| 時は流れて |
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ケン、チャーリー、ボブの三人は同級生。
今はそれぞれの仕事についているけれど、10年前は三人でよく遊んでいた。 いや、それは言い方がフェアじゃないかもしれない。 楽しんで遊んでいたのはチャ−リーとボブだけで、ケンにとって楽しい思い出とは言いがたいはずだから。 そう、ケンはふたりの使いっぱしりにされていたのである。 やがて三人は社会に出て、それぞれの道を歩む。 ふたりにとっては愉快な、ケンにとっては忌々しい学生時代の思い出は、遠く追憶のかなたへかすんで……ゆけばよかったのだが、そうもいかない。 社会人になって成功した者や、逆に学生時代の栄光を忘れられない者が好んで開く、例のイベントがあるからだ。 同窓会。 チャーリーとボブは会場で久しぶりに顔を見た喜びに、大はしゃぎしながら杯を重ねた。やがて宴もたけなわになってきた頃、さえない男が一人顔を出す。もちろん、ケンだ。 「おお! ケンじゃないか! よく来たな。まあ、こっちに座れよ」 そおっと入ってきて片隅で呑んでいたケンを見つけると、ふたりは真っ赤な顔をほころばせて、手を振った。ケンは気づかないフリをしていたのだが、二人の声があまりに大きくて、とぼけているわけにもいかなくなった。 それでも表面上は愛想良く笑いながら、二人の前に顔を見せる。 「よう、ケン。ひさしぶりだな? おまえ今、なにやってるんだっけ?」 機嫌よく騒ぐチャーリーに向かって、ケンはぼそぼそと答える。 「辺境開拓をしてるんだ」 「辺境開拓だって? 聞いたことがあるなぁ」 首をかしげるボブにむかって、チャーリーが意地悪な笑いを浮かべながら答えた。 「アレだよ。地球連邦政府の打ち出した、不景気対策の一環だ。辺境の星を開拓すれば、その星と周辺空域を与えるってやつだろ?」 「う、うん」 おどおどとうなずくケンの様子をニヤニヤ眺めながら、今度はボブが意地悪なことを言う。 「ああ、あの落伍者救済政策か。要は地球や周辺の惑星で食い詰めた能無しが「仕事をよこせ」ってうるさいんで打ち出された、苦肉の策ってやつだろ? あんなバカな口車に乗って、辺境の惑星に行くやつなんているものかと思ったが、ここにいたわけだ」 ふたりは酒の力も手伝って、すっかりむかしのいじめっ子である。しかしケンはひどいことを言われても、黙ったまま薄ら笑いを浮かべていた。 「で? おまえいったいどこにいるんだ?」 「土星のちかく。J−1432あたりの空域にある、小さな星を開拓してる」 ケンの答えに、ふたりは顔を見合わせたあと、大笑いする。 「J−1432だって? またおまえらしい中途半端な場所を選んだもんだ。いっそのこと海王星軌道あたりなら外宇宙開発ステーションが山ほどあるから、ひと稼ぎできるだろうに」 「まったくだ。おまえは本当に抜けてるな。いや、もしかしてアレか? 金がなくて、そこしか買えなかったんじゃないのか?」 ケンが寂しそうに肩をすくめると、ふたりはまた大笑いする。 「あのなあ、ケンよ。おまえ、地球やその周辺の太陽系中心部、いわば大都会で食い詰めたわけだろう? それで辺境開発へ行くのはいいさ。だがな、そう中途半端なことじゃ、結局そこでも成功なんてできやしないぜ?」 「そうだ。大体辺境や外宇宙なんて、一発逆転を狙うか、犯罪者でもなくちゃ行かないところだ。おまえは、ただ都会から逃げただけじゃないか」 ケンはうつむいたまま、何も答えない。その様子が、ふたりのサドっ気を刺激する。チャーリーは胸を張って大声を出した。 「俺を見ろ! 俺は金属貿易で一旗あげて、いまや社長だぜ?」 ボブもその横で皮肉な笑みを浮かべる。 「そうだ。俺の会社もチャーリーのところとは取引してるんだが、俺はそこの部長さ」 「ははは、部長ったって俺の会社と違って、おまえのところは大企業じゃないか。実質そっちのほうが、社会的立場は上さ」 「よせよ、チャーリー。幾ら大企業と言っても結局サラリーマンさ。一国一城のお前がうらやましいよ」 ふたりは気持ち悪い笑いでお互いを持ち上げながら、酒を注ぎあった。 ケンはそんな様子を見ながら、無表情で座っている。しかし、ふたりがもう自分への興味を失ったことを悟ると、立ち上がった。 「話ができて楽しかったよ。それじゃ僕は先生に挨拶してくる」 「ああ、そうか。それじゃあな。おまえもがんばれよ」 明らかに嘲笑を含んだ、まったく心の入っていないそんな言葉を投げかけると、ふたりはそれきりケンを振り返らない。お互いに見栄の張り合いで忙しいのだ。 ケンはゆっくりと向こうに行きかけて、ふと、思い出したように振りかえると言った。 「チャーリー、近いうちに連絡させてもらっていいかな?」 振り向いたチャーリーは、またも意地悪な笑みを浮かべる。 「いいとも。ただし、借金の話なら聞かないぜ?」 肩をすくめたケンに向かって、二人はげらげらと下品な笑いを浴びせた。
