-東京オフ会物語 '98春-

 

『俺だけど、なんで俺の行けないときにやるんだよ!』 

 幹事のHARUKOの携帯電話が鳴った!1次会場の東京某所にあるイタリアンレストランの2階に20数人の出席者がおさまり、前菜が運ばれたところ。もちろん、店内は携帯禁止!慌ててHARUKOはバッグの中から携帯を掴みだし、スイッチを入れる。
「はい。」
 それに返ってきた言葉が冒頭の台詞だった。
「は?俺って…どなた?」
 当然、店に対して憚られ、声は小さくなる。窓辺に寄って携帯を隠すようにして話した。
『俺だよ。他に今!携帯鳴らす男いないだろ?』
 首をひねったままHARUKOが、同じく幹事のKhanomを見ると、また携帯のベル。
「今度は誰?」
 Khanomが他人事のように言う。近くにいたYAYOI、TAMI、Norikoは、一斉にバッグの中身を点検!しかし、
「…あたしだぁ。」
 最後にバッグを取り上げたKhanomだった。電話してきた相手を考えながら、それをHARUKOは見ていた。
『だまってんなよ。まさか、マジにわかんねぇ?』
 耳に響く声に聞き覚えがあると思うものの…どうしても知り合いと結びつかない。それよりも、店内で携帯が次々と鳴ることにHARUKOは神経質になりつつあった。
「tomoちゃんだぁ〜。え?コンサ日程?出たの?」
 そんなHARUKOの幹事としての責任感もどこ吹く風、もう一人の幹事Khanomは大声をあげた。こうなっては、もう携帯禁止もへったくれもない!オーナーtomoko自らの電話と聞いて出席者全員、色めき立った!その時、HARUKOもかけてきた相手が誰か、突然思い当たった。
「…うっそぉ〜!」
 Khanomの携帯に耳を傾けていた同じく幹事のYAYOIが、
「ウソじゃないよ。HARUKOさん。ホントにtomoちゃんだよ。」
 言ってすぐKhanomに向き直る。
「ち…ちっ…違う!そうじゃなくて…」
 受話器を押さえて訴えてみたものの幹事にさえ気付いてもらえず、HARUKOはだんだん絶望的になってきた。一番みんなが聞きたい声がこの携帯から流れてきてるのに。
『俺の待ってたリアクションだ!やっぱ人選はあやまらなかったな。』
 左手で掴んでいる携帯を右手でしきりとHARUKOは指さして見せた。しかし、待ちに待っていた夏コンの情報と知って、出席者全員Khanomの方に注意を奪われている。相手の言葉の合間に受話器を塞いでは周囲に訴え続ける。
「だ…誰かぁ気がついてよぉ。これっこれっこっちのほうが大変なんだって…。」
 注意を引きたいもののしかし、店の従業員に知られるのもまずい。今でもすでに見て見ぬ振りをしてもらっているわけだから。
『あのな…。』
 相手が言いかけたところで、いきなり通話が切れた。それを待っていたように、
「やったぁ。出たよ〜。夏コンの日程だって。mapleさん、メールの件!」
「あいよ。」
 Khanomから、毎度NET係のmapleに声がかかった。Khanomに近づくmapleにHARUKOはそっと場所を譲ったが、mapleは縋るような目には全然気付かず、ほいほい通り過ぎた。携帯がmapleに渡るとやにわにみんながしゃべりだす。

「教えてぇ〜!横スタ?ドーム、週末?」
「いつからいつまで?」
 聞きたいことはもちろんいっしょであるが、何しろ女性の集まり、一瞬蜂の巣をつついたようになった。Khanomの電話中からメモを取っていたまなが、
「急いで書いたから見にくいけどいいよね?今、回すから。」
 手際よく事態をまとめてくれた。メモが回覧されることで、みんな落ち着いたのだ。しかし、1人だけ落ち着けない人物が。
「それも、そうなんだけど。これっ!」
 携帯を持ったままHARUKOは、誰かが気付いてくれるのを辛抱強く待っていたのだ。

