知ってるかい?
脱ぎ捨てられたボタンフライのジーンズみたいにくしゃくしゃした気分で、君は夜の町に繰り出す。

いつもの店、いつもの酒。

別に誰も悪いわけじゃないのに、なんだかすべてが気に入らなくなる。全部が面倒くさくなって、君はかんしゃくを起こす。

そのかんしゃくや、虚無感。そして、いたずらな疲労感のすべてが、おなじみのものだということに気づき、余計に腹が立ってくる。

まさに予定調和。

だらだらと生きてきた君は、何も積み重ねていない。学校でもそうだったし、社会人になってからもそうだ。

流れ流され、いろんな仕事を転々としつつ、何とか今の仕事にもぐりこんだはいいが、それさえ一生の仕事ではない。なぜなら、君自身が今の自分の仕事を誇りに思っていないから。

心のどこかで君は、一攫千金、一発逆転があると思っている。

何も積み重ねていないくせに。何も身に付けていないくせに。

君の周りには、友達や知り合いがいる。彼らはそれぞれの分野で、今やいっぱしの者だ。君もそれは知っている。

振り返って君は、何者でもない。誇れるほど全霊をかけて仕事しているわけではないし、だからといって他に何があるわけでもない。

誰も言ってくれないだろうから、ここで言っておこう。

君はそれだけのものだ。

君には、他者に憤ったり、他者を貶める権利はない。君自身こそがイチバン使い物にならないからだ。

勢いと偶然で生きてきたくせに、そのことに気づくこともできないで、己の世渡りの才だと勘違いしている。今まで何とか生きてこられたのは、君の才能ではなく単なる偶然だ。

君は役立たずなのだ。しかもそんな明白なことにさえ気づけないで、自分は何でもできると思っている、君は単なる道化師。

押しの強い君の性格が、みなの口を閉ざしているだけなのだ。

気が遠くなるほど切ないことに、たとえ誰かにここまでいわれても、君は、それが自分のことだとは思わないでいるだろう。

のんきに、自分のことではないとタカをくくるはず。

そして君は小さなコミュニティの中を、我が物顔でのし歩くのだ。その中で己のわがままが通る事を、己の力だと勘違いしているのだ。

いや、もしかしたら、君は感づいているのかもしれない。しかし君は決してその事実を認めようとしないし、そもそも事実を正面から受け止めることさえしないだろう。

都合が悪いことからは、いつも目をそらす。

逃げて目をそらして、ほとぼりが冷めたころ涼しい顔をして「うまく凌いだ」などと見当違いのセリフを吐くのだ。冗談なのかと思っていると、コレが本気なのだから始末に終えない。

君の人生だ。死ぬまでそのままだっていいだろう。もちろん、どこからも文句は出ない。その代わり、取り返しのつかない事態になったって、誰も助けてくれはしないがね。

まあ、直す気は毛ほどもないんだろう?それならそれでかまわない。偽りの自分を見つづけて、自分さえごまかして、好きに生きていってくれ。

ああ、イライラする。

僕?

僕だって同じさ。僕は君で、君は僕なんだから。

僕はね、君が僕の前に現れるたびに、自分の嫌な部分を見せられてものすごく不愉快なんだよ。こういうのも、近親憎悪って言うのかな?

君は自分が主で、僕が影だと思っているかもしれない。確かに君が鏡の前に立たなければ、僕は存在できないからね。そう思うのも、まあ、無理はないだろうよ。

でも僕は、自分のことを単なる映像ではないと知っている。だから本当は、僕が主で君が従なのさ。知らないだろうし、死ぬまで知ることもないだろうけど。

僕は鏡の前に立っている君に、意思があることを知っている。でも君は鏡というものを、単に姿を映すだけの道具だとしか思っていない。

できれば君には、鏡の前に立ってほしくないんだ。僕は君の姿を見たくないんだよ。本当に嫌いなんだ、君のことが。

でも君は自分の姿を映すのが好きで、人より多く鏡の前に立つんだよね。だから、余計に憂鬱なんだよ。

僕は君に死んで欲しいとさえ思っている。むしろ僕がこの手で、君のことを殺してやりたいくらいさ。

だけど君は、死ぬ気なんてさらさらないんだろう?

残念だけど。

だから僕もむしゃくしゃして、酒場のトイレの鏡の中で、時々君に向かって悪態をついているんだ。

酔っ払った君は覚えちゃいないがね。

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