数日後、チャーリーの社長室にボブが遊びに来ていた。 「しかし、実際のところは結構大変なんじゃないか? チャーリー?」 「ああ、お前だから言うがね。地球にしろ、他の惑星にしろ、たいていの金属は掘り尽くされて、かなり厳しい状況なんだよ」 「だろうな。まあ、ウチも似たようなものだ。辺境の惑星にならあるだろうが、こんどは経費が莫大なものになる。採掘費、加工費、運送費、これ全部あわせたら利益なんてほとんど出ないな」 「ああ、頭が痛いよ。いまじゃ、スクラップの車でさえ、莫大な値で取引されているんだからな。リサイクルシステムは大企業によって管理されているから、ウチみたいな小さなところは、なかなかままならない」 暗い話が途切れる。 しばらくしてチャーリーはうーんと伸びをすると、ことさら明るい声でわめく。 「加工済みの金属でも、その辺に転がってないかなぁ……」 「はははは。そりゃ都合がいいな。いっそのこと窃盗団にでも入るか?」 しかし、冗談を言う声さえ、どことなしか力が感じられない。 「でも、実際そんな泣き言も言いたくなるよ。ケンの前では見栄を張ったが、近場に金属の鉱脈でも見つけない限り、俺は遠からず破産しかねない」 「まあな。どこも似たようなものさ」 ふたりはしばらく黙ったまま、タバコをふかしている。 名前が出たからか、チャーリーはなんとなくケンのことを考えた。 辺境の星とJ−1432空域を買い込み、開拓して、いったいやつは何をやるつもりなのだろう? あのあたりの星は、あまり金属が取れないから、役には立ちそうもないな。 小さな星だから、宇宙船が飛び立つのにエネルギーが要らないくらいで、他に何のとりえもない、ゴミ空域だ。ゴミといえば、あの辺で一度、ゴミの問題が騒がれたことがあったな。 アレは何だっけ? 確か産業廃棄物がどうとか言っていたような…… と、突然、チャーリーは叫び声を上げた。 「あぁ! そうか!」 大声に驚いたボブはチャーリーを振り返る。 「なんだ?」 「やられた! してやられた!」 ボブはいぶかしげな顔をして、悔しそうに歯噛みするチャーリーの顔を覗き込んだ。 「何だって言うんだ?」 その時、ちょうど通信が入った。チャーリーは、嫌な予感を感じながら、受信モニターをオンにする。 受信モニターに映ったケンは、満面の笑みを浮かべていた。 「やあ、チャーリー、ボブ。元気そうで何より。早速だが、仕事の話に入りたい。僕が何を売りたがっているかは、もう判っているんだろう?」 文句を言おうとしたボブを制すと、チャーリーは悔しそうな顔で答えた。 「ああ、判っている。ウチに優先的に供給してくれるなら、君の持ってくる大量の金属、そのすべてを買い取ろう」 「大量の金属だって? 何だってそんなものをあのケンが?」 驚いて叫び声をあげるボブに、チャーリーは苦々しげな顔で言った。
「ケンがあんなところを買い取ったのは、辺境の惑星が欲しかったんじゃない。その周りの空域が欲しかったんだ!
星間法にあるだろう? 「そんなところに、誰が貴重な金属を捨てるんだ?」 「シャトルだよ。J−1432は何もない空間だ。だから、遠距離宇宙船の航路がいくつも通っているじゃないか。遠距離宇宙船は、大量の燃料と酸素をつめたタンクを持ってやってくるが、ちょうどあのあたりで加速が終わり減速に入るんだ。減速を少しでも効率よくするために、燃料と酸素のタンクは廃棄される」 チャーリーが何を言いたいのか、遅まきながらボブも理解した。 「J−1432の周りにある惑星は、木星や土星など大重力の惑星。ああいう大きな星から飛び立つには、たくさんのエネルギーが要る。どちらの場合も、使ったタンクを切り離す、と言うことか!」 「そうだ。切り離したタンクで接触事故や通信トラブルが起こることは避けられないから、普通、企業や船の持ち主は、責任を回避するために切り離したタンクを破棄する。タンクの代金と宇宙事故の責任じゃ、桁が三つは違うんだから、当たり前だ」 二人の言葉にケンはにっこりと笑った。 「そういうこと。 つまり大企業や惑星政府は、わざわざ採掘して加工してくれた金属を、僕の星の周辺に運んでくれているんだ。僕の星は小さいから、運び出すのにかかる費用は微々たるものだし、本当に助かってるよ」 悔しそうな顔で、チャーリーとボブはモニターをにらむが、しかし、どうすることもできない。やがてほとんど同時に、二人は肩を落とした。 ボブは「ケンごとき」にしてやられた悔しさに、床を蹴って立ち上がると、挨拶もしないで帰っていった。 大企業の部長という地位が、負けを素直に認めさせないのかもしれない。 しかし、チャーリーは動かなかった。 ケンは黙ったまま、その様子をモニター越しに眺めている。 やがてチャーリーは顔を上げると、今までのどのときよりも真剣な顔でケンを見つめて言った。 「ケン、この間は失礼なことを言ってすまなかった。ぜひとも君の金属を僕に売ってもらいたい」 その声には、もはや嘲(あざけ)りや侮(あなど)り、悔しさやくだらないプライドはない。チャーリーは商売人なのだ。 しばらくチャーリーの顔を見つめていたケンは、やがてにっこりと笑って言った。 「ありがとう、チャーリー。君ならそう言ってくれると思ったよ。もちろん君のところを一番に優先させるつもりさ」 ケンは誇りさえ感じられる口調で、穏やかに微笑む。 「僕たち、友達じゃないか」 |