「HARUKOさんの携帯は誰から?おうち?」
 今日はどう見てもツアコン状態で駅から出席者をチェック、このレストランまで引っ張ってきたYAYOIが、様子のおかしいHARUKOに気がついたが、しっかり誤解をしている。
「…YAYOIちゃ〜ん。これっきっとき……」
「え?」
 怪訝な顔のYAYOIと、切れてしまった携帯…。誰が信じてくれるのだろうか?そう思ったとたんまた、ベルが鳴った。
「はい!はいはい!HARUKOです。」
 慌てているのは必然!
『わりい。車で移動中だから。』
 相手の男は落ち着いている。
「あのっ!どうして、私の携帯…。」
『そうだと思ったんだ。前回知らせてくれたろ?幹事の電話番号も!一人は携帯じゃなかったけど。』
 しかし、そんなHARUKOには気付かずに参加者達はコンサのことでかまびすしい。
「ああ。で、今日は…。」
『だから、俺の行けないときにやるなよ。』
「こられない…。」
 このHARUKOの台詞はかなり虫のいいものに違いない。しかし、思いがけない人から電話があれば期待するのが人情である。
「どなたか、来られなくなったんですか?」
 HARUKOの目の前に座るJJが、好美やよっこ、YUMIと話していたのを中断して心配そうに聞く。すると、その向こうにいた大津、みす、Maki、Mariまでが、参加者に異変があったのかと顔を向けた。
「あら?でも、まだ来てないのはHankakuさんだけでしょ?何かあった?」
 隣のテーブルの向こうでまな、るい、TAMI、kyoko、eriko、Noriko、ASAKO、ま2、YAYOIとコンサ話で盛り上がっていたKhanomがやっとHARUKOを見て言った。
『しょうがないだろ!先に連絡くれねぇんだから。もうじき仕事先に着くから、2次会やるよな?また、電話する。』
「ちょっと、ちょっと待って!」
 HARUKOはいきなり前回の幹事だったま2にテーブル越しに携帯をほおった。びっくり目のま2は機械的に耳に持っていき、
「はい、代わりましたけど。」
 それに返ってきたのは、
『…お前、誰だよ!』
 あんまりな言葉だ。
「はい?誰だって、ま2ですけど。」
 とはいえ、落ち着いているようでおかしいのはま2も同じ。誰だかわからない相手に名乗ったのはハンドル名だった。警戒していたのか、それともオフ会だけにそれしか思いつかなかったのか。
 さすがにここまできて、半分食べた前菜を前に沈静化しつつあった面々の視線がま2と突っ立ったままのHARUKOに注がれた。でも、時はすでに…。
『そっか、前回の幹事な。俺って一度会った人は忘れないんだ。』
「は?」
『また、電話するから。2次会は、もちろんあるんだろ?』
「はい、新宿で。」
 相手が誰だかわからなくても、元気な答えをま2は返す。
『よし!じゃ、またな。俺がいなくても楽しめよ!』
 事態の飲み込めないま2をうっちゃって、最後は笑い声で通話が切れた。
「なんなの、これ?」
 他人の携帯を握りしめてま2はHARUKOに当然の質問をした。
「何って、わ2…違った、ま2さん。それ!木村君だよぉ。確認してくれたんでしょ?」
 HARUKOは人選を間違ったかと一瞬真っ青になる。
「え?ええ?木村君?…あっ!そうだ。聞いたような声だと思ったら…。」
 間一髪、間に合った!ま2は前回の幹事でもあり、もちろん会場に現れた木村に会っている。しかし、日頃どんなにスピーカー越しに聞いている声でも、いざ電話となるとわからないものである。
「なに?木村君からだったの?うそ?」
「どして、HARUKOさんの携帯に?」
「え?今回のオフ会は招待状送らなかったのに〜!」
 幹事やら、前回参加者が立ち上がって、またまた口走り始めた頃、窓際ですっかり忘れられたオーナーのtomokoとしゃべっていたmapleがのどかに席に戻った。
「ほらほら、静かにして!tomoちゃんってば、廃品回収がねぇ〜。」
 誰も聞いていないのもこの場合仕方ない………?いくら鈍感なmapleでも異様な雰囲気に気がついた。
「なんなの?人が電話してるうちに何かあったの?」
 隣の慎吾ファンのASAKOにmapleは聞き始める。他の面々はま2とHARUKOに質問責め!
「ちょっと待って。これじゃ、何がなんだかわからないでしょ。」
 一喝し、事態を収拾に導いたのは、JJである。
「ちゃんと、説明してあげてね。お二人さん。」
 そして、内緒話が大規模に始まった。
 食事会だと言うことを参加者が思い出したのは、一通り話が終わり、パスタのオーダーが説明され始めた頃だった。
「お出しする2種類のパスタのうち、1つはペンネです。もう1つを4種類の中からお好みで選んで下さい。バジルのパスタとトマトソースの…。」
 そのパスタが並んだ頃、興奮が少し冷めた参加者達はおのおの会話を始めた。それを待っていたmapleが、元々通る声を張り上げる。
「tomokoさんの今日の重大な日程、廃品回収が雨につき延期!ミーティングだったそうです。てなことで、NETしてるんだって!ここに来たかったろうねぇ!」
 それを皮切りに『ひっぴいはっぴい』に関する話題がテーブルの上をかける。そんなこんなでやっとメインディッシュにたどり着いた頃、静かに階段を上がってくる人物がいた。

