検索ソフトウェアの歴史

少々歴史を遡って、筆者の知る範囲で、EB/EPWING検索ソフトウェアの変遷を説明しておこう。

ソニー電子ブックドライブDD-DR1
電子ブックドライブDD-DR1
筆者がパソコンを電子ブックで初めて利用した時に使ったのは、ソニーのDD-DR1という電子ブックドライブであった(図参照)。パソコンのシリアルポートに接続し、付属の「EB-Viewer」という検索ソフトで利用するものだった。「EB-Viewer」は、当時一番メジャーであったNECのPC-9800シリーズ用のMS-DOSアプリケーション。DOS環境はシングルタスクなので、ワープロなどと同時に使うことはできなかったが、それでも電子ブックプレイヤーの小さな画面とキーボードから解放されるメリットは大きかった。ハードウェアの制約からか動作は緩慢で、単純な検索ではそれほど苦にならなかったが、『広辞苑』の複合検索などを行わせると、分単位の待ち時間を覚悟しなくてはならなかった。DD-DR1用にはこの他に、HAL研究所の「Quick Viewer」という検索ソフトも市販されていた(1万4千円)。その後Windowsに興味を持ってを使い始めたのだが、初めのうちはなかなか対応した検索ソフトが現れず、DOS窓で苦労しながら検索した記憶がある。
BookFinderの画面(DD-DR1を利用)
ソフテックBookFinderの画面
93年11月にようやく、DD-DR1を利用するソフテックの「BookFinder」という検索ソフトが登場する(1万5千円)。これが最初のWindows用市販検索ソフトだった(図参照)。後述するように、この当時、CD-ROMドライブでEBを利用する市販ソフトはなかったが、フリーソフトウェアに目を向けると、DOS環境では志村拓氏の「EB.EXE」があり(この他にも、MIYAZAKI氏の「DIC.EXE」やR.田中二郎氏の「CDROM2.EXE」が登場する)、またWindows環境では草本氏の「DDwin」を利用することができた。「DDwin」は、吉永氏によるMacintosh用の「書見台」とともに1993年のフリーソフトウェア大賞マルチメディア部門賞を受賞している。
DDMAN.EXEの画面
DDMAN.EXEの画面
8cmCD-ROMというのはEB以外にほとんどなく、当時のキャディ式のドライブでは、音楽用のシングルCDアダプターを取り付けて利用した。なお、米国の電子ブックタイトルには、オマケの域を出るものではないが、図のようなDOS版のデモプログラム(DDMAN.EXE)が付属しているものもあった。

EPWINGに関しては、CD-ROMドライブを利用する市販の検索ソフトが登場している。早かったのは、NECの「CD-ROM辞書検索ソフトウェア」だった(2万5千円)。DOS版とWindows版があったが、まだPC98が元気な時代で、後者もDOS/V上のWindowsでの動作は保証されないと言うしろものだった(実際には問題なく利用できたが)。ただしこれはEPWING専用で、EBは利用できなかった(不思議なことに、パッケージにもマニュアルにもEPWINGの文字はなく、ただCD-ROM辞書と書かれているだけだった)。富士通からも「OASYS CDView/Win」という検索ソフトが出る。富士通はEPWINGの中心的存在であり、同社のFM TOWNSというCD-ROMドライブを搭載したパソコンには、最初からEBを検索できるソフトウェアが用意されていた(ソニーはこの時期まだEBをキャディーから取り出して使うことを認めていなかったはずだが、TOWNSのカタログにはそうした使い方が堂々と記載されていた)。すでにCD-ROMチェンジャーも存在していたが、初期の検索ソフトの中には、CD-ROMドライブは一台だけと決めてかかって、二台目以降のドライブを利用できないものなどもあった。

