Op.2RED-HOT BLUES*−

Prelude

 灼熱の太陽が降り注ぐこの大都会で、私はアイツと出会った。もうすっかり忘れていたまだ太陽が恋しかった頃を、アイツは私に思い出させてくれた。

四季折々に様々な色相を織り成す故郷の風景…。
吐く息が白かった凍てつく冬。
真夏でも冷たかった灰緑の清流。
夢中で銀杏を拾った秋風が頬をなでる散歩道。

そして…淡紅色の絨毯の上で、さらに舞い続ける桜吹雪。


 パーム・ツリーの街路樹が退屈に映る私の目の前に、アイツは“Red-Hot”に負けないくらい強烈なナチュラル・ブルーのオーラを纏って現れた。怖いくらいに透明なアイツのブルーは、火照った私の全てを心地よく冷却させ、それはスコールよりも激しく私のノスタルジアを刺激した。

今日も私は鳳凰樹の下で、そしてアイツは桜の樹の下で、明度の異なる空を仰ぐ。

それが…アイツと私の“RED-HOT BLUES”




 

−*RED-HOT BLUES*−




The First Movement:Duet

「“ロイヤル・プリンセス”みたいだ…」
「えっ?」
「今日…乗ったんだよ、“ロイヤル・プリンセス”号に。デラックスなクルーズだった。でも食事は…今の君ほどスパイスは効いてなかったよ」
「…熱い?」
「ううん、丁度いい…。君は?」
「私は…私も丁度いい」

 籐製の丸テーブルとチェアー一対が置かれたベランダの先に、大河がある。昼間なら茶褐色に見えるこの河は今、賑やかに行き交う灯かりを点した船たちに、その水面を揺すぶられている。

「かわいいね、このアンクレット。いつも付けてるの?」
「ええ」
「…一年中?」
「ええ」
「いつも素足に?」
「ええ」
「…そうか。ここには冬がないんだね」
「いいえ…あるわ。あなたには感じられないでしょうけど、今が冬なのよ。朝晩に吹く風が、私にとっては冷たいの」
「…今が?」
「ええ」
「…これで?」
「ええ」
「昼間、あんなに陽射しが強いのに?」
「ええ」
「この部屋、ずっとクーラーが効いてるのに?」
「ええ」
「…僕ら今…“nudes”なのに?」
「…ええ」

 気が遠くなりそうな波を何度も越えて、愛のプロセスを終えた後、アイツはしばらく無言で私の顔を眺めていた。毒針のようなその視線に耐えられず、私は目だけをアイツから背けていた。

果てのなさそうなその視線に脅威を感じ、私はようやくアイツと目を合わせた。Blue-blackのその瞳に完全に吸い込まれ、私の瞳は他に何も映らなくなった。

 そうしてやっと…アイツは初めて私の唇にキスをした。それは、それまでのどんな愛撫よりも、私の躰体を官能させた。

「君…名前は?」
 私の耳にぶら下がるプラチナのチャームを口に含んだまま、アイツは囁いた。

「…いづみ」
「イズミ?」
「ううん、いづみ。桂…和」
「カツライヅミ…桂和…」
「…あなたは?」
 そう聞き返した時、再びアイツの舌が私の唇に戻って来た。
「涼」
「えっ?」
 唇を離さずに、アイツは答えた。
「如月…涼」
 逃げ足の速い舌が、私の唇の間を何度もすり抜ける。
「きさらぎ…りょう?」
 アイツの名を復唱した時、私はやっとその舌をつかまえて、そうしてそれを軽く噛んだ。



 アイツは涼で…私は和。


 涼の止まないキスを受けながら、私はふっと目を開けた。
 ベッド脇のメイン・テーブルの上に、籐のかごに入れられたリフレッシュメントがあった。そのフルーツの中に形のいい青マンゴーを見つけて、私は何故か嬉しくなった。


(この人も…BLUEだわ)



−To be continued.−










Mov.2.に続く
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