「こんにちは」
「あ、Hankakuさんだ。待ってたよ〜ん。お腹の赤ちゃん順調?」
 唯一人Hankakuと面識のあるKhanomが彼女を前の席に呼び寄せた。
「今ねぇ、tomokoさんから電話あったの。夏コンの日程が出たのよ!」
 YAYOIの言葉に続き、ま2が身を乗り出した。
「それからね、それからね、たっくん・・・」
「し〜っ!!!」
 隣のerikoが口に人差し指を当てている。
「ま2さん、お店の人に聞こえるよぉ」
「そうだよぉ、押さえて押さえて!」
 kyokoも苦笑いを浮かべている。
「あらぁ〜ついつい・・・失礼しました」
(あはははは・・・)
 ま2のおとぼけ口調に全員が声を揃えて笑った。

「私、緊張してますぅ」
「私もですぅ」
「え?私もぉ!」
「私もぉ!!!」
「そだよね〜!」
「やっぱりー」
「うんうん・・・」
 よっこ、好美、YUMI、Maki、Mari、みす、大津のひっぴいオフ会初参加のメンメンが、申し合わせたように口を開いた。
「大丈夫よぉ。第一回からのメンバーは、このとおりの人たちだからぁ」
「そうなのよ、心配には及びません」
 同じ席につくHARUKOとJJが彼女たちの緊張を解す。
「あ〜、JJさんすみません。1次会でお帰りですよね?tomokoさんに先MAIL打っていただけますか?」
 KhanomががさごそとノートPCを持ち出してきた。
「うふふ。あのね、少しだけ2次会もお邪魔させていただこうと思って・・・」
「あ、そうですか。嬉しいっ」
「あんた、なに繋げないPC重いのに持ってきてんの?」
「え?」
 mapleの一言にKhanomは目がテンになる。
「言ったでしょう!あたしゃFDドライブ持って来てないよ。あんたのPCでMAILをFDに落としてもム〜ダ〜ぁ!あたしのマシンにジカ打ちするしかないんだなぁ、これが」
「げっ!そなの?」
「あ〜あ、残念でしたぁ」
 HARUKOが苦笑する。

「は〜い!みなさ〜ん、そろそろ2次会にまいりましょ〜!」
 これで旗でも持っていれば間違いなくツアコンのYAYOIが腕時計を覗きながら言った。
「タイムスケジュール通りですねぇ!【G shock】じゃなくて、YAYOIさんの腕には‘babyG’ですね」
 吾郎ちゃんファンのるいが言う。
「楽しかったです。また誘ってくださいね。ひっぴいのオフ会にいらっしゃる方、皆さんステキな方々ばかり」
 一次会で帰る森君ファンのTAMIが微笑んだ。
「tomokoオーナーからお菓子の差し入れをいただきましたので、ひとつお持ち帰り下さいね」
「わー、ありがとうございますぅ。あれ?tomokoさんって、愛媛にお住まいでしょう?」
「私のところに送られてきました〜っ!」
「サスガに気配りの方ですね。感心します」
 Khanomの差し出したお裾分けのお菓子を、二人は大事そうにバッグに詰めた。


(Truuuuu・・・)
「ほら〜!まったくもって、我々はお店のポリシーを全く無視してますな〜。今度は誰の携帯じゃ〜」
 mapleの声にまたも全員がつられて笑い、それぞれがキョロキョロと辺りを見まわす。
「あら?私だわ。はい・・・」
 ま2が慌てて部屋の隅に携帯持参で駆け寄っていった。
「・・・ったく、自分の携帯の着信音くらい、みんな覚えとかなきゃね〜!」
 Norikoが呟いた。
「そーだよねぇ。今日は来れないけど、yumiちゃん【夜空ノムコウ】の着信音選べる携帯にしたいんだって」
 まなが相槌を打つ。
「はーい!あたしもそれ、狙ってますぅ!」
 地獄耳のKhanomがあっちの方で手を挙げている。
「私も欲しいですゥ!」
 好美もニコニコしながらそっちの方で手を挙げた。
「へっ?ちょ、ちょっとあなたがた、静かにしてくれません?!聞こえない・・・え?たっくん?たっくんなんですか?」
 片耳に人差し指を突っ込んで雑音から逃れようとしているま2を横目に
「マジー?そんなにかかってくるわけないじゃない?」
 とkyokoが言う。
「なんだかひっぴいのオフ会って凄いんですね。前回もこんな感じなんですか?」
 YUMIが正面のHARUKOに聞く。
「ん?あ、そうねぇ。騒々しい?」
「いえぇ、楽しいですよぉ」
 みすが応える。
「なんか信じられないね、木村君から電話かかってきちゃうなんて?!」
 大津も半信半疑のようだ。しかし、tomokoオーナーからの電話は紛れもなく本人のようだったし、先ほどのHARUKOの動揺ぶりも尋常ではなかった。そして今、ま2も慌てふためいている。

