口智子さんのキスマーク入り」
「うん」
 りえの問いに、彼は気さくに応える。
 煙草に火を点けると、なんとこのスーパースターは出入口正面の壁に寄りかかり、いきなりしゃがみ込んだ。
「あっ、椅子、椅子ウ・・・。幹事さん、すみません、椅子ありますかあ?」
 ビンテージもののジーンズを汚してはいけない。りえは灰皿を彼に差し出しながら慌てて言った。
「さんきゅ・・・あ、いいって。椅子イラナイよ」
「でもお・・・」
「ほんと、いいって」
 両手首を、立てた膝に載せている拓哉は煙草を指に挟んだまま左手を小さく横に振り、りえを制した。ニヒルな笑みがこぼれている。
(うっわー、カッコイーーーーーっ!)
 りえはその場に立ちすくんでしまった。
「あー、あの、ボニータ・・・お元気ですか?私も犬、飼ってるんですよ。二匹」
 りえをフォローするようにYAYOIが口を開いた。
「そう・・・。うん、ボニーはお転婆だよ、相変わらず・・・・。でも、No leadでOKなんだ。ほんとは今日も連れて来たかったんだけど・・・ここ、ペットの入室禁止でしょ?」
 シブイ顔で煙を吐いていた拓哉の顔が、ボニーの話題でみる間にほころんでいく。
 そこに、軽快なアコースティックのメロディーが流れ始めた。
「わー、木村さ〜ん、休憩中すみませ〜んっ!!!『セロリ』ィ。HELPしてくださーいっ!」
 Khanomがモニターの前で叫んでいる。
「はいはい、OK、OK!ラップでしょっ!」
 キムトモが立ち上がる。
「違―ウ!キムトモねーちゃまじゃな〜い!王子だよお!!!」
「あっははははは・・・・・」
 爆笑が湧き起こる。拓哉もニヤニヤしながら煙草を揉み消し、ビールを片手に立ち上がった。
「えーっと・・・・ほらほら、まあだマイク握ってない人だあれ〜!残り物に福アリ〜っ!拓哉君とデュエットよ〜っ」
「えーーーーーーーーーっ!!!!!!」
 Khanomの声に全員が顔を見合わせる。
「誰だれーーーっ?」
「歌ってないのだ〜れー?」
 黙って真っ赤な頬を両手で押えているのはNoriko。
「うっそーーーーーっ!」
 頓狂な声をあげたのはerikoだ。
「あ、どうやらそこのおふたりさんねっ。前にどうぞー。早く早く〜!イントロ始まってますからあ〜」
 重宝部長のHARUKOが3本目のマイク暢達の為フロントに急ぐ。てこなの手招きで、ふたりは信じられないという面持ちでいそいそとモニターの前にやってきた。
「あれえ?Norikoさん、歌いまくりじゃなかったんだあ」
「もーっ、Khanomさん、言わないでエっ!」
 っと言うNorikoは耳まで赤く染めている。
「erikoっさ〜ん!!!」
 彼女も外野から、いや、即席のアリーナから声援を受ける。

♪育ってきた環境が違うから〜ア 好き嫌いは否めない〜っ・・・・・
♪ましてや男と女だから〜ア すれ違いはしょうがない〜っ・・・・・
 あがっているにも関わらず、今までマイクを持たなかったことが不思議なくらい、案の定二人の歌唱力は見事だった。そして拓哉が両手に花の状態で自分のパートを歌う。
「♪何がきっかけで〜どんなタイミングで【ぼ・く・ら】は出会ったんだろう……出来るだけ〜エ、一緒にいたいのさア・・・・」
「キャーーーーーーーーーっ!!!!!」
 アドリブの歌詞とアレンジに歓声が飛ぶ。
♪Um〜がんばってみるよ やれるだけ〜 がんばってみてよ 少しだけ・・・・・
 サビは暗黙のうちに大合唱となった。コンサ経験組が持参したうちわやペンライトが登場し、Yumiとあさこが振り出した。
「One more time!」
「♪Um〜が〜んばってみてよー…」
 16人の、いや17人の心が一つになる。

