| やめられるものか |
| ひどい湿気だ。 ちょっと動いただけで、からだ中汗みずくになる。俺は、胸のポケットから煙草を取り出して火をつけた。深く吸いこんで、ゆっくりと吐き出す。 うまい。 亜熱帯特有のこの湿気はたまらないが、そのおかげでタバコが旨いのだけは、唯一の救いだな。 と、茂みの向こうに、何かの影が動いた。しまった、追っ手か? 俺は煙草を消すと、吸いさしを慎重に箱へ戻した。ちっ、残り10本を切ってる……。戻したタバコの代わりにガンを握る。パイソン357マグナム。ずっと一緒に戦ってきた、俺の相棒だ。 低い姿勢のまま、俺はすばやく走り出す。走りながら、見当をつけていたあたりに視線をやると、やはり何者かが動き出した。政府の追っ手だろう。が、どうやら相手はひとり。それなら何とかなる。 俺は357マグナムにくちづけをすると、ブッシュに滑り込んだ。それとほぼ同時、一瞬前まで俺のいたあたりに土煙が上がる。 着弾痕が小さいから、ハンドガンか、アサルトライフルあたりだろうか。それなら一発くらいもらっても、場所がよければ致命傷にはならない。 するとヤツは、俺を殺す気がないんだろうか?政府の追っ手なら、問答無用で殺しにかかるはずだが……追っ手じゃないのか?だとしたら! などと戦闘中に余計なことを考えたのが、俺の運の尽きだったようだ。俺は右の太ももに弾丸を食らって倒れこんだ。 倒れたまま反撃しようとしたところを、キレイに右肩を打ちぬかれて、ジ・エンド。動けないまま、近寄ってきた狙撃者を見る。 若い男だ。彼は俺の近寄ってくると、無表情のまま左肩と左足を打ちぬく。そして俺が完全に動けなくなったのを見てから、男は俺のポケットに手を伸ばした。 やっぱりそうか。コイツは俺と同じだ。 男は「喫煙者」だった。 俺の煙草を取り出すと、火をつけて旨そうにゆっくりと吸いこみ、ゆっくりと吐き出す。タバコは貴重だから、喫煙者なら誰でもこう言う吸い方をするのだ。 満足そうに煙草を吸っている男を見ながら、俺の意識はだんだん遠くなってきていた。出血多量だ。 「おまえもいずれ、狩られるんだぜ?」 俺が言うと、男は寂しそうにうなずいた。わかってるってコトか。そう思ったときには不思議なもので、俺の心はコイツに撃たれて殺されることを、すでに許していた。 同じ喫煙者。俺だってタバコが切れたら、同じ事をしていたかもしれないと思ったからだろうか。判らない。 「あばよ。たくさん吸えるといいな?」 男は無言のまま、火のついた煙草を俺の口にくわえさせた。人生最後のタバコは、やけに旨かった。 去って行く男の後姿を見ながら、薄れゆく意識の中で俺は決心していた。 あの世に行ったら、真っ先に「禁煙法」を作ったヤツを見つける。 そして、一発お見舞いしてやる、ってな。 |