−* LOCUS OF LOVE *− −Vol.9−
弥生のオーディションの出来がどうであったのか、僕は知る由もない。彼女はたと
え思い通りに踊れなかったとしても、それを理由に落ち込む人ではなかった。
(ベストは尽くしたから。)
もし僕がオーディションの出来を聞いたなら、彼女はきっとそう答えるだろう。い
ざとなると持ち前の根性で実力を発揮する、そんな人だったから。
一方僕は、一斉模試で方程式の単純な計算をケアレスミスしていた。僕の家で一緒
に自己採点していた明日香に指摘され気づいたのだが、まさかのミスに僕の方は結構
落ち込んでいた。
(Ruuuuuu,Ruuuu・・・・)
「あ、もしもし、駿? 明日香いる?」
電話の声は弥生だった。模試の後、僕たちが必ず一緒だという事を、彼女は知って
いた。
「弥生でしょ? ほら、早く代わって!」
僕がオーディションの出来を聞こうとしていた側から、明日香が受話器を横取りし
た。彼女もまた、弥生が電話して来るだろうことを予期していた。
「ね、どうだった?え?うん・・・あ、うーん、私はいいけど、ちょっと待って」
「ねえ、駿、明日の日曜、弥生のところで午後からお茶しませんか?って。
OKだよね・・・あ、弥生?OKだよ、いよいよフォンダンの登場?・・・」
「・・・・・。」
(女の子というのは、頭の善し悪しに関係なく電話好きなのだろうか?)と、明日香
を見ていてそう思う。僕の都合などまるで無視で、彼女たちは勝手に休みの日の僕の
スケジュールを埋めていってくれる。それがありがたい事なのかどうかは、僕には判
断出来なかった。
夏休み最後の日曜日。早朝から午前中いっぱい、僕と明日香は予備校でタンジェン
トの授業を受け、簡単な小テストをこなした後、弥生の家に向った。途中、明日香と
同じクラスの松下を誘って、3人でマーケットに立ち寄った。
明日香は弥生から買い出しと差し入れの依頼を受けていたらしい。彼女は小さなメモ
紙を握り締め、買物カゴを下げて野菜&くだものコーナーを物色している。
僕と松下はマーケットの出入り口横にあるUFOキャッチャーに興じていた。
松下は中学から僕らの仲間で、皆で何事かしでかす時は、必ず彼の知恵と力量が要
求され、そしていつでも見事に期待に応えてくれるヤツだった。ロックに精髄してい
て、ハスキー・ヴォイスを生かしてVON JOVIのコピーバンドでヴォーカルを
担当している。容姿は今一つだが、かなりJon Von Joviを意識している
のでステージではセクシーに見えるらしい。おたくなファンが彼には何人か付いてい
た。
松下が軍資金1、000円を丁度使い果たしたところに明日香が買物を終えて戻っ
て来た。
「あ、荷物、持つよ」
「トーゼンです」
松下は明日香がぶら下げてきた買物袋2つを素早く手にした。明日香には女尊男卑的
思考があったので、荷物持ちは男がするもの、と決めつけていたし、レディーファー
ストに無頓着な男を極端に軽蔑していた。
松下のお目当ては中学の時から明日香一筋なので、その辺は心得ているハズなのだ
が・・・。ヤツが陽の目を見るのは、一体何時になることだろう?
僕らは繁華街の舗道を逃れて、道路と平行して流れている一級河川の土手を歩いた
。
「文化祭で、学校の体育館貸してもらえるかなあ。ミニコンやりたいんだけど」
「あんた、文化祭で歌う気?」
「うん・・・なんで?だめ?」
「人様の前で歌う前にもっと英語の発音練習しなさい、っていつも言ってるじゃない
の!」
「・・・Jonがあんな風に歌ってるからいいの。嘘だと思うんなら、VON JO
VIのCD、一度でいいから聴いてみてよ」
明日香と松下の、いつもの懲りない会話を耳にしながら、同時に僕は赤とんぼが飛
び交っているのを目にしていた。
僕らの高校生活最後の夏が、終わりを告げようとしていた。
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