『あ、間違えた』
「え?なに?間違いですか?」
『あんた誰?ま2さん?』
「はい、そうです」
『だから間違えた。HARUKOさん頼む。あの人が一番しっかりしてそうだから』
「いえ、実はYAYOIさんが一番しっかりした方なんですけど、たっくんのファンではないので・・・って、いけない、口が滑った・・・」
『あ?』
「いえいえ、ちょっとお待ちクダサイね。HARUKOさ〜ん!王子よ〜〜ぉ」
「だからー!」
 Makiの音頭でMariが応える。
「お静かに〜!」
「そそ。ダメじゃんよ、さわいじゃぁ。ちょっと先出てるね」
 HARUKOは会計を済ませたレストランを一番乗りで出て行く。
「あ〜、私も王子と話したいよ〜!」
「あたしもー!」
「あたしもー!」
 erikoとkyoko、そしてまながHARUKOの後に続く。前回のオフ会参加者は、彼のことを【王子】と呼ぶ。
「王子?まさか!慎吾君から電話?」
 慎吾ファンのASAKOが目を輝かせる。
「【天声慎吾】の王子じゃなくて、【ひっぴいはっぴい】では木村さんが‘王子’なんですよ」
 穏やかな口調でJJが解説する。
「あたしも話したいよぉ」
「私も」
「じゃぁ、私もよね〜」
 結局鈴なりに、全員がHARUKOを追う。

『あんなぁ、新宿だよね?』
「はい、そうです」
『またどうせカラオケだろ?』
「はい、その通りです」
 冷静を装ってはいるが、HARUKOの心臓はバクバクだ。妙にしゃっちこばっている。
『あっははは・・・。何時頃までいる?俺さ、これから【タイタニック】観に行くんだよ』
「え?たいたにっく?タクプリオの?」
「HARUKOさん、なに言ってんのよぉ!ちょっと貸して!」
 まながHARUKOから携帯を取り上げた。
「もしもし〜?お電話代わりました。まなですぅ。タイタニックですかぁ?やーだ、まだ観てなかったんですかぁ?」
『ああ、まなか。かわいくねぇ年頃の・・・』
「げっ、まだ言うんですか?それをぉ!」
「わたくしにもお声を聞かせて!」
 次に代わったのはJJだった。
「ヘンなハンドル名つけちゃって後悔しているんですよぉ。ところで、タイタニックは渋谷で?新宿で?」
「私もいいですか?・・・あ、はじめましてぇ、YUMIですぅ・・・あら?切れてるわ」
 通話は切れてもHARUKOとま2の携帯電話は大人気で、駅に向かう道すがら次々と出席者の手に手に渡っていった。王子の肉声がこのふたつのレシーバから聞こえてきたのだ!実際その声を聞けずとも、参加者はそれらの携帯を耳に当てるだけで幸せな気分を味わえた。

「あれ?ちょと・・・東京電気グループの・・・名前なんだっけ?ほら、あの人」
 電車の中でkyokoが囁く。彼女がこっそり指差す方向に、派手なオレンジのジャージを着た人物が立っている。
「あ、知らな〜い」
 ASAKOが言った。
「ASAKOさんは帰国したばっかりの浦島だもんねぇ。わっかんないよねぇ」
 妙に納得しながらHARUKOが応える。
「あれがSMAPのメンバーだったらどうします?」
 よっこが仲間に問いかける。
「私はフリーズだなぁ」
「うっそだぁ!率先して声かけそうだよ、YAYOIちゃんは!」
 答えたYAYOIにmapleの突っ込みが入る。
「いいですねぇ、突っ込み即座に入るカンケイなんですねぇ。皆さん頻繁にお会いしてるんですか?」
 大津の素朴な疑問にま2が応じる。
「ううん、顔を合わせるのは去年のオフ会以来だったりするのよ。でもね、み〜んな仲良し。去年一緒に王子と騒いだ仲間だからね。けど、今日初参加の皆ももうひっぴいの仲間ですよぉ!」
「そそ。お腹いっぱいになったし、2次会でも盛り上がろうね!」
 kyokoも言葉を添える。
「あ・・・あのぉ、去年のオフ会、拓哉君ホントに来たんですか?【オフ会物語】読ませてもらったんですけど・・・読み終わって、アタマこんがらがっちゃって・・・」
 Makiの問いにみすも頷いている。
「そうそう、どうなんですかぁ?」
「え?あー、それはねぇ、それはほらぁ、ねぇ、誰か答えて下さい〜」
 Norikoは苦笑いしながらキョロキョロしている。
「あ、そーれは【ひっぴいはっぴい・ワンダーランド】だからね。真実は迷宮入りですね」
 案の定、Khanomは訳のわからないセリフを口走っている。

