−* LOCUS OF LOVE *− −Vol.10−
「あ、いらっしゃい。遅かったね、お腹空いてるんじゃない?」
僕らを玄関で出迎えてくれたのは、お姉さんの瑞生さんだった。
「すみません、お茶に誘われたのに、お昼もご馳走になることになっちゃって・・あ
、これ、弥生に頼まれていた買物です」
明日香はそう言いながら、弥生の家のベルを鳴らす前に、既に松下から奪い還してい
た買物袋を瑞生さんに手渡した。
「ありがとう、まあ、重かったでしょう?」
「いえ、大した事ありませんよ・・・じゃあ、お邪魔します」
明日香は例のごとく、涼しい顔で靴を脱いでいる。
僕と松下は、お互いに顔を見合わせて、肯き合っただけだった。
(いつものことだ)と、松下もそう思っているにすぎない。彼もまた、僕が弥生に寄
せる想いと同じで、明日香の役に立てればそれだけで嬉しいのだ。
「よう、遅かったな」
リビングのソファーに腰を下ろし「NUMBER」のサッカー特集を読んでいたのは
、紛れもなくあの後藤和輝だった。
「あれ?和輝来てたの? 今日、練習ないの?」
明日香は目の前の男がどんなに校内外でモテようが、どんなに超高校級といわれる
サッカーの名選手であろうが、そんなことはお構いなかった。彼女にしてみれば、後
藤和輝は親友の彼氏という、ただそれだけの人物でしかなかった。
「あ、うん。これから・・・夕方に紅白戦があるんだ」
「いらっしゃーい、遅かったね、お腹空いたでしょう?」
さすがに姉妹らしく、お姉さんと同じセリフを口にしながら、弥生が自分の部屋から
現れた。
「もうランチの用意は殆ど出来てるの。あとはメインのパスタだけ。明日香、卵は?
」
「うん、買ってきたよ」
「新鮮でしょうねえ、ちゃんと日にち確認してきた?」
「大丈夫だと思うけど・・・」
二人はそう言いながらキッチンに消えていった。残されたのは野郎が三人。
「まあ、座れば?」
ぼーっと立っていた僕と松下に向って、和輝がそう促した。
「あ、ああ・・・」
僕は和輝に言われるままにソファーに腰を下ろしたが、松下は早速リビングのサイド
ボードの上に置かれてあるステレオに向かった。
「デビー・ギブソン、マライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストン、バネッサ
・ウィリアムス・・・おいおい、女性シンガーばっかりじゃんよ。おっ、コレ、ジョ
ーダン・ヒル・・・いい趣味してるよ、よし、これにしようっと。だけどこれは弥生
の趣味じゃあねえな、瑞生さんかな・・・?」
松下は勝手にCDを取り出して、ディヴィッド・フォスターがプロデューサーとし
て参加しているという「JORDAN HILL」のニュー・アルバムをCDデッキ
にセットし、得意のアトランダム・キーを押した。
部屋中にソウル色の濃い、しかし軽快なメロディーが流れ始めた・・・。
キッチンからバターのほんの少し焦げた、おいしそうな匂いが漂ってきた。
「取りあえず、コーラでも飲んでてね」
瑞生さんはテーブルにコースターを3つ並べて、コーラとストローを組み合わせて
その上に置くと、またキッチンに下がって行った。
背の高いスリムなグラスに注がれたコーラには、まんまるいピュア・アイスが3個
、炭酸を逃がすまいとしているかのようにコーラの水面全体を覆っていた。
「和輝、Jリーグの推薦、どうなってんの?」
僕は、今度和輝に会ったら真っ先に聞こうと思っていた問題の件を口にした。
「ああ、止めたよ」
和輝は顔色一つ変えず、NUMBERからも目を離さずにそう言った。
「なんで?」
「・・・・・・。」
「はーい、おまたせーっ」
まるで自分が作ったかのような素振りで、明日香がメインのカルボナーラを運んでき
た。彼女はせいぜい具とパスタを絡めたくらいだろう。明日香の後を、フライドチキ
ンの皿を手にした弥生も続いている。
「あー、腹減ってんだよ、早く食おうぜ」
松下はさっさと自分のコーラを持って、部屋伝いのダイニング・テーブルに向って移
動を開始していた。
僕は、和輝から肝心な事を聞きはごってしまった。
(ま、いいや。どうせこれからまた話題になるだろう)
僕もまた、自分のグラスを手にしてダイニング・テーブルに移動した。
日曜の昼下がり、そう、時刻は既に正午を大幅に回っていた。部屋にはビージーズ
の名曲「Too Much Heaven」をコピーしたJORDAN HILLの
歌声が響いていた。
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