| 才あるもの |
| 「待っていたよ。ずっとずっと、待ちつづけていたよ。寒かっただろう?やりきれなかったろう?」 「つらいよ。寂しいよ。自分の力のなさが切なくて、涙が出てきそうだよ。僕には何の力もない」 「少しだけ、僕達に心を開いてごらん?君、心の中では、僕達が羨ましかったんじゃないのかい?」 「そう……そうだね。認めるよ。自分の築いてきたちっぽけな何かにしがみついて、そっち側を眺めているだけだったよ」 「心を開いて、こっち側においで。ほら、陽の光が差してきただろう?暖かい光が差してきただろう?たくさんの仲間の笑顔が見えてきただろう?さあ、この光に乗って、歩き出そう」 「……だめなんだ、君と一緒に光の中へ歩いてゆくには、僕の全てはニセモノ過ぎるんだよ。外を飾ることに忙しくて、外の評価を高めたくて、僕はずっと信じてもいない借り物の言葉で語りつづけてきたんだ。そのうちに僕の心は、僕に向かって何も話してくれなくなってしまった。僕は、゛僕の言葉"を失ってしまったんだよ」 「ふふふ。何を言ってるんだい?いったい世の中の誰が、まったく自分の言葉で話しているって言うんだい?そんな訳ないじゃないか。みんな同じだよ?誰でも借り物の言葉で話しながら、いつか自分の言葉を見つけるものなのさ」 「僕の心を打った言葉は、それこそ星の数ほどある。でも、僕の心から出た言葉に、人の心を打つ力はない。全部フェイクだから」 「当たり前じゃないか。いいかい?そうやって言葉に心を打たれると言うこと、そのこと自体が素晴らしいんだよ。本物がないというのなら、100のニセモノで語りつづければいいじゃないか。そのうちいつかたった一つ、君の心から出た言葉が、誰かの心を打つかもしれない。それでいいんだよ」 「100のうち一つ?」 「それでも多いくらいさ。長い長い人の歴史の中で、ひとは言葉を紡ぎつづけてきた。色んなひとが、色んな言葉を紡いできた。君はその集大成を見て、自分は及ばないと言って嘆いているんだよ?随分不遜な話じゃないか」 「集大成……」 「そうさ。古今東西、歴史の狭間に生きた、ちっぽけな個人。彼らの心から紡がれた一つの言葉。無上の喜びや、血を吐くような悲しみの中、フェイクじゃない、リアルな自分の心の中から、自然に吐き出された言葉。その集大成が君の心を打っているんだ。小ざかしいことを考えていたら、届かないのは当たり前だろ?」 「結果として感動を呼ぶのではなく、最初から何かを思わせようとしている言葉で゛誰かの心に響かせよう"なんて考えているうちは、本当の言葉は出てこないというんだね?」 「そういうこと。何の為に言葉を紡ぐのか……伝えたいモノがあるからだろう?言葉が発する゛効果"を期待している者に、本当の言葉は決して紡げないよ。誰かに何かをさせようとか、こう思わせようとか、相手をコントロールしようとする言葉は、美しくないだろう?」 「そうだね、そう言う目的の言葉は、発した本人も後で自己嫌悪に陥るんだろうね。それとも、そんな恥ずかしさにさえ気づかないか……」 「そう、相手が自分に心酔していたり、愛情で見えなくなっていれば、そう言う小ざかしい方法も通用するかもしれない。けれど、そう言う精神的な呪縛をちょっと離れれば、あまりにもあからさまで醜悪な言葉でしかない。君が紡ぎたいのはそんな言葉じゃないだろう?」 「でも、だとすると僕は何に対して、どんな風に、何を語り掛ければいのだろう?」 「゛誰か"は要らないんだよ。過去の君を慰め、鼓舞し、肯定し、礎とする。未来の君へ今の自分を精一杯伝え、上を見上げ、前に進む。そのために手段の一つとして、言葉を使うんだよ」 「言葉は道具なんだってことだね?言葉に囚われて言葉に振りまわされるのではなく、本質を見つめる。少なくとも、その努力をするべきだ、と?」 「そうして積み重ねていくことで、君の言葉は少しずつ本物になっていくんだ。君が誰かを愛したとき、そう言うふうに紡がれた言葉であれば、小ざかしいテクニックを弄さなくても心は必ず伝わるよ。もちろん、その心を相手が受け入れるかどうかは、また別の話だけどね」 「ははは、そりゃそうだね。でも、そう言う話を聞いていると、僕が今までいかに不純な言葉を紡いできたかが思い出されて、恥ずかしくなるよ」 「笑い、尊敬、愛情、何かを得ようとして紡いでいた、今までの小ざかしい自分の言葉に赤面してしまうだろう?かつては僕もそうだった」 「でも今は違う?」 「もちろん。今は自分の心に正直に、心からの自信を持って一つ一つの言葉を紡いでいるよ。それが例え、誰にどんな評価を下されたとしてもね」 「君は強いなぁ。僕もそんな風に強くなれるかなぁ?」 「ああ、大丈夫さ。だから、君もこちらにおいでよ。一緒に歩いてゆこうよ?」
英語で「才ある者」……タレントと呼ばれる二人の楽屋に、乾いた笑い声がウツロに響く。己の言葉の空しさに気づかないフリをしながら、二人はいつまでも傷を舐め合っている。 他人の評価は要らない!強い言葉ではあるが、その仕事をしている者が決して口にしてはいけない言葉である。 こうしてまた一人、売れないタレントが開き直った。 |