「さ〜みんなぁ、はぐれないようにしっかりついて来てね!」
 ‘引率はお任せ’のHARUKOを見失わない誓いをそれぞれがして新宿駅南口を出る。ぞろぞろぞろぞろ・・・。この時点で仲間は19名。駅からとてもひとりではたどり着けそうもない雑居ビルの3Fに、2次会会場となるカラオケ店はあった。土曜の午後ということもあって、受付前は空き待ちの若者たちでごったがえしていた。そこに、ここから参加のReikoと吾郎ちゃんファンのあさこが待ち受けていた。
「やっほ〜、お久し〜!あ、はじめましてー」
 それぞれが口々に挨拶を交わし、予約した部屋へ納まる。いよいよ2次会の始まりだ。
「はい、じゃぁまずは飲み物ですゥ!紙を回しますから好きなドリンクを書いてね」
 ここでもYAYOIが場を仕切る。
「木村君、来るのかなぁ・・・」
 みすが何気なく囁いた。
「うわ〜。それ、考えただけでもドキドキしちゃうよぉ!それでなくてもちょっと二日酔いだし、緊張してるんだからぁ」
 Mariが胸に手を当てて深呼吸した。
「えーっと、マズはまなちゃんがSMAPヒストリーを語ってくれますのでご静聴下さいね」
 HARUKOの紹介でまなは自慢のファイルを取り出した。
「じゃ、早速・・・。これ、拓哉中心のヒストリーです。あしからず〜」
 まなプレゼンツの ‘木村拓哉25年史’が始まった。サスガのファン歴を誇る豊富なお宝公開とウィットに富んだナレーションで
「すご〜い!」
 っと、仲間内から感嘆の声が漏れる。【ラブジェネ】まで語り終えたまなに、拍手喝采が沸き起こった。

(Truuuuuuu・・・・)
「ほれ〜!誰だぁ?電話だぁ!」
 誰かの携帯が鳴るたびに通る声で叫ぶのがmapleだ。
「あ、あたし。ごめんね、前失礼します」
 席の中ほどにいたerikoが申し訳なさそうに横歩きで仲間の前を通りぬけ、かしましい部屋から出て行った。
「さてー、てきとーにSMAP入れるから、みんなじゃんじゃんマイク握ってね。Reikoさん、【たいせつ】踊ってよ〜!」
 毎度カラオケ係のKhanomが7曲フルに入力する。
「あと2週間【ひろげん】の舞台なのよぉ。もーお姉ぇさんハラハラしちゃう。楽日の広島も行くわよ〜」
 2次会から参加の吾郎ちゃんファンであるあさこは、ここのところパルコ劇場に通い詰めだ。
「私も明日観に行くんですよぉ、ひろげんー。あさこさんに連れてってもらうのぉ!」
 同じ名前のASAKOが空かさず応えた。

「りえちゃん来るって!PTA総会が早く終わったんですってよ」
 erikoが受けた電話は学校行事でオフ会に出席できないはずのりえからだった。
「すごいですねぇ。これからいらっしゃる方もいるなんて。木村君までホントに飛び入りで来ちゃったりして・・・」
 YUMIは目を輝かせてそう言った。
「期待しちゃうよね」
 中居君ファンのよっこも笑顔で応える。