「拓哉君と一緒に写真撮りたいなあ…。正夢の記念、残したいね…」
 JJの呟きを耳にした幹事のてこなが勇気を奮って拓哉に嘆願奉る。
「あのお木村さん、お願いがあります。被写体として、我々の記念写真に加わっていただけませんか?」
「えっ?なに?それって皆と一緒に写真撮るってことでしょ?」
「はい、さようでございます」
「おっけー」
 ひっきりなしにかかるSMAPカラオケにリズムをとり、時として口ずさんでいた拓哉は二つ返事で了解した。丁度ドリンクの追加注文を運んできた店員をHARUKOがそつなく捕まえた。
「すいませ〜ん!写真撮っていただけますかア…。ほらほら皆、集合〜〜〜!」
「わーーーーーーーいっ!!!!!」
「あーあーあー、拓哉君の隣はジャンケンにしましょうよオ!」
 Reikoの提案に拓哉が応えた。
「俺、ショップのプリクラみたいにバックグラウンドになろうか。16人だよね?」
 拓哉の言葉に驚いた全員の口がポカンと開いている。そんな彼女たちを尻目に、先ほど幹事が慌てて用意した傍らの折り畳み椅子を自ら二脚広げ、彼はその一方に腰掛けた。
「も、も、もしかして…2ショットってことですかあ???」
 まなが叫んだ。
「あ、あのウ…木村さんご無理なさってません? いろいろと…」
 すぐ後ろに立っていた心配性のてこなが、小声で拓哉に囁いた。
「えっ?ゼンゼン…。なんで?俺がゴキゲンだとヘン?」
「い、い、いえ、そんな滅相もない。ごめんなさい。余計なことを申しまして…。」
 何度かぺこぺこした後、身体を起こしたてこなが見たものは…拓哉のウインクだった。振り向きざまの一瞬だったのでもしかしたら見間違いかもしれないが、彼女には彼の左目が瞬いたように見えた。
「あ、あ、あ…こ、こぼれ幸い…指か・ほ・う…あ…あれ?このことわざはこの場合適切じゃないかもしれない…」

「はい撮影準備OK!あ、俺とじゃダメ?イヤ?彼氏にバレるとマズイとか…?」
 全員に向けて、拓哉が上目遣いに問い掛けた。
「きゃーーーーーーっっっ…」
「イヤなわけないじゃないですかあ!」
「まっさかー」
「うっそーーーー」
「いいんですかあー?」
「ダメだなんてえ…」
「キャー、どうしよう!」
「まじー?」
「どうしましょう…」
「本当ですか?」
「顔が引き攣るーーーっ…」
「彼なんていませんよオ…」
 彼女たちは口々に答え、室内は騒然となった。
「えーっと…はい、じゃあね、じゃあね、順番ね。時計廻りでいいですよね、皆さん」
 普段冷静なHARUKOの声も、この時ばかりは動揺でうわずっていた。
 拓哉は撮影の度、ひとりひとりと握手を交わす。おどけたり、澄ましたり、クールに決めたり…。16人の個性に合わせてポーズを変える拓哉。
「キレイな方も、そうでない方もそれなりに…はい、チーズ!」
 まー坊のような寒いギャグをKhanomが掛け声にしたせいで、集合写真は全員爆笑顔になってしまった。

 まだ興奮冷めやらぬ仲間たちの真ん中で、左手首のGショックを覗いた拓哉。
「あ、やっべ。幹事さん、俺そろそろ失礼させていただきます。」
「………。」
 一瞬の沈黙。
 楽し過ぎたPartyの終焉。しかし、拓哉の言葉を受け止める彼女たちの顔は微笑んだままだった。そして全員が黙って肯く。

「『SHAKE』だっ!」
 誰が入力したのかはわからない。モニターに『SHAKE』の文字。
−スバラシイ!ステキナ!スゴイゾ!スーパースペシャルコンサート−
 1997 SMAP SUMMER CONCERTのオープニング曲。
 そして・・・アンコールでもラストを飾った、我ら『ひっぴいはっぴい』のテーマ曲。
「これ、ラストね。うたお、うたお!」
 拓哉が言った。そう、『木村拓哉』、その人が言った。
♪SHAKE SHAKE ブギな胸騒ぎ チョ〜very very最高 ひっぴいはっぴい SHAKE〜!
 YOO YOO!星が流れてく 明日からハレルヤ ふたりならヤレルヤ〜!

 

 16人は拓哉をエレベーター前まで見送った。
 お辞儀をする段になって、彼は両足をパチンと揃え、Gパンのステッチに指先を沿わせた。
「今日はお招きいただきましてありがとうございました。楽しかったです。」
 そう言ってペコリとコウベを垂れた。
「ばいばい」
「ばいばーい」
「拓哉君どうもありがとう」
「楽しかったよ〜」
「よかったらまた来てね」
「サンキューっ」

 エレベーターの四角い箱に収まった拓哉は、眼前に立つわずか16人の女たちの眼差しに、照れ臭そうに笑っている。
「ばいばいっ。またねっ」
 皆の笑顔を見渡してから、スーパースターは最後に右手をあげて白い歯を見せた。


「楽しかったね、またね」
「また会おうね」
 彼女たちは口々に『またね』を繰り返し、家路についた。

 たとえ時空が移っても、『またねっ』と言い残した拓哉の声を、この日仲間になった16人は
 【永遠に…忘れない。】

 

 

(−完−)

 

 夢のようなひとときを、共に過ごした仲間達へ

 キムトモ&Khanomより

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6月23日(月) 大安

「ひっぴいはっぴい 東京オフ会」より「STOP THE SMAP」にFAX送信された

 我らが王子:木村拓哉氏への『愛の招待状』

 

