| 取り立て屋のブルース |
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ビービービー!! ウチの玄関ブザーはやかましい。 ことに二日酔いの朝、いや、昼に聞くには少々こたえる。やっぱり静かな鳥の声にでも変えておこうなんて思いながら、俺はいらいらと玄関を開けた。 玄関先へ出てみると、なんだか気の弱そうな男が立っていた。 「申し訳ありません。何度か督促状を送らせていただいたのですが、お返事が来なかったもので、こうしてお伺いさせていただきました」 「督促状? 見てないなぁ。何の話?」 そう言いながら、思わず心の中に苦笑いが漏れる。 へえ、俺のところにも来たか、ってなもんだ。 例えばアクセスしてないインターネットサイトの閲覧料金を払えなどと言って、やたらと騒ぎ立て、近所の目を気にする気の弱いヤツや、身に覚えのあるヤツに脅しをかける、恐喝まがいの代行業ってのがあるだろう? こいつは、つまりアレだ。 もちろん俺に身に覚えはない。俺はコンピュータのプロフェッショナルだし、第一、仕事が忙しくて、そんなものを見ている暇がないんだ。 俺の思惑にはお構いナシで、男は瞳を輝かせ、ぺらぺらと喋りだす。 「お客様がご利用になったインターネット利用料金の回収を代行させていただいている、インペリアルの花田といいます。このたび、お客様のご利用になった有料インターネットサイトの閲覧料金、9万円と、代行手数料3万円、締めて12万円の料金を回収に上がりました」 やたらと、「お客様のご利用になった」を繰り返すのは、マニュアルどおりだ。こちらも、当たり前の反応を見せておく。 「俺はそんなもの、見た覚えはないな」 「ですが、間違いなくご利用されているんですよ。それは、電話会社に問い合わせていただければ、すぐに証明できます」 「そんなのは、どうせクラッキングだ。クラッカーが電話会社のコンピュータに入り込んで、情報を書き換えたんだ。クラックされたかどうか、専門のハッカーに調べさせれば、すぐに発覚するぞ?」 「これは、これは。確かにそのような犯罪の被害もあることは聞きますが、当社はそのようないい加減なものではございません」 やけに胸を張って、男は俺を見る。自分の論拠、もしくは論展開に、よほどの自信があるのだろう。マニュアルを読んで、感動したクチか? 「第一、ご存知ですか? 万が一、これがクラッキングだったとしても、それを立証するのは、お客様がおっしゃるような、簡単ことではないのです。長い時間がかかるのですよ?」 「だから?」 「つまり、それが証明されるまで、わが社と裁判で争うこととなるのです。その裁判に出席できなければ、すべてを認めたこととして、わが社の言い分が全面的に認められることはご理解いただけますでしょう?」 「ああ。だが、裁判に出ればいいんだろう? 裁判が怖かったり、面倒で、そのくらいの金ならって払ってしまう奴もいるみたいだけれど、俺は違うぜ?」 「そうですか……しかしですねぇ……」 「なんだ? 含みのある笑い方しやがって」 「いや、ほら、もしかしたらその途中で事故にあってしまったり、不測の事態が起きることもあるわけですよ。そうすると、今の料金、さらに裁判費用や、延滞料、手数料などが加わって、かなり莫大な金額になってしまいますが?」 「ほう、脅すのか?」 「とんでもない。わが社は正当な業務をしていますから、たとえそうなったとしても、何も損する事はないのです。これはむしろ、お客様のためを思って」 「うるせえ! いい加減にしろ、この詐欺師が!」 「おや、困りましたねえ。そう興奮なさるものではありませんよ。それから、今の「詐欺師」と言うのは、私、もしくはわが社に対する名誉毀損に当たりますので、この話とは別件で、こちらから訴えさせていただきます。よろしいですね?」 「詐欺師に詐欺師と言って、なにが悪いんだ?」 「今のお言葉は、録音させていただきました。これ以上無意味な出費をなさらないほうが、よいのではないかと愚考するしだいですが」 「まさしく愚考だな。俺にはな、暴力団の知り合いがいるんだ。そこのところを、よく考えたほうがいいぞ?」 「これはこれは、さらに脅迫ですね? よろしい、それがハッタリでも本当でも、当社としては一向に構いません。こちらは業務としてやるべきことをしているだけですし、一部始終は録音させていただいてますから、お好きなようにどうぞ」 男は勝ち誇ったように、そう言って微笑んだ。 俺は黙ったまま男を睨みつけていたが、やがて身体の力を抜いた。 「ち、払えばいいんだろう? だが、今はない。来月にしてくれ」 「そうですか。いや、ご理解いただけて幸いです。それでは振込用紙をお渡しいたします。必要事項はすべて記入されていますので、これをお持ちになって、銀行かお近くのコンビニでお支払いください」 男は用紙を渡すと、にっこり笑って出て行った。 その後ろ姿を見送ってから、俺は携帯を取り上げる。 数回の 呼び出し音の後、あわてた声が答える。 「もしもしっ?」 電話に出た、管理部長に向かって、俺はまくしたてた。 「見た目が虚弱すぎる。事故の話で、脅しをかけるタイミングが早すぎる。事前に録音していることを告げてないから、裁判で使えない。振込用紙を渡しただけで、さっさと帰りやがった」 「は? あ……もしや社長のところに?」 「ああ、来た。全然ダメだ! 言っただろう? マニュアルを徹底的に守らせろ。中途半端に自分でアレンジなんかしやがるから、突っ込みどころ満載だ。腕のいい弁護士にかか ったら、簡単にひっくり返されるぞ?」 電話口で恐縮する部長の声など聞かずに、俺は電話を切る。 技術スタッフが少ないから、ウチは社長がいちばん忙しいのだ。 俺はPCの前に座ると、電話会社のコンピュータに入り込んで情報を書き換える、って言う面倒な仕事に取り掛かった。中小企業のつらいところってヤツだ。 まったく、社長がこれだけがんばってるんだから、スタッフにも、もう少し自覚を持って欲しいもんだよ、実際。 |