(Truuuuu・・・)
「はいはい、私わたし!・・・もしもし〜?」
 まなはmapleに言われる前に携帯のアンテナを立てた。
「よしよし、優秀優秀!」
(Truuuuu・・・)
「あじゃじゃ、まただよ。あれ?erikoさんの携帯じゃない?」
「mapleさんすごいですね。さっきの音色でerikoさんの着信音覚えましたね」
「あ、はい、ええ、まぁ・・・」
 Hankakuに感心され、mapleは照れている。
「まなちゃんの方はだれからだったの?」
 kyokoが尋ねた。
「ん?あ、yumiさんだった。今日、お友達の結婚式で来れないハズだったけど、終わったから来るって」
「わ、すごいすごい。皆さんパワーありますね」
 大津の言葉に全員が笑顔で頷く。
「結婚って言えば、Norikoさん来年ご結婚で〜っす!」
 Khanomの一言に、Norikoは仲間の視線を一斉に浴びた。
「わー、Norikoさんおめでと〜!」
「来年なのぉ?いついつ〜?」
「このー、幸せもの〜っ!」
 ヤンヤヤンヤの大騒ぎになった。
「あ、あ、どもども、皆ありがと〜っ!!!」
 仲間からの祝福に照れながらも嬉しそうなNoriko。そこへ再度表に出ていたerikoが青ざめた顔で戻ってきた。
「りえちゃんでしょ?この場所わかんないかな?迎えに行こうか、私」
 親切で責任感の強いHARUKOが言った。
「あ、あ、あのね、なんか・・・王子の声だった・・・」
「えーーーーーーーーーーっ!!!」
 申し合わせたような黄色い声が狭いカラオケルームに響いた。
「で?なんだって?」
「今どこだって?」
「来れるって?」
 仲間に質問攻めにされ、erikoの頬はみるみる紅潮していった。
「あ、あのね、あのね、アタマ真っ白になっちゃって、よく覚えてなくて・・・」
「ほらほら、erikoさん、落ち着いて思い出して下さいませ!」
 JJに促され、erikoは席についた。全員が彼女に注目している。ひとつ大きく深呼吸をして、erikoは上目遣いで王子のセリフを必死に思い出そうとしていた。
「ええっと・・・タイタニックの上映時間が3時間と・・・なんぷん?わかんない。忘れちゃったぁ!9分だか、14分だか、19分だかなんですって・・・」
「はいはい、それっくらいの誤差だったら大勢に影響はございませんね」
 好美がフォローし、全員が頷く。
「で?」
 あさこが次のセリフを急かす。
「え〜っと、だからね、だから・・・遅くなるって・・・」
「えーーーーーっ!『遅くなる』ってことは、遅くなってからならここに来れるってことですか?」
 よっこが目を丸くしている。
「うん、そのあたり、よく聞き取れなかったんですよぉ。表もうるさくて・・・ごめんなさい」
 erikoは申し訳なさそうに真っ赤な顔を両手で覆った。
「い〜のい〜のよぉ、erikoさん。けど、なんで王子、幹事にじゃなくてerikoさんの携帯にかけてきたんだろ?」
 Reikoが不思議そうな顔で辺りを見回した。
「そうだよねぇ。なんでerikoさんの番号知ってるの?王子・・・」
 幹事のYAYOIさえ首を捻っている。
「あ〜〜〜〜〜っ!」
 HARUKOが何かを思い出したように叫んだ。
「去年王子に出席者名簿渡したんだった。ずっと失くさないで持っててくれたんだぁ!」
「えー、すごいすごい!あ、わかった!erikoさんおしとやかできれいだからね。王子狙ってんじゃン?」
 隣のASAKOがerikoの肩をツンツンしている。
「あ!もしかして!」
 今度大声をあげたのはMakiだった。
「なになになになに?」
 全員がMakiに詰め寄る。
「もしかしてね、王子は携帯もってるメンバー全員に電話するつもりじゃぁ?」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
 携帯電話を持つ仲間が、大慌てでバックを探り始めた。
「かかってくるのかなぁ、ドキドキしちゃうよ〜ぉ!留守電になってるから解除しとかなきゃ!」
「私も持ってますぅ!きゃ〜、この緊張感、お腹の子に悪いかなぁ」
「これこれ、好美さん、Hankakuさん、みなさんの携帯番号は残念ながら去年の名簿に載ってないのよん」
 恐縮しながらHARUKOが言う。
「あ、そっかぁ、残念だなぁ。私もPHS持ってるのに〜ぃ!」
 Mariが指を鳴らして悔しがる。
(あっははははは・・・)
 狭いカラオケルームは爆笑の渦だ。
「けど、3時間9分?14分?19分?ってことは・・・何時になる、ってことですか?ここの予約は何時まで・・・?」
 冷静に先を読む大津に振り向かれてYAYOIが答える。
「7時半までよ」
「王子、どこでタイタニックご覧になるんでしょ。今・・・3時半ですよ!ギリギリ間に合うかしら?!」
 興奮気味のみすが応じる。
「あらぁ〜、私、そろそろ失礼しないといけなくて・・・」
 Hankakuが寂しそうに呟いた。
「私も‘お先に失礼します’組なんですよ」
 YUMIが言う。
「わたくしもですよ〜。お名残惜しいですね」
 JJも続く。
「あのぅ、私も・・・」
 申し訳なさそうにま2も名乗り出た。
 仲間の笑顔がちょっぴり曇り、しんみりした空気が流れ始めた。
「はいはい、じゃ、これから後のお話はmapleとKhanomが後日レポしますので・・・」
「おいおい!人の名前を勝手に使うなって!」
「協力してくれるよねぇ?もースリスリしちゃう〜」
(あっはははは・・・)
 Khanomとmapleのやりとりに、ほんの少し場は明るさを取り戻した。
「お気をつけて〜!」
「ありがとうございましたぁ」
「またお会いしましょうねっ」
 4人はそれぞれに笑顔を残し、家路についた。

