友よ
友よ、君のためにこの文章を書き記しておく。

君には俺が、交通事故で入院しているというニュースが入っているかもしれない。そして最近退院したという情報も入っているだろう。

しかし、それは嘘だ。俺は交通事故になんて遭ってないし、もちろん入院もしていない。

俺は今、あるところに監禁されて、完全に自由を奪われている。ここがどこだかも、今がいつなのかも、皆目見当がつかない状態だ。

突然、拉致されて薬品で眠らされた俺は、気づくと今いる殺風景な部屋に寝かされていたのだ。窓もなく、ただコンクリートに囲まれた部屋。

何度か脱出を試みようとしたが、いかんせん出入り口といえば金属製のドアがひとつあるきりのシンプルな部屋だ。壊そうにもびくともしないし、床と四方の壁は全て調べてみたが、他の出入り口も見つからなかった。

そうして部屋を調べていると、ひとりの男が入ってきた。男は恐ろしいほど平凡な顔つきをしていた。目の前にいるのに、目をつむったらもう顔が思い出せないほど、その男は希薄な印象しか持たせない。

俺はそいつに向かって問い詰めた。

「ここはどこだ?お前は誰だ?いったい何のつもりだ?」

「まあ、まあ。そう興奮なさらずに。我々は大日本帝国復興委員会です。こういえば、お心当たりがあるでしょう?」

男は慇懃な態度でそう言った。

心当たりは……ある。

君は俺が最近、近所の右翼団体の焼却炉から出る煙のことで、その団体に文句を言いに行った話は知ってるよな?

俺だって本当は、そんな面倒な話に首を突っ込みたくはなかったんだ。だがこういうのは町会役員の仕事で、今年はちょうどうちがその任にあたっていたというわけだ。

普段の細かい役員の仕事はカミさんがやっているんだが、さすがにこういう話になれば妻に行かせるわけにもいかず、シブシブ俺が出向いたんだよ。で、いざ行っちまえば俺はこういう性格だ。

昼間っから手当たり次第にいろんなものを燃やしている現場に駆けつけ、そこにいた見るからにチンピラ風の若い構成員と、はげしい口論になったんだ。口論たって向こうは、うるせえとかバカヤロウしか言わなかったけどな。

そのうちその上司だかなんだかが出てきて、俺を諭そうとしやがった。そうなりゃ俺ももう引っ込みがつかない。あらん限りの知識を総動員して、言い負かしてやったんだよ。最後には、警察呼ぶぞってな話にまでなってな。

その上司みたいな男は、もう二度と焼却炉は使わないって約束した。それがツイこの間の話だ。その右翼団体の名前が、確か大日本帝国なんたらだったってわけさ。

「右翼団体などという志の低いものではありません。我々は天皇陛下を中心とした真の神国日本の復活という崇高な使命のもとに集った、憂国烈士の集団です」

俺には違いがわからない。

「いいですか?我々の活動というのは、宣伝カーで馬鹿でかい音を出したり、駅前で演説をしたりすることではないんですよ。神国日本を本当に復活させるために、どんなに地味でも、より効果的な方法を取っているんです」

「効果的な方法?」

「そうです。方法は、かの有名な新興宗教団体が教えてくれました」

「……せ、洗脳か?」

「さすがにうちの幹部を論破しただけあって、聡明な頭脳をお持ちですな。その通り、洗脳です。それも人を集めて狭い部屋に押し込んで、というような野暮なやり方じゃありません」

「???」

「無意識下に訴えるんですよ」

「サブリミナル……」

「ご名答。サブリミナル効果を利用した、国民の洗脳です」

「しかしサブリミナルは放送法で禁止されている。そんなものに手を貸す放送局があるとは思えない。特に大手テレビ局ならなおさら」

「もちろん無理ですね。しかし、今はそんなことをしなくても、もっと安価に、もっと個人的に洗脳する媒体があるんですよ」

「なんだと?……あ……」

「ふふふ、判ったようですね?そう、インターネットです。テレビよりもひとりで見ることが多く、しかもサブリミナル効果を発揮しやすい媒体ですからね。まったく我々には都合がいいんですよ」

男はにやりと笑って見せた。いやらしい笑顔だったが、その不愉快な顔さえ、まったく印象に残らない。

「我々の息のかかったサイトには、全てそういう仕掛けがしてあります。何て事のない背景の中や文章の合間に、無意識下に訴える細工を施して、見ているものに我々の思想を知ってもらうんですよ」

「ばかな」

「気づかなかったでしょう?貴方が閲覧していたサイトだって、3割以上がそういう仕掛けが施してあったんですよ?まあ、もう貴方が家に帰ってサイト閲覧を楽しむ機会はありませんがね」

男はそう言うと、扉から出て行ったきり帰ってこなかった。

ヤツの言葉から察するに、俺はもうすぐ殺されるか、洗脳されるだろう。だからそうなる前に、この恐るべき陰謀を白日の下にさらして、日本国民を救いたいのだ。

友よ、俺の遺志を継いで、どうかこの陰謀を阻止してくれ。

ヤツラの息のかかったサブリミナルページには特徴がある。

背景が白くて、黒い文字の、文章が多いサイト。コレが共通の特徴だ。管理人には、神とか、それに類する名前がつけられている。無論、実際にそんな管理人は存在しないのだが。

たくさんあって苦労すると思うが、後は頼んだぞ。

日本を救ってくれ。