Your eyes only
根性なしの単車が、またエンストしやがった。

さんざ修理に精を出したんだが、ポンコツはウンともスンとも言わない。仕方ないから、近くの家に修理道具と電話を借りに行くことにする。

まあ、見渡す限りのこの荒野で、民家の近くだっただけでも、まだ幸運だったと言わなくちゃならないだろう。

古い大きな家の大きな一枚板の扉をノックすると、中から出てきたのは少女だっだ。

残念なことに彼女には眼がひとつしかないから、俺の基準で言えば「可愛らしい」とはなかなか言いがたい。だが、周りの人間と違うってことは、彼女自身が一番気にしていることだろうし、俺がいちいち指摘することでもない。

彼女の片目のことはあえて知らんふりのまま、俺は来意を告げる。

彼女は、「現在両親が街まで買い物に出ているが、困っている人には親切にしろと言われているので、必要な物は遠慮なく使っていい」と、嬉しいことを言ってくれた。このあたりの住民は、やさしくて親切だ。民族的なモノかもしれない。

彼女が俺の願いを快諾してくれたので、借りた電話で仲間に遅れる旨を伝えた後、同じく借りた工具で単車の修理にかかる。

他の人間がもの珍しいのか、それとも単に俺が珍しいのか、彼女は俺の修理する様を黙って見ていた。まあ、これだけ辺鄙なところに暮らしていたら、誰だってそうなるに違いないがね。

そのうち黙っているのにも飽きたのか、彼女はぽつぽつと自分の話をはじめる。そのほとんどのエピソードは、彼女の一つ目にまつわる話であった。

俺は黙って聞きながら、単車の修理を続けた。

修理が終って単車がエンジンの咆哮をあげると、俺よりも彼女の方が我が事のように喜んでくれた。まったくやさしい子だ。

姿かたちは、人間の本質に何ら係わる物ではないと、俺は改めて実感した。同時に、病気が彼女の右目を奪ったことを、非常に残念に思った。

俺は彼女に礼を言うと、前髪をかき上げてヘルメットを被り、クラッチを握ってギヤを一速に入れる。

ヘルメットのシールドをあげて彼女に微笑みかけると、少女はニコニコと笑いながら、俺に向かって不思議そうに聞いた。

「ねえ、どうしてあなたの目は3つもあるの?」

少女に軽く手を上げて、俺は走り出した。

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