 mapleのPCによるスライドショーに仲間が感嘆して見入っていると、HARUKOに伴われたりえが賑やかに登場した。
「やっほ〜!」
「いらっしゃ〜い!来れて良かったねぇ!」
「ほんとよぉ。どうしても顔出したくて!」
「わかるわかるぅ!」
 りえは早速Reikoと語り始めた。カラオケも軌道に乗っている。お気に入りのSMAPナンバーを入力し、絶妙なローテーションでマイクは人々を渡った。馴染みの曲を耳にする仲間は知らず知らずのうちに歌詞を口ずさみ、殆どの曲はコーラス状態になった。個性溢れる自己紹介を挟み、人々はtomokoオーナー宛に思い思いにMAILを打ち始めた。そして恐らく今日最後のオフ会参加者になるだろう。yumiが現れた。お開きの時間は刻一刻と迫っている。
「ど〜も〜!」
「結婚式、お疲れ様〜ぁ」
 まなが声をかける。
「うん、結婚式の2次会もちゃんと出てきたんだよぉ・・・って、あれ?王子は?」
「ん?」
 “王子”のセリフにメンバーは敏感だ。全員の目がyumiに注がれた。
「王子・・・まだなの?」
「‘まだなの?’って・・・今回は招待状出してないのよ。でもひっぴいのページ見てくれたらしくて、何度か電話はあって・・・」
 HARUKOの説明に、yumiは首をかしげて
「あれ?さっき、駅からここに来る間、王子っぽい人がず〜っと前の方を歩いてたの。いっそいで追いかけたんだけど、見失っちゃって・・・。もう先についてるんだとばかり・・・人違いだったのかなぁ。あの茶髪の感じは絶対王子だと思ったんだけど・・・」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 またまた大歓声が沸きあがった。
「ち、ち、ちょっと、もしかして、王子迷ってるんじゃぁ?」
 みすが言う。
「そうですねぇ、わかりづらいですよねぇ、確かにここ・・・」
 大津が頷く。
「あ、あ、あたし、外見てくるっ!」
 HARUKOが慌てて回れ右し、部屋から出て行った。

「ほんとに王子だったぁ?」
 あさこが疑いの目をyumiに向ける。
「あーん、責めないでぇ。でもでも似てたよぉ・・・」
「後姿王子似って、五万といるからなぁ。前からじゃまずいないけど」
「ナ〜イス!おしゃる通り!」
 Makiの発言にNorikoが同意する。
「あーっ、まなちゃん名札ぁ!」
 erikoが何か思い出したようだ。
「なに?名札?」
「うん。王子もオフ会の名札欲しいって、さっき独り言みたいに言ってたんだわ」
「え〜っ!印刷してないよぉ。でも、余りはあるから・・・」
「余りじゃ怒るぞ〜、木村君!」
 ASAKOが脅すように言う。‘いかにも’のセリフがウケて大笑いになった。

 受付からタイムアウトを告げるボーイが現れた。
「HARUKOさん戻って来ないねぇ。どうしたんだろ?でももうお開きの時間だし・・・」
「とりあえず外、出よっか」
 HARUKOを除く残りの幹事、YAYOIとKhanomがそれぞれのbabyGで7時30分を確認した。

