−* LOCUS OF LOVE *−   −Vol.3−



「あーっ、最後の1個だーっ。よかったあ、残ってて。ここのメーカーの、おいしいんだよね!」
 明日香は狙っていたコロッケ揚げパンを手に入れ、御満悦だった。「ね、駿は・・・焼きそばパンで、いいっか!あ、1個じゃ足りないでしょ・・・今夜の夜食分も買ってく?・・・弥生にも差し入れ・・・フルーツ・ヨーグルトなら食べるかなあ? オレンジとストロベリー?どっちがいいと思う?」
 嬉々として食料を仕入れる明日香にあっけに取られながらも、僕は以前、弥生が食べていたヨーグルトのブランドを思い出していた。
「・・・クランベリー・・・。」
「えっ?」
「だから、クランベリー・・・」
(そう、確か、クランベリーのはずだ。)
 僕は、明日香が手にしたヨーグルトの棚より、もう一段上に陳列してあったクランベ リー・ヨーグルトを見つけ、明日香に差し出した。
「・・・多分、これ。」
 明日香はニッコリと微笑んで、
「さっすが、駿ちゃん、分ってらっしゃる!」
(バシッ)
と、彼女は僕の左肩を思いっきり叩きながら言った。
「・・・。」
 明日香は、おだてたつもりでそう言ったようだが、僕は逆に、空しかった。
(嗜好だけじゃない、弥生の事なら、なんでも知ってる・・・。好きな音楽も、好きな映画も、それから、好きな男のタイプも・・・。)

 僕は焼きそばパンを、明日香はコロッケ揚げパンをかぶりつきながら、僕らはコン ビニを出た。
辺りはすっかり夜の態と化していた。まだ若干の車がスモール・ライトのみで走行し ている。僕は、退勤ラッシュの大渋滞が、いつもの時間より少し早いような気がしていた。
(気のせいだな・・・それに、ここは予備校の前の大通りじゃないんだ。)

弥生がいるはずのダンス・スタジオは、予備校がある繁華街から、閑静な住宅街へ続 く長い緩やかな上り坂の、手前の方に位置していた。
5階建て鉄筋コンクリートビルは、1階がCDショップ、2階は「DANCE GA LLEY」という名のダンス関連専門店、3〜4階が貸ダンス・スタジオで、5階は 美容院という構成だった。
CDショップの屋外用スピーカーからは、珍しくカントリー調の曲が流れ、店内のデ ィスプレイ用ビデオでは、「BOYZUMEN」のプロモーションビデオがかかって いた。
CDショップの外からガラス越しに、BOYZUMENの4人を眺めていた僕は、明 日香に頭を小突かれて、仕方なく彼女と共にビルのエレベーター口に向った。

 エレベーターの上りスイッチを押した明日香の右手は、またしても僕の左腕を捕らえ た。
「ここまで来て逃げられたんじゃあ、かなわないもんね。」
 明日香のメタル・フレームが、薄汚れて鈍く点る蛍光燈に反射して、キラリと光った 。
(どうして明日香に付いてきてしまったんだろう。今更僕が弥生を励ましたところで 、彼女の実力が向上するわけでもないし、それに、第一、どうして僕が・・・)

 ガタン・・・。ガーッ。
上りランプの点燈が消えると同時に、エレベーターのドアが開いた。
「いくよ!」
 明日香は相変わらずの力強さで、僕をエレベーターの箱の中に引きずり込む。ドアが 閉まると同時に、明日香は左手で「4」のスイッチを押した。しかし、何度押しても ランプがつかない。が、エレベーターはガタガタと揺れながら動き出した。
「なによ、電池切れ・・・?」
 明日香は口を尖らせて、しつこく「4」のボタンを押し続けている。
僕はふと、エレベーターの側面に貼ってあるB4版のポスターが目に入った。それは、明日弥生が受けようとしているオーディションの告知ポスターだった。
(いよいよか・・・。)
 僕の頭の中は、いつの間にか階上にいるであろう弥生のことで、一杯になっていた。





Vol.4に続く

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