−* LOCUS OF LOVE *−   −Vol.19−





 祭りの打ち上げで、僕と松下はかなりの量のアルコールが入っていた。(高校生が 酒なんて・・・)というのは、祭りには通用しない。毎年祭りだけは俗に言う何でも 無礼講、の3日間であった。
 山車の下に茣蓙を敷いて、祭りが無事に終了したことを祝って町内の祭礼関係者が 一同に会して酒盛りをしていたのだが、酒豪、松下のペースに併せていた僕は、かな り酔っていた。明日香はそんな僕を見かねて、松下が僕のグラスに再度ビールを注ご うとした手をピシャリと叩いた。
「亨、いい加減にしなさいよ、駿はあんたと違うんだから。見てごらんなさいよ、も う目が据わってるでしょう」
「私も・・・もう飲まない方が良いと思います」
真子も僕の体を気遣ってくれていた。
「んだよお、大丈夫だよなあ、駿・・・」
そう言いながら松下はそのデカい手で僕の背中をバシッと叩いた。

その場に弥生はいなかった。
あの時・・・祭りの終了間際に和輝と僕が一声かけ合っただけで気まずくすれ違った あの時から、僕は弥生と和輝の姿を見かけていなかった。
「もう、帰らないと・・・」
真子が呟いた。僕は自分の町内で酒盛りをしているのだから、どんなに泥酔してもこ こからは這ってでも家に帰れる距離であるが、真子の家は川向こうで、同じ市内でも 僕らの町内からはかなりの距離があった。
「あ、じゃあ、送ってく」
僕はそう言って立ち上がったが、自分でも情けないくらいに足元がふらついていた。

「あの、平気ですから。一人で帰れます。今夜はまだ人出がありますから大丈夫です 。とっても楽しかったです、ありがとうございました」
「ホントに大丈夫? ヘンな酔っ払いがたくさんいるから気をつけてよ」
明日香は何時の間にか真子を仲間として受け入れていた。
「送るよ・・・川越えるまで、危ないからさ・・・あの辺、暗くて、よく痴漢が出る って噂だから」
「あの・・・でも」
真子は心配そうに僕の様子を伺っている。
「駿、ホントに平気?」
明日香も僕の目を覗き込む。
「おーう、よかったらオレが送ってやるぞお」
松下の馬鹿でかい地声が響き渡る。
「ばーか! あんたの方がよっぽどアブナイわ・・・。うん、そうね。駿が大丈夫そ うなら送ってもらったら? こいつは安全なヤツだから。多少飲んでて勢いあっても 真子ちゃんを襲うようなヤツじゃないわよ。私が保証する」
「・・・」
(誉められているのだろうか?それとも?)

「じゃ、行こうか」
僕は明日香からミネラル・ウォーターのペットボトルを受け取り、それを一口飲んだ 後、真子を伴ってまだ宴たけなわの町内を後にした。

「佐伯さん、本当にありがとうございました。お祭りって、想像以上に楽しいんです ね。参加しなかったら、この面白さは絶対にわからなかったわ」
真子は僕の腕を取っていた。まっすぐに歩いているつもりでも、まだ多少千鳥足気味 で、どちらが送られているのか判らない状態だった。
「私、佐伯さんのグループ、いつも羨ましく見てたんです。お昼休みに、学校の中庭 で皆さん楽しそうにランチとっていらっしゃるでしょう。いいなあって」
「あ、じゃあよかったら明日から来れば?」
「えっ?いいんですか?」
「うん、いいよ。松下も明日香もあんな風だけど、君さえ嫌じゃなかったら・・・」

「嫌だなんて・・・光栄です。あ、でも・・・」

「ん?」 真子は少しためらいがちに言葉を続けた。
「早坂先輩は、どうでしょうか?」
「どうって?」
「先輩は私のこと、あまり・・・あ、私の思い違いかも知れないんですけど・・・お 祭りの間ずっと、目を合わせてもらえなかったから・・・」
「・・・・・・」
祭りが進むにつれ、明日香が次第に真子を仲間として認めていったのに比べて、確か に弥生と真子が言葉を交わしているシーンを、僕は一度も見かけなかったことにこの 時やっと気づいた。
「大丈夫だよ。そんなこと気にすることないよ」
(そうだ、弥生のコトを気にする必要はない。現に彼女だって和輝と・・・)
その時、僕の頭の中には交差点ですれ違った時の二人の姿が浮かんでいた。
弥生の、あの憂いをもったひとみ。彼女が僕と真子の交際を否定していることは、明 らかだった。しかし、僕にだって、恋愛の自由は与えられているハズで、弥生にとや かく言われる筋合いではない。

  真子が僕の腕と一緒に抱えているずんぐりむっくりテディ・ベアをぼんやり眺めてい るうちに、酒の勢いも手伝って、僕は弥生への想いに踏ん切りをつける覚悟を固めよ うとしていた。

                       



Vol.20に続く

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