 すっかり夜の帳が下り、まばゆいばかりのネオンはあちこちで揺らめいていた。
「あっ、HARUKOさんいたっ!何してんですぅ?」
 先頭で表に出たMariが最初にHARUKOを発見した。
「あー、もう時間?そっかぁ。ずっとここで待ってたんだけど・・・」
「王子をですか?」
 みすが問いかけた。
「うん、そう、王子・・・。やっぱ、来ないかぁ・・・」
 大きなため息をつくHARUKO。
(Truuuuuu・・・・)
「きた〜〜〜〜っ!早く早く早く早く〜〜〜!誰だ〜ぁ?」
 mapleの声に、皆大慌てでそれぞれのバッグを開いた。
「あ〜〜〜〜っ!あたしあたしーーーっ!」
 その着信音はヒョウ柄キティちゃんのケースに納まっているYAYOIの携帯からだ!
「YAYOIちゃ〜ん?!出て出てーぇ」
「わくわく・・」
「ドキドキ・・」
「そわそわ・・」
 仲間はお互いの顔を見合わせている。みんなの目は輝きを増していた。
「はーいっ!YAYOIです!」
『・・・一番しっかりしてんだって?』
「え?」
『あ、俺、拓哉』
「はい、わかってます。・・・あ〜ん、どーしよ。緊張するぅ・・・」
 王子からの電話だと全員が察している。ASAKOがYAYOIを路地に引っ張り込み、仲間が彼女を取り囲んだ。
『なんだよ。ほんとに一番しっかりしてんの?』
「いえ、そんなことないですぅ・・・」
 YAYOIは電話口でモジモジとはにかんでいる。
Maki:「YAYOIさん、なにしてんの?」
Reiko:「さぁ・・・。なんか誉められてんじゃない?よくわかんないけど」
よっこ:「中居君ファンなのに王子ともしゃべれてイイなぁ」
みす:「幹事さんですもんね」
好美:「‘ツアコン’ともいう・・・」
 仲間は口々に声を殺して囁きあっている。

『悪ィ、もう解散だろ・・・』
「いえ、お待ちしますよぉ・・・」
 仲間が盛んに頷く。
「えーーーーっ!ダメすかぁ?」
 YAYOIが叫んだ。
「えーーーーーーーーーっ!」
 落胆する仲間の悲鳴が一斉に轟く。
eriko:「いやぁ〜ん!」
大津:「なんでぇ〜〜〜ぇ!」
まな:「週休4日じゃなかったのぉ?」
Noriko:「これから仕事なのかなぁ?」
あさこ:「ボニのお散歩もあるんじゃないのぉ?」
Mari:「【タイタニック】に感動し過ぎちゃって具合悪くなっちゃったのかもぉ!」
yumi:「さっきの、やっぱり人違いなのかなぁ。おっかしいなぁ・・・」
kyoko:「顔だけでも拝みたいよぉ」
りえ:「どこにいるのぉ、王子ィ!」
 木村拓哉はスーパースターである。‘ひっぴいはっぴい’のオフ会メンバーは、そのことを十分把握しているのだが、同時に自分たちの仲間のひとりであるかのように、彼に対し親近感を抱いている。ここにきて、遠慮のないセリフがバンバン飛び出す。
「はい、はい、はいっ・・・わっかりました。残念ですけど・・・。はい、どうもすみません。次回は必ずまた招待状を差し上げますので、是非いらして下さいね。はいはい。え?あ、ああ・・・はい。皆、まわりに集まってます。伝言?」
「え?なになに?王子からみんなに伝言あるって?なんだろう」
 HARUKOの囁きに、全員が固唾を飲む。YAYOIの携帯に視線が集まった。
「ちょっとお待ち下さーい・・・」
 YAYOIは急いで携帯の録音ボタンを押した。
「はい、OKです。お願いします・・・」

「皆さん、今日はオフ会へのご参加、ほんっとうにありがとうございました。またお会いしましょうね」
 新宿駅南口のラーメン屋台の前でHARUKOが最後の挨拶をする。
「お疲れ様でした〜」
「ありがとうございました〜」
「またお会いしましょ!」
「きっとよぉ!!!」
 仲間は笑顔で再会を誓い合う。そしてひとり、またひとり、ウィークエンドの賑やかな大都会の雑踏に飲まれていく。

「はぁ・・・終わったね」
「うん、お疲れ様でした」
 仲間を見送り、幹事のHARUKOとYAYOIは切符売り場の最後列に並んでいた。
「YAYOIちゃん、先に帰った仲間にも、絶対聞かせてあげようね、王子からのメッセージ!」
「うん、もちろんだよ!」
 二人の目はYAYOIのバッグにぶら下がるヒョウ柄キティの携帯ケースに注がれた。そこにはYAYOIの携帯電話がしっかり収まっている。それを確かめると、二人は顔を見合わせて満面に笑みを浮かべた。
「も一回、再生してみてよ!」
 HARUKOの弾む声にYAYOIが応える。
「うんっ!これがラストよ」
 YAYOIはあれから何十回となく、集っていた仲間のためにこの小さなうす緑の再生ボタンを押した。仲間はその度にとびっきりの笑顔を見せてくれたのは言うまでもない。
 ボリュームを最大にしたレシーバに、二人は揃って耳を近づけた。
 ひっぴいはっぴいの仲間に送る、王子からのメッセージ・・・。

 

『夏コンで会おうぜっ!』

 

-The end-

 

 Written by ‘maple’ &‘Khanom’(annex執筆班^^/~)

 

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