CD-ROM検索プログラムの画面(DD-DR1を利用)
IBM CD-ROM検索プログラムの画面
状況が大きく変わったのはソニー(正確には電子ブックコミッティーかもしれない)によって1994年の1月にEBをキャディーなしで利用することが認められてからだ(新聞でも報道された)。個人ユーザーがCD-ROMドライブで利用する分にはソニーがどう言おうとあまり関係はないが、EB対応を名乗る市販の検索ソフトが登場するためには必要な措置だったようだ。実際、これに合わせていくつかの検索ソフトが登場し、当時流行っていたディスプレイ一体型のいわゆるマルチメディアパソコンにも、EB検索ソフトがバンドルされたものが増えていった。NECの「CD-ROM辞書検索ソフトウェア」はバージョン2になって新たにEBに対応し(1万2千円)、日本IBMからも、DD-DR1とCD-ROM両方に対応したシンプルな「CD-ROM検索プログラム」(EB/EPWING)が発売された(OS/2版も同梱され9千8百円)(図参照)。富士通からも「OASYS CDView/Win Ver.2」が出ている(3万円)。その後も、同年秋にはイーストから「ViewIng」が(1万8千円)、また'96年には岩波書店の「こととい」が登場している(1万円)。現在市販されている検索ソフトウェアはこの頃までに揃っていたことになる。
LightCardWinの画面
ICM LightCardWinの画面
このほか、今はなき周辺機器メーカーICMがCD-ROMドライブに添付していた「Light Card」という検索ソフトもあった(図のLightCard for Windowsは1994年のものだが、この前にDOS版もあったようだ)。また、アスキーの『辞・典・盤'97』や『辞・典・盤Pro』は、独自の「WordEngine2」という検索ソフトをバンドルしていた(ちなみに、初版の『辞・典・盤』に添付された「WordEngine」は、「DDwin for 辞・典・盤」)。
WordEngine2の画面
アスキーWordEngine2の画面
こうして、パソコンにおけるEB/EPWINGタイトルの利用は徐々に市民権を獲得していくのだが、実際にはやや値の張る市販ソフトよりも、個人が開発したフリーソフトウェアが果たした役割が大きかったように思う。無償の検索ソフトがユーザーの机の引き出しで眠っていた電子ブックを復活させた、という例は決して少なくないはずだ。ちなみに、Macintoshでも状況は同様で、「書見台」に加えて川上三郎氏の「miniCDBook Reader」(のちの「CeDar」)や今井あさと氏の「Jamming」(シェアウェア)が登場し、ユーザーを増やしていった。

これまでに名前を挙げた市販ソフトのうち最近もバージョンアップを続けているのは、「CDView」、「こととい」、「ViewIng」あたりであろうか(「CDView」と「こととい」はEPWING V4以降に対応し、「ViewIng」はEPWINGに関してはV2までだが、S-EBXAに対応している)。IBMとNECは戦列を離れたように見える。NEC情報システムズからWordOnSightという検索ソフトウェア(シェアウェア2000円)が出ているが、対象はEPWINGのみでEBの文字がないから、「CD-ROM辞書検索ソフトウェア」の系列とは異なるようだ。価格も「ViewIng」(Windows版)がオンライン販売で2400円と、ずいぶん下がってきた(おそらくバンドル版の単価はもう一桁小さいだろう)。そのほか、独自仕様の電子辞書検索ソフトや翻訳ソフトがEPWINGの検索に対応した例もいくつかある(システムソフト電子辞典、東芝The翻訳オフィスなど)。このようにEPWING V2までの基本的な検索であれば、選択肢はかなり豊富になったと言える。

Sentius EB Playerの画面
Sentius EB Playerの画面
最後にバンドル版検索ソフトにも触れておこう。上述のように、初期の検索ソフトはかなり高価なものだったのでタイトルにバンドルされることは少なかったが、EBのパソコン利用の解禁や、タイトル・ソフト双方の低価格化によって徐々にバンドルが促進されていったように思う。「ViewIng」は当初「ViewIng single」という形でバンドルされたが、これは他のタイトルを利用できない専用版で、バンドルソフトにはこのような制限を持ったものが多かった(ただし、最近のバンドル版「ViewIng」にはそのような制約はない)。イーストは「ViewIng」のMacintosh版(PowerMac用のみ)も用意し、両OSに対応することでバンドル市場である程度成功をおさめたようだ。それまではMacintosh用に、「SENTIUS EB Player」(EB)や計測技研の「電辞萬」(EPWING)をバンドルしたタイトルが多かった(電辞萬は最近またEPWING V4以降のタイトルで復活しているが、EB Playerの方はWindows 95以降にフルには対応していないようだ)。そのほか、富士通のタイトルには「CD辞書検索ソフト」や「CDView」(Windowsのみ)が、岩波のタイトルには「ことといLight」(Win/Mac)がバンドルされている。

IMEからのアプローチ

IMEは日本語Windows環境におけるかな漢字変換の手段だが、これにEPWINGなどの辞書参照機能を持たせようとする試みもある。たとえばエルゴソフトのEGBRIDGEには、文字表示のみだがEPWING辞書を検索する機能があるという。また、バックスは、イースト、エー・アイ・ソフト、エルゴソフト、スリーエーシステムズ、リードレックスの5社と共同で、VJE-DeltaWXGEG-Bridge等の日本語入力システム(IME)とアプリケーションとの連係動作を可能にする日本語入力拡張インターフェイスIMXの規格化を行っているが、実際イーストのViewIngにはこれに関連したモジュールが付属していた(おそらくIMX対応のIMEから利用できたのだと思うが、試したことがない)。

Japanistの俊敏辞典の画面
Japanistの俊敏辞典の画面
最近では、富士通がOAK俊敏辞典(スーパー統合辞書連携機能)という機能を盛り込んでおり、日本語入力ユーティリティ「I am JJapanistにも引き継がれた(EPWING用)。また、VJE-Delta Ver.4.0にもEPWING V1フォーマットのCD-ROMを検索できる「CD検索アクセサリ」が用意されている。

参考:VJE-Delta IMX 関連ライブラリのダウンロード


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