木村拓哉様

 雨の季節になりました。ドラマの撮影も無事終えられたとのこと、本当にお疲れ様でした。春浅い街並みを駆け抜ける木村さんの頬が冷えて張り詰めていらしたのは、ついこの間のことでした。あれから2ヵ月、走る由紀夫をずっと見詰めてきました。視線を一点に定めてストイックに疾走するその姿は、木村さんの仕事に対する姿勢とも重ね合わされ、胸に迫るものがありました。そしてこのドラマで何より目を奪われたのは、昔の由紀夫がナイフで男をなぶるシーンです。現在の由紀夫を含めて、これまでの役には、どこか「木村拓哉」を思わせる風情があったものですが、そのときの由紀夫には、ひとかけらもご本人を感じさせない凄みがありました。悪の悦しみに嬉々としてナイフを突き立て、ほころぶその口元−−−−。 
その一シーンだけで、過去の由紀夫、または「ミゾグチタケヒロ」の全存在が、リアルな形で目の前に現れたのです。私がこのドラマから受け取った最高のGIFTは、今までにない魅力をもった「役者、木村拓哉」でした。気がつけば、夏はもう目の前です。私達は久しぶりのコンサートに胸弾む思いです。。以前にラジオでおっしゃっていた木村さんご自身の企画と、ソロ・パートの曲目をとても楽しみにしております。

 木村さんのファンである私達は、インターネットのあるホーム・ページに参加する仲間です。昨年の11月13日にグランド・オープンした「ひっぴいはっぴい」という名のその HPには、毎日木村さんを応援する沢山の人達がアクセスしてきます。木村さんやSMAPへの思いを語り、仲間の描く木村さんを主人公にした連載小説に心ときめかせ、ご出演番組の感想を話しあう(ここには先日飯田譲治さんもお便りを下さいました)、楽しいHPです。
そこは、時には困難なこともある日常生活を、多方面で活躍する木村さんを始めとするSMAPメンバーの方々の姿を励みに、少しでもいきいきと送りたいと願う人達のオアシスです。そうした素敵な仲間との出会いも、「木村拓哉」という人の存在なしには叶わなかったことでした。

 この夏、私達は東京で“オフ会(Off−line Meeting)”なるものを開きます。普段は電子の世界でのみ交流する仲間同志が、実際に顔を合わせて更に親睦を深めようというのです。
私達幹事は、丁度木村さんが「Gift」の制作発表をなさった頃から、この会の開催を検討してきました。そして、準備を進める過程で、ある夢のような願いを心に抱くようになりました。
それはこの集まりに、木村拓哉さんご本人にお出で願えないものだろうか、ということなのです。このお願いの非常識さに身もすくむ思いでおりますが、私達を引き合わせて下さった木村さんがいらっしゃることは、何にも勝る大きな喜びであるばかりか、同時にこのオフ会の意義をどれほど深めることになるかを思うと、蛮勇をふるって申し上げずにはいられません。
お仕事のスケジュールや様々なご事情があることは、よく分っております。またファンのこのような厚かましいお願いは、珍しい事ではないこと、その度ごとに応じられる種類のものでないことも承知の上です。けれども、どうしてもお願いせずにはいられません。思うだけでは夢は叶わないものですよね。こうしたお願いを、木村さんが疎ましく思う方ではない、ということを信じてお便りいたしました。
 参加者は15名ほどです。東京近郊のみならず、各地方から、そしてコンサートのために海外から帰国する人達も遊びに来ます。
職業もシステムエンジニアから主婦までと幅広く、美しい人もそれほどでもない人もおりますが、皆さん節度をわきまえた知性的な人達ですから、ご心配なさるような混乱やご迷惑をおかけするようなことは決してありません。木村さんのお気にかかることが僅かでもおありでしたら、お知らせ下されば、できる限りの対処もいたします。
下に日時を記します。当日お時間がありましたら、お散歩ついでにでも私達のオフ会をのぞいていただけませんか。

− 記 −

日時 9月6日(土) 午後2時〜5時
場所 渋谷カラオケ倶楽部 

 突然のお便りで、このような不躾なお願いを致しました事をどうぞお許し下さいますように。来るべきコンサートでは、夏のひとときを木村さんやSMAPの皆さんと精一杯Enjoyしたいと思っています。
お忙しい事と思いますが、くれぐれもご自愛下さいませ。どんなお仕事にも、想像以上の成果を見せて下さるあなたをこれからもずっと追い掛けていきたいと思います。

 

 ホームページ「ひっぴいはっぴい」
HP制作者  中野知子

「ひっぴいはっぴい」東京オフ会幹事
HARUKO ま2 Khanom

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「えーん、草引きしないで参加したかったじょ〜! From 知子」

 

『マジデ、イキタカッタナ・・・・ from TAKUYA』

 

 

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